face it

青森県在住。毎週日曜日17時から、FMアップルウェーブ発の番組の一員として参加。音楽・ラジオ好きによる"日々の音"やメディアの話

はじめに

ブログ【face it】担当のKeiと申します。

地元青森県弘前市にあるFMアップルウェーブのラジオ番組、『わがままWAVE It's Cool!』(日曜17時)のスタッフのひとりとして曲の持ち込み、選曲、DJ(ブレストコナカ名義)を担当しています。毎週様々な音楽特集とメッセージテーマを設け、弘前大学ラジオサークルのメンバーと大人とでわんさか語り合う番組です。少なくとも東北イチ、珍盤をかける頻度の高い番組を自負しています。

またチャート愛好家として、ビルボードジャパン最新チャートを様々な視点から分析し、弊ブログに記載しています。

お問い合わせやご意見、ご依頼などがございましたら、faceknk @ gmail.com宛にお願いいたします。もしくは、はてなユーザーの方は各エントリーにコメント出来ますので、よろしくお願いいたします。

ザ・ウィークエンド「Heartless」が首位&クリスマスソングが2曲登場、次週はジュース・ワールドが…12月14日付米ソングスチャートをチェック

現地時間の12月9日月曜に発表された、12月14日付最新ソングスチャート。ザ・ウィークエンド「Heartless」が前週の32位からジャンプアップ、自身4曲目となる首位を獲得しました。また、クリスマスソングが2曲トップ10入りを果たしています。

11月27日水曜にリリースされ、前週はデジタル2指標が2日間、ラジオエアプレイが5日間の集計期間により32位に初登場したザ・ウィークエンド「Heartless」。今週は初の集計期間フルでの加算となり、ダウンロードは前週の10000から58000に大きく増加。公式ホームページでのCDおよびレコードセールスも加わったもので、同指標首位に。またストリーミングは12月3日火曜に上記ミュージックビデオが公開されたこともあり3000万を獲得し同指標2位。ラジオエアプレイは2620万で同38位となり、デジタル2指標が牽引したのみならずフィジカルセールスも影響した形となりました。

ザ・ウィークエンドにとっては「Can't Feel My Face」(2015)、「The Hills」(2015)、ダフト・パンクを迎えた「Starboy」(2017)以来4曲目の首位獲得となります。また「Heartless」の翌々日、11月29日金曜にリリースされた「Blinding Lights」は11位に初登場。こちらはダウンロードが24000で同指標2位、ストリーミングが2480万で同6位発進となりました。

ザ・ウィークエンドに新たな首位をもたらした「Heartless」は水曜リリース。この水曜リリースというのが新たなトレンドになるだろうことを1ヶ月前に記載したのですが、まさにその通りの結果になりました。下記にその時のブログエントリーを掲載します。

 

2週首位の座を守っていたポスト・マローン「Circles」はダウンロードが前週比36%ダウンの13000(同指標4位)、ストリーミングは同10%ダウンの2220万(同8位)、ラジオエアプレイは同1%アップの9220万(同2位)で、ラジオエアプレイの高さでデジタル2指標をカバーし首位の座を守ることは出来ませんでした。

 

さて、新たな首位候補に躍り出たのがマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」。昨年クリスマスシーズン(2019年1月5日付)に3位を獲得して以来となる最高位を記録しました。

ストリーミングは前週比48%大幅アップとなる3510万となり同指標を制覇、ダウンロードは同60%アップの9000(同指標10位)、ラジオエアプレイは同18%アップの3100万(同32位)。全指標二桁成長となり、特にデジタル2指標が牽引しています。ストリーミングは今年1月5日付の5190万に次ぐ成績となっており、クリスマスソングがピークを迎える3週間後(2020年1月4日付)が果たしてどうなるか気になるところです。無論総合ソングスチャートにおいても、クリスマスソングが2位以上を獲得した例はチップマンクス with デヴィッド・セヴィル「The Chipmunk Song」のみであり(1958年から翌年にかけて4週間首位の座に)、マライア・キャリーが2曲目の首位獲得となるか注目。「All I Want For Christmas Is You」はクリスマスソングスチャート(Holiday 100)も制し、同チャートが始まった2011年以降の42週中、通算37週目の首位となりました。マライア・キャリーについては公式ホームページで展開中の施策が功を奏したといえそうで、その内容については先日まとめています。

クリスマスソングといえば、ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」が21ランクアップし8位に到達。昨シーズンの9位を上回る最高位を更新しました。

1958年発表のクリスマスソングがこのように返り咲くようになったのは、米ビルボードソングスチャートにストリーミング(サブスクリプションサービスの再生回数や動画再生が主体)が反映されるようになった影響が大きいですね。今回の牽引役もそのストリーミングであり前週比61%アップの3280万(同指標4位)に。ラジオエアプレイは同68%アップの4000(同33位)、ラジオエアプレイは同14%アップの2440万(同43位)となっています。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (32位) ザ・ウィークエンド「Heartless」

2位 (1位) ポスト・マローン「Circles」

3位 (18位) マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」

4位 (2位) ルイス・キャパルディ「Someone You Loved」

5位 (4位) マルーン5「Memories」

6位 (3位) リゾ「Good As Hell」

7位 (5位) アリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」

8位 (29位) ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」

9位 (6位) セレーナ・ゴメス「Lose You To Love Me」

10位 (8位) ダン+シェイ & ジャスティン・ビーバー「10,000 Hours」

 

ラジオエアプレイ首位はリゾ「Good As Hell」で、前週比2%アップの1億60万を獲得しています。

 

さて次週はクリスマスソングのさらなるエントリーが期待される一方、日本時間の昨日飛び込んできたジュース・ワールドの訃報により、彼の楽曲がリエントリーを果たす可能性は高いとみられます。

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12月8日付米Spotifyデイリーチャートではトップ10に5曲がエントリー。全米最高2位を獲得した「Lucid Dreams」が前日の69位から首位に返り咲いており、それだけ彼の不在のインパクトが大きいことを実感させられます。

LiSA「紅蓮華」の別バージョンがフル尺で公開…ビルボードジャパンソングスチャートに活きてくるか

今年のビルボードジャパン年間チャートを振り返った際、次にブレイクの波に乗る曲としてLiSA「紅蓮華」を取り上げました。

ただし、ミュージックビデオがショートバージョンであるために接触指標群のひとつである動画再生がストリーミングとは裏腹に伸びていないことを、幾度となく勿体無いと記載していました。

そんな状況が、一気に変わりつつあります。

『アーティストの一発撮りのパフォーマンスをよりリアルに、鮮明に届ける”YouTubeチャンネル』(YouTube動画説明欄より)、THE FIRST TAKEに先週金曜アップされたこのバージョンは、LiSAさんの力強いのみならずしなやかさを兼ね備え、表現力の豊かな歌声を堪能出来ます。そしてこの動画が「紅蓮華」の”フルバージョン”であることで、これまで自分が指摘した問題をクリア出来るのでは?と考えています。

ただし、「紅蓮華」にTHE FIRST TAKEの再生回数が動画再生指標に合算されるためには確認しないといけないことがいくつかあります。

 

① THE FIRST TAKE動画が加算対象の条件を満たしているか

ビルボードジャパンソングスチャートにおける動画再生指標のカウント対象は下記の通りです。

日本レコード協会が発行および管理を行っている国際標準コード「ISRC」が付番されたレコーディング(オーディオレコーディングおよび音楽ビデオレコーディング)を使用した動画を集計対象として、その国内週間再生回数を米国ニールセン経由で集計しています。権利者の許諾を受けていれば、「恋」や「ダンシング・ヒーロー」などで見られた、オフィシャル音源を使用したユーザー生成コンテンツ(UGC)も集計対象となります。

【Billboard JAPAN Chart】よくある質問 | Special | Billboard JAPANより

今回の動画がISRCが付番されない、もしくはUGCの対象とならなければ集計されません。そこで動画の詳細欄をみると。

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(動画の説明欄確認のためにキャプチャしました。問題があれば削除いたします。)

通常は動画説明欄に楽曲の権利者がクレジットされているのですが、今回は未記載ゆえISRCを付番している、もしくはURCに該当すると断言することは出来ません。ちなみに、先に載せた「紅蓮華」ミュージックビデオには動画説明欄にこのような記載があります。

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となると、THE FIRST TAKEの動画が次回発表の12月16日付ビルボードジャパンソングスチャート(集計期間は昨日までの一週間)に加算されない可能性があります。動画再生は昨夜の段階で既に160万を記録、日本での再生回数は軽く100万は超えていることでしょう。となると次回のソングスチャートで動画再生指標が急伸するかどうか、明後日の昼に発表される最新チャートで確認しないといけません。

 

② THE FIRST TAKE動画は元のバージョンに合算されるか否か

ビルボードジャパンには合算についてのルール(チャートポリシー)が存在、基本的には同一歌手による同じタイトルの複数の曲は最終的には名寄せの上でランクインさせますが、客演やリミックス等オリジナルにない要素が追加されていると判断すれば分けるというのがルールとなっています。これは昨秋に直接確認し判明したことです。

しかし、今回のTHE FIRST TAKEはアレンジが明らかに異なるゆえ本来は別物と考えるのが自然ではないでしょうか。ならば、仮にこの動画が元のバージョンに合算されることがあれば、ビルボードジャパンが昨秋回答した内容と矛盾すると言えるでしょう。または、今回の動画はURCの一種でありURCにおけるアレンジは自由である、もしくは上記チャートポリシーは動画再生指標に適用されない(あくまでダウンロード等に限る)というならば、今回のバージョンは大幅に異なったアレンジでありリミックスと呼んでいいかもしれず、やはり矛盾を感じるのです。そしてこれら矛盾は、アメリカに倣い合算するとチャートポリシーを変更すれば済む問題だと捉えています。

 

個人的には、LiSA「紅蓮華」がより大きなヒットの波に乗るため、『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)の効果を最大限に増幅させるためにも、今回の動画がISRCが付番されていること、および合算の対象であることを望みます。そしてこれを機にビルボードジャパンが合算する方向へ舵を切ることも願います。さらに、「紅蓮華」が大ヒットに至った際には、所属レコード会社や芸能事務所がミュージックビデオのフルバージョンでの公開に移行していくことを強く願っています。

米ビルボード年間チャート発表を踏まえ、2019年のチャートトピックス10項目を挙げる

今年の音楽業界をチャートから振り返る企画、一昨日は邦楽を取り上げましたが、今回はアメリカの状況をみてみます。邦楽については下記に。

そして昨年のアメリカの動向についてはこちら。

昨年はグラミー賞の動向も踏まえて振り返りましたが、今年はチャート動向を主体にチェックします。

 

今年の米ビルボードチャートについてはこちらでまとめられています。各ジャンルについても無料で確認可能です。

そしてソングスチャートおよびアルバムチャートについては、ビルボードジャパンにて詳細な記事が掲載されていますのでそちらを是非ご覧ください。

ソングスチャートは100位まで、チャートを構成する3指標(ウェイトの大きい順にサブスクリプションサービスの再生回数や動画再生回数等を基とするストリーミング、ラジオエアプレイおよびダウンロード)はそれぞれ75位まで紹介されていますが、ソングスチャート上位50位までに入った作品について総合順位、最高位ならびに各指標の順位を一覧化しました。

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指標におけるSTはストリーミング、RAはラジオエアプレイ、DLはダウンロードを示し、青は各指標トップ10を、黄色は各指標51~75位を、灰色は各指標75位未満となります。またマルーン5 feat. カーディ・B「Girl Like You」(22位)およびジュース・ワールド「Lucid Dreams」(48位)の最高位は2018年度のものです。なお、ストリーミング9位のピンクフォング「Baby Shark」は総合75位、ダウンロード6位のローレン・デイグル「You Say」は同60位にランクイン。また2019年の週間チャートを制した曲のうち、ポスト・マローン「Circles」は総合62位に登場した一方、トラヴィス・スコット「Highest In The Room」およびセレーナ・ゴメス「Lose You To Love Me」は100位以内にランクインしていません。ただし2曲とも10月以降の首位獲得であり、リリースが早ければ年間100位以内はあり得たでしょう。

 

それでは一昨日の日本版に倣い、10項目挙げてみます。

 

① リル・ナズ・X、ソングスチャートがソングスチャート新記録達成

今年はリル・ナズ・Xの年となりました。昨年単独クレジットでリリースした「Old Town Road」は、TikTokでカウボーイハットを被るチャレンジモノのBGMとして用いられ、Spotifyサブスクリプションサービスに伝播。後にビリー・レイ・サイラスを客演に招いたバージョンが登場し、単独版で1週および客演有バージョン(オリジナルより再生回数等が上回ればそちらが歌手名としてクレジットされることに)で18週連続首位を記録し、これまでの記録を3週も上回る19週もの首位を達成しました。リル・ナズ・Xは続く「Panini」も年間40位に送り込み、一発屋の称号を回避した印象があります。

 

TikTok経由等、SNSを介した新たなヒットの形が確立

以前からもTikTokを利用したチャレンジモノはみられましたが、先述した「Old Town Road」の爆発力はこれまでの作品を圧倒、ストリーミングソングスチャートにおける週間再生回数上位10傑のうち実に8週を占めたこともあり【TikTokサブスクリプションサービス→総合チャート】へヒットしていく流れが確立された感があります。

「One Thing Right」に限らずTikTokで人気となった曲をはじめ、SNS上の口コミでヒットする曲がたとえばSpotifyバイラルチャートなどで可視化され、ヒットを知る上で重要な存在となっています。2020年度初回となる12月7日付米ビルボードソングスチャートではアリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」が5位に躍進し次の首位候補に躍り出ましたが、彼もリル・ナズ・Xの流れを受けた存在。

今後もこの方程式をなぞるヒット曲が確実に登場することでしょう。

 

③ ひとつのジャンルには括れない、多様性を内包した曲の登場

「Old Town Road」は米カントリーソングスチャートに一時ランクインするもののヒップホップの側面が強い観点から(またはカントリーというジャンルが保守的でありヒップホップとそぐわないと考える向きもあったのでしょう)、同チャートから外されてしまいます。それに異を唱えたのがベテランカントリー歌手であり、マイリー・サイラスの父でもあるビリー・レイ・サイラス。ビリーの客演により「Old Town Road」がカントリーにおいても十分な説得力を帯びたのはいい意味で皮肉と言えるかもしれず、その影響や話題性も19週連続首位の推進力となったはずです。このカントリーとヒップホップの融合はブランコ・ブラウン「The Git Up」(年間56位)にも当てはまります。

一曲の中に多様なジャンルを内包したものが今年のトレンドと言えそうですが、ヒップホップが保守と言われるカントリーの壁までいい意味で壊そうとしているのは面白い傾向かと。「Old Town Road」に限らず最近のカントリーの他ジャンルとの融合は以前まとめています。

 

④ 客演有リミックス等、多様な仕掛けの定番化

年間ソングスチャートでトップ10入りした曲をみると、「Old Town Road」のビリー・レイ・サイラスは勿論のこと、4位のビリー・アイリッシュ「Bad Guy」にはジャスティン・ビーバーを加えたリミックスも登場。後者も、リミックス版投入により最終的に首位を獲得するに至りました。また3位を獲得したホールジー「Without Me」は、スマートフォン時代を意識した縦型ミュージックビデオを投入したことでストリーミングが伸び首位に到達しています。これらの追加投入戦略等、仕掛けが数多くみられたのが今年度のチャートの特徴です。

客演有リミックスについては、米ビルボードソングスチャートがリミックスや客演の有無に関係なくオリジナルバージョンに合算する、その上で客演有バージョンがオリジナルを上回ったならばそのバージョンを歌手名に表記するというチャートポリシーが影響しています。日本と逆ですが、個人的にはビルボードジャパンもこの動きを踏襲してほしいものです。そのほうが様々な戦略が立てられ、音楽がより楽しめるものになるものと考えます。

 

⑤ リル・ナズ・X、ビリー・アイリッシュ、リゾ…新鋭の台頭

今年はメジャーファーストシングルやフルアルバムを放った歌手の大ヒットが目立ちました。先述したリル・ナズ・Xもさることながら、初のフルアルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』を年間アルバムチャート首位へ送り込んだビリー・アイリッシュ、そしてメジャー初のフルアルバム『Cuz I Love You』をリリースし「Truth Hurts」が週間チャート制覇および年間13位に輝いたリゾ(この「Truth Hurts」もまた、リミックス版が首位到達の後押しに)…新鋭の活躍が目立ったのも印象的です。

この3組は来年発表されるグラミー賞において、いずれも最優秀新人賞(Best New Artist)にノミネート。ビリー・アイリッシュおよびリゾは同賞を含む主要4部門全てに、リル・ナズ・Xは最優秀楽曲賞(Song Of The Year)以外全てにノミネートされており、台風の目となることは間違いありません。

 

⑥ 新しいヒットの形が旧譜に焦点

前項で触れたリゾの大ブレイクの要因となったのが「Truth Hurts」のヒットに間違いないのですが、この曲は元々一昨年秋のリリース。それが、今年4月にNetflixで公開された映画『サムワン・グレート 〜輝く人に〜 (原題:Someone Great)』、およびTikTok におけるチャレンジモノ(#DNATestChallenge)に用いられたことでブレイクを果たし、アルバム『Cuz I Love You』にはボーナストラックとして収録されたのです。

リゾは後に、「Truth Hurts」よりも前にリリースしていた「Good As Hell」をシングル化し最新チャートでトップ3入りを果たしていますが、そもそも以前の曲に光を当てることが出来たのはTikTokの影響と言えるでしょうし、今後はNetflix映像ストリーミング配信事業で用いられた曲が新旧問わずヒットする可能性も秘めています。日本でもNovelbrightがTikTokを契機に昨年リリースの「Walking with you」をヒットの波に乗せており、この動きは世界中で生まれてくるものと思われます。

 

⑦ ポスト・マローン、2010年代後半を代表する歌手に台頭

ひとつのジャンルで括れない曲が多く存在したということは③で触れましたが、その動きを加速させたのがヒップホップの歌モノ化と言えるかもしれません。とりわけポスト・マローン「Better Now」(年間32位)が今年のグラミー賞(昨年ノミネート発表)において、ヒップホップではなくポップ部門にノミネートされたのは象徴的な出来事でした。

ポスト・マローンは今年、スウェイ・リーとの「Sunflower (Spider-Man: Into The Spider-Verse)」が年間2位、「Wow.」が同5位となり、昨年トゥエニーワン・サヴェジを招いた「Rockstar」およびタイ・ダラー・サインを迎えた「Psycho」が年間5、6位に入ったのに続いて2年連続で2曲同時トップ10入りを達成。ザ・チェインスモーカーズが2016年と2017年に同様の記録を達成していますが、ホールジーを迎えた「Closer」が2016年に10位、2017年に7位と2年連続で登場していることを踏まえれば、ポスト・マローンが如何に偉業を成し遂げたが解ります。年間アルバムチャートでも2年連続で2作をトップ10入りさせており、2年連続で複数作をトップ10入りさせたのは1966~1967年のハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスによる3作品ずつ以来。ソングス/アルバム両チャートでの成功により、ポスト・マローンは今年の米ビルボード最優秀アーティスト賞(Top Artist Of The Year)を獲得しました。

 

テイラー・スウィフト、アルバム3作連続での年間首位を逸失

2019年度後半となる8月リリースにした段階で年間アルバムチャートを制することはさほど意識してはいなかったのかもしれませんが、テイラー・スウィフトのアルバム『Lover』は年間アルバムチャート首位の座を逃し4位という結果に。3曲もの米ソングスチャート首位獲得曲を収録した『1989』(2014)が2015年の年間アルバムチャートを、前作『Reputation』(2017)が2018年のチャートをそれぞれ制覇していたことを踏まえると、今作もという期待は大きかったのではないでしょうか。

『Lover』は初週ユニット数が2019年度最大となる867000を獲得した一方、その大半となる679000がアルバムセールスであり、米の大手小売業であるターゲット限定で4種類の限定盤CDをリリースしたことがセールス偏重に影響したと言えるでしょう。尤も、サブスクリプションサービスの再生回数を基とするストリーミングの初週ユニット数(アルバム換算分)も175000と大きかったのですが、『Lover』がさらなる大ヒットに至れなかったのは次項にあるように、ソングスチャートでの強くなさがアルバムにつながらなかったものとみています。 

 

⑨ 指標の偏りは大ヒットに至れないことが証明

先に掲載した年間ソングスチャート50位までの表をみると、テイラー・スウィフトは「You Need To Calm Down」が39位、ブレンドン・ユーリー(パニック・アット・ザ・ディスコ)を招いた「Me!」が43位と2曲送り込んでいるのですが、指標毎にみると最もウェイトの小さいダウンロードの順位が高い一方、最もウェイトが大きいストリーミングでは共に50位未満となっています。ゆえに、週間チャートの最高位は2位ながら所有指標(ダウンロード)に偏重し、一方で接触指標群(ストリーミングおよびラジオエアプレイ)が持続しなかったことが想像出来ます。これはたとえば、年間ソングスチャート3位に「Without Me」を送り込んだホールジーを招き、「Boy With Luv」を4月27日付で週間チャート8位に送り込んだBTSについても同様で、同曲はトップ10入りした翌週に40位に急落。彼らのアルバムも接触より所有指標(特にCDセールス)が強いことを踏まえれば、所有指標に偏った作品は週間順位が高くとも年間となると上位に進出出来ない傾向があります。これは昨日記載した日本におけるシングルCDセールス偏重曲にもあてはまります。

ただ、アメリカの場合は必ずしも【所有<接触】が正しいわけではなく、バランス良く獲得することが重要であり、ラジオエアプレイおよびダウンロードが共に年間トップ10入りしながらもストリーミングが71位と大きく落ち込んだゆえに年間11位とトップ10入りを逃したパニック・アット・ザ・ディスコ「High Hopes」の例からも解ります。年間ソングスチャートトップ10入りした曲のうち、2指標以上トップ10入りしたのは7曲もあることから、そのバランスこそが重要なのです。

 

⑩  新しいヒットの形をなぞる曲に足りないものが判明

先述の表をみると、首位を獲得したリル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」はストリーミングおよびダウンロードを制しながらもラジオエアプレイが20位と極端に低いことが解ります。しかしながらストリーミング週間再生回数上位10傑に8週分も送り込んだことで同指標がぶっちぎりのトップを達成、逃げ切れたと言えそうです。

ジャンルと各指標毎の関係性として、保守的とされるカントリーやロックがストリーミングに弱く、ヒップホップはラジオエアプレイに弱いとよく言われますし実際その通りなのですが、ヒップホップに括られるリゾがストリーミングよりラジオエアプレイに強かったり、R&B歌手のカリードによる「Talk」(年間8位)においてはラジオエアプレイが他指標より強いことを踏まえれば、ジャンル毎の得手不得手が必ずしも全てに当てはまるわけではありません。

ただ、②で触れた新しいヒットの形をなぞる曲は共通してラジオエアプレイに弱いことが判明。ブランコ・ブラウン「The Git Up」(年間56位)はカントリーとヒップホップとの融合ながらラジオエアプレイで75位以内に入らず、またリル・テッカ「Ran$om」(年間28位)やブルーフェイス「Thotiana」(同47位)、先述したリル・ナズ・X「Panini」(年間40位)もラジオエアプレイが75位未満となっています。

ラジオがSNSの人気動向を捉えにくいのかもしれませんが、言い換えれば新しいヒットの形をなぞる曲はラジオエアプレイが浮上することで総合的なヒットに至れるとも。ラジオエアプレイの攻略は今後の課題となることでしょう。

 

以上10項目を取り上げてみました。今後追加等あれば記載する予定です。

ビルボードジャパンソングスチャート1位および2位獲得曲から見えてきた、シングルCDセールス指標のウェイトを下げる必要性

昨日のブログでは、発表されたばかりのビルボードジャパン年間チャートを踏まえ、チャートから気になるトピックを10項目紹介しました。

この年間ソングスチャートを見ると、面白い傾向が浮かんできます。 

1位 米津玄師「Lemon」 最高1位

2位 あいみょんマリーゴールド」 最高1位

3位 Official髭男dism「Pretender」 最高1位

4位 King Gnu「白日」 最高4位(2019年度)

5位 米津玄師「馬と鹿」 最高1位

6位 菅田将暉まちがいさがし」 最高2位

7位 Foorin「パプリカ」 最高7位

8位 あいみょん「今夜このまま」 最高5位(2019年度)

9位 DA PUMP「U.S.A.」 最高2位

10位 Official髭男dism「宿命」 最高3位

トップ10入りした曲のうち週間チャートを制したのが4曲と、全体の半分に満たないのです。最高位が最も低いFoorin「パプリカ」に至ってはトップ10入り自体8週のみ。1位獲得曲も「Lemon」や「マリーゴールド」が昨年の曲であるため、ロングヒットした曲が年間ソングスチャート上位進出に必要な条件ということがよく解ります。

 

実は、週間チャートで1位を獲得した曲は47曲もあるのです。しかしその多くは年間ソングスチャートで高位置に登場しているとは言えません。以前から紹介していた1位獲得曲リストに、年間ソングスチャートの順位を付け足したものを下記に。

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2019年度年間順位における灰色は重複分(ゆえ省略)、黄色での[ - ]は100位未満を示します。これをみると首位獲得の47曲中、半分近い21曲が年間100位以内に入らなかったのです。2019年度の終盤にリリースされた作品はやむを得ないかもしれませんが、100位以内を逃した曲のほとんどはシングルCDセールス初加算週にチャートを急上昇し翌週急落、ポイント前週比は10%台となっています。またシングルCDセールスでミリオン常連のAKB48は45~53位に3曲が収まる結果に。ポイント前週比が3.2~4.9%と著しく低いことも踏まえれば、他指標が伴っていない、シングルCDセールスに頼った曲が社会的ヒット曲とは言えないと断言していいでしょう。シングルCDセールス初加算の翌週にポイントが表示されない50位未満となり、ポイント前週比が計測不能となった曲は尚の事です。

 

一方で、Twitterのフォロワーでチャート分析に長けたあささんのアドバイスを受け、週間2位獲得曲の動向も同様に作成しました。ここから得られた気付きは多く、この場を借りてあささんにあらためて感謝申し上げます。

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1位獲得分を含む重複分を除けば、最高2位を記録した25曲のうち年間100位未満は12曲と、こちらも半分近くを占めています。先述した計測不能曲が年間ソングスチャート100位以内を逃したことは勿論のこと、1位獲得曲を含めアイドルやK-Pop作品の強くなさも目立つのですが、ポイント前週比は1位獲得曲より全体的に高いことが解ります。それもそのはず、年間ソングスチャートでトップ10入りした曲の2位在籍は実に25週に及ぶのです。逆に言えば、それらロングヒットした曲をシングルCDセールスに著しく長けた曲が一瞬であれど上回るわけです。

 

1位および2位獲得曲を一覧化したことで、シングルCDセールスばかり強い曲が如何に短いヒットに終わっているかがはっきりと可視化されたと言えます。それら楽曲が多指標で成績を上げロングヒットにつなげることが理想だと考えますが、たとえばアイドルの販売戦略がシングルCDセールスありきである以上(未だに”オリコンデイリーランキングで何位獲得”等の声が目立つのはその姿勢の表れです)、理想に近づけるのは難しいかもしれません。ただそのやり方では短期的利益を追いかけるばかりで、歌手の認知度を広くライト層に普及させ中長期的な活動が出来るべく考えているとは思いにくいのです。シングルCDセールスから多指標での獲得に軸足を移すことこそ、レコード会社や芸能事務所に求められる姿勢だと考えます。

そしてビルボードジャパンには、以前も提案したのですが(→こちら)、あらためてシングルCDセールス指標のウェイト減少を求めます。チャート情報に詳しい方ならば前週や翌週の動向を踏まえて中長期的ヒットか瞬発的かを判断出来ますが、当週のみのチャートをチェックする方にとってはビルボードジャパンソングスチャートがオリコンと大差ないと思われるかもしれません。そして首位曲が毎週のように入れ替わり、また首位獲得の翌週に急落する曲が多いのは不健全と言われてもおかしくないでしょう。シングルCDの売上枚数に対し購入者数が著しく低い(ユニークユーザー数が乖離している)状況には独自の係数を用いることである程度是正出来ているとはいえ、シングルCDセールスランキングが長きに渡り形骸化している側面がある以上、係数の強化よりもウェイト自体の減少こそ求めていいのかもしれません。

ビルボードジャパン年間チャート発表を踏まえ、2019年のチャートトピックス10項目を挙げる

2019年度のビルボードジャパン年間チャートが発表されました。

ソングスチャートは2年連続で米津玄師「Lemon」が制覇し、史上初の2連覇を達成。弊ブログではそのソングスチャート(→こちら)を中心に、2019年の音楽業界のトピックスを10個挙げてみます。なお、昨年については下記に。

 

① 米津玄師「Lemon」、史上初の2年連続首位獲得

2018年1月クールの連続ドラマ『アンナチュラル』(TBS)主題歌、米津玄師「Lemon」が年間チャートを制しました。秋には携帯電話会社のCMソングに起用され、そして昨年大晦日の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)で初めてパフォーマンスしたこと(および『アンナチュラル』の再放送)が牽引し、年末年始のチャートで5週連続「Lemon」が首位を獲得しました。

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興味深いのは、「Lemon」についてはシングルCDセールスが落ち込んでいないこと。上記CHART insightの黄色の折れ線がシングルCDセールス指標に該当します。「Lemon」を収録したアルバムが出ておらずシングルCDでしか手に入らないこともありますが、社会現象的な特大ヒットに至ると、アルバムに入るようになったとしてもシングルCDを購入する層が一定数存在するという消費行動が影響しているでしょう。また、アイドルやK-Pop等特定のジャンルが強いシングルCDセールスにあって米津玄師さんが強いのも特徴で、年間アーティストランキングを指標毎にみると(→こちら)、米津玄師さんはアルバムを含むCDセールスが8位に入っています。その年間アーティストランキングにて総合で2位を記録した米津玄師さんは、同ランキングでトップ20入りした歌手の中でKing & Prince(16位)共々ストリーミング指標未ランクイン。あいみょんさんに1位を譲った形となったのは上記記事において『最終的にストリーミングの有無が明暗を分けた』と指摘されていることもあり、サブスクリプションサービスの解禁が2020年度以降も勢いをキープする鍵と言えそうです。

 

② 米津玄師関連作品も大ヒット

①そして②は昨年の流れをそのまま踏襲していますが、米津玄師さん自身の「馬と鹿」が5位、「Flamingo」が12位を記録。「馬と鹿」についてはシングルCD同日リリースとなった嵐「BRAVE」を抑えて週間チャートを制しました。

また提供曲として、菅田将暉まちがいさがし」が6位、Foorin「パプリカ」が7位に入り、年間ソングスチャート20位以内に実に5曲がランクイン。米津玄師さん自身の楽曲はソングスチャート100位以内に9曲(DAOKO×米津玄師名義を含む)を送り込む等、「Lemon」の大ブレイクを機にさらなる注目が集まりました。大ブレイクに伴い『BOOTLEG』がアルバムチャート年間9位、『YANKEE』が同42位にランクイン。この2作は2年間、週間チャート常時100位以内に在籍しています。

他方チャートにおいては勿体無い動きも。Foorin「パプリカ」においては以前指摘したように、ISRCがきちんと付番され動画再生指標がカウントされていたならばもっと上位に行けただろうに、とその機会損失を強く残念に思います。下記CHART insightで赤の折れ線で表示されているのが動画再生指標ですが、ダンス動画が1億回を超える再生回数を達成しているゆえ、この機会損失がなければ更に上位に行けたはずです。

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今後のチャートアクション、特に米津玄師さん本人の楽曲においては『NHK紅白歌合戦』に出演するか否かで大きく異なるでしょう。最新12月9日付チャートにおいて「馬と鹿」は10位までダウンしており、勢いは徐々に低下しています。出演に至らないならば、来たるべきアルバムリリースに合わせてもしくは先駆けてサブスクリプションサービスを解禁させるか、もしくはフィジカルに売上を集中させてセールスが落ち着いたころに解禁に至るか…とにかく解禁することが必須と考えます。

 

Official髭男dismが大ブレイク

今年最大のブレイクアーティストといえば彼らに異論はないでしょう。「Pretender」は2019年度の対象期間にリリースされた作品では最上位となる3位を獲得。また「宿命」は10位、昨年のシングル「ノーダウト」は17位と、ソングスチャートトップ20に3曲を送り込みました。

「Pretender」は一度として週間ポイント数が1万を超えなかったものの、今年度は通算2週首位を獲得したほか、週間7000ポイントを超えれば大ヒットという状況(詳細はOfficial髭男「Pretender」、3週以上7000ポイント超えは大ヒットの証…6月10日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック(6月6日付)参照)において26週もの間7000ポイント超えを達成。彼らの強みは接触指標群の大ヒットであり、言い換えればシングルCDセールス指標がそこまで強くなくとも上位進出出来ることになります。下記CHART insightでは黄色の折れ線グラフがシングルCDセールス、青がサブスクリプションサービスの再生回数を基とするストリーミング、赤が動画再生を指します。

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④ 髭男、King Gnu菅田将暉…シングルCDセールスに頼らない楽曲が上位に進出

Official髭男dismと同様ブレイクを果たしたKing Gnuは「白日」が4位を獲得し、この2組は今年の『NHK紅白歌合戦』へ出場が決定していますが、その「白日」や先述した菅田将暉まちがいさがし」、またOfficial髭男dism「イエスタデイ」(年間32位)はいずれも未シングルCD化楽曲。Official髭男dismについては④で述べた通り「Pretender」や「宿命」がシングルCDセールスに長けているわけではないため(ただしルックアップは高く、CDレンタルにて接触されているのが特徴)、シングルCDセールスに特化しない作品が大ヒットを遂げたことになります。この項目で取り上げた5曲は全て映像作品のタイアップという共通点がありますが、シングルCDセールスよりもダウンロード、そしてストリーミングや動画再生の接触指標群が共に高く推移したことが特徴と言えるでしょう。詳細は次項で。

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⑤ 短期的には逆でも長期的には【CD所有<ダウンロード】【所有<接触】が有利に

弊ブログでは今年首位を獲得した楽曲の翌週の動向を一覧にまとめましたが、首位獲得曲の大半は初週のシングルCDセールスの強さを武器に頂点を極めながらも、翌週は大きくダウンしているのが特徴と言えます。

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翌週のポイント前週比をみると3割を超えた作品はBTS「Lights」以外全て首位獲得週のシングルCDセールスで首位に至っておらず、つまりは複合指標できちんと偏りなくポイントを稼いでいることが解ります。そして翌週ポイント3割超えを果たした作品が年間ソングスチャートでいずれも好調。年間ソングスチャートを制した「Lemon」を筆頭に、あいみょんマリーゴールド」2位、「Pretender」3位、「馬と鹿」5位、BTS「Lights」18位、米津玄師「海の幽霊」30位と、6作品中4作品がトップ20入りを果たしています。BTSはCDセールスとストリーミングに長け、米津玄師さんはシングルCDセールスやダウンロードが強い一方ストリーミングは未解禁、あいみょんさんとOfficial髭男dismはストリーミングが強い傾向にありますが、アルバムも含めた年間アーティストランキングを指標毎にみると(→こちら)、上位20組でCDセールス10位以内に入ったのが6組だった一方、ダウンロードは14位まで、ストリーミングは15位までに10組全てが登場し、CDよりダウンロードやストリーミングが強い歌手が上位に来る傾向がみえてきます。同じく年間アーティストランキング上位20組には、CDをパソコン等にインポートした際にインターネットデータベースにアクセスした回数を示すルックアップで10位以内に入った歌手が10組すべて、動画再生が9組登場しており、【CD所有<ダウンロード】【所有<接触】の傾向が強いと捉えることが出来るでしょう。

 

⑥ アイドル楽曲はトップ20に4曲のみ、またトップ10入りはゼロ

⑤の表を用いるならば、シングルCDセールス加算2週目におけるポイント前週比が3割未満だった41曲中、年間ソングスチャートトップ20入りを果たしたのは欅坂46「黒い羊」の14位を筆頭に乃木坂46「Sing Out!」(16位)、同「夜明けまで強がらなくてもいい」(19位)そして日向坂46「キュン」(20位)の4曲のみ。シングルCDセールスに係数が用いられる形にチャートポリシーが変更された一昨年は20位以内に8曲(トップ10に4曲)、昨年は6曲(同4曲)だったことを踏まえれば、今年のアイドル曲の強くなさが目立ちます。リリース数の多くなさもあるかもしれませんが、坂道グループが健闘するもののAKBグループおよびジャニーズ事務所所属歌手がトップ20にゼロというのは寂しい結果となりました。

これを象徴するのが、嵐「BRAVE」が同日CDリリースの米津玄師「馬と鹿」に総合チャートで敗れたこと。シングルCDセールスでは「BRAVE」が上回ったもののルックアップでも敗れており、シングルCDセールス以外の指標を獲得することの大切さ、ならびにルックアップから推測されるユニークユーザー数の重要性を実感出来た点においても、2019年の音楽動向を知る上で重要な事件だったことは間違いないでしょう。

尤も、今年嵐がデジタル解禁したことも大きな出来事であり、年間36位の「BRAVE」にはデジタル解禁後に復調した分、5000を超えるポイントが上乗せされています。しかし嵐の楽曲解禁がシングル曲にとどまり且つミュージックビデオの解禁を進めていないこと、ジャニーズ事務所所属の他の歌手がデジタル解禁の動きをみせていないことを踏まえれば、デジタル解禁は喜ばしいことだとしてもまだまだ疑問が残ります。指標毎の年間アーティストランキング(→こちら)からは、ストリーミングや動画再生という接触指標群が未カウントの歌手はほぼランクインしていないことが解るゆえ、今後良好なチャートアクションを築くためには(そしてそれがライト層を拡大しコアなファン化につながるだろうことを踏まえれば)、デジタル解禁は必須と言っていいでしょう。他方、年間ソングスチャートトップ20入りした坂道グループはいずれもストリーミングと動画再生の接触指標群が強くないながらもそれぞれ100位以内に登場しています。

今年は星野源さんやBUMP OF CHICKEN、LiSAさん等多くの歌手がサブスクリプションサービスで解禁しましたが、喜ばしい一方で遅きに失した感はなかったかとも考えてしまいますし、サブスクリプションサービスを利用する方を中心に未だ解禁していない歌手に対して不信感すら生まれてやいないかと懸念すら抱きます。年間ソングスチャート15位に「HAPPY BIRTHDAY」を送り込んだback numberは、ベストアルバム『アンコール』までの旧譜をサブスクリプションサービスで解禁した効果で年間アーティストランキング6位に入りストリーミング指標も4位を獲得していますが、「HAPPY BIRTHDAY」を含む近年の作品はサブスクリプションサービス未解禁のままであり、仮に解禁していたならばトップ10入りも十分あり得たものと考えると実に勿体無いと思うのです。

 

⑦ ”紅白”効果は絶大

米津玄師「Lemon」の2連覇、昨年度は年間48位だったあいみょんマリーゴールド」の2位躍進、昨夏リリースで昨年度は年間ソングスチャート未ランクインのFoorin「パプリカ」の7位獲得等、昨年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)に出演した歌手の作品が年をまたいで大ヒットする、もしくはブレイクを果たしたことになります。代表作「つつみ込むように…」と共に披露したMISIA「アイノカタチ feat. HIDE (GReeeeN)」も昨年度は27位、今年は31位となっており、”紅白”は年末年始のロングヒットに至らせる、そして出演以降のブレイクの契機となる大きな存在であることは間違いないでしょう。それを踏まえるにあいみょんさんの今年の不出場は、紅白がビルボードジャパンソングスチャートを参考にしているだろうことを踏まえれば、紅白側が外したのかあいみょんさん側が断ったかは判りかねるものの、腑に落ちない自分がいます。

今後、2020年度のソングスチャートにおいて”紅白”関連で主役になるかもしれない楽曲のひとつはLiSA「紅蓮華」かもしれません。テレビアニメ『鬼滅の刃』オープニングテーマとして大ヒットし、サブスクリプションサービス解禁を経て安定したヒットとなりました。アニメや原作漫画もブレイクし来年は映画も公開されることからさらなるヒットも期待出来ます。惜しむらくはショートバージョンに因る動画再生指標の強くなさにあり、その問題が解決出来れば「紅蓮華」の大ブレイクは必至ではないかとみています。

 

K-Popは勢力後退もむしろ浸透していることが証明

年間ソングスチャートにおけるK-Popは上位50位以内に6曲、トップ20には1曲という結果であり、昨年の9曲/4曲だったことを踏まえれば勢いは落ちていると捉える向きもあるでしょう。トップ10入りは昨年が1曲に対し今年はゼロ(BTS「Lights」の18位が最高位)という結果もそう思わせるに十分です。一方で、言語の別に関係なくアレンジが同じであれば合算されるというチャートポリシーを踏まえれば、面白い結果が生まれているとも言えます。

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韓国先行でリリースされていた「FANCY」「YES or YES」は共に、後にシングル表題曲ではないものの日本語バージョンが制作され、そのバージョンが初加算されたタイミングでストリーミング指標(青の折れ線グラフで表示)を中心に再浮上、年間ソングスチャートで「FANCY」が34位、「YES or YES」が35位にランクインを果たしているのですが、日本語版リリースの前から既にロングヒットを続けていることが解ります。これは彼女たちの楽曲がリリースされるや否や聴こうとする人が多いことの証明であり、以前BTSについても同種の内容を書き記しています(なお「Lights」は日本オリジナル楽曲)。

これは今年アメリカで開催された音楽フェス、コーチェラ・フェスティバルで話題となったBLACKPINK「Kill This Love」(年間60位)等にも当てはまることで、K-Popの浸透を意味するのみならず、若年層主体に韓国語や文化へ積極的に接触していることを示す動きと言えるでしょう。一方で、日本オリジナル楽曲は所有指標群が強いながらも韓国語版ほど接触指標群が長く続かないというのが、シングルCDセールスに長けながら年間上位50位以内を逃したIZ*ONEの3曲(69位の「好きと言わせたい」、84位の「Vampire」、93位の「Buenos Aires」)の例等から判り、言語とは関係なくより好い曲を選別する姿勢も見えてくるようです。

 

⑨ 実力派バンドの台頭

年間アーティストランキングには先述したOfficial髭男dism(3位)やKing Gnu(12位)のみならず、『Eye of the Storm』を年間アルバムチャート3位に送り込んだONE OK ROCK(7位)をはじめMrs.GREEN APPLE(15位)やWANIMA(17位)等、若手を中心にバンドが台頭。ソングスチャートを構成するストリーミング指標では100位以内にバンドによる楽曲が42曲もランクインしており、今年オリジナルアルバムをリリースしたサカナクションBUMP OF CHICKEN、映画『天気の子』のサウンドトラックを手掛け今年の『NHK紅白歌合戦』に出場が決定したRADWIMPSも含め、中堅や若手バンドが台頭する1年となりました。そのうちMrs.GREEN APPLEは「青と夏」が年間ソングスチャート40位に入ったほか、65位に「ロマンチシズム」、86位に「インフェルノ」が入る等、大ブレイクへのステップを刻んでいます。

「青と夏」がブレイクの兆しをみせたタイミングでブログに書きましたが、ここでも上昇に大きく寄与したのはストリーミングおよび動画再生の接触指標群。サブスクリプションサービスへの解禁曲を限定しているback numberやRADWIMPSも年間アーティストランキングにおいて同指標で高位置となっていることから、やはりこれら指標群の重要性がよく解る結果となりました。

 

⑩ 洋楽低調の流れは止まらないのか

K-Popを除けば、一昨年の年間ソングスチャート50位以内には5曲ランクインした洋楽が昨年は1曲のみという状態。先月のブログエントリーにて今年のジリ貧な状況を憂いたのですが(今年度のトップ10ヒットはわずか2曲…日本で洋楽がヒットしなくなった状況を懸念する(11月25日付)参照)、今年は27位にエド・シーラン「Shape Of You」、49位にクイーン「Bohemian Rhapsody」と2曲がランクインしました。とはいえ集計期間中に新たに発表された楽曲のエントリーはゼロであり、71位のビリー・アイリッシュ「Bad Guy」が最高位というのは寂しいところです。

⑧にて合算について触れましたが、米ビルボードソングスチャートとは異なりビルボードジャパンではリミックス等でアレンジが異なったり客演参加の有無等により別の楽曲として判断されるため、ビリー・アイリッシュが大ファンだというジャスティン・ビーバーを招いたリミックス版は合算されませんでした。このバージョンが加算されたならば上位50位以内もあり得たでしょう。

合算すべき理由は上記エントリーで触れていますが、このままいけば洋楽がジリ貧を極めてしまい海外から大物歌手を音楽フェス等で招聘出来ないのではないかという懸念を強く抱いてしまいます。レコード会社の戦略練り直しも急務ですが、ビルボードジャパンソングスチャートにはチャートポリシーの見直しを求めたいところです。

 

以上10項目を取り上げてみました。今後追加等あれば記載する予定です。

King Gnu「白日」最高位更新の理由は熱の持続、back number「クリスマスソング」から考えるミュージックビデオ短尺版問題…12月9日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点をソングスチャート中心に紹介します。

 

今週のソングスチャートを制したのは関ジャニ∞「友よ」でした。

セールスが5万枚近く伸びたことで、シングルCDセールス初加算週のポイント推移は錦戸亮さん在籍時のラストシングル「crystal」(2019)の20531ポイントから26036ポイントへ、前作比のポイントは126.8%と躍進しています。が、シングルCDセールスのチャート構成比が全体の9割近くとなっていることから次週の急落が見込まれます。ちなみに、前作「crystal」のシングルCDセールス加算2週目は27位・1707ポイント、ポイント前週比は8.3%となり、10%~20%がデフォルトとなっているジャニーズ事務所所属歌手の中では低い水準となっています。

 

今回注目は、3位に上昇したKing Gnu「白日」。

ビルボードジャパンではより細かく、今回の躍進の理由を分析。「白日」はストリーミング指標で2位に入り、Official髭男dismによる同指標トップ3独占を阻んでいます。

同曲は、当週自身最高となる400万回を超える再生数を記録し、29週ぶりに2位を獲得。さらにKing Gnuは、11月27日にリリースされた『井上陽水トリビュート』より「飾りじゃないのよ 涙は」が当週50位に初チャートインし、計7曲がトップ100入りを果たした。11月26日にはニューアルバム『CEREMONY』のリリース&全国ツアー開催を発表、翌27日には『ベストアーティスト2019』にて「白日」を生披露、また『CEREMONY』収録の新曲「小さな惑星」と「ユーモア」が、それぞれHonda VEZEL新CMと『ロマンシング サガ リ・ユニバース』TVCMのCMソングとしてオンエアがスタートするなど、話題が続いたことが今回のチャートアクションに繋がったと考えられる。

【ビルボード】Official髭男dism「Pretender」がストリーミング28連覇 King Gnu「白日」が半年ぶりに2位浮上 | Daily News | Billboard JAPAN(12月4日付)より

ニューアルバムのアナウンス、『井上陽水トリビュート』への参加、2曲の新曲が用いられたCMの解禁、そしてテレビ出演…King Gnuは今回の集計期間中にどんどん話題を投入し、King Gnu熱を押し上げ持続してきたわけです。この集中投下は彼らの施策と言えるでしょう。以前も彼らのマーケティングの巧さを書いたのですが(未だに多くのアクセスをいただいています)、彼らには魅せ方を熟知するマーケティング担当者がいるのかもしれません。無論楽曲自体の良さこそ大前提ですが。

 

King Gnu「白日」が接触指標群で好調なのに対し、その接触指標の中でもアンバランスな動きをみせているのがback number「クリスマスソング」。昨年12月31日付以来となるストリーミング指標トップ10入りを果たし、日本におけるクリスマスソングの代表格と言える存在となりましたが、ストリーミング指標トップ10入りした楽曲の中で総合の順位が最も低くなっています。

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気になるのは、ストリーミングと比例して伸びることの多い動画再生指標が未カウントという事態。

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CHART insightから、上記は総合および構成8指標すべて、下記は総合(黒の折れ線で表示)および接触指標群のストリーミング(青)、動画再生(赤)のみを抽出。今年2月にサブスクリプション各サービスで解禁して以降ストリーミングこそ安定しているものの、動画再生が全く伴っていないことが解ります。これは、ミュージックビデオがショートバージョンであることが影響していると考えてよく、前週指摘したLiSA「紅蓮華」と全く同じ状況と言えるでしょう。「紅蓮華」については前週のブログをご参照ください。

back numberの場合はサブスクリプションサービス解禁とはいえ未だベストアルバム『アンコール』(2016)までに解禁する作品をとどめており、今年のアルバム『MAGIC』は未解禁のまま。その施策からは所有にこだわりたい、ミュージックビデオを商品として捉えたいという思いがみえてくるようですが、後者については前週のブログで、そして前者については下記7月12日付ブログエントリーにて私見を述べています。簡単に言えば、接触指標群を充実しても所有のそれが極度に落ちることはない、それどころか前作を上回る可能性も十分にあるため、サブスクリプションサービスおよびミュージックビデオフルバージョン双方の解禁は必須なのです。

back numberに限らず、サブスクリプションサービスやミュージックビデオフルバージョンの解禁を行っていない歌手のファンからすれば、この提案を訝しむかもしれません。しかし解禁したところで売れなくなるとは限りませんし、逆にミュージックビデオをショートバージョンにしたところで映像盤を同梱したCDが売れるかというとそうでもないことも以前記しています(Mrs.GREEN APPLE「ロマンチシズム」がトップ10ヒットに至れなったことから考える、日本におけるミュージックビデオの位置付け問題(4月21日付)参照)。訝しむ方は、自身が強いファンではない歌手の作品が解禁に不十分だった場合どういう印象を抱くかを考えてみるのがいいかもしれません。仮に怒ったり失望するのであれば、その感覚は訝しむ方が支持する歌手に向けて多くの方が放っているものと同じだということが理解出来るはずです。