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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

シングルCDセールスのみに特化した曲は真のヒットと言えるか? カラオケ指標への私見、そして新しいヒットの形…10月7日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック

9月23~29日を集計期間とする、10月7日付のビルボードジャパン各種チャートが昨日発表されました。こちらを踏まえ、毎週木曜はソングスチャートを中心に、最新チャートを押さえていきます。

まずは前週ソングスチャートを制したこの曲について。

 

AKB48サステナブル」は真のヒットに至らず

ここ最近のAKB48の動向を踏まえ、前週首位に立った際に今週の動向を注視せよと書きました。

次週、前週比5%未満且つ2週先行でシングルCDがリリースされた乃木坂46「夜明けまで強がらなくてもいい」(今週8位)を下回るならば、AKB48サステナブル」は社会的なヒットとは言えないというのが私見です。

その結果。

初週のシングルCDセールスは前作「ジワるDAYS」に勝ったものの、2週目のCDセールス前週比は0.5%でこちらも2018年度以降の作品では最低に。初週の爆発力の反動、そして他指標が伴わないこともあり(2018年度以降の作品で、シングルCDセールス加算2週目において全指標トップ10未ランクインは今作が初)、「サステナブル」が社会的なヒット曲とは言えないというのが私見です。

ゆえに、今年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)でAKB48が出場する可能性は高くない、その枠は日向坂46が担うものと考えていたのですが、先週日曜に放送された『NHKスペシャル』に秋元康さんが大きく関わっていることを踏まえれば、今年の出場はあるかもしれません。非常に興味深い分析をされているブログエントリーを勝手ながら紹介させていただきます(問題があれば削除いたします)。

 

・IZ*ONEの日本向けシングル、極端なチャートアクションが心配

秋元康さん関連でいえば、IZ*ONEの動向も気掛かりなのです。今週のソングスチャートを制した日本向けサードシングル「Vampire」(秋元康さん作詞)のチャートアクションをみると。

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シングルCDセールスは日本デビュー曲の「好きと言わせたい」以降およそ2万ずつ増加しているのですが、今作におけるルックアップは29位と大きく乖離。シングルCDセールスと実際のCD購入者数(ユニークユーザー数)が著しく異なるものとみられます。このチャート構成比をみると、前週のAKB48サステナブル」に似ています(前週のブログエントリー参照。上記にリンク先を掲載)。おそらくは次週、他指標で補完出来ない限り失速することは間違いありません。「好きと言わせたい」は2→9位、「Buenos Aires」は1→10位でしたが果たして。ちなみに「Buenos Aires」でもシングルCDセールスに特化、ルックアップが弱いという状況がみられました。

それにしても、K-Popアクトが日本上陸すると日本独自の作品をリリースする傾向がありますが、韓国をはじめ世界向けの楽曲が接触主体でポイントを稼ぐのに対し、日本向けのは所有、それもシングルCDセールスに特化しています。日本向けの楽曲も日本のアイドル的なそれであり、そのような売り方をすることが果たして歌手のためになるのか、考えてしまいます。以前私見を記載しましたのでよろしければ。

 

・似た動きの2曲、明暗を分けたのは”デジタルに明るいか否か”

7位のAqours「未体験HORIZON」が5699ポイント、8位のA.B.C-Z「DAN DAN Dance!!」が5226ポイント。この両者、各指標の順位は拮抗しているものの、勝敗を分けたのはダウンロード。「DAN DAN Dance!!」はカウントされず、「未体験HORIZON」は20位に。

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「未体験HORIZON」のチャート構成比に占めるダウンロードの割合は10%強。仮に10%とするとおよそ570ポイントをダウンロードで稼いだことで「DAN DAN Dance!!」を逆転。デジタル解禁/未解禁が明暗を分けました。

 

・ソングスチャート構成指標で最も動きの鈍いカラオケ、トップ3が3ヶ月ぶりに動く

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(上記2曲のCHART insightはカラオケ指標のみ掲載。下記「Lemon」も同様。)

ソングスチャートを構成する8指標において最も動きが鈍いのがカラオケ。今回「Pretender」が「マリーゴールド」を逆転したことで、およそ3ヶ月ぶりにトップ3内で変動があったことになります。しかしトップは米津玄師「Lemon」が、同指標が加算開始となった2018年12月10日付以降、全ての週を制しています。

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「Lemon」のチャート構成比におけるカラオケの比率は25%弱であり、今週は978ポイント程度が同指標から生まれています。この指標が現在のウェイトで加算されるならば「Lemon」は総合でトップ10落ちしたとはいえしばらく安泰かもしれません。が、他指標に比べ著しく動きのないことを踏まえればウェイトをもう少し下げてもいいのではないかというのが私見です。カラオケの上位20曲で総合100位以内に入っていないのが7曲あり、ラジオエアプレイに次いで総合チャートと乖離していると言えるため尚の事。とはいえカラオケは社会に広く親しまれている曲を端的に示したものでもあるため、仮にウェイトは下げたとしても必要不可欠な指標であることは間違いありません。そしてこの指標においてOfficial髭男dismが台頭してきているのは、大ブレイクの確たる証拠と言えます。

 

TikTokからストリーミング、そして総合ソングスチャートへ…Novelbright「Walking with you」が示す新しいヒットの形

こちらについては下記Real Soundの記事をご参照ください。自分が記載した内容が、『めざましテレビ』(フジテレビ)の放送直後に公開されました。

記事の補足をするならば、ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標においてはSpotifyはカウント対象外となっています。おそらくは有償と無償とが混在するサービスであるため、有償サービスのみが扱われているものと考えます(ちなみにAmazonについては有償のAmazon Music Unlimitedがカウント対象ながら、年会費を支払ったAmazonプライム会員が無償(Amazonプライムのサービスの範囲内)で使えるAmazon Prime Musicはカウント対象外に)。しかしながら他のストリーミングサービスにもNovelbrightが波及していることを踏まえ、今回記事に取り上げました。

ちなみにビルボードジャパンが今後SpotifyおよびAmazon Prime Musicをどう扱うかは不明ですが、今後のチャートポリシー改正で何かしらの動きがあるかもしれません。個人的にはアメリカ同様、有償と無償とで1再生当たりのポイントに差を付ける方法もアリではないかと考えています。アメリカで昨夏採り入れたこの方法については下記に。

 

今週のソングスチャートトップ10はこちら。

K-Popアクトの韓国や世界向け楽曲と日本向けとの差は、4位に登場したTWICE「Feel Special」(9月23日に韓国でリリースされたミニアルバム表題曲)の動向も合わせてチェックすれば見えてくるものがあるはずです。

1指標に特化した曲は社会的なヒットといえるか? ダウンロードの場合を調べてみる

 ビルボードジャパンソングスチャートのトップ5にランクインした楽曲のうち、シングルCDセールスのみがトップ10入り(他指標は全てトップ10未ランクイン)したものはロングヒットせず翌週急落、果ては1週で100位圏外となるものが多いため、【チャート構成比に占めるシングルCDセールスの割合が極めて高く他指標が伴っていなければ翌週急落する】【そのような楽曲が社会的なヒットとは言えない】ということを、2019年度(2018年12月10日付以降)のソングスチャートから結論付けました。

このエントリーを書き上げた直後、同じ所有指標でもダウンロードの場合はどうだろうと思うように。そこで、シングルCDセールスと同様にダウンロードについても2019年度分から抽出してみることにします。

 

BUMP OF CHICKEN「Aurora」(5位→5位)

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・LiSA「紅蓮華」(5位→14位)
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菅田将暉まちがいさがし」(2位→3位→8位)
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・米津玄師「馬と鹿」(5位→2位)
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事例はわずか4曲(菅田将暉まちがいさがし」は2週分が該当ゆえ5週分)。シングルCDセールスのみの場合は16曲でしたので4分の1しかありません。そしてLiSA「紅蓮華」以外は該当週の翌週もトップ10内に在籍し、「紅蓮華」もシングルCDセールス加算週にトップ10に復帰しています。

全曲がドラマやアニメのタイアップ曲であり、歌手のコアなファンのみならずライト層も購入していることが想像出来ます。また後日ストリーミングやミュージックビデオが解禁されこれら指標群(ミュージックビデオは動画再生)が加算されることで複合指標で楽曲を補強。無論シングルCDセールスもそのひとつであり、その最たる例が米津玄師「馬と鹿」の首位獲得だったと言えます。

ダウンロードのみに特化した楽曲の場合、接触指標群や他の所有指標も後日(早ければ翌週)加算されることで、極度のランクダウンは抑えられています。この後日加算については、特に米津玄師さんの場合きっちりとスケジュールを立てて順番に解禁しているものと捉えており、他指標がトップ10に入らないとしても不安視していなかったものと思われます。

 

シングルCDセールスに特化した楽曲の場合、パソコン等に取り込んだ際インターネットデータベースにアクセスした回数を示すルックアップが売上と乖離している場合は特に、シングルCDセールスとユニークユーザー(実際の購入者)数に大きな隔たりがある可能性が高いと言えます。イベント参加券の同梱など、CDがグッズとしての側面を持つことも理由かもしれませんし、一方デジタルではそのような同梱が基本的に出来ないため力を入れづらい側面はあるでしょう。とはいえシングルCDに先駆けてダウンロード販売を行えば、所有への意識が高いコアなファンはデジタルもきっちり購入するのではないかと考えます。たとえ急落しても楽曲の盛り上がりを1段階から2段階に増やせばチャートにおけるインパクトは大きくなり、歌手や楽曲を認知する機会が増えライト層を生むことにもつながると思うのですが、いかがでしょう。

 

ちなみにストリーミングにおいても調べてみたのですが、総合5位以内の楽曲のうちストリーミングのみトップ10入りした楽曲はありませんでした。接触に強い曲は他の接触そして所有指標でも強いことが解ります。

リゾ「Truth Hurts」5連覇、そして影の功労者が次週トップ10入りを狙う…10月5日付米ソングスチャートをチェック

ビルボードソングスチャート速報。現地時間の9月30日月曜に発表された、10月5日付最新ソングスチャート。リゾ「Truth Hurts」が5連覇を達成しました。

リゾ「Truth Hurts」は前週、女性単独(客演なし)によるヒップホップ楽曲の最長首位記録を更新しましたが、客演ありでの女性ヒップホップアクトによる最長記録(イギー・アゼリア feat. チャーリーXCX「Fancy」(2014)まであと2週となりました。ラジオエアプレイは前週比3%アップの1億1940万を獲得し連覇、ストリーミングは同6%ダウンの2750万(同指標7位)、ダウンロードは同5%ダウンの26000(同指標2位)に。K-PopアクトのAB6IXを迎えた新リミックスを公開したことでダウンロードが上昇するものと捉えていましたが、大きな話題にはならなかった模様です。

ルイス・キャパルディ「Someone You Loved」がトップ3入り、リル・テッカ「Ran$om」がストリーミング6週目の首位を獲得して4位に浮上。そしてクリス・ブラウン feat. ドレイク「No Guidance」が5位に上昇し、同曲の最高位を更新しました。

ストリーミングは前週比1%ダウンの3280万(同指標3位)、ラジオエアプレイは同1%アップの6200万(同指標9位)、ダウンロードは同1%ダウンの6000(同指標22位)を獲得し、クリス・ブラウンにとって2008年秋の「Forever」以来となる11年ぶり5曲目のトップ5ヒットとなりました。一方ドレイクにとっては15曲目となり歴代17組目の記録達成です。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (1位) リゾ「Truth Hurts

2位 (2位) ショーン・メンデス & カミラ・カベロ「Señorita」

3位 (4位) ルイス・キャパルディ「Someone You Loved」

4位 (6位) リル・テッカ「Ran$om」

5位 (7位) クリス・ブラウン feat. ドレイク「No Guidance」

6位 (5位) リル・ナズ・X「Panini」

7位 (3位) ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」

8位 (9位) ポスト・マローン「Circles」

9位 (8位) ポスト・マローン feat. ヤング・サグ「Goodbyes」

10位 (10位) リル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」

今週はマルーン5「Memories」が22位に初登場を果たしています。

カーディ・Bをフィーチャーし全米首位を獲得した「Girls Like You」以来となる新曲。ダウンロードは27000となり同指標首位発進。マルーン5にとって22曲目のトップ40ヒット、100位以内となるとちょうど30曲目のランクインとなります。

この「Memories」を上回り、今週トップ100で最も高い位置に初登場を果たしたのがダベイビー「Intro」(17位)。

先週金曜リリースされた、ダベイビーのセカンドアルバム『Kirk』からの先行曲。ストリーミングが好調なことから次週はこのアルバムから大量エントリーを果たす可能性もあります。リゾ「Truth Hurts」に客演したことで同曲を首位に押し上げ、リル・ナズ・X「Panini」に参加し同曲にトップ10入りをもたらした影の功労者が、主演作で「Suge」以来のトップ10入りなるか注目です。

シングルCDセールスのみに特化し他指標を伴わない曲は社会的なヒットといえない…この春以降のチャート登場曲から提示する

以前紹介したブログエントリーに関して、その後を追いかけます。

シングルCDセールス初加算週とその翌週の2週分をチェックすることでその楽曲が真のヒットかを見極めることが出来、翌週の急落は他指標でシングルCDセールスの下落を補填出来なかったことを意味するためCDセールスのみのランキングが流行の鑑に成り得ないと前回結論付けました。果たしてその時から状況は変化しているのか、シングルCDセールスに特化した楽曲でこの結論を覆すものはあるのかをチェックすべく、前回のブログエントリー以降に登場した作品の状況を追いかけてみます。2019年5月20日付以降にソングスチャートでトップ5にランクインした曲のうち、シングルCDセールス指標のみトップ10入りした楽曲を抽出すると。

 

・ONE N' ONLY「Dark Knight」(1位→100位圏外(300位以内))

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・BOYS AND MEN「頭の中のフィルム」(3位→100位圏外(300位以内))

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MONSTA X「Alligator」(2位→100位圏外(300位以内))

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祭nine.「ゴールデンジパングソウル」(3位→100位圏外(300位以内))

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・BEYOOOOONDS「眼鏡の男の子」(2位→59位)

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FANTASTICS from EXILE TRIBE「Dear Destiny」(5位→100位圏外(300位以内))

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作品数は6曲と少ないながらも、シングルCDセールス加算2週目にトップ100に残っていたのはわずか1曲という状況。【チャート構成比に占めるシングルCDセールスの割合が極めて高く他指標が伴っていなければ翌週急落する】楽曲が【社会的なヒットとは言えない】ことは、これらの例からやはり証明されたと言っていいでしょう。一部楽曲はその後突発的にシングルCDセールスが急上昇していますが持続性に欠け、他指標を伴わないことから局地的な盛り上がりと分析可能。コアなファンへの所有を求めることは運営にとって必要なことですが、ファンというわけではないものの歌手や楽曲に興味はあるライト層を拡充しない限り、今以上の成果を挙げるのは厳しいものと考えます。

米ビルボードが情報公開の大半を制限したことに強い違和感を覚える

もう表題の通りなのですが。開いてみて驚きました。米ビルボードチャートのうち、ソングスチャート(Hot 100)やアルバムチャートはそれぞれ100位、200位まで確認出来るものの、ソングスチャートを構成するストリーミング、ダウンロードおよびラジオエアプレイの各種チャートが有料での公開のみに制限されたのです。

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(上記は9月25日朝に確認した、9月28日付米ビルボードソングスチャート(上)と、同ストリーミングチャート(下)。3位以降は"PRO…"表示で隠れてしまっています。)

各ジャンルのチャートも、1位と2位は見えるもののそこから先は一切分からない状態。おそらく今月半ばからこの措置が採られていると思われるのですが、納得出来ない自分がいます。ちなみに確認するためにはBillboard Proというサービスへの加入が必要。月10ドル99セント、印刷する場合は24ドル99セントかかるようです。

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有料化の狙いを想像するに理解は出来るものの、日本より無料での公開範囲を著しく狭めるその動きには、米ビルボードは"チャートは文化である"ことを理解していないのではと強い違和感を覚えます。Spotifyが順位を付けて国別等のチャートを公開しているのとは対照的であり、その姿勢を疑問視します。とにかく、非常にやりにくくなってしまった…というのが本音です。

流行をキャッチする力はストリーミングとラジオで大きく乖離する…アメリカと日本の場合を考える

前週、メイベル「Don't Call Me Up」のビルボードジャパンソングスチャートにおけるチャートアクションを元に、ラジオエアプレイにおける"守りの姿勢"を厳しく指摘しました。

この掲載の後、下記のエントリーが今年2月に掲載されていたことを知ったのですが、読んで色々考えさせられました。

ここ数年アメリカでヒットした楽曲の、Spotifyおよびビルボードのラジオエアプレイチャートを比較したグラフが非常に解りやすいのです。リリース時に既に知名度の高い楽曲ならばラジオエアプレイの加速も速いですが、たとえばデュア・リパにとって初の米ビルボードソングスチャートトップ10入りとなる「New Rules」(2017 最高6位)は、Spotifyチャートでトップ50入りしたその4ヶ月後にはじめてビルボードラジオエアプレイチャートで50位以内に登場したわけです。この件ひとつだけとってみても、今の音楽業界におけるストリーミングとラジオエアプレイの流行を捉える力や関係性を如実に示しているかのようです。

 翻って日本はというと、ビルボードジャパンソングスチャートのラジオエアプレイ指標では初登場で上位に登場する例が少なくなく、たとえばスピッツ「ありがとさん」は9月16日付のラジオエアプレイ指標で初登場1位を獲得しています。邦楽の場合は新鋭の歌手の作品も速やかに上位に進出することが多く、ストリーミングが十分に浸透していないだろうことなどを踏まえるに、アメリカほどストリーミングとラジオエアプレイには乖離が生まれていないように思います。しかしながら前回取り上げたメイベル「Don't Call Me Up」は輸入盤ではなく国内盤がリリースされたタイミングが最も盛り上がっており、同時にラジオエアプレイの盛り上がりが他指標(ストリーミング等)に波及していないことが、ラジオの流行をいち早く捉えたり追う力、影響力の乏しさ、さらには保守的な姿勢を物語っています。ラジオが海外の流行に乗り遅れていることや、結局はCDリリース(それも日本のレコード会社発)ありきのエアプレイになっているだろうことがリスナーにバレているかは分かりませんが。

 

日本では今後、諸外国並にストリーミングが興隆していくことが予想されます。そうなればラジオ局や番組はより流行に敏感でいないと、人々のラジオ離れが進むであろう危機感を抱かないといけないでしょう。

米ビルボードソングスチャートの新たな仕掛けはK-POPとのコラボレーションにあり

リゾ「Truth Hurts」が新しいチャート上の”仕掛け”を用意してきました。

仕掛けとは、米ビルボードソングスチャートを押し上げるべく追加投入される、新たなミュージックビデオやリミックスのこと。以前からこのチャートではよく見られていたことですが、なんといっても今年インパクトが大きかったのはリル・ナズ・X「Old Town Road」における、ベテランカントリー歌手のビリー・レイ・サイラス客演版でしょう。その「Old Town Road」の首位陥落後、リゾは「Truth Hurts」に2つのリミックスを追加投入し初のチャート制覇を成し遂げていますが、とりわけラッパーのダベイビーが参加したリミックスが「Truth Hurts」を首位へ押し上げたのみならず、最新9月28日付チャートにおいてはリル・ナズ・X「Panini」にダベイビーが参加したバージョンが1週間フルで加算されたことで、リル・ナズ・Xに2曲目のトップ10ヒットをもたらしています。

ではリゾ「Truth Hurts」の新たな仕掛けとは何でしょう。実はリゾ、新鋭アクトのAB6IX(読み:エービーシックス)を招いたバージョンを今週初めに突如公開したのです。

来月には初のフルアルバム『6ixense』が予定されているAB6IXは、新鋭ながら5月リリースのEP『B Complete』を韓国アルバムチャートで2位に送り込み、今後が期待されるK-POPアクト。全米1位のリゾと組むことは彼らのステップアップにつながるはずです。そしてリゾにとっても。

リゾ「Truth Hurts」は最新9月28日付米ビルボードソングスチャートで首位を制しながら、チャートを構成する3指標のうち唯一ダウンしたのがダウンロードでした。それも前週比12%と2桁のダウン。おそらくリゾはこのダウンロードにメスを入れたかったものと考えます。K-POPアクトはBTSやBLACKPINK等がアメリカで成功を収めていますが、アメリカにおけるK-POPアクトは接触が多くない一方所有が強いという特徴があることから、次週「Truth Hurts」のダウンロードはある程度歯止めがかかる可能性があります。実際、先述した「Old Town Road」においてはBTS のRMを迎えたバージョンが投入され、1週間フル加算で反映された8月10日付米ビルボードソングスチャートではダウンロードが前週よりアップしています(その反動ゆえか、翌週のダウンロードは前週比28%の大幅減になりましたが)。

「Old Town Road」も「Truth Hurts」も、どちらから客演のアプローチがあったのかは判りかねますし、AB6IXの知名度アメリカでどのくらいかは不明。しかしながらK-POPのチャート特性を踏まえ、ダウンロードを押し上げるべくリミックスを制作したのだとしたら戦略の巧さには唸るばかり。同時に、アメリカではK-POPが売れるということが常識となったということも理解出来ます。