イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ラジオ業界、今月のスペシャルウィーク開始直前に変化が起きている件

毎週金曜に書いているラジオの話。今週は今日火曜に。ちなみに米ビルボードソングスチャート速報は、現地時間2月20日月曜が祝日により発表が一日ずれることから、明日お伝えします。

 

 

首都圏のラジオ局は今週が聴取率調査週間。多くの方にリアルタイムで聴いてもらうべく、豪華ゲストやプレゼント等を用意するのが恒例で、通称”スペシャルウィーク”と呼ばれているのですが、今回その動きにちょっとした異変が起きているように感じるのです。

 

たとえば先週触れた、赤江珠緒さん妊娠発表の件。

発表日の先週木曜には朝日新聞ラテ欄に広告を打っていたたまむすび。スペシャルウィークでもないのに広告を打つなんて赤江さん同様にスタッフもポンコツになっちゃったのかなあ(笑)…などというリスナーの声もあるようですが、実はこれ、きちんとした計算だったんだなということを後になって理解した次第。

というのも、スペシャルウィーク直前になってサプライズ的な発表なり番組が複数みられたのです。たとえば、スペシャルウィークのまさに直前、19日日曜25時から放送されたのがこちら。

この枠は通常は放送休止(偶数月第4日曜のみ『文化系トークラジオ Life~社会時評サブカルチャー』(25-28時)を放送)。そこに10年越しの最終回を入れてきたのはTBSラジオの義理堅さとも言えますが。

またはこの特別番組も。

選曲は山下達郎さんのホームページ内、サンデー・ソングブックから確認出来ます(直近のみの模様ですが)。通常この枠は『鈴木敏夫ジブリ汗まみれ』~『Hellosmile Lounge』であり、それぞれ一回分休止して特別放送に至ったという次第。

 

で、これらの特別番組や発表はスペシャルウィークにやることでより集客(聴取率上昇)が見込めるんじゃないか…と思ったのですが、最後に取り上げたサンデー・ソングブックの告知を見て、前週の放送に納得した次第。というのも、次回2月26日付の特集が【昼間の珍盤奇盤】となっており、前週の特別番組での特集【夜のサンデー・ソングブック ~珍盤奇盤 R-18~】と呼応するのです。つまりはスペシャルウィーク前の特別番組なりサプライズな発表は、”この流れでスペシャルウィークも聴いてね、前の週の特別編は本編に至るプレリュードなんですよ”という位置付けなのではないか、と。

 

赤江珠緒さんの妊娠発表の件については(これは推測も多分に含まれますが)、出産前に一旦退くことも含めて前週発表することで、今週の副題である”赤江珠緒アナウンサー生活20年記念”に箔が付きます。また発表が前週木曜だったため、発表後まだ顔合わせしていない月~水曜の各パートナー(カンニング竹山さん、山里亮太さん、博多大吉さん)がどうリアクションするか、気になるリスナーも多く生まれます(現に自分はそのひとりです)。

『吠え魂』については、スペシャルウィークが偶数月第4週目で『Life』放送週にあたるため今週持ってくることが出来なかっただけかもしれませんが、スペシャルウィーク直前に持ってきたことで、翌日のネットニュースでは”一夜限りの復活”が数多く報じられており、ラジオ自体への注目が俄然高まったように思います。その点では十分効果あったと言えるでしょう。

(また、TBSラジオが『吠え魂』をスペシャルウィーク中、通常番組を削ってまで持ってくることをしなかったのは好感が持てます。弊ブログでは以前から、ニッポン放送スペシャルウィーク中番組(およびパーソナリティ)差し替え等を問題視していました。)

 

 

個人的には、スペシャルウィークにおける豪華ゲストやプレゼントによるいわばドーピングを快く思ってはおらず、中身(企画)そのもので勝負してほしいという思いが強くあるのですが、スペシャルウィーク前の事前告知を伴ったドーピングはアリなんじゃないかと思うのです。スペシャルウィークの前にも強力企画を用意することで、最終的にはスペシャルウィーク以外でもラジオに接する機会が増えるならば何よりではないかと。プレゼントも特段用意しなくて済みますし、このようなスペシャルウィーク前企画はまた行ってほしいと思います。

 

それにしても…達郎さん、夜のサンソンでこれかけたとは…しかも自らリマスタリングを施して。素晴らしいです。

尊敬するカルヴィン・ハリス色をまとったアレッソ「Falling」

昨日に引き続き『J-WAVE TOKIO HOT 100』(J-WAVE 日曜13時)からひとつかみ。

予想的中というか、土岐麻子「Valentine」が昨日付最新チャートで6位にジャンプアップしましたバレンタイン時期の大量ラジオエアプレイもあるでしょうが、アルバム『PINK』のセールスポイントもきちんと持ち合わせている証拠とも言えるでしょう。非常に良いアルバムですので是非多くの方にチェックしていただきたいと思っています。

 

今日取り上げるのは、87位に初登場を果たしたアレッソ「Falling」。

スウェーデンのEDMプロデューサー(兼?イケメン。病欠のクリス・ペプラーさんに代わり昨日、藤田琢己さんとともにメインを務めたサッシャさんが”彫刻が喋ってるようだ”と言っていたほど)による新曲は、世界中を席巻するEDMプロデューサーでアレッソが尊敬するカルヴィン・ハリスを意識したそう。たしかにそういわれればこの曲を想起させる部分ありますね。

「Falling」で起用している女性歌手は現時点で明かさず。一瞬リアーナか?と思ったのですが、リアーナより高音にかすれがみられるため違う気が。とはいえ確実に「This Is What You Came For」がインスピレーション源となっていますね。

 

なお、個人的にはEDMに詳しくはないので的外れなことを言うようですが、「This…」がEDMにおいて果たした”発明”には感服していて、それまでのEDMではボーカリストが歌い終わるタイミングでやってくる歌声なしのサビ(絶頂に達したあとの快楽、と表現していいかもしれない)の部分に♪You,you you…とクールダウン的歌声をあてがったのは見事だなあと。そしてガチョウ的声が特徴(褒めてます)のリアーナから透明感溢れる歌声を引き出した点も素晴らしいですね。それこそ同じ組み合わせでの大ヒット曲「We Found Love」(リアーナ feat. カルヴィン・ハリス名義)から激的に進化している気がするのです。

 

おそらくアレッソは、『Forever』(2015)に続き、年内にも2枚目のフルアルバムをリリースする予感がします(ちなみに前作では、アレッソとカルヴィン・ハリスが共作し、ハーツが客演した「Under Control」も収録)。自分がアレッソを知ったきっかけは、カイリー・ミノーグ「Get Outta My Way」を用いた「Cool」で、地元のラジオ番組がきっかけでした。

アレッソ、新作では是非ともカイリー本人と組んで欲しいと思うのですが、如何でしょうか。

 

 

それにしても…「Falling」ミュージックビデオ冒頭に出てくる曲名の字体を見ると、真っ先にベッド・インを思い出してしまう自分がいます。

土岐麻子、『PINK』から2曲がJ-WAVEチャートトップ40入りを果たす

今のところ、今年一番聴いているであろう2つのアルバムが”つながっていた”のです。

以前、ぼくのりりっくのぼうよみ『Noar's Ark』(1月25日発売)について書きました。

アルバムから来月リカットされるシングル、「Be Noble」のミュージックビデオ(→YouTube)の中に下記場面(キャプチャしました。問題があれば削除させていただきます)が登場するのですが、この構図は『Noar's Ark』同様に今年ヘビロテしている、土岐麻子『PINK』(1月25日発売)のアルバムジャケットにものすごく似てるよなあ…と、その偶然に驚き、嬉しさを覚えています。ジャケットおよび収録曲については下記を参照してください。

f:id:face_urbansoul:20170219075452p:image

Apple Musicではフルでチェック出来ますので是非。

とある方から、”『PINK』は君好みのはずだから絶対聴いて!”と勧められ、先行公開されていた上記ストリーミングでチェックして購入を決意。今では移動中やランニングのお供になっています。この作品には80'sポップや土岐さんらしい化粧品CMソング系など収められていますが、カラフルな全10曲は全てトオミヨウ氏がプロデュース。なんでも今作は土岐さんからのラブコールだったそうですが、見事に最高の形で結実していますね。そういえば、昨年末リリースの槇原敬之『Believer』に収録されたユーミン曲のカバー、「A HAPPY NEW YEAR」もトオミヨウ氏のアレンジとのこと。一瞬スペイシーな感覚が入り込むこの作品もまた好きだったりします。

 

ちなみに今日最新チャートが発表される『J-WAVE TOKIO HOT 100』(J-WAVE 日曜13時)。アルバムのセールスポイントが加算される前の週(1月29日付)で、表題曲「PINK」がトップ10入り(7位)していたのですが、加算週の2月5日付ではなんと19位に大幅ランクダウン。逆に1月29日付で84位に初登場を果たしていた「Valentine」が47位に上昇していることから、おそらくラジオエアプレイ等で票割れを起こしていることが考えられます(セールスポイントはラジオエアプレイの多い方にのみ加算されるはずです)。翌週の2月12日付では「PINK」が1ランクアップの18位、「Valentine」が18ランクアップの29位にそれぞれ上昇していること、今週のチャートにおけるラジオエアプレイ部門がバレンタイン時期の分を加算対象としていることから、ともすれば最新2月19日付では2曲が逆転するかもしれません。共に素晴らしい曲ゆえ2曲同時トップ10入りが理想ではありますが、少しでも順位を上げることでより多くの方に土岐麻子『PINK』の良さが知れ渡ること、そして「Valentine」が来年以降も2月14日のテーマソングとして用いられるならば嬉しいですね。

船村メロディの振り幅の広さに驚く~船村徹の訃報に接して

作曲家の船村徹さんが16日に亡くなりました。

「王将」「東京だョおっ母さん」「矢切の渡し」などの楽曲は、演歌に疎い人でも一度は耳にしたことあることでしょう。4年前には『レコード・デビュー60周年記念アルバムが上下巻で発売されておりますので(全60曲+ボーナストラックとして本人歌唱4曲)、氏が遺した音楽を辿ってみては如何でしょうか。

 

さて、音楽家の訃報に接したメディアは、その方の代表曲を紹介することが往々にしてあるものです。が、驚いたのは昨日の『荻上チキ Session-22』(TBSラジオ 月-金曜22時)で、船村徹さんが作った曲のひとつとしてこの曲が取り上げられたのこと。これ、珍曲の決定版じゃないですか…! 曲は知っていたとして、まさか船村徹作品だとは知りませんでした。

ニュース原稿で他に紹介された氏の曲は「王将」「兄弟船」「矢切の渡し」。この中に紛れ込ませる『Session-22』のセンスには嬉しくなります。以下、番組ツイッターアカウントより。

 

イントロの海道さんの声が良くも悪くもインパクト強すぎる「スナッキーで踊ろう」はコサキンならびに赤坂泰彦さんのラジオ番組でも取り上げられ、後に珍曲を集めたオムニバス、『王道』シリーズ、コロムビア編のタイトルトラックとして収録されたほど。今から23年前に放送された『ナイトジャーナル』(NHK総合)にて同曲の誕生秘話が放送され、船村徹さんも登場。まとめられたブログと共に紹介させていただきます。

(勝手ながら紹介させていただきます。問題があれば削除させていただきます。)

 

誕生秘話を知れば知るほど深み(と凄み?)が増す「スナッキーで踊ろう」を聴きながら…氏の冥福をお祈りします。

 

それにしても、今週の『うたコン』(NHK総合 火曜19時30分)でひろうされた伍代夏子さんの最新曲「肱川あらし」の出だしのメロディがキャッチーで、これが船村メロディなのかと感激していた矢先の訃報、そして「スナッキーで踊ろう」も手掛けていたことを知った次第でして…あくまで個人的ながら、この一週間で氏への印象が目まぐるしく変化しています。

昨年12月の聴取率調査週間を踏まえ、来週は特に『たまむすび』を聴いてほしいという話

毎週金曜はラジオの話。

 

 

昨日は嬉しい発表が。『たまむすび』(TBSラジオ 月-金曜13時)で月-木曜パーソナリティを務める赤江珠緒さんが妊娠していることを発表しました。

昨日の番組冒頭の様子はラジオクラウド等でもチェック出来ます(ちなみに、ラジオクラウドが発表当初より格段に良くなっているのです。それについてはいつか触れないとなと思いつつ)。これにより、赤江さんは3月を持って番組から一旦離れることが発表されました。

とのこと。発表を待ちたいと思います。

 

 

さて実は、この日の放送を聴く直前まで、金曜ラジオの日にて、『たまむすび』への”暗雲”について書く予定だったのです。それは昨年12月の聴取率調査の結果が芳しくなかったことに由来します。

”完全勝利”とあるものの、実はTBSラジオ自体の平均聴取率同年10月に比べて0.3%も下がっているのです(他方、2位のニッポン放送は昨年10月、12月共に0.8%と横ばい)。そして10月調査で最高聴取率ランキングトップ10にランクインしながらも順位を落としていた『たまむすび』が、12月調査においてはトップ10自体から姿を消している…これは由々しき事態ではないかと。

 

10月の結果が出た際に弊ブログでは、数字(実際は最高聴取率ランキングの樹に)を落としたものの奇をてらうことなくほぼ通常シフトだった『たまむすび』は実は成功だったのでは?と記載しました。

が、10月同様に豪華ゲストをほぼ用意せず企画力(チチ川柳やリスナー生ゲスト等。宝くじプレゼントはありましたが)で勝負した『たまむすび』が連続で順位を落とし、遂にランキング圏外となってしまったわけで、ともすればこの結果を機に上層部が、さすがにテコ入れを実施しないといけないとして動き出し、4月の番組内リニューアルを指示したり、且つ4月と6月で聴取率が回復出来なければ秋改編以降の継続にも待ったをかけていたかもしれません。聴取率のみでの判断は危険であることは承知していますが、しかし今の番組の”質”を計る最大の(且つ唯一と言っても過言ではない)指標が聴取率であることを踏まえれば、自分の考えは自然なものではないかと。ゆえに、この2回の聴取率の結果で”暗雲”たちこめた『たまむすび』にとって、来週の聴取率調査週間(通称スペシャルウィーク)が”正念場”だと記載しようと思っていた、その矢先の妊娠発表だったのです。

 

 

昨日の放送をより多くの方に注目してもらうという意味でしょうか、昨日の朝日朝刊ラテ欄に写真付き広告を打った『たまむすび』。結構な経費がかかったと思うのですが、前番組『小島慶子 キラ☆キラ』の突如終了を経てはじまった番組が、聴取率で他局を抜き、また同時間帯でTwitterのトレンド入りを何度も果たしていることにより、赤江さんの貢献度の高さを実感した上層部からおそらく金一封的なものが出た、その上での広告展開なのかもしれません。

 

『たまむすび』が注目を集め次週の聴取率調査で高い数字を獲得し赤江さんの花道につながれば、そして『たまむすび』が続くことで来週月曜放送の”タイムカプセル”企画でのカプセル取り出し日にも『たまむすび』が放送されていることを願うばかりです。

(追記有) ビルボードジャパン最新チャート、『カルテット』主題歌がトップ10内に初登場

ビルボードジャパンのソングスチャート(JAPAN Hot100)を定点観測。というか、個人的に気になる部分をピックアップしていきます。

 

昨日発表された、2月20日付最新チャートはこちら。詳細については下記のチャートトピックスを参照してください。

今週はなんといっても4位に初登場を果たした、ドラマ『カルテット』(TBS 火曜22時)主題歌であるDoughnuts Hole「おとなの掟」に注目。『椎名林檎が書き下ろし、歌唱を松たか子満島ひかり高橋一生松田龍平による番組限定ユニット』が担当するこの曲は、先週火曜に突如配信開始。ダウンロードチャートでは『2位のPerfume「TOKYO GIRL」にダブルスコア以上の大差をつけて1位』となりました(『』内は記事より)。CDリリースがなくストリーミングが11位ゆえ、セールスとストリーミングの合算では2位となっています(CHART insightより。先週も書きましたが、ストリーミングおよびデジタルダウンロードのチャートを別途提示し、且つCHART insightでも分けて表示してほしいと思うのですが如何でしょう)。

 

この「おとなの掟」がより大きく、また長くヒットほしいと願うのですがそうなるためには、YouTube配信やCD化などによるデータのない指標を埋めることも大事でしょう。が、同時にドラマ『カルテット』のヒットもまたデジタルダウンロードやラジオエアプレイを上昇、維持させる点において必須ではないかと。一つ前のクールで放送され大ヒットした『逃げるは恥だが役に立つ』に比べると視聴率面では劣りますが、一昨日放送の第5回では視聴率が上向きになっています。

視聴率が良し悪しを決める全ての指標ではないことは承知で、でも面白いと評判の作品(たとえばドラマ評論家や好事家、SNSでの盛り上がり等は視聴率以上のものを感じます)が実際に上向きに転じることは素直に嬉しいこと。元来この火曜22時枠は視聴率が10%を獲ればヒットといえる枠でしたし(その辺については『重版出来!』を視聴率の面だけで失敗だと決めつけた記事を強く疑問視する(2016年7月2日付)で記載)、今作も数字の面では決して失敗とはいえないでしょう。サプライズすぎる宮藤官九郎さんの登場(ネタバレしないよう徹底したスタッフ等の尽力は見事!)を経ての次週以降の”第2幕”から目が離せません。気になるという方は、6分間のダイジェストがありますのでそちらを是非。

(※2/23追記 ダイジェスト動画の公開は終了しております。)

 

さて、名うての演奏陣と椎名林檎さんらしい言葉を堪能できる「おとなの掟」ですが、個人的にはCD化を願わずにはいられません。なんせこの曲について林檎さんは、『Mummy-Dがご出演されることは、年明けにネットのニュースで知りました。本来なら冒頭32小節くらい彼の時間として書くべきでした』と述べ、その上で『次回はそういたします』とコメント(『』内は主題歌|TBSテレビ:火曜ドラマ『カルテット』より。歌詞も確認出来ます)。ドラマの中で高橋一生さん演じる家森を追い詰める半田役を演じたRHYMESTERMummy-Dさんとは既に幾度か共演しており、その相性は抜群なのです。

「流行」は椎名林檎さんのアルバム『三文ゴシップ』(2009)の冒頭を飾る曲で、Mummy-Dさんは別ユニット”マボロシ”として参加。この「流行」に次ぐ形で「おとなの掟」のリミックス(ラップ入りバージョン)に参加し、リミックス込みでシングル化してくれたならドラマにハマったファンはきっと手に入れるのではないかと考えています。たとえばドラマの最終回あたりでCDリリースされたならば、ビルボードジャパンのチャートでもロングヒットに至れるのではないでしょうか。

第59回グラミー賞私的総括~アデルVSビヨンセの結果は”古臭い”のか、そして主要部門受賞の策は

日本時間の今週月曜に開催された第59回グラミー賞。この日の主役はアデルでした。「Hello」で最優秀レコード賞および最優秀楽曲賞、『25』で最優秀アルバム賞と主要3部門を獲得。一方、「Formation」および『Lemonade』でアデルと共にノミネートされていたビヨンセは今回、主要部門を逃す形となりました。

全部門の受賞者およびノミネートは下記に。

自分は今回、最優秀新人賞を除く主要部門をビヨンセが占めると、半ば希望込みで予想したのですが…結果は最優秀新人賞のチャンス・ザ・ラッパーを的中させたのみ。

この予想を載せた後、アメリカの主要メディアでは、”who SHOULD win?"(誰が獲るべきか)、そして"who WILL win?"(誰が獲るだろうか)という観点で主要部門の予想が行われていた模様。たとえば米ビルボードではこんなふうに。

つまり、"WILL"はグラミー賞投票者側に立った見方、"SHOULD"はメディア側のいわば願望という側面が強いものと思われます。他のメディアでも、"SHOULD"にはビヨンセが、”WILL”にはアデルが…というのが目立った印象があり、その点においては順当だったと言えるかもしれません。

 

 

さて、私的予想をアップした2日後、グラミー賞をボイコットしたフランク・オーシャンおよびカニエ・ウエスト等への苦言を呈させていただきました。

このエントリーで引用したMTVの記事にもあるように、フランクが自身の作品をノミネートさせなかった理由はグラミー賞の古臭さや黒人蔑視な側面からなる保守性の高さを非難することであり、このフランクの意志を代弁するかのように、グラミー賞を振り返った米ローリングストーン誌は賞に対し厳しい批判を繰り広げています。この記事を紹介した渡辺志保さんのツイートを勝手ながら紹介させていただきます(問題があれば削除させていただきます)。

でも、この記事が裏付けている?フランクの理論(そしてその理由は今回の結果でより強まったように捉えられてもおかしくないのですが)に敢えて反論したいのですが、仮に投票者が白人男性が多い且つ年配者として、本当に古臭いし保守的だったのでしょうか?

 

その理由は主にふたつ。

グラミー賞の選考基準は保守的どころではなく極めて柔軟である

私的予想でも触れましたが、今回最優秀新人賞を受賞したチャンス・ザ・ラッパーは当初同賞の資格がありませんでした。それを彼の活躍に即する形でポリシーを変更するに至っています。本当の保守というのは、たとえば日本において未だに多くのメディアが紹介する音楽チャートが、時代の変化に伴う音楽の聴かれ方の多様性を無視したオリコンチャート…というようなものであり(極端なたとえかもですが)、日本のそれ以上にはるかに柔軟性を持ち合わせていると思うのです。

 

② チャートを制した者がきちんと受賞している

最優秀新人賞を除く3部門において、米ビルボードチャートでの成績はいずれもビヨンセよりアデルが上。この流れは昨年のグラミー賞におけるテイラー・スウィフト『1989』の最優秀アルバム賞受賞(ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』が同賞を逃す)のみならず、最優秀レコード賞のマーク・ロンソン feat. ブルーノ・マーズ「Uptown Funk」ならびに最優秀楽曲賞のエド・シーラン「Thinking Out Loud」も同様で、2016年グラミー賞の主要部門のうち3つにおいて、2015年度の米ビルボードにおいて最上位に来た作品が選ばれていますし、最優秀新人賞を獲得したメーガン・トレイナーについても他のノミネート歌手よりチャート成績が上回っていました。グラミー賞の対象作品のリリース期間と米ビルボードチャートの集計期間に2ヶ月のタイムラグはありますし、また今年のグラミー賞においては最優秀レコード賞および最優秀楽曲賞において「Hello」以上に高位置にランクインした曲があるゆえ、チャートを制した者が…と100%断言出来かねる部分はありますがそれでも、チャートにおいて”アデル>ビヨンセ”の図式は変わりませんし、それどころか「Formation」は米ビルボードソングスチャートでトップ100にも入っていないというのが現実です。

 

この2つの理由、柔軟性および特にこの2年におけるヒットした作品が順当に選ばれている事実を踏まえれば、グラミー賞は市井に寄せていると思うのですが如何でしょう。フランク・オーシャンが指摘する古臭い体質や保守性が根強くあるならば、この2つの動きは出現しなかったはずで、チャンス・ザ・ラッパーの受賞すらなかったでしょう。

 

(なお今年の最優秀新人賞においては、シングルヒットを大量輩出したザ・チェインスモーカーズが選ばれませんでしたが、個人的には彼らが未だフルアルバムを出さないゆえ彼らの音楽性の輪郭が示されなかったんじゃないかと推測。あくまでフルアルバムを出したという前提で、そこからシングルヒットを量産していたならば、チャンス・ザ・ラッパーではなくザ・チェインスモーカーズが受賞していた可能性はあると考えます。)

 

 

さて、アデルはグラミー賞最後に発表された最優秀アルバム賞受賞の壇上で、ビヨンセ『Lemonade』は”記念碑だ(So monumental)”と語っていたのが印象的でしたが、後に祝賀会にて『彼女が年間最優秀アルバムを取るには、他に何をしなきゃいけないの?って感じ』とコメントしたそうです。『』内は下記記事より。

アデルの質問に対し、何様と言われるのを覚悟で答えるならば、間違いなく言えるのは【収録曲がソングスチャートで大ヒットすること】。アデル『25』には「Hello」という特大ヒットがありましたが、ビヨンセ『Lemonade』には該当曲がありませんでした。もっといえば、記事でも触れられている昨年のグラミー賞においても、最優秀アルバム賞の受賞を逃したケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』からは2015年度の米ビルボード、年間ソングスチャートにおいて1曲もトップ100にランクインしておらず、一方のテイラー・スウィフト『1989』からは5曲もトップ100入り(しかもそのうち1曲はシングル化に当たりケンドリック・ラマーを客演に招いています)。5曲というのは強烈だとしても、せめて今年のアデルの「Hello」のような大ヒットをビヨンセが1曲だけでも輩出出来ていたならば、チャートを重視する(ようになった)グラミー賞投票者の心象や投票行動は変わっていたのではないかと思うのです。

これは『Lemonade』でも、そしてフランク・オーシャン『blonde』やカニエ・ウエスト『The Life Of Pablo』でも言えることですが、芸術的とも言えるそれらアルバムの質の高さは割と多くの方が抱いているはず。ただ芸術的と言われる作品はとっつきにくさを伴っているため、ソングスチャートを賑わせる曲があってはじめてより多くの聴き手が手に取ってくれる(聴くきっかけを抱ける)のではないかと。最近ではサプライズリリースが当たり前にはなりましたが、アルバム同様に先行曲をきちんと”仕掛ける”ことでソングスチャートで大ヒットする曲があれば、よりアルバムもヒットして多くの方に届いたでしょうし、当然ながら選考委員の心にも引っかかったはず。逆に言えば、今後どんなに黒人や女性の差別を憂う等の社会情勢を反映した傑作アルバムが誕生しようとも、ソングスチャートを賑わせないとこの状況は続くでしょう。

 

 

いやいや俺は自分なりのやり方で売っていく、と仮にフランクもカニエも言うならば、先に触れたようにグラミー賞は市井に寄せてきているわけですから、言い換えれば市井を敵に回すことにもなるのでは?と。厳しい物言いかもしれませんが、ここはひとつ、次作以降の”戦略”を練り直してほしいと思います。これはソングスチャートでのヒットを作るのみならず、CDリリースをしないという戦略を廃止することも同様です(一方でチャンス・ザ・ラッパーはCDどころか有償リリースしていませんが、これも先述したように最優秀新人賞の選考基準は若干異なるように思いますので、チャンスについての今後の戦略にも言えるでしょう)。ネット環境が不十分な市井にとっては『blonde』も『The Life Of Pablo』も聴くことが出来ず、選考委員の耳にも届きにくいはずで、グラミー賞に本気で変わってほしいしそのために(まずは)自分が認められたいと思うなら、グラミー賞と同様かそれ以上にまずは自身こそが、こだわり”過ぎる”その売り方を変えることこそ重要ではないかと考えます。