イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

一昨年夏リリースの「パプリカ」が大賞受賞、特別賞の存在…日本レコード大賞に対する疑問と改善策の提示

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 

一昨日、2019年の日本レコード大賞が発表され、Foorin「パプリカ」が受賞しました。しかしながらSNSには一部、疑問の声が挙がっています。それは「パプリカ」のリリースが昨年8月であること。このノミネート対象期間の問題は、一昨年の最優秀アルバム賞を受賞した米津玄師『BOOTLEG』において既に指摘していることでした。

TBSのホームページ(→こちら)は簡素なデータのみ掲載されているため、主催する公益社団法人日本作曲家協会の審査基準(→こちら)をチェックしたのですが、対象期間についての具体的な言及はありませんでした(というより、上記ブログエントリー以降文言は変わっていないようです)。

米最大の音楽賞であるグラミー賞(上記ブログエントリー等で記載)とは対照的な非明確化は日本レコード大賞の権威を自ら削ぎ、同時に受賞者への心無い言葉を生んでしまうのではと考えれば、日本レコード大賞主催団体は素早く改善していただかないといけません。『ノミネート作品は2018年11月1日から2019年10月31日までに発売もしくは解禁された作品。ただし対象期間より前に発売もしくは解禁された作品ながら対象期間に目覚ましい活躍を示したものはその限りではない』と明言するだけで好いはず。この【ノミネート作品の対象期間の非明確化】のみならず、日本レコード大賞には問題点がいくつかありますのでどう改善すべきかを含め提示します。

 

まずは一昨年のエントリーでも述べたTBS色の強さについて。Twitterアカウントである@TBS_awards(→こちら)は同局が毎夏放送する長時間音楽番組『音楽の日』等と共通で用いているものであり、その点において日本レコード大賞は局からの独立性が保たれていないと考えます。そして昨年は個人的に致命的と捉える事態が生じました。

石原信一さんは昨年の日本レコード大賞作詞賞を受賞したのですが、同賞発表時に後ほど市川由紀乃「雪恋華」を披露しますとアナウンスがあったことから石原さんの紹介は当初から決まっていたはず。にもかかわらず安住紳一郎アナウンサーによる発言は石原さんにとって屈辱的ですらあったのではないでしょうか。当該発言が台本通りならば台本の、安住紳一郎アナウンサーのアドリブならば安住さんの問題ですし、わずか一度の過ちを責めるのは違うとは思います。しかしながらTBSが作詞家をあたかも軽視したかのような発言は(たとえ最優秀歌唱賞が曲と関係ないことが事実だとしても言い方が)無礼であり、同局を代表するアナウンサーを司会に起用すること(これは安住アナウンサーに限らずすべての同局アナウンサーに言えることですが)は控えるべきだと考えます(というより、安住アナウンサーは昨日も長時間特番に出演しているのはさすがに体力面で大丈夫かと思ってしまいます)。【TBS色の強さ】をどう脱却させるかが問題であり、最善は放送局の一定期間での変更だと考えます。

 

もう一点、不可解なのは特別賞の存在。

グラミー賞に倣い最優秀レコード賞候補を(数も米グラミー賞に倣い8曲を)選ぶならば、ビルボードジャパンソングスチャートの動向を踏まえればこのような感じでしょうか。しかしながら日本レコード大賞の候補となる優秀作品賞10曲には「黒い羊」以外は含まれず、菅田将暉まちがいさがし」は特別賞を受賞。そして米津玄師さんは曲ではなく個人として同賞を獲得しています。仮に2曲が優秀作品賞に入っていれば同じく米津さんが書いたFoorin「パプリカ」とバッティングする可能性を踏まえ特別賞扱いにしたのでは?という邪推が働いてもおかしくないと思うのです。

日本レコード大賞の審査基準における特別賞とは『社会的に世の中を賑わせ、注目された人、作品などに贈る』ものであるゆえ(『』内は先述した日本作曲家協会の審査基準より)、「まちがいさがし」や米津玄師さんが選ばれることは問題ないのですが、2曲を優秀作品賞に入れないならば優秀作品賞の意味とは?と考えてしまいます。「まちがいさがし」や「馬と鹿」が社会的ヒットの鑑たるビルボードジャパン年間ソングスチャートにおいて優秀作品賞10曲より上位だったことを踏まえれば尚の事、疑問が強くなるのです。

さらには今回、新たに創設された特別音楽文化賞の存在にも疑問が生まれます。

上記音楽ナタリーの記事によれば、特別音楽文化賞は『音楽文化の発展に寄与し、「日本レコード大賞」へ多大な貢献をもたらした人物に贈られる賞』とのことですが、『長年にわたり音楽活動を続け、音楽界に多大な貢献をされた人』に送られる功労賞とはそこまで大きな差異はないと思うのです。ジャニー喜多川さんが音楽活動を行っていなかったゆえ新設したという見方もあるでしょうが、しかしながら引っかかるのはこの賞が与えられるタイミングで近藤真彦さんや亀梨和也さんといったジャニーズ事務所所属歌手が久々に登場したこと、意地悪な見方をすれば特別音楽文化賞がない限り登場しなかったのではないかということです。たとえば一昨年目覚ましい活躍をみせ、同年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)にも初出演を果たしたKing & Princeは、デビュー曲「シンデレラガール」(2018)が同年のビルボードジャパン年間ソングスチャート12位に入りながらも、最優秀新人賞受賞どころか新人賞にノミネートすらされていません(チャートはこちら)。ジャニーズ事務所日本レコード大賞辞退については様々な憶測が飛んでいますが、客観的なチャートデータひとつだけでもやはり不自然だと断言するに十分です。

日本レコード大賞においては特定の歌手やレコード会社、芸能事務所とのつながりの強さ/弱さという話がよく聞こえてくるのですが、もしかしたら一部の方が日本レコード大賞と距離を置くことを防ぐべく予防線を張ったその結果が特別賞や特別音楽文化賞という厚遇ではないでしょうか。そしてそれらを受賞した歌手は最悪VTR出演で好いとしても、優秀作品賞受賞者には全組出てもらいたい…その姿勢がみえてくるかのようです。そう考えると【賞の悪い意味での差別化】という姿勢も見えてきます。元来ノミネートに選ぶことも、ボイコットしたところで受賞に至らせるのも何ら問題ないはずであり、毅然とした態度を日本レコード大賞側は示すべきではないでしょうか。

 

【ノミネート作品の対象期間の非明確化】【TBS色の強さ】【賞の賞の悪い意味での差別化】の他にも【アルバム部門の軽視】【新人賞と優秀作品賞の同時ノミネート不可】等の問題点はありますが、いずれにも共通するのは保身と責任回避。対象期間を曖昧にすることで突っ込まれても言い逃れが可能となります。また近年回復傾向にある視聴率(2010年代は半数以上で15%台を超えています)を踏まえればTBSが日本レコード大賞を他局に渡したくないコンテンツと考えているだろうとも予想出来、そのために様々な仕掛けを用意したくなるのは自然ですが、しかしながら賞はそのような都合、保身とは切り離して考えられないといけないはず。ボイコットを避けてパフォーマンス出来る歌手を増やせば視聴率につながると考えどの賞を与えるかでフレキシブルに対応しているならばそれは客観化出来ていないことの証であり、大問題なのです。

 

かなり厳しい論調となりましたが、言い続けなければならないことだと考えます。個人的には先に取り上げた自身のツイートにあるように、日本版グラミー賞の創設は必要だと思うのです。しかしながらそれが非現実的であるならば、日本の音楽賞で最大級である日本レコード大賞が変わらないといけないはずです。

マライア・キャリー、クリスマスソング制覇により史上初となる記録を達成…2020年1月4日付米ソングスチャートをチェック

弊ブログ、連日更新6年目に入りました。今後ともよろしくお願いいたします。

 

 

ビルボードのソングスチャートをチェック。現地時間の12月30日月曜に発表された、1月4日付最新ソングスチャート。マライア・キャリーによる1994年リリースの「All I Want For Christmas Is You」が3週目の首位を獲得し、史上初となる4つの年代を制した歌手となりました。その他クリスマスソングが4位までを独占し、トップ10には5曲が登場しています。

今回の集計期間はストリーミングおよびダウンロードが12月20~26日、ラジオエアプレイは12月23~29日。ストリーミングでは前週比33%アップの7220万を獲得し同指標4週連続、通算5週目の首位を獲得。同曲がストリーミング最高記録を更新したのは、集計期間開始日に新たなミュージックビデオを解禁したため。

ダウンロードは前週比17%アップの17000で同指標5位を獲得した一方、ラジオエアプレイは同28%ダウンの3090万(同26位)となり、デジタル2指標とラジオエアプレイによる集計期間の差が前週比に影響する形となりました。

2020年代1回目となるチャートを制したことにより、マライア・キャリーは史上初となる4つの年代(1990年代、2000年代、2010年代および2020年代)を制した歌手となりました。これまではスティーヴィー・ワンダー(1960年代から3年代連続)、マイケル・ジャクソンおよびエルトン・ジョン(1970年代から3年代連続)、ジャネット・ジャクソンおよびマドンナ(1980年代から3年代連続)、クリスティーナ・アギレラブリトニー・スピアーズおよびアッシャー(1990年代から3年代連続)が3つの年代を制覇し、マライア・キャリーは前週までクリスティーナ・アギレラ等に並んでいました。

またマライア・キャリーにとって19曲目の首位となった「All I Want For Christmas Is You」が3週目の首位を獲得したことで、3週以上首位を獲得した曲が10曲目に(ボーイズIIメンとの「One Sweet Day」(1995-1996)の16週を皮切りに、「We Belong Together」(2005 14週)、「Fantasy」(1995 8週)、「Dreamlover」(1993 8週)、「Hero」(1993-1994 4週)、「Vision Of Love」(1990 4週)、「All I Want For Christmas Is You」(2019-2020 3週)、「Honey」(1997 3週)、「Emotions」(1991 3週)、「Love Takes Time」(1990 3週))。これはビートルズおよびリアーナの9曲を上回る新記録達成です。

「All I Want For Christmas Is You」が2020年最初のチャートを制したことで、マライア・キャリーは1990-2000年、2005-2006年、2008年および2019-2020年の計16年で首位を獲得し、首位獲得年数で最長記録を伸ばしました。これまでのトップはポール・マッカートニー(&ウイングス)、マイケル・ジャクソンおよびマドンナの10年です。

マライア・キャリーにとって通算82週目の首位となった「All I Want For Christmas Is You」は、米ビルボードが2011年のクリスマスシーズンに開始したクリスマスソングスチャート(Holiday 100)においても今週首位となり、45週中通算40週制覇。「All I Want For Christmas Is You」がリリースされてから25周年のタイミングで新たなミュージックビデオや東京ドーム公演の映像公開、公式ホームページでのレコード、CDおよびカセットのリリース等様々な施策を行ってきましたが、それらがチャート上で見事に花開いたことになります。

 

クリスマスソングは今週チャートを席巻。

ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」は前週から2位をキープしながら、ストリーミングは前週比44%大幅増となる6510万をマーク(同指標2位)。またボビー・ヘルムス「Jingle Bell Rock」が9→3位、バール・アイヴス「A Holly Jolly Christmas」が6→4位となり上位4曲が全てクリスマスソングに。ストリーミングにおいては前者が前週比44%アップの5440万、後者が同63%アップの5320万となり、上位4曲はストリーミングの順位と総合のソングスチャートの順位とが同じとなりました。これは今週8ランクアップし7位に登場したアンディ・ウィリアムス「It's The Most Wonderful Time Of The Year」も同様で、ストリーミングは前週比44%アップの4110万を獲得し同指標7位に。つまりクリスマスソングの強さは、サブスクリプションサービスや動画再生といったストリーミング指標が牽引しているといって間違いないでしょう。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (1位) マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」

2位 (2位) ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」

3位 (9位) ボビー・ヘルムス「Jingle Bell Rock」

4位 (6位) バール・アイヴス「A Holly Jolly Christmas」

5位 (3位) ポスト・マローン「Circles」

6位 (4位) アリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」

7位 (15位) アンディ・ウィリアムス「It's The Most Wonderful Time Of The Year」

8位 (8位) ルイス・キャパルディ「Someone You Loved」

9位 (7位) マルーン5「Memories」

10位 (10位) リゾ「Good As Hell」

さて、クリスマスソングが一斉にダウンする次週のチャートはどうなるでしょう。クリスマスソング以外で今週最上位を記録したポスト・マローン「Circles」(5位)は今週ラジオエアプレイで2週目の首位を獲得(前週比2%アップの9830万)。またダウンロードではiTunes Storeで69セントの安価販売を実施したリゾ「Good As Hell」が前週比95%もの大幅アップで20000を獲得し同指標を制覇、総合では10位をキープしました。これらの曲の次週の動向にも注目ですが、アルバムチャートで依然好調のロディ・リッチによる「The Box」がSpotifyデイリーチャートでトップに立ち、また次週アルバムチャートを賑わすであろうトラヴィス・スコットによる主宰レーベルのコンピレーションアルバム『Jackboys』からヤング・サグをフィーチャーしたJackboys名義での「Out West」や、トラヴィス自身の首位獲得曲「Highest In The Room」のロザリア&リル・ベイビーを迎えたリミックスもSpotifyデイリーチャートでトップ10入りを続けていることから、これら作品の上位登場も予想されます。

2019年私的邦楽ベストソングを選んでみました

毎年行っている私的な選曲集、2019年版です。

<2019年私的邦楽ベスト (2019年12月27日作成)>

◯ 作成時のルール

 ・昨年12月から今年11月にかけて発売されたシングル、またはアルバムからのリード曲で、基本的にはミュージックビデオが制作された曲から選出(ミュージックビデオ未制作ながらアルバムのリード曲としてラジオオンエアされた作品を一部含む)

 ・1組の歌手につき主演曲は1曲のみ。客演曲はその限りでない

 ・1枚のCD-R(80分弱)に収まるように編集。歌手名の前の数字はプレイリストを考慮した曲順であり順位ではない

昨年はこちら。

昨年は上半期と下半期をそれぞれ選んだ上で年間分を選曲していたのですが、今年は正直そこまでの余裕は持てず、また歌手の人選はここ数年固まってきています。良曲を発信しているゆえ選んだとはいえ、新しい曲に触れる感性のアンテナが鈍っていないとは言い切れない点で反省するばかり。とはいえ今年選んだ曲は自信を持って紹介出来る曲、そして例年以上に曲と自分自身が密接にリンクしているように思います。またラジオ番組を担当していることやチャートを毎週紹介していることもあってか人気曲が多いとの指摘があるかもしれませんが、好い曲だからこそチャートで上昇するのだなあと感じたりも。というわけで、選んだ理由を添えて、一曲ずつ紹介。

 

01. RHYMESTER「待ってろ今から本気出す」

RHYMESTERの47都道府県ライブ、自分は岩手県秋田県の2箇所に参戦。青森県でのライブは自分がスタッフの一員を務めるラジオ番組『わがままWAVE It's Cool!』(FMアップルウェーブ 日曜17時。サイマル放送で全国どこからでも聴取可能)と重なったため、この日はRHYMESTER特集を勝手ながら企画。自分にとっての憧れの大人が齢五十にして邁進し続けるのですから負けていられません。

 

02. 中村佳穂「LINDY」

RHYMESTER主催フェス、人間交差点の最前列で観て圧倒されました。会場の空気を掌握し自由に操る姿勢は神々しくもあり。

その後の夏フェス、また自身のライブが配信される度に音楽好きや評論家等の間でどんどん話題になっていくのは当然と言ってよく、来年以降さらに化ける予感が。人間交差点以降にリリースされたこの曲をいつか全身で受け止めたいものです。

 

03. サカナクション「モス」

アルバム『834.194』は6年ものオリジナルアルバム不在を埋めてくれるに十分の充実作。リード曲として用意された「忘れられないの」も素晴らしいのですが、ドラマ『ルパンの娘』(フジテレビ)にハマったこともありこちらをチョイス。「新宝島」の流れを汲み、1980年代感あるあるなアレンジを格好良く鳴らしたこの曲でサカナクションは新たなジャンルの確立に成功したと言えそう。

 

04. 杏沙子「ファーストフライト」

邦楽がストリングスに取り込まれる際、大仰になってしまうものが少なくないのが気になってしまうところですが、この曲は主人公にさらなる自信の翼を与えるための魔法としてストリングスが十二分に機能しているよう。次の曲までの序盤5曲は自分への自身というテーマが通底。

 

05. 土岐麻子「美しい顔」

自分の内なる美しさ、自信を持つことの大切さを説いた曲。近年活躍目覚ましいプロデューサー、アレンジャーのトオミヨウさんと組んだアルバム3作(『PINK』(2017)、『SAFARI』(2018)および『PASSION BLUE』(2019))はいずれも素晴らしく、土岐麻子さんの新たな側面の開拓に成功したと言えるでしょう。

 

06. 鈴木京香「海岸線より」

ドラマ『グランメゾン東京』(TBS)のでは木村拓哉さんに負けない主演級の役どころを演じた鈴木京香さんが初めてリリースした音楽作品。音楽プロデューサーとしての藤井隆さんの手腕がいかんなく発揮された大人のダンスチューン。そろそろレーベルオーナーでもある藤井さんのリーダー作も聴いてみたいものです。

 

07. 三浦大知「Corner」

J-Popとしての美しいメロディが堪能できる「片隅」のアナザーサイド的「Corner」は、傑作の誉れ高き『球体』を経てステップアップした三浦大知さんによるJ-Popの進化を存分に堪能出来る逸品。ここでいうJ-Popとは歌謡曲がヒットしていた時代から受け継がれる大団円的なメロディが落とし込まれたものを指しますが、三浦大知さんによる作品は昨年末の「Blizzard」共々J-Popを自然な形で如何に世界標準に出来るか(それこそ「片隅」と比較すれば明白)を示したものであり、新たな時代の開拓者になりうると感じずにはいられません。絶賛された12月27日放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日)スペシャルにおける10分パフォーマンスについては、それら先駆的な楽曲群があるからこそラストのJ-Pop的「EXCITE」もまた際立っていたように思います。

 

08. Official髭男dism「Rowan」

今年最大のブレイクを果たしたと断言していい、Official髭男dismによるアルバム『Traveler』収録曲。シングルやリード曲ではないものの、RHYMESTER「The Choice Is Yours」等を手掛けてきたプロデューサーのIllicit Tsuboiさんと組み、ギターの小笹大輔さんが書いた曲から溢れ出す黒さたるや。先行し大ヒットした作品群とはまた異なるアプローチを施しながら、彼らの根底にはソウル(ミュージック)があると実感します。

 

09. King Gnu「白日」

出だしからしてファルセットという、歌うには難解な曲がビルボードジャパンソングスチャートを駆け上がり、とりわけカラオケ指標でヒットし続けている状況は、今後の日本の音楽業界にとって明るい材料ではないでしょうか。安易にJ-Popに落とし込む必要はないというのがこの曲以降のKing Gnuの大ブレイクから言えることではないかと。

 

10.椎名林檎宇多田ヒカル「浪漫と算盤 (LDN ver.)」

出せば必ず結果を残すというのが今の椎名林檎さんの凄いところ。ミュージックビデオにおけるゴージャスすぎる大型テトリスというアイデアも、そして盟友宇多田ヒカルさんとの相性も◎。いつかは宇多田ヒカルさんとのコラボアルバムというのも、面白いかもしれません。

 

11. WONK「Orange Mug」

原稿書きが業務としての意味をもちはじめ、時間があるときにコーヒーチェーンやファストフード店で作業することが増えたのですが、とあるファストフード店で流れていたこの曲にとにかく浸りました。彼らも今年のRHYMESTER主催フェスの人間交差点に出演。

 

12. Da-iCE「FAKE ME FAKE ME OUT」

Official髭男dismのボーカル、藤原聡さんによる提供曲。80年代ブギーやマイケル・ジャクソン「Black Or White」を意識したと思しきアレンジ、花村想太さんと大野雄大さんという好対照なふたりの声が重なる最後のサビ、そして隙のない曲そのものの完成度たるや。今年最も多く聴いたのは間違いなくこの曲です。この曲を以前紹介した際に”Official髭男dismはさらに化ける”と書きましたが、予感的中です。

 

 

13. ヨルシカ「だから僕は音楽をやめた」

スタッフの一員を務めるラジオ番組『わがままWAVE It's Cool!』では今年月イチペースで歌手の特集を組んだのですが、自分の中でも大きな発見となったのがヨルシカ。曲の純粋な好さと強いメッセージ性の自然な融合に才能の豊かさを感じます。そして彼らがリリースしたようなコンセプチュアルなアルバムは、サブスクリプションサービスやアルバムのプレイリスト化が進む現代において今後より存在感を増すのではないかと。

 

14. 女王蜂「火炎」

EDMにトラップ、ジャングル等、ともすればちょっと強引にまとめたと思われかねないかもしれませんが、ロックの可能性を広げていることは間違いなく。世界の流行を貪欲に吸収し発信する女王蜂の意欲には感心させられます。

 

15. LiSA「紅蓮華」

テレビアニメ『鬼滅の刃』(TOKYO MXほか)の人気と共に主題歌のこの曲がヒットし、徐々に曲への注目が高まっていく中で『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)への出演が決定。来年は今年における米津玄師「Lemon」のようなチャートアクションを示すものと期待します。自分はillionのバイラルヒットを調べるうちにこの曲にたどり着き、後に発信された一発録り動画での豊かな表現力と純粋な格好良さになおさら惹かれた次第。

 

16. 折坂悠太「朝顔

ドラマ『監察医 朝顔』(フジテレビ)主題歌。先述したようなJ-Popの姿をなぞるように感じられ一瞬たじろぐも、アップテンポになってからの展開があまりにも強いこの曲に、スロウな展開は最後のための長き助走だったのかと実感。RHYMESTER宇多丸さんがパーソナリティを務める『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ)でのスタジオライブも本当に格好良かったですね。

 

17. 米津玄師「海の幽霊」

映画『海獣の子供』はスタッフの長時間労働問題という問題が露呈し残念でしたが、米津玄師さんがこの作品に心底惚れ込むのも納得出来る程の物語の哲学的ともいえる深さと映像美だと、原作の同名漫画を目にして強く感じました。昨年も終盤にゴスペル的作品を選出しましたが、この曲のコーラスワークもまたゴスペルの形と言えるのではないでしょうか。

 

18. RADWIMPS feat. 三浦透子「グランドエスケープ」

今年大ヒットした映画『天気の子』はRADWIMPS新海誠監督の二度目のタッグであり、今回は女優(個人的には来年映画化される『架空OL日記』(読売テレビ) のかおりんの印象が強い)、三浦透子さんの透明感溢れるボーカルを用いて先述したゴスペルに挑戦。終盤のゴスペルクワイアの圧倒感、そこに向けての構成は見事。

 

19. 星野源「Pop Virus」

J-Popシーンを代表しながら攻めの姿勢を忘れずそして結果を残す星野源さんが存在することで、2020年代の日本の音楽業界は明るいのではないかと思うのです。ヒップホップ的アプローチを施したアルバム『POP VIRUS』(2018)の次がどうなっていくか注目。

 

 

以上、およそ79分のプレイリストとなりました。今年も好い音楽に出会えたことに感謝します。 

2019年、私選ラジオ重大(五大)ニュース

このブログでは毎年、極私的邦楽年間ベストソング集を紹介しているのですが、ラジオ業界についても気になった出来事をまとめてみます。首都圏ラジオ業界を主体に五つのトピックを紹介。昨年のニュースは下記に。

 

① 『たまむすび』の再興、そしてニッポン放送に募る不信

TBSラジオ好調の要因のひとつである平日昼帯『たまむすび』(月-金曜13時)が窮地に陥ったのが今年のこと。前身番組『小島慶子 キラ☆キラ』時代から木曜パートナーを務めたピエール瀧さんの降板、その件におけるゴシップ誌のちゃかし(事情を知らないゴシップ誌やそれに倣ったアプローチで責めたり嘲笑する人間の行為ははっきりいって最低です)もあり、赤江珠緒さん等の心労は相当なものだったでしょう。

再興に向け、番組が新たに木曜に迎え入れたパートナーはこの春まで裏番組を務めていた土屋礼央さんだったことに驚きました。その土屋さんから、仮に話が大きくなっているとしても裏番組の終了の経緯を聞くに、ニッポン放送の姿勢はやはりおかしいという自身の印象が間違っていなかったことを強烈に実感させられるのです。

聴取率については終ぞその結果が公開されなくなり、その点においてはラジオ業界全体に対し不信感を抱かずにはいられませんが、その中でもニッポン放送の姿勢はもはや手の施しようがないのではと思うのです。

 

NHK・民放連共同ラジオキャンペーン”#このラジオがヤバい”の成功

昨年までのキャンペーンを思い出せなくなるくらい、今年は大いに盛り上がったと思います。下記エントリーでの要望は、十分な成功を踏まえた上でそれでも付け加えるならば的な意味合いであり、今回の企画は少なからず若い方にラジオの存在が伝わっていったように思います。

 

③ 『安住紳一郎の日曜天国』タイムフリーに対応

首都圏ラジオ局の数多ある番組の中で高い人気を誇り、関東圏以外からのメッセージも多い(そしてプレゼント当選者に区域で分けることをしない)『安住紳一郎の日曜天国』(TBSラジオ 日曜10時)が今年4月7日から実験と称してradikoタイムフリーを開始しました。

これまで『安住紳一郎の日曜天国』がradiko未対応だったことは非常に勿体無いと思っていました。ポッドキャスト時代から”本放送を聴きなされ”と促す姿勢は知っていましたし、その思いは解るのですが。

上記リンク先にあるradikoのFAQでは『各番組出演者やコンテンツフォルダーに許諾をいただけない場合などは、タイムフリー聴取では配信することができません』とありますが、代打で古舘伊知郎さんが登場した回の翌週、番組のタイムフリーを許諾しなかったのがおそらくは安住紳一郎さん本人であることが、安住さん本人の告白により判明します。

(勝手ながら書き起こしを引用させていただきました。問題があれば削除いたします。)

ラジオがピンチと言われる中でradikoの登場により地域や時間の壁が取れ(有料会員になることも必要ではありますが)、フレキシブルな媒体となっている中にあって、コンテンツホルダー(TBS)が認めているタイムフリーをおそらく許諾しなかったのがTBSの中の人である安住さんの認めない方針にあったというのは違和感を覚えます。最新回に至るまで実験段階であることは未だ迷いがある証拠でしょうが、しかし安住さん自身がタイムフリーの恩恵を受けたのであれば、ユーザー(リスナー)にタイムフリーを認めない行為は矛盾ではないかと思うのですが、厳しい見方でしょうか。

この矛盾、サブスクリプションサービスで自身の楽曲を抱えてきた歌手にも当てはまることと捉えています。自身もサブスクリプションサービスのユーザーである歌手が、その利便性の高さを感じながらも自身の作品を解禁しないことへの矛盾を感じたことで解禁に踏み切る例は少なくないと伺っています。発し手の方が、自身が受け手の立場になるという想像力を働かせれば、より好い環境の構築にはどうすべきかが見えてくるはずです。『安住紳一郎の日曜天国』以外にも同種のタイムフリー未実施を行う番組が柔軟に対応することを願うばかりです。

 

TOKYO FM不正会計、大幅赤字へ転落

TOKYO FMデジタルラジオ事業i-dioの赤字を隠すべく粉飾決算を組織的に行い、最終的にi-dioの撤退、そして特別計上に伴い大幅赤字となりました。気になるのは、JFN(全国FM放送協議会)のキー局であるTOKYO FMがこのような事態を招いたことで、加盟局にも聴取率やスポンサー獲得等に被害が及ばないかということ。一部にはその体力が心配になる局もあるゆえ、心配でなりません。

またTOKYO FMにおいては、その番組編成における村上春樹さん推しが強いことも気掛かりです。村上さんが悪いということではなく、聴取率調査週間にレギュラー番組(一部はニュース等情報番組)を差し替えてまで再放送を実施する行為はリスナーは勿論、ラジオDJ等へも失礼です。

規模の大小に関係なく、局の都合が優先されることでラジオ離れが生じることはあってはなりません。

 

⑤ 青森は凪が続く…新たなスターは不在のまま

青森県の県域AM局、RABラジオが12月24日正午から放送した『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』はこれまでメインパーソナリティが3年連続担当するという制度を採っていましたが数年前から変更。同局の看板番組を務める方が大挙参加するスタイルに変わりました。しかしながら。

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(目の不自由な方へ通りゃんせ基金を!ラジオチャリティミュージックソン - RABラジオより。ブログでの紹介を目的にキャプチャしましたが(且つ来年にはリンク先の掲載内容が変更されるため今年のものを紹介した次第)、問題があれば削除いたします。)

ここ数年生ワイド番組が刷新されていない(もしくはパーソナリティが交代していない)ことが如実に表れているように思うのです。それが必ずしも悪いというわけではありませんが、ラジオが新しい風を吹かせず守りに入るのは、県のエンタテインメント業界自体が活性化しないという点で機会損失ではないでしょうか。たとえば、『GO!GO!らじ丸』(月-金曜11時55分)立ち上げ時に火曜パーソナリティを担当したホイドーズのボーカル、鉄マンさんは次世代のRABラジオを支えてもおかしくない人材だと思ったのですが、理由は不明ながら交代。県域放送局の数少ない生ワイド番組枠で同じパーソナリティの方が二本担当するという事態となっています。

他方、県域FM局のエフエム青森ではアナウンサーを募集しているのですが、疑問は拭えません。

青森県に限らずですが、高い技術を有する職種が契約社員を基本とすること自体に強い違和感を覚えますが今は置いておきます(というよりも、契約社員制度自体にも疑問を抱いているのですが)。現在エフエム青森で生ワイド番組(1時間以上)を担当するのは同局所属のアナウンサーのみであり、仮に来年春以降4名体制で(もしくはひとり抜けたとしても)生ワイド番組を回していくならば、フリーで活動する方がその枠を持てないのもまた機会損失ですよね。”アナウンサーや認知度の高い方でなければラジオで喋ることが出来ない、そうでなければラジオで稼ぐことは出来ない”というイメージが広がるほど、業界で働きたい、ラジオで伝えたいと思う人は減るのではないでしょうか。

 

 

以上5点、例年より長めに書いてみましたがいかがでしょう。苦言を基にした提案が多くなりましたが、来年こそは状況が良くなっていくことを願ってやみません。

出演メディアも音楽ジャンルも自由自在の木梨憲武、Spotifyバイラルチャートに連日2曲ランクインする凄さ

L’Arc~en~Cielそしてサザンオールスターズサブスクリプションサービスでは解禁祭り状態となっています。海外に比べて日本の解禁事情は十分ではないものの、大物歌手が相次ぎ解禁することで日本でのサブスクリプションサービス使用率が上昇、使用せずともサービスへの認知度は高まることでしょう。

音楽等を紹介するメディア、Real Soundでは今月からSNSで話題になった曲を示すSpotifyバイラルチャートの紹介企画がはじまっています。12月12日付週間チャートの記事は下記をご参照ください。バイラルヒットの源流にあるTikTok使用曲についても最近ビルボードジャパンがチャートを紹介し始めており、自分が提唱する”新しいヒットの形”をメディアが意識しているように思います。

Spotifyバイラルチャートに話を戻すと、12月19日付週間チャート(12月12~18日集計分)ではまたもL'Arc~en~Cielの勢いが凄まじく、トップ10内に6曲、50位以内に33曲もランクインしているのに対し、その後12月20日サブスクリプションサービスで一斉解禁したサザンオールスターズの楽曲は同日付で50位以内に入っていません。これはあくまで予想に過ぎませんが、L'Arc~en~Cielの場合は解禁を事前に予告し、またテレビで発表したことが口コミで広まる契機となったのではないでしょうか。だとすれば、日本におけるテレビの影響力の大きさは絶大と言えます。

 

そのテレビを中心に連日話題を振りまいているのが木梨憲武さん。12月11日にリリースされたソロ初となるアルバム『木梨ファンク ザ・ベスト』を引っさげ音楽番組は勿論、朝の情報番組やバラエティにも出演。さらには通信販売会社大手のジャパネットたかたに二度出演し同社でのCD販売にこぎつけています。

偶然街で出会ったB’z松本孝弘さんにギターをお願いしたという「GG STAND UP!! feat. 松本孝弘」や、妻の安田成美さんへの愛を歌った「I LOVE YOUだもんで。」というアルバムのリード曲と言うべき2曲は、11月以降常時といっていい程Spotifyバイラルチャートにランクイン。最新12月19日付週間チャートでは共に50位以内にランクインしています。

「OTONA feat. 久保田利伸」にて共同で歌詞を手掛けた星野源さんのラジオ番組(『星野源オールナイトニッポン』(ニッポン放送 火曜25時))に出向くなど、12月27日現在Yahoo! JAPANニュースで『木梨ファンク ザ・ベスト』を検索すると70件近くもの記事が登場。リリースに合わせてのメディア出演は“パブ”と呼ばれますが、木梨憲武さんは出演や宣伝を心から楽しんでいるように見えるのが不思議で、記事からもそのことが伝わってきます。ステルスマーケティングが最近も問題になり、ネットを活用する人にとってはメディア出演に裏があるのではと敏感になりがちですが、木梨さんの場合は仮にそうだとしても楽しんだもの勝ちという姿勢を受け手に提供しているからか好意的に受け止められ、それがSpotifyバイラルチャートに反映されているものと捉えています。

巧いと思うのは、木梨憲武さんが受け手の興味の先、いわば“受け皿”をきちんと用意している点。12月23日、二度目のジャパネットたかた出演の一環として『たまむすび』(TBSラジオ)のラジオショッピングをジャックした際には、CD以外にもダウンロードもあることをきちんと訴求しています。

(ラジオ出演時の書き起こしについて勝手ながら紹介させていただきました。問題があれば削除いたします。)

またリード曲の「GG STAND UP!! feat. 松本孝弘」および「I LOVE YOUだもんで。」はYouTubeでミュージックビデオが用意。無論サブスクリプションサービスも解禁されているため、興味を抱いた方が検索した先にはきちんとフルで聴ける仕組みが構築されています。

 

大物ゲストが多数登場するアルバムにおいて、個人的にとりわけ気に入っているのが「麻布十番物語」。ラッパーのAKLOさんと歌詞を共作し、BACHLOGICさんがプロデュースしたトラックは、歌うようなフロウや浮遊感あるアレンジが近年のヒップホップのトレンドを押さえており、ドレイクによる全米1位曲「One Dance feat. ウィズキッド & カイラ」(2016年)などを彷彿。音楽面でもフレキシブルな木梨憲武の姿勢が若い人からも支持を集めることで彼らが好むサブスクリプションサービスでも伸び、バイラルヒットにつながっているのかもしれません。

さらには先述した「GG STAND UP!! feat. 松本孝弘」を使ったダンスコンテストをTikTokで開催するなど、既存から新規メディアまでを乗りこなしディスコからヒップホップまで対応する木梨憲武さんの柔軟性には驚かずにはいられません。

 

『木梨ファンク ザ・ベスト』は12月23日付ビルボードジャパンアルバムチャートで4位に初登場。ダウンロード指標でトップを獲得したこの作品は、最新12月30日付において総合では15位にダウンするも、ダウンロードは5位と好調。木梨憲武さんが話題を振りまく限り、この勢いは続きそうです。レギュラーラジオ番組『土曜朝6時 木梨の会。』(TBSラジオ 土曜6時)が毎回Twitterでトレンド入りしていることもアルバムを押し進める力になっているはず。それにしてもラジオスタッフの多さやゲストの豪華さ、本当に凄いですね。アルバムの客演陣の素晴らしさ共々、木梨さんの人柄の為せる業なのかもしれません。

日米でのクリスマスソングの上昇動向から、クリスマスとイブどっちを重視するかがみえてくる

最新12月28日付米ビルボードソングスチャートでクリスマスソングが初めてワンツーフィニッシュを成し遂げました。原動力はその2曲が同じくワンツーを飾ったストリーミング指標にあるといえます。対して日本ではストリーミング以上にラジオエアプレイ指標でクリスマスソングが強く、12月30日付ビルボードジャパンソングスチャート(集計期間12月16~22日)において、ストリーミング指標上位20曲中クリスマスソングはわずか2曲である一方、ラジオエアプレイでは7曲がランクインしており、日米のチャートでクリスマスソングが最も勢いを増す指標に違いがあると記した昨年同時期のブログエントリーがあらためて証明されたように思います。

 

さて、12月24日と25日における日米のSpotifyの再生回数トップ10をチェックすると、面白い傾向がみえてきます。

まずはアメリカ。12月24日(リンクはこちら)。

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12月25日(こちら)。

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クリスマスはトップ10のみならず20位までがクリスマスソングとなっています。

一方の日本では。まずは12月24日(リンクはこちら)。

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そして12月25日(こちら)。

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米ソングスチャートを制したマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」は終ぞ日本では首位獲得に至らず。クリスマスソング自体4→2曲とダウンしています。その「All I Want For Christmas Is You」、日本での再生回数が24日→25日で75.9%と大きくダウンしている一方アメリカでは118.7%となり、そのアメリカでは25日に上位3曲全てが200万回再生を突破したことを踏まえれば、アメリカではクリスマスを重視し日本ではクリスマスイブこそ需要が大きいということがクリスマスソングの再生傾向からはっきりとみえてきます。

 

あくまで私見ですが。バブルが弾けながらも(地方在住ゆえか、その恩恵を感じたことはありませんでしたが)、その価値観が色濃く残る世代に学生時代を過ごした身には、”クリスマス、特にイブは恋人と”が絶対視されていたように思います。日本のクリスマスソングが未だ【家族<恋人】であることは、夏からホテルを予約して高級ディナーを楽しんでそして…のようなバブル時代の名残が未だ残っているのかもしれませんし、ゆえにイブがより重視される傾向は変わらないとも考えます。海外の概念から宗教的要素を抜き、敢えて用いるならば”聖より性”等の解釈(商売っ気等)が強かった日本の概念はまだ健在なのかもしれません。宗教的要素を抜くというのは他のイベントでもみられますが。

一方、これは担当ラジオ番組で地元大学生と話しているときに強く感じたことですが、今の学生はそのようなクリスマスを特別視するという感覚が高くはないのではないでしょうか(ゆえに旧態依然の価値観で話してしまった自分を猛省するばかりなのですが)。無論、恋人と過ごすのも素晴らしいことですがそれをひっくるめて”心寄せ合う人と過ごす”としたほうが、もしくは独りでも普段以上に心優しくなれる日という価値観もしっかり与えるほうが、これからの時代に相応しいと思うのです。マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」の新たなミュージックビデオはその価値観を提示してくれるようにもみえます。

先に商売っ気と書きましたが、たとえば小売業などはそのような価値観を示せば25日までクリスマス商戦が延長可能になるとも言えますが…Spotifyの動向から思いを巡らせた次第です。

(追記あり) 「馬と鹿」がトップ10を逃したのはサブスクリプションサービス未解禁ゆえ? 12月30日付ビルボードジャパンソングスチャート上位曲と比較して見えてきた3つの数値

(※追記 (2020年1月14日19時00分):昨年12月23日付ビルボードジャパンソングスチャートにおいてラジオエアプレイ指標に誤りがあり、ビルボードジャパンではチャート公表の翌日に同指標順位および総合ポイント(一部総合順位)が訂正されています。これら訂正は決して小さいものではありませんが、弊ブログでは翌週以降のエントリーにて訂正した数値で紹介していることもあり、当該エントリーは訂正前の数値を掲載しております。ご了承ください。近日中に訂正を実施予定です。)

 

 

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点をソングスチャート中心に紹介します。

 

12月16~22日を集計期間とする12月30日付ビルボードジャパンソングスチャートを制したのは、Official髭男dism「Pretender」でした。

2週連続、通算4週目の首位を獲得した「Pretender」は嵐「A-RA-SHI : Reborn」の猛追をかわしました。

集計期間3日ながら2位に入った「A-RA-SHI : Reborn」は今後テレビアニメ『ONE PIECE』とコラボレーションしたミュージックビデオが公開されますが、それとは別にオフィシャルオーディオが用意されています。

動画再生指標が未加算であるため、上記動画にISRCが付番されていない、もしくは付番されていても同指標で300位に満たない(ゆえにカウントされなかった)可能性が考えられますが、しかしながらリリース当日に日本ではあまり見られないオフィシャルオーディオをきちんと用意するところに、嵐の本気度を感じます。この動画の用意も、先日記載した海外の手法を採り入れた一環と言えるでしょう。

米津玄師さんが手掛ける「カイト」が仮に『NHK紅白歌合戦』直後の来年元日に公開されたならば、さらにはオフィシャルオーディオに限らずミュージックビデオも同時公開されたならば、同曲の集計期間は5日となり来年1月14日付ビルボードジャパンソングスチャート(1月8日発表)で爆発的人気を獲得するかもしれません。ジャニーズ事務所所属歌手がデジタル解禁して間もなく、デジタルの手法を急激に身に着けていることが理解出来ます。

 

さて本日は、下記ツイートを踏まえて記載します。

この自分のツイートに対し、サブスクリプションサービス未解禁の状況がチャートに影響しているのではという反応をいただきました。そこで今回、2019年リリースの「馬と鹿」とサブスク解禁の曲とで比較してみたいと思います。反応くださった方のツイートの掲載許可はいただいていないため掲載は控えますが、その方が提示したOfficial髭男dism、King GnuおよびLiSAさんの3組の代表曲と比較すると見えてくるものがあるのです。

 

・米津玄師「馬と鹿」

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Official髭男dism「Pretender」

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King Gnu「白日」

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・LiSA「紅蓮華」

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これら4曲は、ストリーミング未解禁の「馬と鹿」、シングルCDリリースながら最新週では同指標100位未満でソングスチャートを制した「Pretender」、シングルCD未リリースの「白日」、ダウンロード→シングルCD→ストリーミングと段階的に解禁した(一方でミュージックビデオは唯一ショートバージョンの)「紅蓮華」と四者四様の特徴があります。ソングスチャート50位未満はポイント未表記につき、ポイント前週比が確認不可能な週は”(計測不能)”と記載しています。

4曲を比較すると、「馬と鹿」「紅蓮華」と「白日」「Pretender」で【所有指標加算2週目のポイント前週比】に明確な差が生じています。「馬と鹿」はダウンロード加算2週目にポイント前週比が40.5%およびシングルCDセールス加算2週目が同33.3%、「紅蓮華」はダウンロード加算2週目のポイント前週比が43.1%およびシングルCDセールス加算2週目が同49.4%なのに対し、「白日」はダウンロードとストリーミングが同週解禁となったことや翌週にミュージックビデオが公開され動画再生(ストリーミング同様に接触指標群のひとつ)も加算されたことで、ダウンロード加算2週目のポイント前週比は146.3%と躍進。「Pretender」もダウンロードとストリーミングが同週解禁となり、ダウンロード加算2週目のポイント前週比は114.2%、シングルCDセールス2週目においては同91.0%と下がりながらも、「馬と鹿」や「紅蓮華」のような5割未満とまでは至っていません。

【所有指標加算2週目以外にもポイント前週比が80%を切る週の数】も注目。100位以内の登場が19週目となる「馬と鹿」が通算4週あるのに対し、登場44週目の「白日」は1週のみ、登場36週目の「Pretender」は一度もありません(それどころか、「Pretender」のポイント前週比はどんなに低くとも9割を下回っていません)。「紅蓮華」は登場35週目にして所有指標加算2週目以外のポイント前週比80%未満が2週ありますが、サブスクリプションサービスで曲が解禁されストリーミング指標で100位以内に登場して以降はゼロとなっています。

また、【所有指標初加算週以外でポイント前週比が110%を上回る週の数】にも大きな違いが。「Pretender」は今週を含め通算6週、「白日」は8週、「紅蓮華」は9週もあるのに対し、「馬と鹿」は1週しかありません。「紅蓮華」は今週まで3週連続でポイントを伸ばしており、その初週のタイミングを踏まえれば、一発録り動画の登場がこの勢いにつながったと言えるでしょう。

一方で「馬と鹿」が唯一所有指標初加算週以外でポイント前週比が110%を上回ったのはシングルCDセールス加算直前の9月16日付。この時はミュージックビデオ解禁に伴う動画再生指標が初加算となり前週からほぼ2倍となるポイントを獲得しています。この動きは先述した「白日」と同様、つまりは接触指標が貢献したと言えるでしょう。

 

【所有指標加算2週目のポイント前週比】【所有指標加算2週目以外にもポイント前週比が80%を切る週の数】【所有指標初加算週以外でポイント前週比が110%を上回る週の数】に着目すると、サブスクリプションサービスを解禁しているか否かが総合ポイントに如実に表れることが証明されたように思います。

米津玄師さんはアイドルやK-Pop等以外では珍しくシングルCDセールスに長けている方ゆえ、「馬と鹿」はこれまで一度としてシングルCDセールスで40位を下回ってはおらず、さらにパソコン等に取り込んだ際のインターネットデータベースへのアクセス数を示すルックアップは常時3位以内となっています。CD関連の強さがロングヒットに貢献しているだろうと考えられるものの、やはりストリーミング未解禁が少なからず痛手であることは間違いないでしょう。また「馬と鹿」以外の3曲は全て今週のソングスチャートにおけるダウンロード指標がトップ10入りしており、サブスクリプションサービスの興隆が所有指標を駆逐するわけではないとも言えます。「馬と鹿」の動画再生初加算週の貢献を考慮に入れ、ストリーミングを解禁したほうが有利だということを米津玄師さんサイドに対し提案したいと思います。