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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

8月26日付ビルボードジャパンソングスチャートで躍進するも「Lemon」に及ばなかった米津玄師「馬と鹿」、その理由を考える

8月12~18日を集計期間とする、8月26日付のビルボードジャパン各チャートが昨日発表され、ソングスチャートはNMB48「母校へ帰れ!」が首位に立ちました。

「母校へ帰れ!」はチャート構成比の95%以上がシングルCDセールスによるもの。他指標が伴っていないため次週の急落は必至とみられます。特にルックアップ(17位)がシングルCDセールスと著しく乖離しているため、歌手のファンというわけではないが曲等に興味はあるライト層が少ない(レンタル数が多くない)こと、および実際のCD購入者数を示すユニークユーザー数が多くないことが示されていると言えます。

 

その「母校へ帰れ!」と3147ポイント差で2位に登場したのが、米津玄師「馬と鹿」。ドラマ『ノーサイド・ゲーム』(TBS 日曜21時)の主題歌が、集計期間開始日に突如ダウンロードを配信開始し、17万強の売上を獲得しジャンプアップしました。

馬と鹿 - Single

馬と鹿 - Single

  • 米津玄師
  • J-Pop
  • ¥250

「馬と鹿」が、自身の大ヒットシングル「Lemon」の販売スケジュールに沿っていることについては以前記載しました。

しかしながら気になることが。

「Lemon」のダウンロード初加算週、昨年2月26日付のポイントは25359、対して今回の「馬と鹿」は17437…今年度にチャートポリシーの改正があっただろうこと(カラオケ指標導入のタイミングで各指標のウェイトが変更された可能性)を踏まえても、この差は大きいと思うのです。なぜここまでの差が生じたのでしょう。

 

「馬と鹿」は『ノーサイド・ゲーム』の、「Lemon」は同じくドラマ『アンナチュラル』(2018 TBS)の主題歌。両者ともドラマの5回目終了後、月曜にダウンロードを配信開始していますが、『アンナチュラル』放送終了から「Lemon」配信開始まで2日と1時間のタイムラグがあるのに対し、『ノーサイド・ゲーム』放送終了から「馬と鹿」配信開始まではわずか2時間。鉄は熱いうちに打てではないですか、ドラマに心揺さぶられた方の購買行動は『ノーサイド・ゲーム』がより直結するはずです。また視聴率面でも、5回目までの平均視聴率は『アンナチュラル』が11.36%に対し『ノーサイド・ゲーム』は11.64%(視聴率はいずれもビデオリサーチ調べ)。後者がわずかながら高くなっています。しかし、ダウンロード数には大きな差が。

ビルボードジャパンで「Lemon」ダウンロード初加算週のダウンロード数を示すソースがなかったため同種のデータをオリコンで確認すると、「馬と鹿」の初週ダウンロード数が165000に対し「Lemon」は236000であり、「馬と鹿」は「Lemon」のおよそ7割のダウンロード数にとどまっています。ビルボードジャパンソングスチャートの総合ポイント数でも「馬と鹿」は「Lemon」の68.8%となっており、ビルボードジャパンにおいても「馬と鹿」のダウンロード数は「Lemon」のおよそ7割と推測していいでしょう。タイムラグおよび視聴率面で有利もしくは遜色ないはずの「馬と鹿」が「Lemon」に水をあけられているのは意外でしたが、しかし「馬と鹿」が不利な点がいくつか存在します。

 

ひとつは視聴率を”複合的に”みると負けているという点。通常、視聴率という言葉が示すのはリアルタイム視聴のことですが、一方でビデオリサーチは4年前から再生機器を用いて7日以内に再生したタイムシフト視聴率も計測し、リアルタイムとタイムシフトの合計から重複分を除いた”総合視聴率”を算出しています。いわば視聴率の複合指標化である総合視聴率で『ノーサイド・ゲーム』と『アンナチュラル』を比べると、5回目までにおいて前者が19.2%、後者が22.7%と逆転されたどころか3.5%もの差がついています(視聴率はいずれもビデオリサーチ調べ)。この、決して小さくはない差がダウンロード数の乖離に表れているのかもしれません。

またドラマを質の面で評価すると、こちらも『アンナチュラル』がより高いことが判ります。週刊エンタテインメントビジネス誌『コンフィデンス』が各クール毎にドラマ満足度調査を行っているのですが、初回満足度で比較すると2018年1月クールにおいて『アンナチュラル』は95/100と非常に高い数値を獲得しています。今クールの『ノーサイド・ゲーム』も77/100と決して低くないのですが、『アンナチュラル』が断トツなのです。

総合視聴率および初回満足度に差が生じた…いわばドラマにのめり込む人の数の差が、ダウンロード数に反映されたと言えるでしょう。

 

また、『ノーサイド・ゲーム』は池井戸潤氏原作の作品ですが、”池井戸潤×TBS日曜劇場”では「馬と鹿」が初のドラマ主題歌。服部隆之さんによるテーマソングはあれど、インストゥルメンタルではない主題歌として用いられたのは米津玄師さんが初なのです。もしかしたら、”池井戸潤原作作品に主題歌があることへの違和感”が今回のセールス差に表れているのかもしれません。ならばなぜ今回、これまで主題歌がなかった”池井戸潤×TBS日曜劇場”枠において、ドラマ制作サイドは米津玄師さんに依頼し、そして米津さんは快諾したのでしょう。

無論ドラマの内容や制作側の熱意に惹かれてというものもあるでしょう。ただ、これも推測の域を過ぎませんが、昨年「Lemon」で主に若者へ、Foorinへ提供した「パプリカ」で子どもやその親世代への影響力を高めた米津さんが、”池井戸潤×TBS日曜劇場”の主たる視聴者層であろう中高年男性層に次のターゲットを定めたと言えるかもしれません。そういえば、昨日のビルボードジャパンアルバムチャートの解説ではこのような記載が。

ニュー・シングル『馬と鹿』のリリースを9月11日に控える米津玄師は、当週の総合アルバム・チャートで、『BOOTLEG』が20位から11位、『YANKEE』が56位から38位、『Bremen』が71位から55位、『diorama』が100位圏外から69位と、過去作品が軒並み順位を上昇させている。いずれもダウンロードとルックアップが主な浮力となった。

主な浮力のひとつがルックアップというのは非常に興味深く、アルバムをレンタルしてパソコンに取り入れる方が増えている証拠と言えます。アリーナツアーのアナウンスに伴う過去作の予習という位置付けもあるでしょうが(ツアーについては米津玄師、2020年に10都市20公演のアリーナツアー - 音楽ナタリー(8月12日付)参照。ちなみにこの発表タイミングが集計期間初日であることも「馬と鹿」のセールスに寄与したものと思われます)、もしかしたらドラマファンで米津玄師さんのライト層になった方が、主題歌配信開始のタイミングでレンタルを利用し始めたと考えられそうです。だとすれば、『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)へ登場し中高年男性層へその名が知られてきたタイミングで打つ次の一手がここだとは…と感心します。

 

今後の「馬と鹿」のチャートアクションの推移に注目しましょう。「Lemon」の動向をなぞるならば、来週月曜にミュージックビデオが公開されるものと思われます。

チャートアクションに影響を与えた縦型ミュージックビデオ集、そして邦楽への渇望

最新8月24日付米ビルボードソングスチャートで、19週連続の首位を獲得していたリル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」から遂にその座を奪ったのがビリー・アイリッシュ「Bad Guy」。その原動力となったのがスマートフォン視聴に最適な”縦型ミュージックビデオ”にあることは昨日お伝えした通り。

オリジナルの再編集盤というよりも、舞台裏も挿入され面白い作品となっています。

 

縦型ミュージックビデオ、アメリカではヴァーティカルビデオ(Vertical Video。直訳すると垂直ビデオ)と呼ばれるビデオの登場がチャートに大きく寄与した例として、昨日のブログエントリーではホールジー「Without Me」を挙げました。常に彼女と向き合っているような映像で、オリジナル(→YouTube)よりも生々しさを感じます。

 

この縦型ミュージックビデオ、他にも登場しています。

 

 

 

サム・スミス & ノーマニ「Dancing With A Stranger」

オリジナル(→YouTube)に登場するダンサー陣を排し、サムとノーマニ、そしてオリジナルではほぼ登場しなかった薔薇のクローズアップが大半を占めています。

 

・カミラ・カベロ feat. ヤング・サグ「Havana」

オリジナル(→YouTube)がドラマ仕様、そして最後に自身のこれまでの環境を踏まえたメッセージを添えているのに対し、こちらは駅を舞台にカジュアルに撮影。ヤング・サグのパートもカミラが(口パクで)担当しています。

 

・ベニー・ブランコ、ホールジー & カリード「Eastside」

オリジナル(→YouTube)がベニーやホールジーの過去を振り返るような内容に対し、こちらはまさに”スマートフォン仕様”。途中とんでもない映像やスマートフォンならではの挿入も挟みつつ、オチもまたなるほどという展開。

 

テイラー・スウィフト「Delicate」

オリジナル(→YouTube)がショウ仕立てだったのに対し、こちらは自撮り風なノーカット映像で、極々シンプルに描かれています。

 

先述したビリー・アイリッシュにおいては以前にも縦型ミュージックビデオがいくつか制作されていましたが、たとえば下記の楽曲は縦型のみの公開となっていた模様。ひとつの楽曲から2つのミュージックビデオという試みは今回が初かもしれません。

「Bad Guy」の2作品制作は、おそらくチャートアクションのテコ入れという側面もあるでしょう(このブログがチャート定点観測を行っているため、この点をより着目していました)。が、縦型ミュージックビデオは「Bad Guy」に限らず、オリジナルとの差異を明確に示したり、スマートフォン仕様の構成にしたりと、単にテコ入れというわけではないきちんとした工夫がされていることが解ります。ゆえにこの工夫への支持がチャートアクションのさらなる伸びにつながっているのではないでしょうか。今回紹介した作品はほぼ全て米ビルボードソングスチャートでトップ10入りし、ロングヒットとなっています。

 

一方日本では、縦型ミュージックビデオこそいくつか制作されているものの、大きな話題になったという話はあまり聞かない気がします。個人的に、真っ先に思い出したのは三浦大知「普通の今夜のことを ー let tonight be forever remembered ー」でしょうか。

しかし、オリジナルと縦型とのふたつのミュージックビデオを用意した例は耳にしません。

 

たとえばアイドルがミュージックビデオとは別に、自撮り風もしくはメンバーが常時画面に(そし出来ればあまり飾らない形で)登場するタイプの縦型ミュージックビデオを用意したならば注目されると思うのです。K-PopアクトのNCT Dreamによる「Boom」はまさにそんな感じなんですよね。

 

縦型ミュージックビデオではありませんが、スマートフォンを意識した遊び心をくすぐる作品として、画面の真ん中に指を置くと楽しめる安室奈美恵「Golden Touch」も話題になりました。

今の音楽業界には、オリジナルバージョンとは別に2作品目を用意する余裕はないかもしれませんが、自撮り風やスマートフォン仕様等の工夫を凝らせば出来ないことはないでしょう。評判を呼べば自然とアクセス数が増え、ビルボードジャパンソングスチャートのチャートアクションにも影響を与えるはずです。邦楽作品のチャレンジを渇望しています。

「Old Town Road」が遂に陥落、ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」が首位を獲得した理由は新たな”投入”にあり…8月24日付米ソングスチャートをチェック

ビルボードソングスチャート速報。現地時間の8月19日月曜に発表された、8月24日付最新ソングスチャート。史上最長となる19週連続首位を記録していたリル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」が遂に陥落…首位の座を奪取したのはビリー・アイリッシュ「Bad Guy」でした。

遂に首位が交代しましたが、実は前週この「Bad Guy」はストリーミングで22%ダウンする等、全体で12%もの大幅ダウンとなっていました。ジャスティン・ビーバー参加バージョン投入後の退潮が影響していたゆえもはやこれまでかという見方もありましたが、今週はストリーミングが前週比10%アップの3910万(同指標3位)、ダウンロードが同11%アップの20000(同6位)とデジタル2指標が共に二桁成長を達成(他方ラジオエアプレイは前週比3%ダウンの9300万(同指標6位)に)。この急伸、特にストリーミングにおいては今回の集計期間(デジタル2指標は先週木曜まで、ラジオエアプレイは今週日曜まで)の終盤に新たなミュージックビデオが投入されたことが功を奏しています。

縦型ミュージックビデオの投入はスマートフォンに即した手法であり、今年はじめにホールジー「Without Me」が首位に返り咲いた際にも用いられています。これからの時代、テコ入れ等に縦型ミュージックビデオが投入されることが増えてくるかもしれません。

9週もの2位在籍を経ての首位到達は、ザ・ウィークエンド feat. ダフト・パンク「Starboy」(2017)、ジャスティン・ビーバー「Sorry」(2016)およびアウトキャスト feat. スリーピー・ブラウン「The Way You Move」(2004)の8週を上回る新記録達成。またオルタナティブのジャンルによる楽曲が首位を獲得したのはロード「Royals」(2013)以来。そのロードは16歳で首位の座を掴みましたが、ビリー・アイリッシュはそのロード以来となるティーンエージャーでの首位獲得。それも2001年12月8日生まれであり、21世紀生まれの歌手が初めて米ビルボードソングスチャートを制覇したことに。収録アルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』も米ビルボードアルバムチャートを4月13日付で制しており、今回遂にソングス/アルバム双方で首位を獲得しました。

 

リル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」は3位に交代。ストリーミングは前週比10%ダウンの5310万、ダウンロードは同23%ダウンの26000でデジタルに指標共に1位。ただしラジオエアプレイが同13%ダウンの3420万となり同指標28位に後退しています。ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」はデジタル2指標を縦型ミュージックビデオ投入等で底上げし、ラジオエアプレイが堅調に推移したことで「Old Town Road」を逆転した形となったのです。

その「Old Town Road」を破ったもう1曲はショーン・メンデス feat. カミラ・カベロ「Señorita」で、1ランクアップの2位に浮上。ストリーミングは前週比4%アップの3620万、ダウンロードは同4%アップの23000とデジタル2指標が共に4位、ラジオエアプレイは同7%アップの9610万で同指標3位となり全指標上昇。この影響でしょうか、ショーン・メンデスは「If I Can't Have You」も1ランクアップで10位に再浮上を果たしています。なお、ラジオエアプレイを今週も制したのは総合5位のカリード「Talk」ですが、前週比5%ダウン。それでも1億2360万と高い数値をキープしています。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (2位) ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」

2位 (3位) ショーン・メンデス & カミラ・カベロ「Señorita」

3位 (1位) リル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」

4位 (4位) リゾ「Truth Hurts

5位 (5位) カリード「Talk

6位 (6位) クリス・ブラウン feat. ドレイク「No Guidance」

7位 (7位) エド・シーラン & ジャスティン・ビーバー「I Don't Care」 

8位 (10位) リル・テッカ「Ran$om」

9位 (9位) ポスト・マローン feat. ヤング・サグ「Goodbyes」

10位 (11位) ショーン・メンデス「If I Can't Have You」

次週は「Bad Guy」が、縦型ミュージックビデオが集計期間フルカウントされる影響で首位の座は堅いかもしれませんが、「Señorita」にも首位獲得のチャンスはありそうです。

毎週更新される音楽チャートを取り上げる番組が3週連続で休止…ニッポン放送の姿勢に感じる強い不信

音楽チャートをブログで取り上げる者として大事にしているのは、”毎週紹介する”姿勢。流行の音楽の傾向をつかめるのみならず、後にヒットする曲のブレイクや瞬時に旬が過ぎてしまった曲のタイミングを見つけることが出来ます。動向を追いかけるには定点観測が必須なのです。

しかし、音楽チャートを紹介する番組をぞんざいに扱う放送局があります。それがニッポン放送です。

”ビルカン”こと『BillboardJAPAN HOT100』はニッポン放送で土曜13時から3時間半の生放送。たとえば”HOT100”と銘打った『J-WAVE TOKIO HOT 100』(J-WAVE 日曜13時)も4時間枠ですので、尺が決して長いというわけではありません。しかしこの番組は以前からスポーツ中継等で削られており、言葉は悪いでしょうがニッポン放送は『BillboardJAPAN HOT100』を”都合の良い番組”化していると捉えていました。その”都合の良い番組”扱いがさらに加速化。一昨日から3週連続で潰れることになるのです。

そして。

聴取率が高い平日帯の”テレフォン人生相談”コーナーのスペシャル版、そして笑福亭鶴光さんの番組が8月31日土曜、共に『BillboardJAPAN HOT100』の枠でOA。8月最終週(8月26日から9月1日まで)の1週間は首都圏のラジオ局が2ヶ月に一度の聴取率調査週間であり、TBSラジオ等が豪華プレゼントやゲストを投入する”スペシャルウイーク”をやめた一方でニッポン放送は番組差し替えも実施する形を維持。今回の”テレフォン人生相談”等の番組はこの一環として放送されます。人気コーナーの枠拡大や懐かしの番組の復刻をすることが問題ではありません。安易に差替し過ぎではないか?それも週毎に上位陣の顔ぶれが変わる音楽チャートを紹介する番組を3週も…というのは番組のみならず今の音楽も大事にしていないのでは?というニッポン放送の姿勢が見えてくるかのようです。ならば『BillboardJAPAN HOT100』はニッポン放送での放送を終了し、そのコンセプトをより信頼に足る他局で取り上げてほしい(そしてその際にはビルボードジャパンが強く関わってほしい)…と提案します。

 

ニッポン放送が大事にしないのは何も番組だけではなく、番組の”中の人”もそうなんですよね。

以前『たまむすび』(TBSラジオ 月-金曜13時)にて、過去にレギュラー出演していたニッポン放送スペシャルウイーク時の対応を、ネタにしつつ批判していたのが山里亮太さん。

その山里さんのライバル的立ち位置になるのでしょうか、同番組の木曜パートナーにはこの春まで真裏でニッポン放送『レオなるど』を担当していたRAG FAIR土屋礼央さんが就任することに。

ピエール瀧さんから正式交代する前、一度木曜パートナーとして登場した5月16日の放送での土屋さんの話を聴くと、『レオなるど』の番組担当者交代の話等、番組が聴取率面等で芳しくないとあからさまな態度を採るニッポン放送の姿勢が伝わってきます(無論土屋さんは面白おかしく表現していましたが)。『たまむすび』ではライバルとなるであろう山里・土屋コンビは共にニッポン放送に苦汁をなめさせられたこと、また『たまむすび』でのびのび担当している土屋さんの様子をみるとどうしても、ニッポン放送聴取率面で勝てないのは同局が番組や人を信頼しようとしない姿勢が出演者にも、そしてリスナーにも伝わってきているからだと思うのです。ならば、なぜそのことを未だ解ってくださらないのでしょう。仮に今回のスペシャルウイークでも結果が出なかったならば、ニッポン放送にはまず”体質”を改善することを強く勧めますし、求めます。

 

最後に、今回のスペシャルウイーク特番についても。

聴取率調査週間時の”テレフォン人生相談”については以前から違和感を抱いています。4年前の春の同週間時に、”テレフォン人生相談”が1週間通して放送した相談の”コンセプト”から抱いた違和感を再掲します。

それと、たしかに最良の企画を用意とは書いたものの、その結果が今週の【誰にも言えない”家族の秘密”】だとしたならば、ニッポン放送側にとっては先に書いた"不謹慎さ"こそ数字(聴取率)が見込めるコンテンツとして捉えているということではないかと。相談者の深刻な悩みを、ともすれば安易にネタとして軽んじて用いてやしないかという違和感を抱かずにはいられません。無論、相談する以上は(相談者の声を加工することなく)世間に発表されるわけで、それを理解の上で相談者が相談しているということなのでしょうが。考え過ぎと言われればそれまでですが、違和感は拭えないんですよね。

”安易にネタとして軽んじて用いてやしないか”というのは他の相談番組にも当てはまることですが、ニッポン放送は特に酷いという印象があります。その点からも信頼に足る放送局ではないという印象を抱くのは自分だけでしょうか。

”ハレルヤ”はJ-Popにどう落とし込まれているかを比較してみる

遅ればせながら昨日気付いたのですが、今月からOAされているNONIOのCM、カバーバージョンですがYUKIうれしくって抱きあうよ」を取り上げているのですね。NONIOのセンスに惹かれます。

CMに過去の楽曲が用いられる場合、その曲を愛聴した世代をメインターゲットにすると聞いたことがあります。とはいえ、YUKIさんの数多くの楽曲の中で「うれしくって抱きあうよ」を選ぶというのはなんと素敵なことなのでしょう。

CMバージョンはユニゾンで多くの方が歌う、尺に合わせるという理由からBPM速め且つ疾走感強めなアレンジになっており元のバージョンとは結構異なります。個人的には曲を取り上げてくださったことは嬉しいながらも、原曲が気になったならばオリジナルバージョンから溢れ出るフリーソウル感も是非聴いてほしいなと。フリーソウルなコンピレーションアルバムを過去にリリースしたNONA REEVESのメンバーがレコーディングに参加しているからでしょう、ピースフルな雰囲気が尚の事溢れ出ていると思うのです。

 

さて、「うれしくって抱きあうよ」の歌詞についてはセクシーな方向に深読みすることも可能ですが、”ハレルヤ”というフレーズが楽曲に美しさを纏わせているように思います。”ハレルヤ”、元来はキリスト教で用いられる言葉で神様を褒め称えよという意味があり、ゴスペルでは歌唱中の掛け声等で用いられているのですが、J-Popにおいては宗教的にではなく、神々しさや美しさを示す際に用いられる傾向があるのではないでしょうか。そんな”ハレルヤ”が印象的な楽曲をいくつか集めてみました。

 

 

・米津玄師「パプリカ」(2019)

Foorinに提供しロングヒットとなっている楽曲のセルフカバー。コード進行やメロディの改変でアレンジに不穏さが生まれたことで、”ハレルヤ”を含むサビ全体がより強く希望を謳うように聴こえてきます。

 

Da-iCE「パラダイブ」(2016)

突き抜ける明るさ! 夏到来!という感じがサビ頭の”ハレルヤ”に込められています。元来の言葉の意味からいい意味で大きく逸脱している点ではベッド・イン「ジュリ扇ハレルヤ」(2017)も同様。アイドルソングにおける”ハレルヤ”の使い方は面白いですね。

 

鈴木彩子独立戦争」(1990)

高見沢俊彦さんが楽曲を提供した、鈴木彩子さんのデビュー曲。学校を舞台とした歌詞はドラマ『テニス少女夢伝説!愛と響子』(1990 フジテレビ)主題歌に起用されたからとも言えそう。若さゆえの衝動と脆さが”ハレルヤ”に表れているかのようです。

 

奥井亜紀「晴れてハレルヤ」(1995)

”ハレルヤ”をダジャレ的に用いるのはゆず「雨のち晴レルヤ」(2013)も該当しますが、30~40代にはこの曲が刺さるかもしれません。アニメ『魔法陣グルグル』(テレビ朝日)に用いられ彼女最大のヒットとなっています。

 

畠山美由紀「若葉の頃や」(2006)

この7年後にレナード・コーエンの有名曲「Hallelujah」をカバーした畠山美由紀さんによる楽曲(「ハレルヤ」として配信リリース)。「Hallelujah」はオリジナルバージョン共々、ジェフ・バックリィによるカバーも有名です。

「若葉の頃や」の作曲は堀込泰行さん。キリンジ在籍時代には”ハレルヤ”がサビに登場する「スウィートソウル」(2003)を発表しています。キリンジらしい言葉の紡ぎ方が美しく、今日紹介した楽曲の中では”ハレルヤ”の元来の意味を最も強く踏襲したように思います。

 

この他にもMr.Childrenサザンオールスターズといった日本を代表するバンドから、SMAPやAAAといったアイドルまで様々な歌手が”ハレルヤ”という言葉を用いています。それぞれの楽曲における言葉の意味を比較してみるのも面白いかもしれません。

ちなみに”ハレルヤ”が元の意味と最もかけ離れて用いられたのは郷ひろみ「Hallelujah, Burning Love」(2000)ではないかと。聖愛ではなく完全に”性愛”を謳う上に、ゴスペルで用いられる”pray (祈る)”も用いるというのが凄いなと。そして2000年リリースを意識した歌詞、噛み締めたくなりますね。紹介したいのですがデジタルに一切明るくないのが実に残念です。

サザンオールスターズ「愛はスローにちょっとずつ」の販売戦略を思う

ここ最近、サザンオールスターズの公式Twitterアカウントによるプロモーションが目立つと思うのは自分だけでしょうか。

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”プロモーション”と記載されていますが、自分のタイムラインに幾度となく登場したこれらのつぶやきはプロモツイートと呼ばれるもの。ラジオ番組企画の紹介もさることながら、主目的は今週月曜に配信開始となった新曲「愛はスローにちょっとずつ」の宣伝とみられます。

配信限定シングルといえば昨夏の「闘う戦士たちへ愛を込めて」および「壮年JUMP」も同様ですが、この2曲は後にリリースされたアルバム『海のOh, Yeah!!』に収録。今回はCD化されても書籍に付属する形で流通され、書籍そのものも一般に流通するものではありません。

8月12日に配信リリースされるほか、8月下旬より発送されるサザンのアーティストブックSOUTHERN ALL STARS YEAR BOOK『40』」にこの曲を収録したCDが封入される。

SOUTHERN ALL STARS YEAR BOOK『40』」は通販サイト「アスマート」での受注限定販売商品で、今回の新曲CD封入の決定を受け追加予約の受付がスタートした。

書籍としての扱いのためCD化されながらもCDセールスとしてカウントされず、一方でルックアップは加算対象となるでしょう。というのも、マキシマムザホルモン「maximum the hormoneⅡ~これからの麺カタコッテリの話をしよう~」(2018)という前例があるため。ちなみにマキシマムザホルモンの書籍は一般流通されていました。

シングルCDとしてのリリースが見送られたのは、今回の書籍に『40周年ツアーを通してファンとともに作られた』新曲CDが入ることにより『サザンオールスターズ40周年最後のピースがはまり、その軌跡がすべて詰まったと同時に、新たなサザンの始まりの一歩といっても過言ではない』というコンセプトを優先したためと言えそうです(『』内はサザン新曲「愛はスローにちょっとずつ」CD封入される40周年記念本の詳細解禁 | Musicman-net(8月5日付)より)。また、所属事務所のアミューズが昨年から”シングルCDを出さない”方向性を打ち出していることも、シングルCD化見送りの一因と捉えることが出来ます。

後日リリースされるだろうオリジナルアルバムに収録されるか、いやそれ以前にオリジナルアルバムがいつ出るかは不明な状況。さらにストリーミングもレンタルも未解禁のため、サザンオールスターズのファンというわけではないものの「愛はスローにちょっとずつ」に興味があるライト層は、書籍を予約するかダウンロードしない限り音源を手に入れることが出来ません。他方サザンオールスターズ側にとっても、楽曲への接触手段がほとんどないことに加え、先述した『海のOh, Yeah!!』収録の2曲のようなタイアップがあるわけではないため、話題性を高めるべく今回のTwitterプロモーションに至ったものと思われます。しかも、ダウンロード購入画面のスクリーンショットを用いたキャンペーンを展開しており、その締切が明日日曜いっぱい。

締切日時を踏まえるに、月曜はじまり日曜終わりというチャート集計期間をフルに用いてダウンロードを盛り上げたいという思いがみえてきます。書籍を予約済で後にCDの形で音源が手に入る方でも参加可能なこのキャンペーンも踏まえるに、チャートで好成績を残したいという強い姿勢が見えるように思うのですが、いかがでしょう。

 

次週、サザンオールスターズ「愛はスローにちょっとずつ」はどの位置に登場するでしょうか。最新8月19日付ビルボードジャパンソングスチャートにおいてラジオエアプレイでは既に今週3位となっており、次週はダウンロードが牽引してトップ10入りを果たすかもしれません。しかしながら同じく次週には、”突如”リリースされた米津玄師「馬と鹿」も上位に入ることが予想され、サザンオールスターズは「馬と鹿」と闘うことに。米津さんもストリーミング未解禁ですがダウンロードに長けた歌手であり、また「Lemon」で功を奏した戦略を今回も踏襲しているためこちらも月曜に配信を開始しています。

集計期間前半3日間のダウンロードセールスが昨日報じられましたが、「馬と鹿」が「愛はスローにちょっとずつ」をおよそ10万近く上回り、独走しています。

サプライズ配信(いや、これ自体計画的だと思うのですが)の「馬と鹿」が勝つか、以前から配信日を決めて動いていた「愛はスローにちょっとずつ」が土曜のラジオ番組に合わせたYouTube生配信で話題となり迫ることが出来るか…結果は来週水曜に判明します。仮にサザンオールスターズ側がソングスチャート首位の座を狙うべくプロモーションを徹底したとして、さすがに「馬と鹿」が出てくるとは想定しなかったのではないかと思うのですが、果たして。

この1ヶ月で生まれた様々なゴスペル的邦楽が沁みる

昨日、最新8月19日付ビルボードジャパンソングスチャートを取り上げた際に紹介したOfficial髭男dism「宿命」(ソングスチャート4位)の、新たなミュージックビデオが公開されました。

このブラスバンドバージョンは、ラジオ番組『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM/JFN 月-金曜22時)で生まれたもの。

良い意味で意外だったのは、コーラスの挿入。オリジナルバージョンでも入っていましたが、このコーラスが入ることで祈りや願い、己を信じることといった前向きな力がより強く表現されているように思います。この前向きな力を示したコーラス隊…いわばゴスペル(的アプローチ)導入の判断は実に見事だと思うのですが、Official髭男dismにとっては昨秋のシングル「Stand By You」でこのアプローチを実行していたんですよね。

とりわけ、この曲のアコースティックバージョンがよりゴスペル感を強くしていたのでそちらも是非。下記ブログエントリーにて取り上げています。

 

偶然かな、この1ヶ月間でゴスペル的な作品群に触れる機会が増えています。映画『天気の子』に用いられているRADWIMPS feat. 三浦透子「グランドエスケープ」もそのひとつ。先週放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜20時)ではゴスペルクワイアのBe Choirがバックを担当していました。

(※この動画は公式ではありませんが、昨日のブログエントリーに貼付した(ものの今朝までに削除された)動画同様、RADWIMPSの所属事務所名が動画説明欄にクレジットされており、違法アップロードされたものが所属事務所の承認を経て”半ば公式に”ミュージックビデオと化しただろうことを踏まえ、紹介させていただきます。もしかしたらレコード会社が削除を依頼しているのかもしれませんが、ならばレコード会社側が”公式に”ミュージックビデオやリリックビデオを用意してほしいと願います。)

 

そしてクワイアの登場はありませんが、中村佳穂さんが今月リリースした「q」は、優しい歌声と”Trust you”という言葉が背中を押してくれるかのようです。

 

不安且つ不安定、混迷を極める時代。他者を卑下しないと自己を保てない(とはいえそのアプローチによる自己の確立はあまりに脆いものですが)…そんな人が増えた現代にあって希望を、前向きな力を謳う音楽はより深く沁み込むかのようです。その力を授かり、純粋に自己を高めていけたなら好いですね。