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青森県在住。毎週日曜日17時から、FMアップルウェーブ発の番組の一員として参加。音楽・ラジオ好きによる"日々の音"やメディアの話

ゴスペルあれこれ2020年1月振り返り号

クワイアとして歌ってきた経験を持つ自分が、月単位でゴスペルの動向を書いていければと思い、【ゴスペルあれこれ2020年1月振り返り号】を用意してみました。出来れば毎月記載していこうと考えています。

 

グラミー賞、カーク・フランクリンが受賞

楽曲パフォーマンス部門は「Love Theory」、アルバム部門は『Long Live Love』と、カーク・フランクリンが制覇しています。

尤もカーク・フランクリンがパフォーマーとして、主演曲ではないとはいえ賞本編に登場したことを踏まえれば、彼の受賞は確実だったのかもしれません(ゴスペル部門の発表はテレビ中継された本編より前でしたが)。そのカークが参加したのが、昨年他界したラッパー、二プシー・ハッスルへのトリビュート。DJキャレドにジョン・レジェンド共々参加した「Higher」のパフォーマンス後半にカークが登場し、高揚感と追悼の思いを高めていました。「Higher」のオリジナルは下記に。

またルーツゴスペルアルバム部門はグロリア・ゲイナー『Testimony』が受賞。

冒頭の「Amazing Grace」はゴスペルでおなじみの…と思って聴き始めるとほとんど別物ゆえ驚かされるのですが、ブルースの要素も採り入れつつクワイアと三拍子とを極々自然に融合しており聴き心地は抜群。

グロリア・ゲイナーは「I Will Survive」(1978)で米ビルボードソングスチャートを制しているのですが、この曲は2013年にリリースされたゴスペルアルバム『We Will Survive』にてリミックスが収められています。

 

・ステラー賞、最多ノミネートはドナルド・ローレンス

3月27日に開催されるゴスペル専門の音楽賞、ステラー賞のノミネーションが先月発表されました。今回の司会はコリン・ホーソーンとジョナサン・マクレイノルズという若手2名が務めます。

先述したカーク・フランクリン、およびターシャ・コブス・レナードが8部門にノミネートされたステラー賞で、最多の9部門ノミネートされたのは、ドナルド・ローレンス presents ザ・トライ・シティ・シンガーズ。ドナルドとシンガーズの、実に12年ぶりとなるリユニオンアルバム『Goshen』(2018)が今回の主役となるかもしれません。

ドナルド・ローレンス presents ザ・トライ・シティ・シンガーズはカーク・フランクリン、ターシャ・コブス・レナードおよびJJ・ヘアストンと共に、最優秀アルバム賞そして最優秀アーティスト賞を争います。今回のノミネーションリストはこちらをご参照ください。

 

・”ゴスペル的J-Pop”、1月も続々

数はそこまで多くはないものの、J-Popの有名曲にはゴスペル的アプローチを施したものが多いことを、昨秋ラジオ番組およびブログエントリーにて紹介しました。

ここで「Stand By You」を取り上げたOfficial髭男dismは、先月デジタル先行で配信した「I LOVE...」(今月12日にCDリリース)にもゴスペル要素を導入。2番サビ前でハンドクラップを挿入し、アレンジも途端に力強くなります。

ゴスペルはチャンス・ザ・ラッパーやカニエ・ウェストも取り上げており流行にも即したものと言えます。ミュージックビデオにおける女性同士のカップルを取り上げることも含め、Official髭男dismは間違いなく今の時代をきちんと捉え、柔らかく示していると言えます。あくまでも極々自然な表現であり、過度に配慮したとは思えません。

また、ラジオを中心にヒットしているのがiriさんの今年最初のシングル「24-25」。こちらでもゴスペル的アプローチに挑戦。

2番終わりからのゴスペルコーラスの高揚感が、iriさんが持つクールな歌声と好対照となり、楽曲がふくよかになっています。今回ゴスペルアプローチを試みたのが初とのことですが、しかしとても堂々としていますね。下記にて今作のインタビューが掲載されています。

ラジオでゴスペル的アプローチを施したJ-Popがヒットするのは、昨秋のeill「SPOTLIGHT」もそうでした。

これらゴスペル的J-Popはラジオエアプレイが好調に推移おり、もしかしたら相性が良いのかもしれません。2月2日付の『J-WAVE TOKIO HOT 100』(J-WAVE 日曜13時)チャートで2位を記録した雨のパレード「BORDERLESS」のコーラスはどちらかといえばスポーツのアンセム的な感じが強いですが、先月リリースされた同名アルバムに収められ、昨秋先行配信された「Story」ではイントロ等に薄いながらもゴスペル的コーラスを取り込んでいます。

ともすれば、この1年でゴスペル的アプローチに挑戦するJ-Popはかなりの数になるのかもしれません。非常に楽しみです。

ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」、日本のブレイクは世界一遅い? その現状に思う

ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」が最新2月10日付ビルボードジャパンソングスチャートで7位に入りました。

久々の洋楽トップ10入りですが、色々思うことがあり、記載します。

 

日本時間の先週月曜に開催された第62回グラミー賞は、ビリー・アイリッシュが「Bad Guy」で最優秀レコード賞および最優秀楽曲賞、『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』が最優秀アルバム賞、自身が最優秀新人賞を獲得し主要4部門を総ナメ。クリストファー・クロス以来39年ぶり、史上2組目の快挙を達成しています。

このタイミングで彼女の作品にはじめて触れるという方も少なくなかったでしょう。昨年のクリスマスに日本限定でリリースされたアルバムのデラックス・エディションは入門編としてピッタリといえますし、米ビルボードソングスチャート首位獲得に貢献した「Bad Guy」のジャスティン・ビーバー参加バージョンもこのタイミングでCD化されたので尚の事です。デラックス・エディション商法には疑問を覚えますがそれは一旦置いておきます。

2月10日付ビルボードジャパンソングスチャートの記事(→こちら)はグラミー賞の結果についても触れているため、「Bad Guy」がグラミー賞効果で上昇したのは明白。実はこれ、日本のみならず海外でも見られる現象で、最新2月8日付米ビルボードソングスチャートでは41→17位に上昇。ただし米ビルボードではミュージックビデオ公開効果により「Everything I Wanted」が23→10位と、「Bad Guy」よりも目立つ動きをしているのですが。

現地時間で1月26日日曜夜に発表されたグラミー賞により、米では「Bad Guy」が翌27日月曜のSpotifyデイリーチャートで6位に上昇し、翌28日も順位をキープ。この上昇は世界中でみられ、多くの国で26日より27日、さらに28日火曜と順位もしくは再生回数を伸ばしているのですが、グラミー賞直後の月曜もしくは火曜で「Bad Guy」が"1日あたりの再生回数"および"デイリーチャートの順位"の双方を更新したのは日本だけなのです。この動向は、Spotifyデイリーチャートをまとめたサイトにおける「Bad Guy」のページから判ります(→こちら)。

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非常に細かなデータですが、上記はSpotifyデイリーチャートでランクインした「Bad Guy」の国毎および世界合計データ。”Peak”はデイリーの最高位と最高再生回数を指し、必ずしも両方が同じ日に更新されるとは限らないのですが、日本の場合は1月28日火曜に両方を更新し、翌29日水曜には順位は変わらずも、最高再生回数は更新されています。

日本における最高記録の更新については、「Bad Guy」がドラマ『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』(日本テレビ 日曜22時30分)のエンディングテーマに用いられていることも影響しているとはいえます。しかしながら「Bad Guy」が昨年世界を席巻し、コーチェラ・フェスティバルでのパフォーマンスが話題となり、遂には米ソングスチャートを制する等トピックが多かった昨年ではなく、タイアップを獲得した今年でなければ記録更新に至れなかったという状況に、無論グラミー賞効果もあるとはいえこの事実には違和感を覚える自分がいます。

 

タイアップは楽曲の認知度を高める上で重要な要素ではありますが、日本で洋楽がリリース直後にタイアップに用いられることは多くないように思います。たとえばエド・シーラン「Shape Of You」は2017年1月リリースながら、同年夏クールの連続ドラマ『僕たちがやりました』(フジテレビ)に用いられ、タイアップまでに半年を要しています。

世界中で大ヒットしながら日本では当時認知度がそこまで高くなかったかもしれない(とはいえビルボードジャパンソングスチャートではトップ10入りしていた)「Shape Of You」をタイアップに用いることは、以前から曲を知る方をドラマ視聴に誘導するというスタッフの意図があるのではと思ったのですが、邪推と前置きした上で言い換えるならば、新しい曲を用いてドラマ共々ヒットさせるという意気込みが高くないのではとも思ってしまう自分がいますし、タイアップがなければヒットに至れないのかとも考えてしまうのです。

 

さらには、ラジオの影響力の弱さも気になります。

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上記「Bad Guy」のCHART insightをみると、ラジオエアプレイ指標(緑の折れ線グラフで表示)を制したのは今回が2回目。昨年5月20日付で首位を獲得した際は総合(黒)は17位という成績でした。当該週において、ストリーミング(青)は以前から幾分盛り上がれど21位止まり、そして動画再生(赤)はようやく盛り上がりはじめ66位という状況。ラジオはそれ以前から強さをみせるものの他指標が追いつかないという状況でした。最新チャートにおいてはラジオエアプレイ以外の接触指標群(Twitter含む)、さらには所有指標のダウンロードも伸びており、いわば全方位的なヒットとなったわけです。言い換えればラジオエアプレイ単独では大ヒットに至れないという状況だと捉えることも出来ます。

そういえば先月、『ザ・ベストテン』(TBS)のイントロ曲紹介についての興味深いコラムがあったのですが、そこでこんなことを思った次第。

ラジオ人の選球眼ならぬ選曲眼を研ぎ澄ませ、良い曲を自信を持って紹介し、その際きちんとイントロ乗せを行いリスナーにより刺さるように届ける…こういったことがなおざりになっていることで、リスナーが曲に触れたとしてもより好い印象を抱けず接触や所有につながらないのではないかと考えています。ラジオがいわば”響かなくなった”と思うのです。ビルボードジャパンにおけるラジオエアプレイ指標のウェイトは低く、ラジオから社会的ヒットに至る曲が減っているように思うのですが、昔はビルボードジャパンに毎週ラジオエアプレイ指標のチャートが掲載されていたわけで、それを省いたということはつまりラジオエアプレイ指標のウェイトを下げるチャートポリシー変更をが行われたものと推測します。ラジオが他指標へも波及するよう、OA曲のサブスクリプションサービスプレイリスト用意等環境を整えることも大事ですが、ラジオDJの技術力上昇等の質の向上も洋楽浮上の鍵だと考えます。

SixTONES「Imitation Rain」およびSnow Man「D.D.」は真の社会的ヒット曲になれるのか? 2月10日付ビルボードジャパンソングスチャートから考える

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点をソングスチャート中心に紹介します。

1月27~2月2日を集計期間とする2月10日付ビルボードジャパンソングスチャート、STU48「無謀な夢は覚めることがない」がシングルCDセールスを武器に首位を獲得しました。

初週のシングルCDセールスは自己最高を更新したものの、『他指標ではラジオ15位、ルックアップ11位、Twitter 16位と今少しの結果となり、コア・ファンから一般層への訴求には時間がまだまだかかりそうだ』(上記記事より)とあります。この点は2つの意味で問題です。

STU48は前作「大好きな人」が昨年8月12日付で首位を獲得しながら翌週には100位以内に残ることが出来ませんでした。今作はさすがにそこまでとはならないかもしれませんが、シングルCDセールスのみに突出した曲はライト層への浸透が出来ていないという点において”真に社会的ヒット曲に至ったとは言えない”ことは、これまでのブログエントリーからも明らか。次週の状況に注目しましょう。

 

さて前週は、SixTONES「Imitation Rain」とSnow Man「D.D.」が共に4万ポイントを超えるというハイレベルな戦いとなりましたが、今週は「D.D.」が「Imitation Rain」を逆転しています。CHART insightで総合1~5位、および曲毎にみてみると。

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『当週では「D.D.」がCDセールスで7,351枚差、動画再生でも359,984回差で「Imitation Rain」を上回った。「Imitation Rain」はラジオ、ルックアップ、Twitter、カラオケで「D.D.」を上回ったが、その差を逆転するまでには至らなかった』(上記記事より)とありますが、2曲のチャート構成比をみれば指標毎の割合はほぼ同じであり、毎週2曲が競い合いながら下降していくものと予想します。この2曲の、特にポイント前週比をみて真っ先に浮かんだのは、2組の先輩として2018年にデビューしたKing & Princeによる「シンデレラガール」でした。

「Imitation Rain」「D.D.」を「シンデレラガール」と比較すると。

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ツイートで”単純比較は出来ません”と書いたのは、2018年度にはカラオケ指標がなかったこと、「シンデレラガール」のミュージックビデオがフルバージョンではなく1分のティーザーであることが理由。Twitter指標においては今週も2組による6曲が4週連続で上位6位までを独占しており、ビルボードジャパンにおけるファンの積極的なTwitter活動が垣間見えますが、言い換えれば「シンデレラガール」の頃はそこまで積極的ではなかったと捉えることも可能(このファンによる動きは、三浦大知「Blizzard」以降目立ってきたという印象があります)。「シンデレラガール」のカラオケの火の付き方がどうだったかは分かりかねますが、今挙げた指標群を除けばこの3曲(3組)のデビュー曲の動向は酷似しています。なお、「シンデレラガール」の2019年度のカラオケ動向については先週触れています(→こちら)。

 

「シンデレラガール」が2018年度にビルボードジャパン年間ソングスチャートで12位を記録したことを考えれば「Imitation Rain」および「D.D.」が今年の年間ソングスチャートで上位に入ってくるとは思うのですが、シングルCDセールスの前週比が気掛かりなのです。「シンデレラガール」と今回の2曲では6%という壁が存在。これは2組が競い合うことで初週セールスに売上が集中したことの反動もあるでしょうが、「シンデレラガール」がドラマ主題歌であったためライト層への浸透度がより高く、シングルCDセールスに繋がったとも言えます。ジャニーズ事務所所属歌手は嵐以外サブスクリプションサービスで解禁されておらず、ゆえにライト層への浸透状況はシングルCDセールスやルックアップ(CDレンタルの動きが垣間見えます)に表れます。

ライト層への浸透の重要性は昨年の年間ソングスチャート(→こちら)を見れば明らかで、同年の年間シングルCDセールスチャート(→こちら)の上位10曲における総合ソングスチャートの最高位は欅坂46「黒い羊」の14位。総合ソングスチャートトップ10のうちシングルCD未発売(ゆえにシングルCDセールスおよびルックアップの2指標を獲得出来ない)が2曲あることを踏まえれば、ストリーミングや動画再生といった接触指標群がシングルCDセールスより重要な意味を持つことがよく解ります。そして総合ソングスチャートトップ10のうちドラマもしくは映画タイアップが6曲、『みんなのうた』(NHK総合ほか)に用いられたFoorin「パプリカ」を含めれば7曲という多さを考えると、主題歌というタイアップがライト層拡大に大きく貢献することもみえてきます。その意味では、「Imitation Rain」および「D.D.」が「シンデレラガール」並みに伸びていくのかは難しいのではというのが私見です。 

「シンデレラガール」が行っていなかった1分を超えるミュージックビデオの用意という武器はあれどフルバージョンではないため動画再生指標が大ヒットしているとは断定出来ず、ダウンロードおよびサブスクリプションサービスで未解禁の状況が続くならばライト層への浸透は高くないでしょう。ファンによるTwitter活動(ルックアップ上昇のための活動も行われていると聞きます)は押し上げ効果にはなれど、それが目立ちすぎればビルボードジャパンがウェイト減少を考えるかもしれません(個人的には、以前よりTwitter指標のウェイトは下げてもよいのではと以前から提案しています)。ならば、カラオケ指標の上昇も必要です(し現に上昇しているのは素晴らしいことです)が、ファンは彼らの所属事務所であるジャニーズ事務所に対し、ライト層の拡大のためのデジタルの充実を求めるのが最善ではないでしょうか。セルCDの実施店舗が減少し、またYUKIさんが今日全曲を、明日には嵐がアルバム全曲をサブスクリプションサービスにて解禁することで同サービスの関心がどんどん高まっていることを考えれば、ライト層の行動はCD所有からデジタルに移行していくのは確実。

勿論CD購入も選択肢のひとつですが、沼に招くにはその接点を増やさないといけないと思うのです。「そうは言っても声は届かない」という反論もあるかもしれませんが、見ている関係者は絶対にいるということは自分の経験談から断言します。

NakamuraEmi、そして彼女に影響を与えたRHYMESTERから感じる”音楽の力”、そしてその言葉へ嫌悪感を表明する者への私見

1月の私的ベストに挙げた、NakamuraEmi「東京タワー」。この曲を収録したベストアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST 2』が今日リリースされました。

私的ベストは下記に。

メジャーデビューして以降彼女の動向を追いかけてきた身には、曲が発表されるたびに心を掴まれてきましたが、今回の「東京タワー」は聴く度に落涙必至なんですよね。素晴らしいです。

そのNakamuraEmiさん、自身の音楽活動に強い影響をもたらしたのがヒップホップ、そしてRHYMESTER

28、9歳の頃に初めてヒップホップを聴きました。RHYMESTERさんを聴いた時に、人生のこと、家族のこと、世界のこと、平和のこととか、こんなこと歌ってたんだ!って驚いたんです。いままで、恋愛の曲で人を感動させたいと思って歌っていたのが恥ずかしくなって、完全に人生観が変わりました。

NakamuraEmiの歌に息づく人生―ヒップホップから得たリアリズムが特別なドラマ生み出した新アルバムを語る | Mikiki(2017年3月9日付)より

RHYMESTER宇多丸さんがパーソナリティを務める『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ 月曜19時)のライブコーナーに今週月曜出演し、「東京タワー」を含むベストアルバム収録の新曲3曲を披露していました。これも胸に来るものがありました。

(※radikoタイムフリーは2月10日29時まで聴取可能。首都圏エリア以外の方は有料サービスに加入の上でチェック出来ます。)

NakamuraEmiさんが今回のベストアルバムのために用意した新曲のひとつが「ふふ」。この曲は児童虐待問題をテーマに書き下ろされたものだそう。そしてこの曲の制作に大きな影響を与えたのがRHYMESTER「Hands」だとラジオで話し、一足先にアルバムを聴いていた宇多丸さんが恐縮しきりだったのが印象的でした。

「N」ではパラアスリートの中西麻耶さんを応援し、大人でもなければ子どもでもない者としてのメッセージを「大人の言うことを聞け」で示し、等身大の人間の心の脆さを「東京タワー」に込め、今ある切実な問題を受け止めて「ふふ」にしたためる…NakamuraEmi さんが『人生のこと、家族のこと、世界のこと、平和のこととか』を込めた歌に、大なり小なり彼女から力を受け取る方は少なくないでしょう(『』内は上記Mikikiの記事より)。自分がそうですし、何よりその力の存在をNakamuraEmiさんも信じているはず。そして彼女が一筋の光明を、希望を音楽に込める理由は、RHYMESTERという先達の存在ゆえでしょう。アルバム『POP LIFE』(2011)に収められた「Hands」は、宇多丸さんさんがパートナーを務めた『小島慶子 キラ☆キラ』(2009-2012 TBSラジオ)がきっかけのひとつになったと記憶しています(「Hands」のこと - rhymester blog|starplayers(2011年2月24日付)参照)。

そういえば「東京タワー」を初めて聴いた後、東京タワーが出てくる曲でプレイリストを作ろうと思ったのですが、真っ先に浮かんだのがアルバム『POP LIFE』のタイトルトラックでした。ここにもNakamuraEmiさんとRHYMESTERのつながりを感じます。

この『POP LIFE』リリースから間もなく、3月11日に未曾有の災害が発生してしまいます。絶望に苛まれる中、実質的にアルバムの冒頭を飾る「そしてまた歌い出す」が翌日のラジオ番組でかかったことは、間違いなく希望になりました。

2016年に発生した熊本地震の際にも、宇多丸さんは直後のラジオ番組で「そしてまた歌い出す」をベースにしたDJ HAZIME feat. RHYMESTER, PUSHIM「そして誰もが歌い出す」をOAしています。RHYMESTER等が曲に希望を込め、音楽の力を信じているからこそ、復興を願う思いを曲に乗せて伝えたかったはずです。

 

この”音楽の力”について、坂本龍一さんの発言が今週Twitterにて話題になりました。

自分はソウル・フラワー・ユニオンの意見にかなり共感します。

受け手として書くならば、音楽の力が存在するかはその人の考え方次第でしょう。受け手にせよ発し手にせよ、どう考えるのはその人の自由ですが、しかし音楽の力がないと思う派の人間が、音楽の力があることに嫌悪感を露呈し、それを伝える者が誇大に記載し、同調する支持者がこぞって持ち上げるのは違和感を覚えます。

メディア等が過剰に演出して強制的に音楽の力がとか絆がなどと言うことへの違和感はありますが、個人的には音楽の力があると考えています。しかしその考えが、個人的嫌悪感を社会的な正義とすり替えた者によるスクラムに圧迫されそうな気がしてなりません。音楽は発し手受け手共に自由であり、発し手が社会的テーマを用いることも自由であってほしいと思いますし、それが受け手の力になれたのならば好いことではないでしょうか。個人的嫌悪感を持つのは自由でも、それを武器にして誰かの受け取る力を削いだり否定するやり方は全くもって歓迎出来るものではありません。

ロディ・リッチ4連覇、ビリー・アイリッシュがグラミー賞効果で返り咲き…2月8日付米ソングスチャートをチェック

ビルボードのソングスチャートをチェック。現地時間の2月3日月曜に発表された、2月8日付最新ソングスチャート。ロディ・リッチ「The Box」が4連覇を達成、またグラミー賞主要4部門を制覇したビリー・アイリッシュ「Everything I Wanted」がトップ10に返り咲き、さらに前年のグラミー賞最優秀新人賞の覇者、デュア・リパによる「Don't Start Now」が新たにトップ10入りを果たしました。

ミュージックビデオが未発表ながらストリーミングの強い「The Box」は、前週比11%ダウンしながらも6700万を獲得し同指標5週目の首位をキープ。ダウンロードは同14%ダウンの11000(同16位)となった一方、ラジオエアプレイは同38%アップの3520万を獲得し同指標25位に上昇。アルバム『Please Excuse Me For Being Antisocial』も最新米ビルボードアルバムチャートで通算3週目となる首位を獲得しています。

ポスト・マローン「Circles」(今週3位)に変わってラジオエアプレイを制したのはマルーン5「Memories」。前週比4%アップの1億260万をマークし、この指標で7曲目となる首位を獲得しました。ラジオエアプレイ指標が1990年にローンチされて以降、マルーン5の首位獲得曲数は歴代4位タイ。リアーナの13曲、マライア・キャリーの11曲、ブルーノ・マーズの8曲に続き、ケイティ・ペリーおよびアッシャーと並びました。

デュア・リパ「Don't Start Now」が6ランクアップの9位に入り、新たにトップ10入り。ラジオエアプレイは前週比12%アップの6760万(同指標7位)、ストリーミングは同6%アップの1430万(同23位)、ダウンロードは同12%アップの11000(同15位)と全指標が上昇。彼女にとってのトップ10入りは「New Rules」が2年前の2月に6位を獲得して以来2曲目。昨年のグラミー賞、最優秀新人賞の覇者でもあります。

そのグラミー賞、今年は現地時間の1月26日日曜に開催。2月8日付米ビルボードソングスチャートの集計期間はストリーミングおよびダウンロードが1月24日金曜から、ラジオエアプレイが1月27日月曜からの1週間となり、今週のチャートはグラミー賞効果も反映。主要4部門を史上2組目、クリストファー・クロス以来39年ぶりに制覇したビリー・アイリッシュは、昨日発表されたアルバムチャートで『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』が7ランクアップの3位に入り、ユニット数も前週比77%上昇しています。そしてその勢いはソングスチャートにも反映。

アルバム以降初の新曲となる「Everything I Wanted」が前週の23位から10位に入り、昨年11月30日付で8位を獲得して以来のトップ10返り咲き。1月23日にビリー自身が監督したミュージックビデオが公開されたこと、そして先述したグラミー賞効果で全指標が急伸し、ストリーミングは前週比48%アップの2130万(同指標6位)、ダウンロードは同105%アップの15000(同10位)、ラジオエアプレイは同17%アップの3560万(同24位)となっています。またこの勢いは他の曲にも波及し、「Bad Guy」は前週の41位から17位に再浮上。ダウンロードは前週比185%アップの20000(同指標3位)、ストリーミングは同50%アップの1630万(同18位)を獲得しています。

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (1位) ロディ・リッチ「The Box」

2位 (2位) フューチャー feat. ドレイク「Life Is Good」

3位 (4位) ポスト・マローン「Circles」

4位 (5位) マルーン5「Memories」

5位 (8位) ルイス・キャパルディ「Someone You Loved」

6位 (6位) ダン+シェイ&ジャスティン・ビーバー「10,000 Hours」

7位 (7位) トーンズ・アンド・アイ「Dance Monkey」

8位 (9位) アリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」

9位 (15位) デュア・リパ「Don't Start Now」

10位 (23位) ビリー・アイリッシュ「Everything I Wanted」

そういえば今年のグラミー賞効果は「Someone You Loved」にも表れていますね。尤もこの曲はルイス・キャパルディが当日パフォーマンスしたのではなく、司会を務めたアリシア・キーズがこの曲を用いてグラミー賞出席者の名前を取り込んだ替え歌を披露した形ですが、アリシアの機転の利き方も相俟ってチャートを上昇したのではないかと推測します。

2020年1月の私的トップ10ソングス、選出しました

音楽聴取の環境変化を機に、新しい音楽に触れる楽しさを再認識しています。そこで出来る限り毎月、その月によく聴いたりハマった曲を10曲取り上げることにします。その前の月にリリースされているものを主に、しかしその縛りは出来る限り緩くしようと思います。

 

10位 アリシア・キーズ「Underdog」

J-WAVEチャート(『TOKIO HOT 100』(日曜13時))でトップ3入りを果たしたアリシアのミディアムチューン。ヒップホップにも通じるビートだと思ったらソングライターにはエド・シーランの名があり、なるほど「Shape Of You」の流れだと思いつつ、このキャッチーさと背中を押すメッセージには逆らえません。先月開催されたグラミー賞の司会も見事で、3月のアルバムが楽しみです。

 

9位 w-inds.「DoU」

曲のジャンルが多岐に渡れどサビのクールダウンで一気に締まる印象、そして米国の演出手法を踏襲したミュージックビデオが、w-inds.の音楽性の豊かさや醸し出す雰囲気の大人っぽさを示しています。今回も橘慶太さんによる作品で、もはや彼の作品に間違いはないのだと実感。

 

8位 dvsn「A Muse

ズルいですこれは。ジェイ・Zも「Dead Presidents」(1996)で用いたロニー・リストン・スミス「A Garden Of Place」をサンプリングし、ビートを織り交ぜた後にゆっくり深層に向かうかのようなメロディではじまる…これだけで降参してしまいました。美しすぎます。

 

7位 H ZETTRIO「レソラ」

元は昨年11月にリリースされた曲が、元日にリリースされたアルバム『RE-SO-LA』に収録されたことでSpotifyJ-WAVEで注目され、それらを機に遅ればせながら知った次第。美しさと軽快さ、時折入るシンセの効果でちょっと80年代感を醸し出すように感じられるのも◎。先のdvsn同様、80年代を意識した音は今年も流行しそうです。

 

6位 Rina Sawayama「Comme des Garçons (Like The Boys)」

遂にこの春リリースされるファーストフルアルバム『Sawayama』からの先行曲は、強さと靭やかさを湛え一切の隙がないアップ。『情熱大陸』(毎日放送/TBS 日曜23時)で昨年遅ればせながら彼女の存在を意識したのですが、イギリスから世界にその名を轟かせるのに「Comme des Garçons (Like The Boys)」は間違いなく名刺代わりとなることでしょう。

 

5位 Official髭男dism「I LOVE...」

アルバム『Traveler』から間を空けずにドラマ主題歌提供…どこにそのストックがあるのかと不安になりましたが、心配は杞憂でした。変則的な構成、ゴスペル的ハンドクラップの導入など随所に彼ららしさを織り交ぜ、それでいて難解さは感じさせません。サブスクは長尺は望まれないと言われる中、4分42秒の「I LOVE...」は現在ヒット中。5分強の「Pretender」の大ヒットにより、流行に即するのではなくただただ好い曲を作るという姿勢が徹底されているように思います。

 

4位 香取慎吾 feat. WONK「Metropolis」

ブギーテイストな音像に香取慎吾さんの声がこんなに合うとは!といい意味で驚かされた元日発売のアルバム『20200101』収録曲。新鋭からベテランまで招き彼らの個性を大切にしながら、しかしアルバムを通して聴くと紛うことなき香取さんの作品に仕上がっています。様々なアレンジをこなす歌声の器用さが、曲の世界観をよりふくよかにさせるのだと実感。J-WAVEチャートでトップ10入りしたのも納得です。

 

3位 アッシャー feat. エラ・メイ「Don't Waste My Time」

グラミー賞におけるプリンストリビュート、およびこの曲でもって”アッシャー復活!”と言い切ってよいでしょう。16年前に大ヒットした『Confessions』の続編たるアルバムを制作中とのことですが、そこでも参加したジャーメイン・デュプリ&ブライアン・マイケル・コックスが手掛けたこの曲は当時の薫りを思い出させ、それでいて古くない絶妙な仕上がりに。

 

2位 BTS「Black Swan」

リル・ナズ・X「Old Town Road」にビリー・レイ・サイラス等と共に客演参加しグラミー賞でパフォーマンスした姿にK-Popの凄さをあらためて思い知ったのですが、その前にリリースされたアルバムからの先行曲がこちら。華麗でありながら不穏な空気も湛え、危ういバランスを完璧に保つ姿は見事。

 

1位 NakamuraEmi「東京タワー」

はじめて聴いたのは地元のラジオ番組でしたが、平日昼の番組から流れてくるこの曲に心の中で号泣。フルOA後にラジオDJ陣が一瞬沈黙したのはこの曲に自分同様心をえぐられたからではないかと。サビのビブラートしながら音階が落ちていく歌唱法、2番のサビに至るまでのヒップホップ的アプローチ、さらには"40歳近くにもなって…"のくだりが本当に刺さります。ライブ、絶対に行きます。

 

今月も素晴らしい音楽に出会えることを願っています。

『関ジャム 完全燃SHOW』”売れっ子プロデューサーが選ぶ年間ベスト10”企画で選ばれた歌手が”売れた”状況になるために必要なこと

先月放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日 日曜23時10分)のこの企画。

楽家3名が選んだランキングは下記に。選者のコメントも記載されています。

 

昨年にも同様の企画が放送され、複数名に取り上げられた中村佳穂さん等にはチャート上でOA効果がみられました。

2019年版ベストで複数名に選ばれたのはOfficial髭男dism、RADWIMPS、miletさんおよび長谷川白紙さんの4名。特に長谷川白紙さんについては、複数名の選出と判った瞬間にMCの村上信五さんが”売れた”と言っていたのが印象的だったのですが、ではチャート上にその影響は表れたのでしょうか。

放送中に日付が変わり、そこからの1週間が集計期間となる2月3日付ビルボードジャパンソングスチャートでは、2名が選出した「あなただけ」を含む長谷川白紙さんのアルバム『エアにに』は総合アルバムチャート100位以内にはランクインせず(同日付アルバムチャートはこちら)、CDセールスチャート(→こちら)でも100位以内には入らなかった一方、ダウンロードチャート(→こちら)では100位に登場しています。ダウンロードでいくら売れたのかは不明ですが、10位のKing Gnu『Sympa』が727ダウンロードであるため、『エアにに』の売上は数百かと思われます(また、番組放送中に当週の集計期間に突入したことを踏まえれば前週ある程度売れたのかもしれません)。2月3日付ダウンロードアルバムチャートの詳細は下記をご参照ください。

この状況を考えるに、「あなただけ」を収録した『エアにに』はセールスを主体としたビルボードジャパンアルバムチャートにおいて売れたと判断するのは難しいかもしれないと思うのですが、いかがでしょう。一方、ソングスチャートにおいては総合、ダウンロードおよびストリーミングにおいて、100位以内に「あなただけ」は入っていません。

この状況を踏まえれば、先の”売れた”発言には疑問を覚えるのです。長谷川白紙さんに対する”売れた”発言にはじめて触れた際の自分の素直な感想を引用します。 

長谷川白紙さんを選出した蔦谷好位置さんは『長谷川白紙さん・君島大空さんの他に、諭吉佳作/menさん、崎山蒼志さんなどの若い才能が集まっている。何十年に1回でるかの人がゴロゴロいる!!と絶賛』しています(『』内は上記moraの記事より)。ならば彼らについて『関ジャム 完全燃SHOW』はまとめて取り上げてはいかがでしょう。それこそが番組の責務であり、自分が望む形であり、そして厳しい物言いにはなりますが安易に”売れた”という言葉を用いた村上信五さんの責任のとり方なのではないかとすら思うのです。無論、売れたイコールセールスとは限らないですし、昨年の中村佳穂さんについては企画後に特集が組まれたわけではないのですが、是非ともまずは彼らの特集を組んでほしいと思います。