イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

香川県のネット・ゲーム依存症対策条例がフラッシュバックさせた16年前の悪しき法改正、その共通点および大事なこと

ネット上で大きな話題になった、香川県のネット・ゲーム依存症対策条例の成立については、たとえそれがザル法だとしても恐ろしい前例が生まれたものと考えます。

この条例について、『ライムスター宇多丸とマイゲーム・マイライフ』(TBSラジオ 木曜21時)のパーソナリティも務めるRHYMESTER宇多丸さんが、先週木曜の『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ 月-金曜18時 以下『アトロク』)のオープニングにて科学者の井出草平さんに、その問題点や成立過程等を伺っています。

 

この問題から個人的に思い出したのは2004年の著作権法改正における輸入盤CD規制問題でした。海外から日本に逆輸入された邦楽CD(いわゆる還流盤)の存在がCDの売上を逼迫しているゆえ止めるべきというのが大義のはずなのに、最終的には輸入盤CD全体が止まりかねない著作権法改正が成立されてしまったのです。この件についてはWikipediaに詳しくまとめられています。

この時期に時間があった自分は、この問題を追いかけ続けたブログを綴っていました。そのブログは以前弊ブログで紹介しましたがあらためて。今よりかなり言葉が荒いことをご了承ください。

 

2004年の著作権法改正と今回とでは共通項が多くあります。反対に回る議員が存在しながら結局は数の論理で条例が可決したこと、条例がネットを中心に稀代の悪法として受け止められているのも同じ。2004年の著作権法改正法案で多くの賛成を生んだ一因が、改正を訴える者が規制対象CDを還流盤ではなく海賊盤と流布していたことにあり、賛同者のひどい言葉や意識で煽るというやり方も酷似していると捉えています。

そして、パブリックコメントの開示があまりにも歪なのも同様。今回は条例可決の直前に一部のみ開示され、可決後は一部のみに、それも時間を限定して公開するという手段を採っています。

一方で2004年の著作権法改正におけるパブリックコメントの開示も、当初一部に限定されていました。可決の1週間ほど前になってようやくその全文がオープンになりましたが、その内容は組織票等、賛成の立場に立つ者の明らかな悪用がみられたのです。

やましいことがないならば開示しても何ら問題ないはず。それを開示しないというアクションがあるだけで、法律や条例を制定したい者の”意図”が見えると思うのです。

 

一方で相違点もあります。香川県のネット・ゲーム依存症対策条例についてはゲームや通信といった業界がいわば静観という姿勢を採っていることに対し、2004年の著作権法改正法案可決直後にはCDショップの大手であるタワーレコードHMVが共同声明を発表、法案の悪用を監視することを宣言しています。

輸入盤CDはほとんど規制されることなく現在に至っていますが、これはタワーレコードHMVが法案悪用を防ぐべく”監視する”という姿勢を示したことが大きいと考えます。現在ではCD全体の売上が減ってきているとはいえ、この監視がなければ尚の事下がっていたのではないかと思うのです。

他方、ゲーム等業界側においては今回の条例制定前から既に対策済ゆえ静観で問題ないという姿勢なのでしょうが、たとえば秋田県大館市等が条例の検討を行う(自分のすぐ近くの自治体ゆえ、尚の事愕然としています)等、香川県の条例制定が他の地方自治体へも波及し、いずれ国も…という可能性を孕んでいるのです。科学的根拠を無視し、半ば精神論を優先する者にとって香川県が恰好の前例となったわけですから尚の事。ならば業界側はその権力者の暴走を防ぐべく、先のタワーレコードHMVの共同声明のような動きを見せないといけないと思うのです。

 

『アトロク』の宇多丸さんや宇内梨沙アナウンサーが感じた不条理は、リスナーや文字起こしを読んだ方のみならず多くの方にとっての共通認識となったはずです。条例自体に反対の声を出し続けることも必要ですが、ならば、井出草平さんが指摘していた香川県における『7割の選挙区が無投票で決まってる』ことによる、科学より精神論を押し付けるような『有力議員が主導をすると逆らえない』という、はっきり”惨状”と言える状況を知り、変えようとする気概を持つことが重要だと思います。愚かな考えを是とする方に大事な一票を投じないこと、投票しなければそういう方が当選してしまう可能性が高くなってしまうことを意識すれば、選挙に関心を持つことや投票することが如何に大事かが良く分かるはずです。自分は2004年の著作権法改正問題以降この意識を強く掲げるようになりましたし、RHYMESTERの掲げるこの曲がより強く響いてくるのです。

「The Box」11連覇、ハリー・スタイルズ「Adore You」はラジオ企画でトップ10入り、次週はザ・ウィークエンドが席巻? 3月28日付米ビルボードソングスチャートをチェック

ビルボードのソングスチャートをチェック。現地時間の3月23日月曜に発表された、3月28日付最新ソングスチャート。ロディ・リッチ「The Box」が首位獲得週数を11に伸ばし、ハリー・スタイルズが「Adore You」でソロ2曲目となるトップ10入りを果たしました。

通算26曲目となる11週以上首位獲得の仲間入りを果たしたロディ・リッチ「The Box」。ストリーミングは前週比8%ダウンの4140万(同指標12週目の1位)、ダウンロードは同18%ダウンの8000(同7位)、ラジオエアプレイは同1%ダウンの6500万(同11位)。遂にラジオエアプレイもダウンに転じ、次週首位入れ替わりの可能性が出てきました。

その急先鋒に立つのがザ・ウィークエンド「Blinding Lights」。

ダウンロードは前週比28%ダウンながら16000を獲得し同指標を制覇、ストリーミングは同3%ダウンの2080万(同5位)、ラジオエアプレイは同13%アップの7270万(同5位)。ザ・ウィークエンドは先週アルバム『After Hours』をリリース、次週のアルバムチャートで初登場を果たすタイミングで「Blinding Lights」等収録曲が上昇する見込み。たとえば米Spotifyデイリーチャートをみると、3月20日に『After Hours』収録の14曲(デラックス・エディション収録のリミックス等は除く)が16位までにすべて登場し、同日「Blinding Lights」が初制覇。トップ10入りは20日以降9→9→8曲と推移しています。ザ・ウィークエンドは次週のチャートにおいてトップ10に大量エントリーを果たす可能性があり、ドレイクが2018年7月14日付においてアルバム『Scorpion』初登場週にソングスチャートトップ10に7曲送り込んだ記録にどこまで近づくのか注目です。

なお、前週3曲をトップ10に送り込んだリル・ウージー・ヴァートは今週トップ10から姿を消しました。アルバムリリースの翌週にデラックス・エディションをリリースし、2週連続でアルバムチャートを制しているのですが、デラックス・エディションのみ収録曲もトップ10入りは果たせませんでした。

2週連続でラジオエアプレイを制したデュア・リパ「Don't Start Now」は、総合では「Blinding Lights」に抜かれ3位にダウン。しかしラジオエアプレイは前週比2%アップの9990万となり1億超えが目前に迫っています。そしてハリー・スタイルズ「Adore You」が9ランクアップで7位に入り、3年前に「Sign Of The Times」が4位に登場して以来、2曲目のトップ10入りを果たしました。

ラジオエアプレイは前週比8%アップの7600万を獲得し同指標4位、ダウンロードは同15%ダウンの6000(同指標17位)、ストリーミングは同6%ダウンの1070万(同40位)。トップ10入りには、NPRでのタイニー・デスク・コンサートの模様が今月16日に公開されたことが寄与しています。

タイニー・デスク・コンサートについては弊ブログでもつい先日紹介しました。ラジオ局の企画がチャートに影響を与えていることが強く実感出来ます。

ハリー・スタイルズは活動休止中のワン・ダイレクションのメンバーであり、脱退したゼイン(・マリク)に次ぐ2曲目のトップ10入りを果たしたことに(ゼインは「Pillowtalk」が2016年に首位を獲得し、翌年にはテイラー・スウィフトとの「"I Don't Wanna Live Forever (Fifty Shades Darker)」が2位に)。他のメンバーでは、リアム・ペインがクエイヴォを招いた「Strip That Down」で2017年に10位を獲得しています。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (1位) ロディ・リッチ「The Box」

2位 (4位) ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」

3位 (2位) デュア・リパ「Don't Start Now」

4位 (3位) フューチャー feat. ドレイク「Life Is Good」

5位 (5位) ポスト・マローン「Circles」

6位 (7位) アリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」

7位 (16位) ハリー・スタイルズ「Adore You」

8位 (10位) ジャスティン・ビーバー feat. クエイヴォ「Intentions」

9位 (15位) ルイス・キャパルディ「Someone You Loved」

10位 (14位) ビリー・アイリッシュ「Everything I Wanted」

次週はザ・ウィークエンド、そして日曜にアルバム『3.15.20』を突如解禁したチャイルディッシュ・ガンビーノの動向に注目です。

レディー・ガガのSpotifyキャンペーンは”プリセーブ”目的? ならばどこを改善すべきか

昨日はサブスクにおけるスマートなキャンペーンはないものか?について、個人的に違和感を覚える事案を例示し、疑問を呈しました。

レディー・ガガのキャンペーンはこちら。

このブログエントリーから数時間後、デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミさんが寄稿した内容に、レディー・ガガの施策は有る種のプリセーブ(Spotifyにおけるプリアドとほぼ同じ)なのかもしれないと思った次第です。

 

実際、レディー・ガガのニューアルバム『Chromatica』をプリセーブしようと、下記のリンク先をクリック(タップ)すると。

以下の画面が登場します。

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”PRE-SAVE ON SPOTIFY”をクリック(タップ)するとこの画面に。

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(※これらキャプチャは今回のプリセーブ紹介のために用いました。問題があれば削除いたします。)

”お客さまは…”からはじまる文章は、昨日のキャンペーン経由で登場した画面(昨日のブログエントリー参照)と一部文言の違いはあれどほぼ同じことが解ります。やはり、昨日紹介したキャンペーンは、プリセーブに近いのかもしれません。そしてアクティビティを見ることを許可することで、プリセーブした方の動向を歌手側やレコード会社側が把握出来るようになるわけです。

 

ならば今回のキャンペーンにおいては、昨日書いた疑問を解消すべく『自分のお気に入りやプレイリスト、ライブラリなどに自動で作品が追加され』『配信初日から聴き逃がすことなくストリーミングで楽しめる』(上記ジェイ・コウガミさんのツイートのリンク先より)と伝えたほうが俄然良かったのではないでしょうか。そして同時に、ユーザーのアクティビティを分析して”レディー・ガガが好きな方にはこの歌手もオススメする等のコンテンツを用意する”とも説明したほうが、ユーザーの前向きな参加につながるものと考えます。個人情報提供に敏感な方、流出を恐れる方は少なくないだろうと思われ、その不安をどう和らげていくかについて、きちんと考える必要があるでしょう。

また、昨日紹介したレディー・ガガのキャンペーン参加者に対し、実際にアルバム『Chromatica』がリリースの瞬間に自動でプレイリストに加わるのかについては、キャンペーンの文言からは断定出来ません。この点についてはレコード会社側が明確に打ち出すべきだと思うのです。尤も、日本のレコード会社には接触よりも購入という考えが未だに強く根付いているゆえ敢えてそれは行わないということなのでしょうか…さすがにこれは邪推ではあるのですが。

(追記あり) サブスクを使用したキャンペーン、もっとスマートなものはないものか? レディー・ガガ、テイラー・スウィフトの例から考える

サブスク再生回数がヒットの鍵を握ることは、このブログでビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートを追いかけていればよく解ります。米ビルボードにおいては曲単位の再生回数がアルバムチャートにも換算されるゆえ尚の事。ならば今後、サブスクで再生回数を稼ぐために様々なキャンペーンが練られるのは自明といえます。

 

この度、レディー・ガガがキャンペーンを展開しています。

レディー・ガガはニューアルバム『Chromatica』を4月10日にリリースすることから、アルバムが出たタイミングでより多くの方に知ってもらうべくレコード会社が今回のキャンペーンを打ったと言えるでしょう。

 

当初、このキャンペーンには好感を抱いていました。というのも、同じユニバーサルミュージックに所属するテイラー・スウィフトが昨年来日するタイミングで、LINE MUSICにてキャンペーンが展開されたのですが。

(※キャンペーンは既に終了しています。)

テイラー・スウィフトに会える!と謳ったキャンペーンに当選するためには、『「ME! (feat. Brendon Urie of Panic! At The Disco) (feat. Brendon Urie)」をより多くLINE MUSICでフル尺再生で聴いた上位30名様』に入らないといけないのです。時間の有る方が該当曲を四六時中流しっぱなしにしないといけないこのキャンペーン、当選するのは有る種簡単かもしれませんが、それがユーザーのライフサイクルに支障をきたしかねず、またチャート上で不自然な動きを生み出した点においてもこのやり方は支持できないと以前厳しく指摘しました。

その前例があるゆえ、再生回数の多いほうが勝ちとしないレディー・ガガのキャンペーンに当初は賛同したのですが、キャンペーンサイト経由で”(Spotifyにて)レディー・ガガをフォロー”をクリック(タップ)し、出てきたポップアップに疑問が。以下はその内容。

Universal Music

お客さまは Universal Music に以下の事項を許可したものとみなされます。

アカウントのデータをみる

メールアドレス

生年月日

名前とユーザー名、プロフィール画像Spotify でのフォロワー数、公開プレイリスト

アクティビティーをみる

最近再生したコンテンツ

あなたのトップアーティストとコンテンツ

フォローしている人

アカウント上での Spotify の操作

プレイリストの作成、編集、フォロー

フォローしている人の管理

キャンペーンの同意が個人情報の引き換えとイコールであるということは他のキャンペーンでも同じでしょう。しかし、プレイリストが作成もしくは編集されかねないとなると、さすがにそこまで許していいのか?と思うのは自分だけでしょうか。ユニバーサルミュージックというきちんとしたレコード会社ゆえ悪用はないだろうと信じたいのですが、たとえばTwitterにて勝手にDMが送られてきたり、ユーザーが使用するタイミングで連携に同意したことは解れども質問コンテンツが本人の意志とは関係なくツイートされるのを見るにつけ、やはり慎重になるべきだと思う自分がいます。もっとスマートなサブスクキャンペーンはないものか…と思わずにはいられません。

 

ちなみに、レディー・ガガのキャンペーンにおける当選内容は高級焼肉店のお食事券。しばらくピンと来なかったのですが…おそらくこのことですね。思い出すまでに時間がかかってしまいました。

 

(※追記(3月23日7時36分):翌日のブログにてもこの件について触れていますので是非ご参照ください。リンク先は下記に。)

”タイニー・デスク・コンサート”は日本でも広がっていく? 今月登場した企画群から考える

昨日、弘前駅前の商業施設ヒロロにTSUTAYA BOOKSTOREがオープンしました。

自分も昨日伺いましたが賑わっていました。子ども向けの勉強スペース(的なところ)があることも好い試みだな。一方で、CD販売スペースが見当たらなかったところに時代の流れを感じずにはいられません。

ヒロロの建物は元々ジョッパルという商業施設でしたが、たとえば地下の食料品売場は天井のダクト等がむき出しになっており、”安かろう悪かろう”な時代を象徴する建物という印象がありました。ヒロロになってからそのイメージは薄れましたが、今回のリニューアルに際しエレベーター周りの壁紙もシックにしていたのを見て、ヒロロのリニューアルの本気度を感じた次第です。

 

さて、このリニューアルを象徴するのが、今回のCMにあります。

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(CMはYouTube未公開のため、CM内容紹介の目的でキャプチャを行いました。問題があれば削除いたします。)

今回起用されたのは、長野県伊那市出身のバンド、FAITHによる「Party All Night」。このミュージックビデオがCMに踏襲されています。

「Party All Night」は今年1月にリリースされたメジャーファーストフルアルバム、『Capture it』の冒頭を飾り、ビルボードジャパンソングスチャートを構成する8指標のうちラジオエアプレイでは首位を獲得しています。

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「Party All Night」はアルバムがチャートに初登場を飾る前週(1月20日付)で総合でも最高位となる38位を獲得。ピークがアルバム初登場週ではなかったこと、ラジオエアプレイとTwitterの指標のみでランクインしたというところに課題はありますが、ラジオに長けたオフィスオーガスタ所属ということもプラスに作用しているのかもしれません。そのFAITH「Party All Night」を、曲のリリースから2ヶ月以上経過はしているもののリニューアルCMに起用したヒロロの戦略は、鮮度の高さを訴求する意味では上手く行っているように思うのですがいかがでしょう。

 

さて、FAITHは最近、このような動画をアップしています。

自身の楽曲「Yellow Road」のライブ動画、FAITHのホームページによると”TINY FAITH CONCERT”企画の一環とのこと。

これ、アメリカのラジオ局NPRが行っているタイニー・デスク・コンサートを意識していますよね?

つい最近はコールドプレイも登場。ゴスペル風な「Viva La Vida」の格好良さに浸れます。

FAITHの場合はカメラが1台しかない等、タイニー・デスク・コンサートと大きく異なるのですが、アコースティックを基調とした演奏であることも含め、NPRの企画を意識しているのは間違いないはず。そしてタイニー・デスク・コンサート的な動きはこんなところにも。

昨日放送された『J-WAVEトーキョーギタージャンボリー〜六本木場所』(J-WAVE)は、3月上旬に両国国技館で開催予定だったものの新型コロナウイルスにより中止を余儀なくされたイベントの出演者をラジオ局に招き行われたライブ特番。スタジオのみならずオフィスにもライブスペースが設けられました。周囲のガチャガチャ感がないのはJ-WAVEだからかもしれませんが、ここにもタイニー・デスク・コンサートの息吹がみられたような気がします。

ライブの自粛が続いてしまいかねない状況にあって、このような形でのライブ(配信)は今後増えていくのかもしれません。ならば動画のアーカイブ化、およびチャート面を踏まえればISRC(国際標準レコーディングコード)の付番もお願いしたいところです。

シングルCDセールスが目立つ歌手の弱点とは?ロングヒットに至らせるための方法を考える

一昨日発表された、3月23日付ビルボードジャパンソングスチャート。Official髭男dism「I LOVE...」の勢いの凄まじさについては昨日触れました。

そしてこの勢いは、ビルボードジャパン以外の媒体でも伝えられています。

他方、今週シングルCDセールスで首位を獲得したジェジュンBrava!! Brava!! Brava!!」は5位に登場。前週総合首位を獲得し、今週はシングルCDセールス2位となったJO1「無限大」は6位に。シングルCDセールスに長けながら上位に至れない状況となっています。

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総合チャートおよびチャートを構成する8つの指標の順位が一覧化されたCHART insightから最新週における1~7位を抜き出してみると、5位と6位が似通った動きをしており、一方で1~4位および7位が似ています。後者においてはそれぞれの曲のチャート構成比がロングヒットの法則をなぞっています(一部異なる部分もありますが、それについても下記ブログエントリーにて言及しています)。

この法則を踏まえて、5位および6位のCHART insightを見てみましょう。

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ジェジュンBrava!! Brava!! Brava!!」およびJO1「無限大」の特徴は、①シングルCDセールスに対しルックアップの順位が低い、②Twitterの順位が高い、③ストリーミングおよび動画再生という接触指標群の順位が低い…とまとめることが出来ます。そしてこの3つの特徴は、アイドルやK-Pop(の日本向け作品)等によくみられる傾向であり、この3点の克服こそがロングヒット、広く日本全体に親しまれるために必要なことと言えるでしょう。

 

まずは①、【シングルCDセールスに対しルックアップの順位が低い】について。ルックアップとは、パソコン等にCDを取り込んだ際にインターネットデータベースにアクセスされる数のことですが、この乖離について、昨年度以降首位もしくは2位を獲得した曲で比較してみましょう。

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順位の[ - ]は100位未満300位以内を、[   ](ブランク)はシングルCD未リリースによるカウント対象外を指します。シングルCDセールスに強いAKB48グループがシングルCDセールスを制しても同週のルックアップの順位は1位を獲れないことが多く、そこから売上枚数に対する購入者数(いわゆるユニークユーザー数)の多くなさが見て取れます。また[   ]のうち黄色で示したものは、シングルCDをリリースしながらもルックアップが300位に満たないことを示します。2019年度以降に該当する2曲(MONSTA X 「Alligator」およびMAG!C☆PRINCE「Try Again」)は2位獲得の翌週、100位圏外へ急落しています。

シングルCDセールスに長けた曲がルックアップで思うような順位を獲得出来ないことについては、(a)ユニークユーザー数が多くない、(b)パソコン等に取り込む人の割合が高くない、(c)レンタル数が多くない…ことが予想されます。特に(c)においては、今週リリースされたAKB48のシングルですら行きつけのレンタル店で2枚程度しか在庫が置かれておらず、今週シングルCDセールス11位ながらルックアップを制したOfficial髭男dism「I LOVE...」(総合1位)の5分の1程度の在庫数に。予算やレンタルされやすい作品の傾向を踏まえれば、レンタル店側が男性アイドルグループやK-Pop等においては名の知られた歌手を優先することが予想され、他のアイドル等は置かれないかもしくは置かれても極少数という可能性が高いのです。その点を考慮すれば、レンタルチェーンに対し在庫の拡充を働きかけることが大切になってくるものと思われます。

 

続いては②、【Twitterの順位が高い】について。

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最新3月23日付ビルボードジャパンソングスチャートのCHART insightから、Twitterの上位を抜き出したものが上記。ジェジュンさんの最新シングルCD収録の2曲、JO1のファーストシングルから「無限大」を含む3曲、さらに1月に同時デビューしたジャニーズ事務所所属のSixTONESおよびSnow ManのシングルCD表題曲が7位までを占めています。実はこのようなアイドル等が占める傾向はここ1年で顕著になってきています。

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SixTONESおよびSnow ManのシングルCDセールス初加算の前週、1月27日付のCHART insightにおけるTwitter順位では、既に2組のシングルCD収録曲が6位までを独占。ここから、アイドルのファンの方々がTwitter活動を積極的に行っていることが見えてきます。

歌手名と曲名がひとつのツイートに記載されればビルボードジャパンソングスチャートのTwitter指標に加算されるのですが、アイドルファンの中にはその加算を主な目的としたTwitterアカウントも存在し、Twitterでの活動の際には”ビルボード活動”的な名称が付けられることがあることも伺っています。昨日KinKi Kidsの新曲タイトルがトレンド入りしたように、アナウンスされたタイミングで口コミで広がるのは自然ですが、しかし熱心につぶやき続ける活動は人工的と言えるかもしれません。それらツイートはファン同士で盛り上がるゆえにファン以外の方のタイムラインに登場することは稀だと思われますし、もっと言えば邪魔になる可能性すらあります。以前、好んで観ていたドラマにあるアイドルグループ所属の俳優が出演していた際、その方の登場シーンになるとドラマのハッシュタグに、ドラマとは一切関係ない”アイドルグループ”と”新曲のタイトル”が併記されたツイートが散見され、ファンの熱心さは解れども不快感を抱いた次第。ファンがツイート活動に盲目的になるほどドラマのファンがアイドルグループに対してネガティブな印象を抱きかねないというやり方は違うと思うのです。

Twitter指標については以前、ウエイトの減少を提案しました。その理由は上記ブログエントリーにて記載していますが、その提案の時以上にTwitter指標の順位が固定化していること、Twitterの順位と総合とで乖離が発生していること(ウェイトが小さくないためか、今週はTwitter20位以内の曲がすべて総合で100位以内にランクインしているため、一見乖離が起きているようには感じにくいのですが)を踏まえれば、近いうちにビルボードジャパンがチャートポリシーを変更する可能性は十分あり得るでしょう。Twitterでの熱心な活動を、歌手のファンではなくとも歌手や曲に興味は抱いているいわゆるライト層を自然に増やすためにどうするか考える方向に舵を切ったほうが好いと思うのですが、いかがでしょう。

 

そして③、【ストリーミングおよび動画再生という接触指標群の順位が低い】について。先に紹介したジェジュンBrava!! Brava!! Brava!!」は両指標ともに300位以内に登場していません。ミュージックビデオが(というよりもどうやら彼の作品全体が)YouTubeにアップされていないため動画再生指標未ランクインは理解出来るのですが、サブスク再生回数を基とするストリーミングにおいて、たとえばSpotifyを見ると(下記キャプチャ参照)、新曲はシングルCDリリース日に解禁済。しかしストリーミングで300位以内に入っていない状況です。

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アイドル等シングルCDセールスに長けた歌手のファンについては、音源聴取がサブスクよりもCDから、ミュージックビデオ視聴はYouTubeではなくCDに同梱された映像版から…という場合が多いように思われます。それはそれで何ら問題はないのですが、サブスクやYouTubeはライト層がアクセスしやすいツールであることから、そこにアクセスさせる方法を考え実践し、ゆくゆくはライト層からコアなファンへの昇華を目指すべく働きかける必要があるでしょう。

 

今回は今週のチャートより取り上げたゆえ、ジェジュンさんおよびJO1への言及が多くなりましたが、CHART insightから各週の動向および曲毎のチャートアクションを確認すれば、アイドル等の多くが同様の弱点を抱えていることが解るはずです。CHART insightについては下記リンク先をチェックしてみてください。

①シングルCDセールスに対しルックアップの順位が低い、②Twitterの順位が高い、③ストリーミングおよび動画再生という接触指標群の順位が低い…これらアイドル等の3つの特徴、すなわちロングヒットに至れない弱点においては、ファンがヒットを願う意味でTwitter活動を行うゆえに②が発生するという矛盾を孕んでいます。ならば、たとえばツイートする場合にファン以外の方に向けた訴求を行うのが好いかもしれません。そこにミュージックビデオのリンクを貼りツイート内で再生が完了するようにする、もしくはSpotify等サブスクのリンクを貼り誘導させるのもひとつの手段です。歌手名と曲名だけを記載、またひとつのCDのカップリング曲も含めて複数の曲名を載せることは、ファン以外の方にとってはファンの目的がビルボードジャパン向けの活動にあると知ったならば尚の事心象が良くないように思われます。宣伝ならば外向けに曲自体を伝え、そうでないならば自然に聴きたくなる誘導の仕方を研究してほしいと思います。

 

しかしながら、ファンの活動には限界があります。ならば歌手側が率先して上記の誘導を行う必要があるでしょう。たとえばTwitter活動においては星野源さんの例が参考になるかもしれません。

ライブ参加者は必ずしもコアなファンに限らず、コアなファンの友人や恋人等も参加しているはずで、ライブ参加者につぶやきを勧めることは友人や恋人等ライト層(と定義付けられてもおかしくない方)のつぶやきも増え、そこからフォロワーに伝播していく可能性があります。先述したようなレンタルチェーンへの働きかけが現実的ではないとするならば、星野源さんの例は非常に現実的であり、やりやすいと思われます。

 

良曲をコアなファンの間だけで留めておくのは非常に勿体無いというのが私見。そしてその曲を広めるはずの活動が十分になされず、コアなファンの域を超えないこと、逆にコアなファンとライト層で温度差が生じていることは機会損失だと思うのです。自然で巧い手法が開発され、新たな定番となる曲が生まれることを願っています。

3月23日付ビルボードジャパンソングスチャートは「I LOVE...」の首位返り咲きを筆頭にOfficial髭男dismが寡占、その内容をどう読むか

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点をソングスチャート中心に紹介します。

 

3月9~3月15日を集計期間とする3月23日付ビルボードジャパンソングスチャート。前週首位のJO1「無限大」は6位へ後退。Official髭男dism「I LOVE...」が4週ぶり、通算3週目の首位を獲得しました。

主題歌に起用されたドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS)が好調に推移し、ドラマとリンクして勢いづく「I LOVE...」。前週にはシングルCDセールス加算初週のポイントを超えたことから、そのタイミングで曲とドラマの勢いについて取り上げました。

そして今週、さらにポイントを積み重ねています。

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「I LOVE...」は、サブスク再生回数を基とするストリーミングや動画再生といった接触指標群が伸びたのは勿論のこと、シングルCDセールスやダウンロードという所有指標群も上昇。数は多くないものの、シングルCDセールスの伸びからはドラマを機に手に取る人が少なくないことが見て取れます。さらにはCDをパソコン等に取り込んだ際のインターネットデータベースへのアクセス数を示すルックアップも首位を獲得し、レンタルする方も多いことが伺えます。

 

最新チャートの集計期間中に放送された『恋はつづくよどこまでも』第9話のリアルタイム視聴率は14.7%(ビデオリサーチ調べ・関東地区の結果。以下同じ)を獲得。また前回の総合視聴率(リアルタイム視聴率とタイムシフト視聴率(1週間以内の視聴)を足し、重複分を差し引いたもの)は21.5%と過去最高を記録しています。そして一昨日放送の最終回は、リアルタイム視聴率がわずかながら伸びて過去最高を記録し、総合視聴率も右肩上がりとなることが予想されます。 

となると次週発表の3月30日付ビルボードジャパンソングスチャートにおいて、「I LOVE...」がさらに伸びるのは確実。最終回のサブタイトルには「I LOVE...」の歌詞が充てられており視聴者を曲に誘導する効果が生まれているのみならず、ドラマの余韻を持続させる新たな動きも登場します。

ドラマのコアなファンをさらに掴んで離さない施策がOfficial髭男dism人気に波及するだろうことは、トップ20入りしたすべての曲が前週に続き今週もポイント前週比100%超えを達成していることから確実(「Pretender」(2位 前週比105.4%)、「宿命」(7位 同105.5%)、「イエスタデイ」(8位 同102.0%)、「115万キロのフィルム」(11位 同100.1%)、「ノーダウト」(17位 同102.1%))。接触指標群の上昇によるライト層の拡充のみならず、所有指標群も伸びていることから【ライト層からコアなファンへ昇華】する動きも登場しているように思われます。今年、Official髭男dismの人気がさらに高まるのは間違いないでしょう。

 

最後に、このOfficial髭男dism人気に際し、ビルボードジャパンソングスチャートのチャートポリシー変更を願う一部の声が見られたことに対する私見を転載します。

最初のツイートは後に訂正しています。

チャートポリシー変更について、8指標の見直しを希望する旨は以前記載しています。

後にストリーミングについてはSpotify導入、有償サービスと無償とで1再生あたりのウェイトを変えるという措置が採られることになりました。

また、米ビルボードソングスチャートにおけるリカレントルールについては下記をご参照ください。

そして、ロングヒットは接触指標群の充実にあると以前示しています。

これらを踏まえた上で、昨夜のツイートとなりました。元々自分がつぶやくきっかけとなった声に、一部歌手の寡占に”飽きた”という表現があり、その極めて私的な、且つネガティブな感情を隠さず発信することに強い違和感等を抱いた次第です。ただ、その疑念が多くの方で共有されるとチャートへの不信につながりかねない可能性もあることから、ビルボードジャパンは定期的に見直しを議論してほしいと思います。