イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンソングスチャートを構成する8つの指標について、ウェイトならびに中身見直しを提案する

弊ブログで毎週その動向を追いかけているビルボードジャパンソングスチャートは、時代毎に集計対象となる指標を増やしたり指標毎のウェイトを変えることで、今の社会の真のヒットとは何かを常に自問自答しています。今年度はカラオケ指標を導入し、チャートを構成する指標は8つとなりました。 

さて、この1年のチャート動向を踏まえるに、次回のチャートポリシー変更時に各指標毎のウェイトおよびその中身を変えてほしいと思う点がいくつかあり、今回のエントリーとさせていただきます。

各指標毎にウェイトを変更したほうが良いと思う理由は下記に。

 

●シングルCDセールス:↓

シングルCDセールスにばかり長けた作品が同指標初加算週に上位(首位を含む)を獲得しながら翌週には急落する現象が毎週のように発生し、週間チャートの順位と社会的ヒットとの乖離が甚だしいのです。最近ではAKB48や、IZ*ONE「Vampire」が顕著な例であり、また当該指標初加算週にトップ5入りするも翌週100位圏外となる曲も少なくありません。

この現象はアイドルやK-Pop楽曲等に多く見られますが、しかしこれらが入れ代わり立ち代わり首位に立つことで、長く上位をキープしながら終ぞ1位を獲れない楽曲が多く発生していることに疑問を抱きます。昨年度は年間2位のDA PUMP「U.S.A.」が、今年度はOfficial髭男dism「Pretender」が最高2位止まりとなっており、時代の顔が週間チャート未制覇という状況ではビルボードジャパンソングスチャートが社会的ヒットの鑑になっていないと捉えられるかもしれません(ゆえに、弊ブログではシングルCDセールス加算2週目の順位も見るべきと記載しているのですが)。

シングルCDセールス指標では係数を掛けて算出しています(一定枚数以上の売上に対して導入すると聞きます)。係数の導入により2018年度からのチャートはかなり正常化してきましたが、係数の概念はそのままにさらに全体を何割か下げる必要があるかもしれません。

 

●ダウンロード:→

ダウンロードに特化した楽曲はシングルCDセールスのみ特化の楽曲に比べてヒットしている傾向は以前示しています。

今後はシングルCDリリース自体が減少しデジタルのみに移行する歌手が増えることが予想されるため、ダウンロードは上昇させてもよいかもしれません。ただ、たとえばアメリカのビルボードソングスチャートをみると、ここ数年で週間10万を超えるダウンロード数がほぼなくなりストリーミングに移行しているため、日本でもサブスクリプションサービスが今以上に台頭すればダウンロードは減少するでしょう。ダウンロード指標のウェイトを変えずとも、自ずとダウンしていくものと考えます。

 

●ストリーミング:→

ここでいうストリーミングとは特定の歌詞サイト閲覧もありますが、そのほとんどはサブスクリプションサービス(以下サブスク)での再生回数によるもの。サブスクがこの2年近くで急成長を遂げていることは前週のチャート振り返りで紹介しています。

となると、ウェイトを横ばいにしてもストリーミング指標が拡大していくことは確実であり、特段調整する必要はないでしょう。ただし見直す必要があるのではと思うのはその中身。

現在この指標において、SpotifyおよびAmazon Prime Musicはカウント対象外となっています。その理由はおそらく、Spotifyには無償と有償サービスが混在し、Amazon Prime Musicは無償であるためと思われます(有償サービスのAmazon Music Unlimitedはカウント対象であるため尚の事)。無料で音楽を聴くのはどうかという見方は歌手やレコード会社にみられると聞き、自分たちに利益が入るのか等の疑念が一部歌手のサブスク未解禁に繋がっている可能性があるでしょう。ビルボードジャパン側もそれを見越して未カウントとしたのかもしれませんが、ならば米ビルボードが昨夏導入したような、有償サービスと無償とでウェイトに差を設ける制度の導入を勧めます。米ビルボードの現在の集計方法は下記に。

Spotifyは無料であるため若年層からの支持を受けているのみならず、SNSでの話題性に基づくバイラルチャートが存在することで彼らの流行の変化が可視化されています(ちなみにバイラルとは、『Webマーケティングにおいて「情報が口コミで徐々に拡散していく」さまを形容する語』のこと(バイラルとは何? Weblio辞書より))。Apple MusicにはないWebブラウザ等PCでの使い勝手の良さも人気の理由ではないでしょうか。それゆえSpotifyを外すのは、特に若年層の動向が見えにくい点において勿体ないと思うのです。近年ではTikTok発のバイラルヒットが増え、SNSSpotifyのリンクを貼る方も多いので尚更。ゆえにSpotifyの導入は必要であり、無償サービスの導入を好ましく思わない歌手等がいらっしゃるならば有償と無償とでウェイトの差を設けるべきだと考えます。

また、日本レコード協会側には、CDやダウンロードにおけるミリオン認定と同種の認定基準をサブスクにも設けるべきと提案します。サブスクの興隆は音楽業界の再興に一役買っていますが、"ミリオン"等の解りやすく使い勝手の良い基準を設けることで、何がヒットかがより見えやすくなるはずです。

 

●ラジオエアプレイ:↓

敢えてこの指標をダウンすべきとしたのは、ラジオ業界のいわば"尻に火をつけたい"と考えるゆえ。旧態依然のメディアと指摘されながら、またサブスクの台頭で音楽の聴かれ方が変化しつつありながらも、ラジオ番組やDJの質がそれらに負けまいと向上しているように見えない、且つシステムが追いついていないと思うゆえ。

数年前、ラジオエアプレイチャートがビルボードジャパンのホームページから消えたことで同指標のウェイトは減少したと捉えており、他指標と比べて総合チャートとの乖離が著しいことを踏まえればこれ以上下げても仕方ないかもしれません。日本のラジオ局では新曲をいち早く流しリリース週でピークを迎えて急降下する、もしくは認知度は高くないものの有望株をいち早く紹介する等の傾向が乖離に繋がっています。

この指標についても精度の上昇が必須と考えます。まずはサンプル対象局拡大が急務でしょう。現在のサンプル局は都心部中心の32局にとどまっており足りないと考えます(各局のOA回数に人口や聴取率を加味して独自の指標を作成)。微力ではあれどコミュニティFM等もあるため、それらを拾い上げることも必要でしょう。そのために必要なのは、デジタルのみのリリース作品でも解禁当日からOA出来る環境を作ること、そしてOA楽曲リストをその日のうちに局側が送信し一箇所に受信する仕組みを整えること。システム整備はビルボードジャパンソングスチャートでのラジオエアプレイの重要度を保つのみならず、ラジオ業界全体のシステム向上と音楽人としての意識付けの強化になるはずです。それらが出来ないならばダウンも免れないでしょう。

 

●ルックアップ:→ or ↓

シングルCDセールス指標のウェイトを減少させるならば、CDをパソコン等に取り入れた際にインターネットデータベースにアクセスする回数を示すルックアップ指標も下げるべきかもしれません。ですが、当該指標は日本独特のレンタル(文化)を測る上で欠かせない指標であり、レンタル数の推移が週毎の増減が激しいシングルCDセールスよりも安定していることを踏まえれば安易に下げるのは厳しいかもしれません。ただしレンタルCD店舗数が緩やかに下がってきており、ダウンロード同様この指標も自ずと減少していくものと思われます。

 

Twitter:↓

ひとつのツイートに歌手名および曲名を併記していれば対象となるTwitter指数は、そもそも米ビルボードソングスチャートには存在しません。歌手名のみを対象としたSocial 50チャートはありますが、そのSocial 50チャートではK-Popアクトが非常に強い状態。その傾向は日本でもどんどん強くなっています。

今年1~6月最終週付のTwitter指標トップ20を定点観測するとアイドルやK-Pop等の歌手が大挙エントリーし、総合チャートとの乖離が目立ちます。もしかしたら少なからず、三浦大知「Blizzard」で顕著だったファンによるTwitter活動(通称ブリ活)の動向を注目した弊ブログエントリーが他の歌手のファンの方々へのチャート上昇のヒントになったかもしれません。しかし当時に比べてTwitter指標が総合チャートと乖離していくこともさることながら、たとえば星野源さんの楽曲におけるTwitter指標の取り組みを紹介した際、別の歌手のファンの方が弊ブログエントリーを参考にするのは良いとしてもその紹介時に"星/野/源"と書き、星野さんの楽曲をカウントさせまいかの如きツイートを見つけるに、(たとえそのような無礼な書き込みはごく一部としても)Twitter指標はどこかのタイミングで縮小させるべきではないかと考えるに至っています。

推測の域を出ませんが、ビルボードジャパン側がTwitter指標を取り入れたのは、たとえば『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜21時)が視聴率以上につぶやかれていること、および同番組に毎回出演するジャニーズ事務所所属歌手がデジタル未解禁を続けるゆえ彼らに対する救済措置としてだったのではないでしょうか。しかし同事務所でも一部歌手(ジャニーズ事務所運営レコード会社以外)はわずかながらデジタル解禁していたこと、また嵐が今月突如サブスクおよび動画再生を解禁したことでジャニーズ事務所の姿勢も変わってきたと考えるに、救済措置だったTwitter指標は下げても差し支えないでしょう。もしかしたらその役割は終焉を迎えつつあると言えるかもしれません。

 

●動画再生:→

ビルボードソングスチャートではサブスクおよび動画再生を合わせたストリーミング指標が他指標(ダウンロード、ラジオエアプレイ)より大きなウェイトを占めています。日本でも同様の位置付けとなっていくだろうと考えるに、特段下げる必要はないでしょう。

ただしショートバージョンやティーザー、広告を(本編後ではなく)本編中に挿入する作品は対象から外すことを検討してほしいというのが私見です。とはいえISRC(国際標準レコーディングコード)が付番されている動画がカウント対象となるわけで、無論ショートバージョン等にもISRCは付いています。システム的にショートバージョン等を除外するのはさすがに無理があるかもしれません。

 

●カラオケ:↓

より良い曲、社会的ヒット曲が支持され可視化されているのがカラオケ指標ではないかと考えます。しかしその一方で、支持される曲がロングヒットとなりチャートの風通しが悪くなるという点も。同指標の最高位は導入以降ずっと米津玄師「Lemon」であり、硬直性を踏まえればウェイトは下げるべきと考えます。

 

カラオケ指標に関連して提案したいのは、ロングヒットと化した曲を載せ続けていいのか検討をお願いしたいということ。たしかにカラオケやサブスク、動画再生でヒットしているとはいえ総合チャートで2年以上ランクインし続けるのもまた硬直性があると言えそうです。たとえばエド・シーラン「Shape Of You」はランクインからまもなく3年に。米ビルボードソングスチャートでは、一定週数以上チャートインしている曲がある順位を下回ればチャートから除外するというリカレントルールを採用しており、「Shape Of You」や、最近ではホールジー「Without Me」等が外れました。リバイバルヒットが少なくない日本においては外すことに異論もあるでしょうが、一度考える必要があると思います。リカレントルールも含め、「Shape Of You」については以前記載しています。

 

ビルボードジャパンソングスチャートは残り数週で今年度のソングスチャートが終了します。次年度以降どうするか、チャートポリシーを変える変えないも含めた議論は既に行われているかもしれず、この提案は遅きに失した感も否めません。しかし常に自問自答し社会的ヒットの鑑を目指す同チャートの姿勢を踏まえるに、勝手ながら叱咤激励の意味を込めて記載しました。参考になれば幸いです。

ちゃんみな「Never Grow Up」がTikTok発でバイラルヒットへ…ヒットの源にあるメディアはもしや

先日Novelbright「Walking with you」について取り上げたReal Soundの記事公開直前、偶然にも彼らが『めざましテレビ』(フジテレビ系)にVTR出演していました。

テレビ出演効果で「Walking with you」はチャートを上昇。SNSでのシェア数に基づくSpotifyバイラルチャートでは日本でトップを獲得し、『めざましテレビ』放送日にはSpotifyデイリーチャートで初のトップ200入り。さらには10月14日付(集計期間は9月30日~10月6日)のビルボードジャパンソングスチャート、各種サブスクリプションサービスの再生回数に基づくストリーミング指標(ただしSpotifyは未カウント)においては23→15位、総合チャートでは63→45位へそれぞれ上昇しています。TikTokを機にSNSで拡散されサブスクリプションサービスで話題になった楽曲が、メディアで取り上げられることでその勢いがさらに加速…TikTokから伝播するバイラルの波は、今の時代のヒットの方程式と言えます。

 

さて、同日付のビルボードジャパンソングスチャート、ストリーミング指標で「Walking with you」と並び16位にランクインしているのが、ちゃんみな「Never Grow Up」。総合ソングスチャートでも「Walking with you」とくっつくかの如く46位へ上昇したこの曲も、TikTokから火が付いたと言えるでしょう。

ちゃんみなさんは1998年10月14日生まれ、21歳のラッパー/シンガー。日本語、韓国語および英語を駆使し、セルフプロデュースも行います。2年前にメジャーデビューを果たし、今年8月にはおよそ2年半ぶりとなるセカンドフルアルバム『Never Grow Up』をリリース。このアルバムからのタイトル曲が徐々に人気を集めているのです。

ちゃんみなさんは、Novelbrightのように歌手自身がTikTokアカウントを持っているわけではないため、歌手サイドからTikTokでヒットを仕掛けることは出来ませんが、“#ちゃんみな”や“#NeverGrowUp”で検索すると様々な動画がヒット。時には歌詞の世界を噛みしめるように、時には自分なりの振り付けをつけて「Never Grow Up」を用いて投稿しているのです。面白いのは、「Never Grow Up」がTikTokで引用される箇所が一部分に偏っていないことで、サビの部分の人もいれば大サビの人もいたり、または曲を早回しして用いる人も。TikTokで曲の様々な部分に触れた方が「Never Grow Up」をフルでもしくはきちんとした速度で聴いてみたいという思いに駆られたり、また歌詞に共感した人が多かったことで、サブスクリプションサービスでの再生回数増加につながったと考えられます。ミュージックビデオのコメント欄では歌詞への共感、TikTokから来たというものが多く見られました。また動画投稿者にちゃんみなさんと同年代の方が多く見受けられたのも特徴的。

そのミュージックビデオ自体にも注目したいところで、日本人歌手で本人がここまで濃厚な恋人同士のシーンを演じることは稀だと思うのです。俳優の吉村界人さんとの撮影はおよそ40時間にも及んだとのことですが、一緒にいる時間が長かったために濃厚さが際立ちながらもごくごく自然な映像になっているような気がします。日本でここまでの映像を作り上げるちゃんみなさんの姿勢に感服します。

 

Spotifyデイリーチャートでは9月以降徐々に順位を上げ、10月10日付の52位が現段階での最高位に。Novelbright同様、テレビメディアがこの曲を取り上げれば「Never Grow Up」が最高位を更新する可能性は高いでしょう。また、複合指標に基づくビルボードジャパンソングスチャートをみると、ストリーミング以外にもダウンロードやTwitter、動画再生の各指標がいずれもここ数週で300位以内に返り咲き、ストリーミング以外でも支持を集めつつあります。最新10月21日付で動画再生指標が92位に上昇しているのは、ちゃんみなさんのミュージックビデオにかける思いが少しずつ浸透してきた証拠と言えるかもしれません。

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上記CHART insightを見ると解るのですが、実は「Never Grow Up」のピークは現在が二度目。最初のピークはアルバム発売週を加算対象とした8月19日付ビルボードジャパンソングスチャートにおいて、ラジオエアプレイ指標が4位に入り総合チャートでも40位に上昇しているのです。これはちゃんみなさんが今夏自身のラジオ番組『Forever Young』(InterFM897)を担当したことが大きいと思われますが、ラジオでOAされたのを耳にした人が「Never Grow Up」の良さに気付きTikTokで使用したのかもしれないのではとふと。ラジオエアプレイは総合チャートと最も乖離している指標のひとつですが、この仮説が正しいとすれば「Never Grow Up」のヒットの下地はラジオが作ったと言えるかもしれません。

IZ*ONE日本向けシングルのチャート失速にみる、日本向け楽曲の"コレジャナイ感"

今週水曜に発表された、10月21日付ビルボードジャパンソングスチャート。2週前に首位に立っていたはずのIZ*ONE「Vampire」が100位圏外(300位以内)となり、あっという間に姿を消してしまいました。 

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しかし、実は前のシングル「Buenos Aires」も1→32位→100位圏外(300位以内)であり、シングルCDセールス初加算週以降の100位以内在籍はわずか2週。日本デビュー曲の「好きと言わせたい」はシングルCDセールス初加算週以降5週間、100位に在籍していましたが、ここ2作で急激に沈静化。AKB48サステナブル」がシングルCDセールス加算後3週目に100位圏内から姿を消したのを彷彿とさせます。f:id:face_urbansoul:20191018072656p:image
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他方、韓国でリリースされた作品群をみてみましょう。日本ではシングルCD未発売ゆえ単純比較は出来ませんが、EP『COLOR*IZ』からのリード曲となる「La Vie en Rose」は17週、同じくEP『HEART*IZ』のリード曲である「Violeta」は8週、100位以内に在籍していました。

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以前からここで述べているように、韓国向け楽曲の強さはストリーミング(サブスクリプションサービスの再生回数に基づく)および動画再生の接触を示す指標群にあります。

 

いや、日本向けの楽曲群もシングルCDセールス加算以前から100位以内に入ってはいます。シングルCDセールスが加算される数週前から助走とも言うべき期間があるのはたしかなのですが、しかし上記CHART insight(チャート推移のグラフ)をみるととりわけ最近の2作品では、接触指標群が助走期間に上昇するもシングルCDセールス初加算週には失速する傾向があるのです。サブスクリプションサービスの順位はCDリリースのタイミングで急降下し、動画再生は300位にすら入っていない曲もあります。

考えられるのは、サブスクリプションサービスで聴く方は既にCD購入を決めていて、CDリリースまで待ちきれずに先行で聴いているだろうこと。無論ライト層もサブスクリプションサービスを利用して聴くものの、一聴して"コレジャナイ感"を抱いてしまい接触しなくなったのではないかというのが私見です。日本向け楽曲は韓国向けとは異なり、一聴してドメスティックな、日本のアイドルが歌いそうな楽曲が多い印象があり、それがライト層が飛びつかなくなった要因かもしれません。尤もそのほうが"CDとして"売れるのかもしれませんが、仮にIZ*ONEの次の韓国向け作品がビルボードジャパンソングスチャートで伸び悩むならば、ライト層はIZ*ONE自体に興味を抱きにくくなったと言えるかもしれず、そうなれば日本向けの戦略は中長期的に正しいとは言えないものと考えます。

アイドル新曲の気掛かりな動向、Official髭男dism『Traveler』首位獲得、そしてヒゲダン完勝を阻んだBiSHの戦略…10月21日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック

昨日発表された最新10月21日付ビルボードジャパン各種チャート、ソングスチャートを中心に注目点を紹介します。

 

・坂道グループはピークを過ぎた? 日向坂46シングルCDセールス加算2週目の動向が気掛かり

先週首位に立った日向坂46「こんなに好きになっちゃっていいの?」が10位に後退。トップ10にとどまっているものの、総合ポイントの前週比が12.9%という極めて低い水準となっていることが気掛かりです。

【シングルCDセールス加算2週目における総合ポイント前週比】が極度に下がるというのがアイドル全体の特徴であり、この1年ほどのAKB48は5%未満、ジャニーズ事務所所属歌手は一部例外を除き10~20%の間に収まる一方、坂道グループは安定して20%前後を叩き出していたのですが、今回はあまりにも低いと言えます。

今年の春の段階でのAKB48および坂道グループの水準を記載したのが上記エントリー。その後AKB48サステナブル」が3.2%、乃木坂48「Sing Out!」が16.2%、「夜明けまで強がらなくてもいい」が20.1%となった一方、日向坂48は「キュン」こそ20.8%と20%超えを果たしながら、続く「ドレミソラシド」が16.6%、そして今回が12.9%と順当に低下しています。

「こんなに好きになっちゃっていいの?」を指標毎にみると特に気になるのは動画再生指標が前週の段階で100位未満ということ、そして2週目のシングルCDセールスが前2作より少ないこと。特典との兼ね合いもあるでしょうが、シングルCDセールス加算2週目における総合ポイントの前週比が他のアイドルとさほど変わらない自体を踏まえるに、ライト層を獲得出来ていないのではと思うのです。この動きが他の坂道グループにも波及するようならば、坂道グループ全体がピークを過ぎつつあると言えるかもしれません。

 

Official髭男dism、アルバムチャートほぼ完勝

Official髭男dismのメジャーファーストアルバム『Traveler』が、スピッツやBABYMETAL、渋谷すばるさん等との同日対決且つハイレベルな戦いを制しました。

ストリーミングで21連覇を成し遂げた「Pretender」をはじめ、「宿命」や「Stand By You」、「イエスタデイ」等を含む『Traveler』はアルバムCDセールスを制したのみならず、レンタル解禁日が後日にもかかわらずルックアップも制覇。ダウンロードは惜しくも2位でしたがほぼ完勝と言えるでしょう(ダウンロードについては後述)。またソングスチャートでも強く、今週100位以内には8曲がチャートイン(うち『Traveler』収録は6曲)。さらにストリーミングチャートに目を向ければ。

あいみょんさんが『瞬間的シックスセンス』(2019)をアルバムチャートに初めて送り込んだ週等の17曲ランクインには及ばなかったものの、強烈なインパクトを誇ります。

また当週は、過去曲を含め計16曲がトップ100にチャートインしており、その総再生回数は2,674万回に及ぶ。この数字は、10月14日付チャート(集計期間:9月30日~10月6日)で自身が更新した、同一アーティストによる週間総再生数の最高記録(2,434万回再生)を超える記録となる。

ストリーミング全体が伸びている中にあって自身の記録を上書きするのですから凄いことです。特に「Pretender」は総合チャートでも大ヒットの基準である【3週以上7000ポイント超え】を大幅に上回り、今週は22週目を記録。今年を代表するヒットと断言出来ます。

 

・BiSH、『アメトーーク!』視聴者の熱が冷めないうちに鷲掴みする戦略でアルバムチャート上位独占

Official髭男dism『Traveler』のアルバムチャート構成3指標の完勝を阻んだのはBiSHでした。

当週大きく注目すべきなのは、BiSHの再浮上だ。2016年1月リリースの2ndアルバム『FAKE METAL JACKET』が総合5位に入ったほか、6位に『CARROTS and STiCKS』、7位に『Brand-new idol SHiT』、8位に『KiLLER BiSH』、9位に『THE GUERRiLLA BiSH』、10位に『GiANT KiLLERS』が入っており、過去発表された全アルバムがトップ10内にエントリーする形となっている。

これは、10月10日に放送された『アメトーーク!』の企画“~クセがすごい女性グループ~ BiSHドハマり芸人”が大きな話題を呼び、さらに翌日11日、iTunes Storeでこれら6作品が1日限定価格300円で配信されたことが大きく影響したと思われる。ダウンロードでは『FAKE METAL JACKET』が15,869DLを売り上げて1位となり、他5作品が3位から7位までを独占した。

アルバム300円廉価販売については下記にも詳しく記載されています。

たしかに廉価販売は以前も行われています。

この手法は、たとえばアメリカのソングスチャートにおいてダウンロード指標のウェイトが高かった時代に、推したい曲を69セントに値下げし売上を伸ばすという戦略に似ていますし、所属レコード会社のエイベックスでは44曲収録の浜崎あゆみ『A COMPLETE ~ALL SINGLES~』(2008)を900円でデジタルリリースし好成績を収めています(アルバムのCHART insightはこちら)。これら戦略を踏襲し今回廉価販売を断行、それも"1日限定"とプレミア感を出したことで、『アメトーーク!』の視聴者をガッツリ取り込むことに成功していると言えるでしょう。他方、今週はストリーミングソングスチャート100位以内にランクインしていないため、今後ライト層にまで人気が拡大するかは接触指標の上昇にかかっていると思われます。

 

・嵐、デジタル解禁の5曲と「BRAVE」に明暗

先週水曜に突如サブスクリプションサービスおよびYouTubeにて解禁した嵐の5曲が好成績を収めています。ただし裏腹な動きが。

"ストリーミング解禁に至らなかった理由"については先週推測しているのですが。

ラグビーワールドカップが盛り上がり、日本テレビの中継テーマ曲に選ばれている「BRAVE」が2→5→22→28→59位と順当に下降している状況。仮にデジタルが解禁されていたならば…と思うと非常に勿体ない気がします。これはB'z「兵、走る」とは相反するものゆえ尚の事。

尤もB'zはサブスクリプションサービス未解禁ゆえ、嵐の5曲がダウンロード未解禁同様こちらも片手落ちの状況ではあるのですが、しかしいわば両手落ちの「BRAVE」が復権するかどうかは微妙なところ。今年の彼らをではなく広く世間を代表する曲に昇華するためには今の順位をどう押し上げるかが重要となりそうですし、そのためにはデジタル解禁は必須でしょう。

TBSは朝のワイドショー帯を排してはどうか、という提案

この秋からはじまったTBS平日帯のワイドショー、『グッとラック!』の視聴率が好ましくありません。

9月27日で終了した「ビビット」(月~金・前8時)以来、4年半ぶりに朝の情報番組を刷新。初回は2・9%でスタートし8日放送では2・8%だったが翌日の9日に0・9%落ち1・9%となった。

この惨状については、番組レギュラーの国山ハセンアナウンサーが『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ 月-金曜18時)に出演した際、『グッとラック』への逆風が…的コメントを幾度となく発信していたのが印象的でしたが、"逆風"は吹いているのではなく、吹かせようとしていたのでは?と思うのです。『ひるおび!』(月-金曜10時25分』コメンテーターだった方のMC起用(さらには現在も『ひるおび!』と掛け持ち)は、TBSが『ひるおび!』のカラーや、毒舌タレントのムーブメントに(それにより物議を醸すとしても、それを承知の上で)乗っかりたいという思惑があったことでしょう。数字が評価の全てではありませんが、自分は下記コラムの考えに同調します。というより、MCという立場の人間が一方的に意見を決めつけることや嫌いという感情を唱えることは危ないと思うのです。尤も、今のニュース番組も全体的にそのような危険性を孕んでいると思うのですが。

 

元来、TBSは長らくワイドショーを放送していませんでしたが、生活情報番組はなまるマーケット』がNHK総合の『あさイチ』に敗れて終了し、2014年春に『いっぷく!』が始まるも視聴率が低迷、半年後に番組名を変えずワイドショースタイルを取り入れるも終了したことで、2015年春に本格的なワイドショー『白熱ライブ ビビット』(後に『ビビット』に改名)を開始したという流れがあります。また『いっぷく!』の開始と同じ日に『あさチャン』もスタートしたことで、他局に合わせて8時が番組切り替えのタイミングとなったのですが。

しかし、これらは本当に必要なのかと思うのです。他局に倣って8時切り替えにすることも、そしてワイドショー化させることも。最近は『ひるおび!』や系列局である中部日本放送が制作する『ゴゴスマ 〜GO GO!Smile!〜』にてコメンテーターの問題発言が連発したばかり。またTBSではバラエティ番組のヤラセ問題等、系列局も含めTBS自体のモラルが指摘されてもおかしくない出来事が相次いでいます。これらの発覚タイミング前に『グッとラック!』の企画がスタートしていたでしょうが、『ひるおび!』等のカラーを先鋭化させたと思われても仕方なく、いずれ…と思ってしまうのは自分だけでしょうか。

 

あくまで私見と前置きした上でTBS朝帯の理想を書くならば、他局と横並びにする必要はありません。8時ちょうどには民放、NHKの全局がニュースを流さないことを踏まえ、『あさチャン』の枠を伸ばし同枠の中で8時ちょうどのタイミングにて、"これだけ見ればここまでのニュース全てが解る"とのコンセプトで10分ほどストレートニュースを流し、終了後に8時16分から(NHK総合が朝の連続テレビ小説を終え、『あさイチ』でドラマ受けをした直後のタイミングで)、かつての同局『(ポーラ)テレビ小説』を彷彿とさせる連続ドラマ枠を用意し平日帯で放送、その後は『ひるおび!』までドラマ再放送枠にする…というのはいかがでしょう。TBSは現在、ドラマに関しては成功例が増えており、またかつて"ドラマのTBS"と言われるほど過去の良作は多いため、今の時代の作品と過去のライブラリーとを並べて放送すれば予算がかからなくて済むかもしれませんし、夜のドラマ枠の関連番組を再放送させればさりげない宣伝にもなるはずです。またリズムよく出来事を並べたストレートニュースの投入で、"この10分だけ観れば何が起きているか把握出来る"と視聴者へ意識付けが出来ます。

 

TBSは10年前、他局との差別化として夕方のニュース番組を19時台にも持ち込んだ『総力報道!THE NEWS』(2009-2010)で視聴率的に失敗した過去があり、改革に二の足を踏むかもしれません。しかし『グッとラック!』の低空飛行や他番組の問題を踏まえれば、早々に改善する必要がありますし、自浄も可能(その訴求も含めて)。昼帯においてはテレビ朝日の連続ドラマ枠が特に失敗したという話を聞かないため、挑戦してみる価値はあると思います。

トラヴィス・スコット「Highest In The Room」がリゾを抑え初登場首位、カントリー曲も初登場トップ10入り…10月19日付米ソングスチャートをチェック

ビルボードソングスチャート速報。現地時間の10月14日月曜に発表された、10月19日付最新ソングスチャート。6連覇中のリゾ「Truth Hurts」を破り、トラヴィス・スコット「Highest In The Room」が初登場で首位を獲得しました。

ストリーミングは5900万を獲得し同指標首位発進、ダウンロードは51000で同2位、そしてラジオエアプレイは50位未満ながら690万を獲得し、昨年12月8日付で「Sicko Mode」が首位に立って以来二度目となるトップを獲得しました。また「Highest In The Room」は米ビルボードソングスチャート史上35曲目となる初登場でのトップを獲得です。ちなみに”High”関連での首位獲得曲は、ダイアナ・ロス「Ain't No Mountain High Enough」(1970)、ブロンディ「The Tide Is High」(1981)、スティーヴ・ウィンウッド「Higher Love」(1986)、トニ・ブラクストン「You're Maken' Me High」(1996 「Let It Flow」とのダブルAサイド)に次ぐ5曲目となります。一方で”Room”が付いた曲では初制覇に。

首位の座を明け渡したリゾ「Truth Hurts」はストリーミングが前週比7%ダウンの2580万(同指標12位)、ダウンロードが同8%ダウンの28000(同3位)、ラジオエアプレイは首位をキープするも下降に転じ、前週比1%ダウンの1億2040万となっています。

4位にはダン+シェイ feat. ジャスティン・ビーバー「10,000 Hours」が初登場。

ラヴィス・スコット「Highest In The Room」と同週リリース案件だったカントリー楽曲ですが、ジャスティン・ビーバー効果は絶大。ダウンロードは53000を獲得し同指標首位、ストリーミングは3330万で同3位を獲得と、カントリーで弱いデジタル2指標が好調。さらにラジオエアプレイは50位未満ながら1960万を獲得したことで、ダン+シェイにとっては「Tequila」が昨夏記録した21位を大幅に更新する自己最高位を記録。またジャスティン・ビーバーはダウンロードでドレイクおよびエミネムに並び男性歌手最多タイの首位獲得、トップ10入りも16曲目となりました。ミュージックビデオで自身のパートナーとの仲睦まじいシーンが織り込まれていることも人気の理由ですが、その点については自分が以前寄稿したReal Soundの記事をご参照ください。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (初登場) トラヴィス・スコット「Highest In The Room」

2位 (1位) リゾ「Truth Hurts

3位 (2位) ショーン・メンデス & カミラ・カベロ「Señorita」

4位 (初登場) ダン+シェイ feat. ジャスティン・ビーバー「10,000 Hours」

5位 (3位) ルイス・キャパルディ「Someone You Loved」

6位 (7位) ポスト・マローン「Circles」

7位 (5位) クリス・ブラウン feat. ドレイク「No Guidance」

8位 (4位) リル・テッカ「Ran$om」

9位 (6位) ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」

10位 (8位) リル・ナズ・X「Panini」 

先週リリース案件について次週の初登場トップ10入りが期待出来るのはハリー・スタイルズ「Lights Up」でしょうか。

Spotifyではデイリーチャートで最高2位を記録しながらダウン傾向に。一方、トラヴィス・スコット「Highest In The Room」がガッツリと首位の座をキープしています。次週は「Highest In The Room」「10,000 Hours」共にダウンロードが下降することが予想されるため、ストリーミングを如何にキープするか、そしてラジオエアプレイを上昇させるかが勝敗を握る鍵となります。ラジオエアプレイはヒップホップが、ストリーミングはカントリーがそれぞれ不得意とするジャンルであるゆえ、弱点を克服したものが長期エントリーを果たすことになりそうです。

 

そして今週96位に初登場したのが、トーンズ・アンド・アイ「Dance Monkey」。

先週金曜のSpotifyグローバルチャートではトラヴィス・スコットを抑え遂に初の首位を獲得しました。

日本でも、最新10月13日付の『J-WAVE TOKIO HOT 100』(J-WAVE 日曜13時)で86→10位に躍進するなど、認知度が上昇中。オーストラリアで大ヒットしたこの曲が世界を轟かせるか、注目です。

ソングスチャートにおけるオリジナルとリミックス、客演の有無…日本はアメリカに合わせて合算したほうがよいのではないか

日本とアメリカ、双方のソングスチャートの動向を追いかけていると、アメリカにおける”仕掛け”が重要な意味を成していることが解ります。とりわけ客演参加等のリミックスやミュージックビデオの追加投入は曲にさらなる魅力を与えるのみならず、それらがオリジナルバージョンに合算されるためチャートを上昇させる点でも有効な戦略なのです。

この仕掛けが功を奏し首位を奪取した例はいくつもあり、最近ではリル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」の20週目の首位を阻止したビリー・アイリッシュ「Bad Guy」が話題に。その他、現在トップの座に君臨するリゾ「Truth Hurts」はダベイビーを迎えたリミックス等が初めて加算された週に1位に初めて1位を獲得しました。

「Bad Guy」の場合、厳密にはリミックス投入の後に縦型ミュージックビデオを公開したタイミングで首位を奪取したのですが、ジャスティン・ビーバーの参加が大きなトピックとなったのは事実。日本でもラジオでよく流れていましたが、その日本ではビリー単独のオリジナルバージョンとジャスティン参加版とで集計が分かれています。日本では客演参加等のリミックスは合算されない…ここに日米のチャートの違いが表れています。 

「Bad Guy」ジャスティン・ビーバー参加版の最高位は7月29日付の59位でありオリジナルバージョンを上回ることはありませんでしたが、同日付のオリジナルバージョンは46位。仮に合算していたならばトップ20に入る可能性もあったと考えられるだけに、至極勿体ないと思うのです。

 

合算されない例でいえば、BTSがホールジーをフィーチャーした「Boy With Luv」が日本語版制作においてホールジー抜き(客演なし)バージョンとなり、オリジナルバージョンと別集計となる事態も発生しています。 日本語版が初登場した7月15日付で仮に合算されていたならば「Boy With Luv」がトップ10入りしたはずです。

 

リミックスや客演参加の有無を合算するかどうか、以前ビルボードジャパンにその方針を問い合わせた結果は弊ブログにて掲載しています。

『基本的に、同一歌手による同じタイトルの複数の曲は最終的には名寄せの上でランクインさせます(リマスター前後、等)。 ただ、客演やリミックス等オリジナルにない要素が追加されていると判断すれば分けます』『言語違いの複数タイトルは原則合算します』というのがビルボードジャパンのチャートポリシー(『』内は上記ブログエントリーより)。ですのでホールジーも日本語が出来たなら「Boy With Luv」日本語版が加算されることになったわけです。この”客演やリミックス等はオリジナルにない要素が追加するため分け”るという説明に当時は納得出来たのですが、しかし最近の追加投入等の仕掛け(とチャートでの結実)を踏まえるに、日本でもアメリカに倣って合算してもいいのでは?という思いに駆られています。

 

逆に、ビルボードジャパンのチャートでは下記の作品が合算されているのですが、あらためて考えると合算が成り立つのかと思い至る曲がいくつか浮かんできました。

たとえば星野源「アイデア」のミュージックビデオでは、大サビの弾き語りシーンで元の音源と歌い方やブランクの時間が異なります。

ビルボードジャパンソングスチャートを構成する指標のひとつである動画再生(YouTubeおよびGYAO!)においては、ミュージックビデオに国際標準コードのISRCが付番された曲がカウント対象となるのみならず、権利者の許諾を受けて音源が使用されたユーザー生成コンテンツ(UGC)も対象になります。「アイデア」においてはISRCが付番されたことで、ミュージックビデオが元の音源と多少異なれど合算対象になったことが解ります。

ではリバイバルヒットとなった荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)」はどうでしょう。こちらはUGCであるバブリーダンスの動画が大きく寄与し、動画再生指標で首位を獲得、総合でも最高2位を記録しています。 

しかしこの動画で用いられるバージョンは、イントロ前や1番サビ後の間奏に別曲が挿入され、更にはBPMがオリジナルバージョンより速くなっており、ここまでくるとリミックスと言われてもおかしくないのではないでしょうか。

これら例示した曲について、動画におけるオリジナルとは異なる音源は動画をより魅せるための工夫でありオリジナルバージョンのISRCが付番されているため問題ない、あくまでビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標の基準を満たしているのだから元の音源と合算してもよいと言われればそれまでです(なおISRCUGCについてはダイナソーJr.をはじめ複数の楽曲が動画再生指標を稼ぎチャートを急伸した理由…ほぼ判明しました(2月10日付)を、動画再生指標の基準については【Billboard JAPAN Chart】よくある質問 | Special | Billboard JAPAN内のYouTubeについてをご参照ください)。仮にこれらを合算対象外にするのならば、ショートバージョンやより尺の短いティーザー等、フルバージョンでないものは合算すべきではないという考えも出てくるでしょう(個人的にはそうしたほうが好いのではとも思いますが、集計基準がISRCUGC等の埋め込まれたデータである以上、フルバージョンとそれ以外を分けるのは非現実的でしょう)。

ただ、合算されるものが純粋にリマスターと言えない、オリジナルにない要素が追加されている場合でも合算されている状況が発生しています。

先の「ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)」のCHART insightページに貼付されているミュージックビデオは『ディア・ポップシンガー』(2014)収録の新録バージョン。音をブラッシュアップし歌い直しを実施しています。原曲と大差ないためリマスターに近いとして合算していると思われますし、動画の詳細欄における登録内容はオリジナルバージョンとなっています(これはこれで疑問が残ります)。しかし最後のサビ直前、オリジナルバージョンにはないフェイクの”Oh”が登場、そこからサビに入る際に元のメロディを少し変更しているのです。

上記ミュージックビデオはショートバージョンゆえに”Oh”の登場部分前に尺が終了しますが、これはオリジナルにはない要素であり、別集計になるのではないか…そう思うと、「ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)」のオリジナルバージョンと、バブリーダンスバージョンおよび2014年版とは音の上で全て別物であり、『同一歌手による同じタイトルの複数の曲は最終的には名寄せの上でランクインさせます(リマスター前後、等)』という説明における”リマスター”とは比較的大きく異なるリミックス(もしくはマッシュアップ)的なものや再レコーディングバージョンであるため、名寄せするのは無理があると思うのです。

 

ビルボードジャパン側が最終的に合算していることには賛同しますが、ならばオリジナルバージョンもリミックスや客演バージョンもアメリカに倣って合算すべきではないかというのが今回の提案です。実際、そのほうが計算上楽ではないかというのもありますが、主な理由は3つ。1つ目は日本において、チャート上で合算されないことでリミックスや客演という文化が育ちにくいため。2つ目はアメリカで通用する洋楽やK-Popの戦略が日本のチャート上では成立せず楽曲が成功を収めにくくなり、最終的に日本を主要な音楽市場とみなさなくなる可能性があるため。そして3つ目は、日本の音楽業界で"仕掛け"という戦略や気概が生まれにくいため。

上記ページで【Chart insight biz】という法人向けサービスが紹介されていますが、このサービスでは大半のデータが開示されているものと思われます(リンク先にはCHART insightとの比較も掲載)。レコード会社や芸能事務所はこのサービスでの情報を元に、次のリリース戦略を練っていることでしょう。ただその際、アメリカで有効な仕掛けを日本で施せないことにジレンマを感じているのではないでしょうか。

 

ビルボードジャパンには次のチャートポリシー変更の際、この合算する/しないについての再考、議論を求めたいと思います。自分は合算に強く賛同します。