イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

マライア・キャリーのクリスマス企画は「恋人たちのクリスマス」首位獲得への布石だ

最新12月6日付米ビルボードソングスチャートで18位に浮上したマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」。同曲がはじめて収録されたアルバム『Merry Christmas』の発売25周年にちなみ新装盤をリリースしたことについては以前お伝えしました。

この新装盤に国内盤ボーナストラックとして収められている、1996年の東京ドーム公演で披露された「All I Want For Christmas Is You」のライブ映像がマライアのYouTubeチャンネルにて正式公開されました。勿論全世界で視聴可能となっており、公開から1日あまりで13000もの高評価を記録しています。

さて、この東京ドームでのバージョンが公開されたのは、マライア・キャリーのクリスマス企画の一環。

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特設サイト(→こちら)はアドベントカレンダーの仕組みとなっており、上記動画は12月3日のお楽しみとして公開。前日はマライアがおすすめ映画を紹介しています。『Merry Christmas』リリースから25年経過していることに合わせてでしょう、25日分の楽しみが用意されています。

この企画を用意した理由は、新装盤の宣伝やクリスマス仕様のライブツアーの動員が目的でもあるでしょうが、個人的には「All I Want For Christmas Is You」を初の首位に導かんとする意図もあるのでは?とみています。

アメリカではシングルCDという概念がほぼ存在しないこと、ラジオはストリーミング(米ビルボードソングスチャートではサブスクリプションサービスやYouTubeの再生回数を総じてストリーミングとする)ほどではないにせよ大きなウェイトを占めていること、ストリーミングに含まれるYouTubeへの言及がないこと…フォーブスの記事に対して指摘すべき点は多々ありますが、『マライア・キャリーは今年、彼女の歌手人生で19回目のビルボードHot 100の首位を、25年前の楽曲で獲得することになるかもしれない』という締めの文章には同意します。昨日のブログ(→こちら)でも触れましたが、「All I Want For Christmas Is You」の昨シーズンのストリーミングのピーク時における再生回数が今週の同指標トップを大きく上回ること、今シーズンの集計期間が昨シーズンより優位に働くことを踏まえれば、昨シーズンの3位を上回る可能性も出てくるでしょう。そして今回のマライアの企画はその後ろ盾となるわけです。これはチャートの動向が非常に楽しみになってきました。

今回のマライアの施策は日本においても、過去曲や季節を代表する曲をヒットに導くための参考になるのではないでしょうか。 

ポスト・マローン「Circles」が2連覇、TikTokから火が付いたアリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」が遂に…12月7日付米ソングスチャートをチェック

ビルボードソングスチャート速報。現地時間の12月2日月曜に発表された、12月7日付最新ソングスチャート。ポスト・マローン「Circles」が2週連続の首位を獲得、アリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」が初のトップ10入りを果たしました。

ストリーミングは前週比5%アップの2460万(同指標3位)、ダウンロードは同45%アップの20000(同1位)、ラジオエアプレイは前週とほぼ変わらず9060万(同3位)と好調に推移しています。これはデジタル2指標の集計期間中(ラジオエアプレイの集計開始前日)、11月24日に行われたアメリカン・ミュージック・アワードでポスト・マローンがこの曲、およびオジー・オズボーン、トラヴィス・スコット&ワットとの「Take What You Want」をメドレーで披露したことに因るもの。ちなみにラジオエアプレイ首位は同じくアメリカン・ミュージック・アワードで「Jerome」を披露したリゾによる「Good As Hell」が獲得しています(前週比4%アップの9740万)。

5位には前週から7ランクアップし、アリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」が初のトップ10入り。

ストリーミングは既に前週首位を獲得していましたが今週は前週比22%アップとなる3660万を獲得し2週連続で首位に。ダウンロードは同12%アップの5000(同33位)、ラジオエアプレイは同65%アップの1520万(同50位未満)となっています。TikTokから人気に火が付きサブスクリプションサービスに波及したこの曲については以前Real Soundに寄稿していますのでそちらを是非ご覧ください。

この曲がさらなるヒットに至るためには、未だ登場していないミュージックビデオの公開が必要でしょう。ソニー傘下のコロンビアと契約をしたことにより早急に制作、公開されるかもしれません。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (1位) ポスト・マローン「Circles」

2位 (2位) ルイス・キャパルディ「Someone You Loved」

3位 (3位) リゾ「Good As Hell」

4位 (4位) マルーン5「Memories」

5位 (12位) アリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」

6位 (5位) セレーナ・ゴメス「Lose You To Love Me」

7位 (6位) ショーン・メンデス & カミラ・カベロ「Señorita」

8位 (9位) ダン+シェイ & ジャスティン・ビーバー「10,000 Hours」

9位 (10位) リゾ「Truth Hurts

10位 (7位) クリス・ブラウン feat. ドレイク「No Guidance」

先述したポスト・マローンのみならず、アメリカン・ミュージック・アワード関連曲がトップ10内には多く、セレーナ・ゴメスは「Lose You To Love Me」をもう1曲の新曲である「Look At Her Now」とメドレーで披露、ショーン・メンデスとカミラ・カベロは「Señorita」を披露し、また最優秀コラボレーション賞を受賞、ダン+シェイはパフォーマンスがなかったものの、カントリー部門の最優秀デュオ/グループ賞を受賞しています。

 

もうすぐトップ10はこちら。

・トーンズ・アンド・アイ「Dance Monkey」(19→11位)

・ダベイビー「Bop」(18→12位)

こちらは"ヒップホップ・ミュージカル"と題したミュージックビデオ。

マスタード feat. ロディ・リッチ「Ballin'」(20→16位)

マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」(31→18位)

この曲、昨年のクリスマスシーズンは過去最高となる3位に上昇しました(2019年1月5日付)。しかもストリーミングは5190万を獲得し同指標トップに立っています。

今週同指標トップのアリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」が3660万だったこと、さらにクリスマス当日が含まれる来年1月4日付ソングスチャートの集計期間が12月20~26日(ラジオエアプレイは12月23~29日)であり昨年よりクリスマスソングが流れる期間が1日多いことを踏まえれば、今年は昨年以上の順位が狙えるかもしれません。ちなみに今週(12月7日付)より今シーズン分がスタートしたクリスマスソングスチャート(Holiday 100)でもマライア・キャリーがチャートを制しています。

「All I Want For Christmas Is You」は12月1日付米Spotifyデイリーソングスチャートでは6位に到達しており、今後の上昇を期待せずにはいられません。

米バイラルチャートを制したアント・サンダース「Yellow Hearts」、代表曲が生まれ変わった加藤ミリヤ「SAYONARAベイベー feat. SKY-HI」…男女の掛け合いがチャートを盛り上げる

男女の恋愛には感情の一方通行がつきもの。好意を抱かれたと勘違いする男性、別れたくても別れられない女性。そんな情景を描いた作品が日米で話題になりつつあります。

 

SpotifyTikTokといった新たなメディアの興隆が新しいヒットの形を築き、実績を上げた歌手はスターダムに上り詰める…「Old Town Road」が米ビルボードソングスチャートで史上最長となる19週連続首位を獲得したリル・ナズ・Xが顕著な例ですが、「ROXANNE」がレコード会社未所属ながら米Spotifyデイリーチャートを制したアリゾナ・ザーヴァスはソニー傘下のコロンビアと契約を締結し新たな成功例となりました。こちらについては昨日、Real Soundにて記事が公開されましたので是非ご覧ください。

そしてこのふたりを追うかの如く登場したのがアント・サンダース。「Yellow Hearts」はSpotifyデイリーチャートで19位まで上昇、さらにSNSでの口コミを示すSpotifyバイラルチャートでは「ROXANNE」を押さえ首位を獲得したのです。

「Yellow Hearts」のブレイクのきっかけは「ROXANNE」同様TikTokなのですが、投稿された動画にはこの曲のメロディラインを追いかけるように合いの手的なメロディが加えられたものが多く、そして歌っているのは女性。

アメリカでも絵文字が“emoji”として定番化していますが、現地では黄色いハートは愛情ではなく友情的な意味を表すそう。「Yellow Hearts」の主人公は女性から黄色いハート付きで呼ばれたことで好意を持たれていると勘違いしているのです。男性特有の浮かれモードや情けなさが秀逸に描かれた歌詞(→こちら)の主語を置き換えて女性目線での歌詞を加え、男性の勘違いや通わない心をより浮き彫りにしたのがTikTokの動画というわけです。アントは自らのTwitterアカウントにて、その女性目線による歌唱動画を紹介しています。

「Yellow Hearts」の勢いを更に加速させたと言えるかもしれないのがリリカル・レモネードでの紹介。元はコール・ベネットが地元歌手を紹介するためのブログだったリリカル・レモネードは、コール自らミュージックビデオの制作に着手したところ、ジュース・ワールド「Lucid Dreams」(2018年)が米ビルボードソングスチャート2位、リル・テッカ「Ransom」(2019年)が同4位を記録する大ヒットに。ミュージックビデオにはリリカル・レモネードと書かれた紙パックが刻まれ、新世代のラッパーをフックアップするメディアとしてのステータスを確立しました。

そのリリカル・レモネードが11月に「Yellow Hearts」を取り上げています。ブログによるとアントは現在18歳、中学生で曲作りを開始し、ソングライトもプロデュースも自身によるものだそう。

リリカル・レモネードで紹介された11月4日付では米Spotifyデイリーチャート117位だった「Yellow Hearts」は、わずか8日後には最高位となる19位に躍進したのですから、リリカル・レモネードの影響力を感じずにはいられません。その勢いや才能を買われてでしょう、アントはソニー傘下のアリスタと契約を交わした…というのは先述したReal Soundの記事にある通りです。

「Yellow Hearts」のミュージックビデオはまだ登場していませんが、リリカル・レモネードが制作に関与するならば面白いですね。アントの今後、そして「Yellow Hearts」の動向に注目しましょう。

 

一方の日本でも男女の掛け合いによる曲が登場。加藤ミリヤさんが11月27日にリリースした2枚目のベストアルバム『M BEST II』に、2008年リリースのシングルでビルボードジャパンソングスチャートトップ10入りを果たした「SAYONARAベイベー」のSKY-HIさん参加バージョンが収録されています。サビでは別れたい女性と曖昧な言葉で濁す男性とを一人二役で演じていた曲が今回、SKY-HIさんと掛け合いすることによって男性の軽さがより際立つ構成に。しかしSKY-HIさんのラップパートでは男性の"本音"が見え隠れするのが実に面白いですね。

この「SAYONARAベイベー feat. SKY-HI」、LINE MUSICでは対象期間中最も多く再生した上位150名をプレミアムイベントへ招待する企画が用意されています。

実は以前、テイラー・スウィフトの来日プロモーションに合わせて同様の企画を実施したところ同サービスでの再生回数が急増、パニック・アット・ザ・ディスコのブレンドン・ユーリーをフィーチャーした「ME!」は11月4日付ビルボードジャパンソングスチャートにおいて、サブスクリプションサービスの再生回数に基づくストリーミング指標では11位に、総合でも前週の100位圏外から44位に躍進しています。

他指標が伴わず直後に急落したこともあり音楽をきちんと推す施策になっているかは疑問が残るのですがしかし、LINE MUSICの施策はチャートのカンフル剤として効果的なことが判明したのは事実。今後はサブスクリプションサービス側、もしくはレコード会社や歌手側から同種の仕掛けが出てくることでしょう。とはいえこの企画がなかったとしても、今回の「SAYONARAベイベー」新バージョンが何度も聴いてみたくなる曲であることは間違いありません。

あのマーチ以来の衝撃、Riff Raffによるインスパイアが極まった「東京涙倶楽部」をラジオで知る

ラジオの楽しみのひとつは、こちらが知らない音楽を提供してくれること。弊ブログで取り上げているビルボードジャパンソングスチャートは所有と接触の指標群から成るのですが、接触指標のひとつであるラジオエアプレイは受け手(リスナー)が自ら曲を選べない点においてストリーミング(サブスクリプション再生回数に基づく)や動画再生(YouTube)指標とは異なれど、だからこそ時に面白い出会いがもたらされるのです。

先週木曜の『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ 月-金曜18時)でDJプレイを披露した伊藤陽一郎さんは80年代名曲のカバーおよび"インスパイア"絞りでセレクトしていたのですが、運動中に聴きながら思わず足を止めてしまいそうになるほど、そっ…いやインスパイアされた曲に謎の感動を覚えた次第。この曲、Riff Raff(リフラフ)「東京涙倶楽部」と元の?曲について紹介されているブログがありますので勝手ながら紹介させていただきます(問題があれば削除いたします)。まさかメンバーのひとりがあのお方とは。

ここまでの音楽の偶然、同じTBSラジオ伊集院光とらじおと』(月-木曜8時30分)で知った大杉久美子、若草児童合唱団「ピンキーマウス・マーチ」以来の衝撃でした。

ラジオってこういう曲とも出会えるから面白いんですよね。ただ双方とも配信は勿論のこと、CD化もされていない模様。さすがにCD化したくても出来ない事情があるのでしょうが、これはぜひとも自分が担当する番組向けに手に入れたいところです。

 

インスパイア、オマージュ、果てはパ…にはいろんな感情が飛来し"楽しければ一番!"とはさすがに断言出来ませんがしかし、こういう過去の遺産があるからこそ音源を掘る人にとっては楽しいでしょうし、ラジオで出会えることが嬉しいんですよね。

米ビルボード、グッズとセットになったアルバム(バンドル)のカウント方法を変更へ…それでもバンドルを認めた理由は

ビルボードは来年1月3日からアルバムチャートにおいて、アルバムとアルバム以外の商品(グッズ)がセットで販売されたいわゆる"バンドル"についてチャートポリシーを変更します。既に発売された作品も対象となり、2020年1月18日付のチャートから適用されます。

ルール改正後は、バンドルがチャートにおいてアルバム・セールスとしてカウントされるには、バンドルに含まれているアルバム以外の商品が、同時に同じウェブサイトで個別にも購入できるようになっていなければならない。また、それらの商品がセット売りされる場合、アルバムが含まれているバンドルより低く価格設定されていなければならない。さらに、アルバム・バンドルは、アーティストが運営する公式オンライン・ストアのみで販売され、第三者サイトを通じて販売されてはならない。

米ビルボード・アルバム・チャート、来年からバンドル販売のカウント方法を変更 | Daily News | Billboard JAPAN(11月27日付)より

この件については過去に問題となった事例も含め、下記に分かりやすく記載されています。

ライブチケットとのバンドルもみられ、現に首位を獲得する作品も少なくないことからバンドル自体の疑問は根強く存在します(ちなみに今回のチャートポリシー変更ではチケットとのバンドルは対象外。その理由はビルボードジャパンの記事にて掲載されています)。しかし今回のチャートポリシー変更ではバンドルという商法自体をアウトとするのではなく、言い換えるならば今回設けた基準をクリアすればアルバムチャートにカウント出来るというわけです。

 

今回米ビルボードがバンドル商法をOKとしたのには3つの理由があるものと考えます。1つ目は【今後新たな事案が生じても可及的速やかに対応出来るビルボードの自負がある】こと。以前レディー・ガガ『Born This Way』(2011)が99セントで販売し物議を醸したのですが、米ビルボードはその年のうちに、今後底値での販売はカウントしないようチャートポリシーを変更しました(ビルボード・チャート、「安売り」セールスを反映しない方針に | bmr(2011年11月17日付)参照)。今回も比較的速やかに対処したと言えますし、今後新たな商法が登場してもまた変更するという意志が見て取れます。

 

2つ目は【売上の軸足はあくまでもバンドルではない】ということ。これは以前、今の演歌の販売手法の問題を踏まえ、再興のためのデジタル推進を提案する(11月20日付)でも触れた、音楽プロデューサーの亀田誠治さんによる公演から見出すことが出来ます。亀田さんはテイラー・スウィフトの新作『Lover』のデラックス・エディションを購入し持参、彼女の商法を説明した上でこう述べています。

これを4種類も発売していて、「オイオイちょっと待てよ、この売り方は日本でもやっていたやつと似てるんじゃねーか」と思うでしょ、握手券とか。似てるんじゃない? と思うかもしれないけれども、大間違いです。

欧米、アメリカでは先ほど言ったように、75パーセント以上がもうサブスクに移行しているというベースがあるんです。イノベーションによって作られた、新しい時代のグローバルな音楽の基準、土台というものができているわけ。できたうえで、こうやってTaylorちゃんは(笑)、Taylorちゃんって友達じゃありませんが、自分の日記を載っけて、CDを何パターンも作って、そしてファンとのコミュニケーションとして使っているわけです。

「イノベーションを起こすのはテクノロジーではない」 音楽プロデューサー・亀田氏がイノベーティブマインドの重要性を語る - ログミーBizより

バンドルやデラックス・エディションも売上に寄与しますが、あくまでも土台にサブスクリプションサービスがある以上それらは主にはならないでしょう。米ビルボードアルバムチャートはサブスクリプションサービスの再生回数もカウント対象であり、より質の高い作品は聴かれ続けることでチャートを上昇、キープします。逆に購入は基本的に一度のみなのです(無論、1枚の購入と1枚分の再生(接触)では前者のほうがウェイトは高くなっていますが)。

 

そして【売上とは別にれっきとした質の評価軸が存在する】というのが3つ目の理由。グラミー賞や各種メディアのベストアルバム企画等、質の高さを評価する指標が多数あることから、売ったかどうかは別問題だと割り切れるのだと考えます(ちなみに米ビルボードではビルボードミュージック・アワードを毎年開催する等、チャートを基準とした賞も存在します)。

 

アメリカでは今後も商品やチケットとのバンドルは定番化し、またデラックス・エディション商法は増えていくものと考えます。しかし何か卑怯といえる商法が編み出されるたびに取り締まるだろう米ビルボードの存在は実に大きいと言えるのです。

ピンク(P!nk)の出し直し盤ベストアルバムは"失敗しない"のか? ベストアルバムの最善策をあらためて提唱する

ピンク(P!nk)が2010年にリリースしたベストアルバムが『Greatest Hits… So Far 2019!!!』として先月日本でリリースされました。

これは収録曲の「So What」がドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日 木曜21時)主題歌に起用されたタイミングでの出し直し盤となるのですが、リリース当初から違和感が拭えなかったこの出し直し盤の、『ドクターX…』に出演する岸部一徳さんが役のまま出演したCMが登場したことでさらなる違和感を覚えたゆえ、今回表明します。

ソニーミュージックのホームページにあるアルバムタイトルはカタカナでは『グレイテスト・ヒッツ… ソー・ファー 2019!!!』と表記されるのですが動画では一部省略。意味は通じるとしても、(タイトルを付けた)ピンクに対して失礼です。

 

今回の出し直し盤ベストアルバムは、2010年リリース版に「So What (Bimbo Jones Radio Mix)」をボーナストラックとして追加、曲順も「So What」を冒頭に据える等変更していますが、追加投入されたリミックスは2008年にリリースされており目新しさはみられません。

また、この9年の間にピンクは3枚のオリジナルアルバムをリリースしています(『The Truth About Love』(2012)、『Beautiful Trauma』(2017)、『Hurts 2B Human』(2019))。特に『The Truth About Love』からは「Blow Me (One Last Kiss)」が米ビルボードソングスチャートで5位、「Try」が同9位、そしてネイト・ルイスを迎えた「Just Give Me A Reason」が同首位となるなどヒット曲を連発しているのですが、この3枚のオリジナルアルバムからは今回のベストアルバムに一切選ばれていません。出し直し盤なので仕方ないと言われればそれまでですが、この9年におけるピンクの活動はなかったかの如き扱いと捉えられてもおかしくありません。

それでいて、今回の出し直し盤の価格設定は税込2420円。実は9年前リリースのベストアルバム、4年前に解説や歌詞対訳は省かれながらも税込1100円でリリースされているのです(→こちら)。これはソニーミュージックが実施した廉価盤"ヨーガクトクセン1000"シリーズでのリリースであり、ベストアルバムは売れ続ける性質があるためCDショップはこちらを入荷し在庫を抱えていた可能性があります。そんな状況下で、ボーナストラックわずか1曲(それも既発曲)且つ倍以上の価格の作品を投入されるのは店側にとっても苦しいのでは。もしかしたら「So What」が『ドクターX…』主題歌に起用が決定したタイミングでベストアルバム出し直しアナウンスと出し直し前の作品の撤去等を求められたかもしれませんが。

さらに、ソニーミュージック内におけるピンクのホームページ(→こちら)を見ると、この情報は未掲載のまま。

11月18日に発表されたこの記事は、ピンクの家族思いの側面を示す好いニュースだと思ったのですが、仮に『ドクターX…』主人公の大門未知子像とそぐわないとして割愛したのだとしたら非常に残念です。楽曲のイメージばかりを優先し、ピンク自身を思いやる心を持ち合わせていないのではないかとすら考えてしまいます。

 

ベストアルバムについては第2弾、第3弾…と出てくるのは自然なことです。またサブスクリプションサービス時代にあっては過去曲もまた流行り出す可能性が強まっており、ベストアルバムの存在価値は高まるかもしれません。ただ、廉価盤までリリースしたものを収録曲数をほぼ変えず通常価格に戻すような形で販売するのはいただけません。ならば、アルバム名に"2019"として新作のような印象を与えるのではなく、2010年台の代表曲も網羅し別の作品としてリリースしたほうがCDショップに対しても、以前のベストを持っていた方にとっても、そしてピンク本人にとっても良かったのではないでしょうか。そういう意味ではこの出し直しベストアルバムは"失敗しない"どころか"失敗しかない"と言っていいでしょう。

 

最後に、以前記載したベストアルバムに希望する4条件のエントリーを再掲します。これは邦楽のみならず洋楽にも当てはまることです。

Official髭男dism「Pretender」返り咲き首位を踏まえ、ロングヒットの条件を考える…12月2日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点をソングスチャート中心に紹介します。

 

今週のソングスチャートを制したのはOfficial髭男dism「Pretender」。5週ぶり通算2度目の首位獲得です。

前週は集計期間中に『NHK紅白歌合戦』(NHK総合他)の出場歌手が発表された影響で出場歌手の作品群が軒並み伸びたのですが今週は一転し、前週トップ10入りした楽曲のうち8曲がポイントを下げています。しかし「Pretender」およびKing Gnu「白日」はポイントを伸ばし、前者は最高ポイントを、後者は最高位をそれぞれ更新しています。

今後『NHK紅白歌合戦』までの期間に各テレビ局が大型音楽番組を編成することもあり、今年を代表する楽曲が伸びることが予想されます。

 

他方、「Pretender」に破れたアンジュルム「私を創るのは私」については。

2曲のチャート構成比は非常に対照的です。

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「私を創るのは私」はシングルCDセールスが1位ながら他指標はトップ10入りを逃し、ルックアップも29位であることからユニークユーザー数がセールスと大きく異なることも考えられます。一方「Pretender」はシングルCDセールスが100位未満(300位圏内)、ルックアップもアルバム『Traveler』リリース以降ははっきりとダウンしており(アルバムがレンタル解禁されてからより明確)、シングルCDに頼らず最高ポイントを更新出来たわけです。「Pretender」の大ヒット且つロングヒットを見習うならば、所有よりも接触指標群を如何に伸ばすか、そして所有の中でもダウンロードを伸ばすことが大事だと解ります。それが証拠に、今年度の首位獲得曲の翌週の動向をみれば、シングルCDセールスに頼らない(もしくはデジタルリリースのみの)作品が翌週もポイントを落としていないこと、むしろ伸ばしている曲もあることが理解出来ます。

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今年度のチャートは今週がラスト。12月上旬にはビルボードジャパン年間チャートが発表される模様ですので、この表と年間ソングスチャートとを照合してみたいと思います。

 

アンジュルム「私を創るのは私」だけではありません。シングルCDセールスに特化した作品が伸びなかったのは先週問題視した演歌においても。

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「大丈夫」は春のA~Cタイプ、晩夏にD~FタイプのシングルCDをリリースし、今回はG~Iタイプのセールスが初加算となってシングルCDセールス指標では12位に躍進。しかし他指標ではルックアップが79位にランクインしたのみで、明らかに一指標に特化した形となりました。演歌は年配の方が好むとされルックアップが強くないだろうことは想像出来るとして、しかしここまで販売に特化したやり方(これは氷川きよしさんだけではなく多くの歌手が採用している手法)では演歌のジャンルそのものの衰退は避けられないでしょう。前週指摘した内容を再掲し、あらためて演歌がデジタルを意識した戦略を練ることを願うばかりです。

 

戦略の見直しといえば、LiSA「紅蓮華」における動画再生指標においても。

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総合では10→12位、ポイントも3782→3207とダウンしていますが、サブスクリプションサービスの再生回数は1993703→2024729と増加しています。「紅蓮華」はLiSAさん自身のサブスクリプションサービス解禁後に3度目のトップ10入りを果たし、『NHK紅白歌合戦』初出場発表効果も相俟ってロングヒットが期待出来ると思うのですが。

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CHART insightにおいて総合チャート(黒の折れ線で表示)、ストリーミング(青)および動画再生(赤)の各指標のみ抽出したものが上記(ストリーミングは歌詞検索サイトの閲覧回数も対象となるため一時期100位未満(300位圏内)にランクインしていたものと考えられます)。接触指標群の2指標で大きな乖離というのは、現在ロングヒット中の楽曲にはみられない傾向です。

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上記はCHART insightより、最新週のソングスチャート上位13位までにおける各指標毎の順位を示したもの。接触指標群が伴っていないシングルCDセールスに特化した作品、サブスクリプションサービス未解禁の米津玄師「馬と鹿」、動画発信アカウントがNHKであったためかISRC未付番により長らく動画再生指標未加算だったFoorin「パプリカ」を除けば、「紅蓮華」以外はストリーミングおよび動画再生の両指標共にトップ10入りを果たしています。それゆえ「紅蓮華」の歪なチャート構成比が目立つのです。これは前週も指摘したように、YouTubeに掲載されたのがショートバージョンであることが影響しているのは間違いないでしょう。

ミュージックビデオが映像盤としてCDに付属され、商品としての価値を帯びてから長い年月が経ったこともあってか、ショートバージョンはチャート的にも止めたほうがよいのではと提案すると、"CDが売れなくなったならばどうするのか?"という反論を耳にすることがあります。しかし、現在はCDが売れなくなったこともさることながら、率先してCDを買う人が減った一方でダウンロードもしくは接触という選択肢を優先する方が多い状況。「紅蓮華」はCDも売れ続けてはいるものの、サブスクリプションサービスの解禁後にチャートを上昇したことを踏まえれば、"CDは買わないけれど接触出来る環境が整えば率先して聴く"需要が十分にあったと言えるわけです。この需要を見越してレコード会社や歌手側は、CDを売ることは重要ながらもそれだけに頼らない戦略を採ることを考えないといけないでしょう。その際、ミュージックビデオをYouTubeでチェックした方がショートバージョンに触れ、途中で終わったり尺が短くエディットされていることを知ったら愕然とするのではないでしょうか。"ならばCDを買って聴く"や"サブスクリプションサービスでチェックする"よりも、"がっかりした、もう聴かない"という不信感を抱かれたならばこれ以上の伸びは期待出来ないかもしれません。一方でサブスクリプションサービスを昔から解禁しYouTubeもきちんとフルバージョンでアップしているOfficial髭男dismやKing GnuがアルバムCDセールスも伸ばしてるのは、総じてきちんと開放していることによる信頼感の表れと言えるかもしれません。この"信頼"と"不信"をきちんと考えて動くこと、短期的な利益は手放す可能性はあれど中長期的に利益を得られる戦略に移行出来るかが今後のレコード会社等に課せられた課題だと考えます。尤もこの不信感、かつてのコピーコントロールCD等のそれと通じるものがあり、個人的にはまた同じことが繰り返されているのではと思うのですが。