イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

次週の米ビルボードソングスチャート、首位の座に就くのはミーガン・ジー・スタリオンかドージャ・キャットか? 首位獲得を目指す両者の戦略とは

次回の米ビルボードソングスチャートでは、ドレイクが5月1日にリリースしたミックステープ『Dark Lane Demo Tapes』がアルバムチャートで初登場することから、収録曲がソングスチャートでも大挙エントリーを果たすことは間違いありません。しかしそのドレイク、思わぬ逆境に立たされています。

デジタル、特にストリーミングに強いドレイクが、フィジカルに長けたベテランカントリー歌手のケニー・チェズニー『Here And Now』に僅差で敗れるかもしれないのです。ドレイクはこれまでに5枚のオリジナルアルバムをすべて、ミックステープでは『If You're Reading This It's Too Late』(2015)以降すべて米ビルボードアルバムチャートで首位に送り出しているゆえ、仮に2位という結果に終わるならば緊急事態と言えるでしょう。そしてその状況は、ソングスチャートにも波及されます。本来ならばアルバムの勢いで先行曲の「Toosie Slide」が首位にカムバックを果たしてもおかしくないのですが、しかし米ビルボードではこのような報道が。

次週の首位争いはミーガン・ジー・スタリオン「Savage」とドージャ・キャット「Say So」という新鋭ふたりの対決という構図になったと、米ビルボード自身が報じているのですから、「Toosie Slide」が3位以下になることはほぼ間違いないでしょう。この状況はいい意味で予想外でしたが、対決に至るには理由があります。それは両者がきちんと戦略を立てているため。そしてその戦略は、米ビルボードソングスチャートが様々なバージョンを合算するというチャートポリシーに沿ったものです。

 

ミーガン・ジー・スタリオンは「Savage」にあのビヨンセを迎えたリミックスを用意し、4月末に発表。その結果、最新5月9日付米ビルボードソングスチャートで4位にランクインしたことは以前お伝えした通りです。

次回、5月16日付の米ビルボードソングスチャートの集計期間はストリーミングおよびダウンロードが5月1日金曜から、ラジオエアプレイが4日月曜からの1週間。「Savage」のビヨンセ追加版がフルで、そして5月7日にはメジャー・レイザーによるリミックスが追加投入され、こちらのリミックスもわずかながら次週のチャートに加算されます。

メジャー・レイザーによるリミックスは4月25日付米ビルボードソングスチャート(解説はこちら)において、ドレイク「Toosie Slide」からザ・ウィークエンド「Blinding Lights」が首位の座を奪還した際にも貢献していたわけで、リミックスの重要性、起用されるメジャー・レイザーの人気が良く解ります。

 

一方のドージャ・キャット「Say So」は5月1日にニッキー・ミナージュ追加版が公開。

翌日にはこのリミックスの"ダンスビジュアル"なる動画が公開。

さらに先週はじめにはライブパフォーマンスの動画も公開しています。

 

日本時間の5月10日日曜7時過ぎに両者のTwitterアカウントをチェックしてみたところ、プロフィール欄に掲載されたURLは「Savage」「Say So」それぞれの客演参加版音源を提供するサービス一覧に行き着くわけで、所有や接触の促進に徹していることが解ります。ドージャ・キャットにおいては名前にも宣伝を入れ込む徹底っぷり。

f:id:face_urbansoul:20200510073105j:plain

f:id:face_urbansoul:20200510072928j:plain

f:id:face_urbansoul:20200510073154j:plain

f:id:face_urbansoul:20200510072940j:plain

SNSでの訴求はプロフィール欄以外でも共通しており、双方ともリミックスを広く知らしめるべく"リミックスパーティー"なるハッシュタグを用いています。ミーガン・ジー・スタリオンはそのハッシュタグが含まれるツイートを紹介する形で、間接的に使っています。

 

この結果、米ビルボードではソングスチャートを構成する3指標が大きく伸びると予想しています。

ストリーミングもさることながら、突出しているのはダウンロードの伸び。これは両者のホームページにてフィジカルが販売されているため。購入の段階でダウンロードが可能になり、後日フィジカルが届く仕様となっています。

f:id:face_urbansoul:20200510081105j:plain

f:id:face_urbansoul:20200510081145j:plain

 

共通項の多い2曲の対決の結果は、5月16日付米ビルボードソングスチャートで明らかになります。現地時間の11日月曜、日本では12日火曜の早朝に公開予定。どうなるか、非常に楽しみです。

アリアナ&ジャスティンも…”三連リズムのバラード×デュエット”名曲5選

昨日突如届けられた、アリアナ・グランデジャスティン・ビーバーによるデュエット曲「Stuck With U」。

リリースの目的が素晴らしいですし、またミュージックビデオからも温かさが伝わってきます。

YouTubeで上記動画もしくはリリックビデオ(→こちら)を開くと、歌手名の下には”募金活動”と表示されます。再生回数による収益も寄付に回るということなのでしょうか、素敵な取り組みです。

f:id:face_urbansoul:20200508213524j:plain

(募金活動の表示を紹介する目的で画面をキャプチャしました。問題があれば削除いたします。)

 

さて、「Stuck With U」を聴いて真っ先に思ったのは、このような”三連リズムのバラード×デュエット”という形式の曲って少なくないよなあということ。

エド・シーラン「Perfect」(2017 アルバム『÷ (Divide)』収録)は、シングルカットしチャートを浮上した後にビヨンセを招いたデュエットバージョンを投入し米ビルボードソングスチャートを制しました…ということは、ビヨンセをフィーチャーした昨日のブログエントリーで取り上げたばかりです。

 

テイラー・スウィフトはアルバム『Lover』(2019)がアルバムチャートで初制覇を果たした週にトップ10入りした表題曲について、後にショーン・メンデスを迎えたデュエットバージョンを用意。スノードームを背景とするリリックビデオ(→こちら)は、デュエットバージョンというアプローチ共々上記「Perfect」を彷彿とさせます。

 

2017年から翌年にかけてヒットした「Perfect」、その1年後の「Lover」、そして今回の「Stuck With U」とおよそ1年おきに”三連リズムのバラード×デュエット”が、それも男女ともに数々のヒットを飛ばしてきた歌手によって紡がれるというのは面白い傾向だと思います。個人的には、10年以上遡るとはいえセカンドアルバム『The Diary Of Alicia Keys』(2003)から翌年シングルカットされ米ビルボードソングスチャートで4位を記録した「If I Ain't Got You」に、アッシャーをフィーチャーしたバージョンもまた素敵なので紹介します。

後にこの二組は「My Boo」(2004)で共演し米ビルボードソングスチャートを制しますが、「If I Ain't Got You」が布石になっていることは想像に難くありません。 

 

ちなみに日本の作品で真っ先に思い出したのは、レキシ feat. 森の石松さん「最後の将軍」(2016)。以前ブログで紹介しています(→こちら)。

レキシは今週、遂に全曲サブスク解禁に至ったことから、この週末にあらためてチェックしようと思います。

ミーガン・ジー・スタリオン、エド・シーラン、レディー・ガガ…客演仕事で実績を残すビヨンセの信頼度の高さを思う

最新5月9日付米ビルボードソングスチャートで4位に入り、初のトップ10入りを果たしたミーガン・ジー・スタリオン「Savage」。この急上昇の要因にはリミックスに参加したビヨンセの存在が大きいことは速報の際に紹介しています。

次週はビヨンセ参加バージョンがストリーミング、ダウンロードそしてラジオエアプレイすべてで集計期間1週間フルで加算されるため、オリジナルバージョンよりポイントが上回れば歌手名のクレジットは”ミーガン・ジー・スタリオン feat. ビヨンセ”となり、ビヨンセにとって2年以上を経てのトップ10カムバックを果たすことになります。しかも、米ビルボードソングスチャートの予想を行う方は「Savage」が次週の1位になると予想していることから、期待が膨らみます。

今日紹介する内容は、前日に更新した日米最新ソングスチャートを紹介するポッドキャスト、【Billboard Top Hits】8回目で紹介したものの詳細版です。

 

ビヨンセは1997年、デスティニーズ・チャイルドの一員として「No, No, No」でデビュー。ワイクリフ・ジョンの客演によるパート2のリリースもあり米ビルボードソングスチャートで3位に輝いて以降、4曲のナンバーワンを含む10曲のトップ10ヒットを輩出。2003年に初のソロアルバム『Dangerously In Love』をリリースすると、現在は夫であるジェイ・Zをフィーチャーした「Crazy In Love」が首位に輝き、現在までに6曲のナンバーワンを含む18曲をトップ10に送り込んでいます。1年に1曲以上はトップ10ヒットを出した計算となり、ビヨンセが如何にヒットを量産しているかが理解出来ます。

とはいえ、ビヨンセの2010年代におけるトップ10ヒットはわずかに5曲、そして主演曲よりも客演参加のほうが多い状況なのです。言い換えれば、ミーガン・ジー・スタリオン「Savage」同様、他の歌手の作品に後から参加し、チャートを押し上げ主演歌手をフックアップすることが目立っている印象があります。それでは2010年代の客演曲を振り返ってみましょう。

 

まずはレディー・ガガのEP『The Fame Monster』(2009)から翌年シングル化された「Telephone」。ファーストアルバムにして4曲のトップ10ヒット(うち2曲はナンバーワン)を送り出した『The Monster』(2008)に次ぐEPであり、ファーストアルバムと2in1でもリリースされたこの作品にビヨンセを迎えたことで、レディー・ガガビヨンセを招ける立ち位置になったという印象を広く知らしめることに成功したのではないでしょうか。

 

コロンビアのレゲトン歌手、J・バルヴィンとフランスのDJ、ウィリー・ウィリアムによる「Mi Gente」(2017)にビヨンセが参加。新バージョンがチャートに大きく反映された同年10月21日付米ビルボードソングスチャートでは前週より18ランクアップし3位に達しました。

ビヨンセ参加版の収益は、プエルトリコなどのハリケーン被災者に対するチャリティに使われたとのこと。今回の新型コロナウイルスに際しても自身が設立した基金から600万ドルを寄付していますが(ビヨンセ、新型コロナウイルス救済に6億円以上を寄付 | BARKS(4月24日付)参照)、積極的に社会貢献活動を行う姿勢は素晴らしいですね。チャートや寄付の内容についてはこちらで解説しています。

 

そして、エド・シーランに2曲目の米ビルボードソングスチャート制覇をもたらした「Perfect」。オリジナルバージョンはアルバム『÷ (Divide)』(2017)に収録されていますが、シングル化した後にビヨンセ参加のデュエットバージョンが送り込まれ、合算されて首位に立ちました。オリジナルバージョンよりポイントが上回っていたため、歌手名のクレジットにはビヨンセも記載されています。初の首位を獲得した、2017年12月23日付米ビルボードソングスチャートの解説はこちら

 

2010年代のビヨンセ、主演作ではジェイ・Zとの「Drunk In Love」(2013 アルバム『Beyoncé』収録)が2位、「Formation」(2016 アルバム『Lemonade』収録)が10位を記録。アルバム『4』(2011)からは1曲もトップ10ヒットが生まれていないのが意外ですが(同作収録曲の最高は「Best Thing I Ever Had」の16位)、しかし主演作のチャート成績以上に客演参加時の存在感の大きさを感じます。さらにはライブパフォーマンスも素晴らしく、たとえば日本でもYouTubeでの生配信により知名度が上昇しているコーチェラ・フェスティバルにおいて、ビヨンセが出演した2018年は”ビーチェラ (Beychella)”と形容されるほど絶賛されているのです。

この模様は翌年映像化され、さらには音源化もされています。

このライブアルバム、『Homecoming: The Live Album』(2019)の巻末に収められたのが「Before I Let Go」。オリジナルはメイズ(feat. フランキー・ビヴァリー)による1981年のナンバーであり、メイズはR&Bを代表するエッセンス・フェスティバルで幾度なくトリを飾っていることから、R&Bを語る上で欠かせないのが「Before I Let Go」と言っても過言ではないでしょう。”ビーチェラ”、そしてそこに至るまでに築き上げたビヨンセの功績は、「Before I Let Go」をカバーするに相応しい存在と言って良いはずです。曲などについては、音楽プロデューサーの松尾潔さんが『松尾潔のメロウな夜』(NHK-FM 月曜23時)で語っておりますので、みやーんさんによる書き起こしを紹介させていただきます。

ビヨンセバージョンはシングル化されてはいないものの、米ビルボードソングスチャートで65位を記録するスマッシュヒットに。このチャートアクションからも、ビヨンセの存在の大きさを知ることが出来ます。

 

 

今回のミーガン・ジー・スタリオン「Savage」でもそうですが、「Mi Gente」も「Perfect」もビヨンセ参加バージョンが追加されたタイミングでチャートを構成する3つの指標がすべて前週を大きく上回る伸びを示しており、チャートで強烈な実績を残しています。客演の数は決して多いとは言えないものの、ビヨンセが如何に影響力を持っているかが良く分かります。そしてそこには彼女の作品なら信頼出来るという受け手の思いが確実に存在していることでしょう。

初のトップ10を果たした瑛人「香水」を支えるサービスとは?…5月11日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点をソングスチャート中心に紹介します。

4月27日~5月3日を集計期間とする5月11日付ビルボードジャパンソングスチャート。前週シングルCDセールスを武器に首位に輝いたHKT48「3-2」は100位圏外に急落し、Official髭男dism「I LOVE...」が2週ぶり、通算6週目の首位を獲得しました。

ゴールデンウイーク前半を集計期間としているからでしょうか、ポイントが伸びた曲が多い印象のある5月11日付ビルボードジャパンソングスチャート。とりわけOfficial髭男dismは「I LOVE...」が前週比104.6%となったのみならず、「宿命」(7位)が100.7%、「パラボラ」(8位)が115.2%、トップ10落ちとなりましたが「イエスタデイ」(11位)が101.2%と前週から伸ばし、「Pretender」(3位)は前週比98.0%とダウンするも微減にとどまっています。「パラボラ」は集計期間中にミュージックビデオが公開されたことも上昇の要因と言えます。

 

今週はLiSA「紅蓮華」が遂に2位に達し最高位を更新したのも注目ですが、瑛人「香水」が5位に急上昇したのがなんといっても大きく、前週初のトップ10入りを果たしたヨルシカ「花に亡霊」(今週10位)、YOASOBI「夜に駆ける」(同6位)を飛び越えてきました。

f:id:face_urbansoul:20200507070756j:plain

「香水」は元々、昨年リリースされた初の配信作となるEPの表題曲。

FANTASTICS from EXILE TRIBE中島颯太さんがカバーしていることなどもあってTikTokから火がついたこの曲ですが、瑛人さん自身は戦略的に仕掛けたことはないと、自身初となるメディアインタビューで答えています。

戦略といえば、ファンとのエンゲージメントに長けたYOASOBIの例を前週紹介しました(ストリーミング強者が結果を出した5月4日付ビルボードジャパンソングスチャート、YOASOBIが一歩抜け出した理由は(4月30日付)参照)。瑛人さんも「香水」のカバー動画を何度かTwitterにて紹介しており、ごく自然にエンゲージメントという仕掛けを行っていると言えそうです。尤も、本人は仕掛けや戦略とは捉えていないかもしれません。

 

さて、インディペンデントで活動するからか、音楽ナタリーでも未だ記事が存在しない瑛人さん。そんな彼の配信に関わったのはTuneCore Japanという、”誰でも自分の曲を世界185カ国以上の配信ストアで配信販売できる”と謳うサービスです。

瑛人さんの曲をiTunes Storeでみると、リリース元は”Eito”とクレジットされています。TuneCore Japanではないところがポイント。

f:id:face_urbansoul:20200507044723j:plain

EP『香水』のリリースの際、TuneCore Japanでは配信先も含めアナウンスを実施。

そのTuneCore Japanは、新型コロナウイルスが未だ強く蔓延る状況において、先月に全サービスの無償提供を実行しました。期間は5月末まで延長されています。

TuneCore JapanのTwitterアカウントでは現在上記ツイートがトップに固定されていることもあり、ここからTuneCore Japanの、インディペンデントで活動する歌手の火を絶やさないという思いが感じられます。さらには歌手がリリースした後も、たとえばチャートイン時やサブスクのプレイリスト入りの際にその旨を紹介することで、アフターフォローを欠かしていません。これもインディペンデントで活動する歌手にとっては嬉しいことです。

 

今回の瑛人「香水」のヒットはTikTok発と言われ、チャートを紹介するブロガーの方やチャートのいわゆる中の人も、この点を大きくフィーチャーしているのが見受けられます。

TikTokでヒットに至るためにはそのための配信が前提となるわけで、TuneCore Japanはまさに縁の下の力持ちと言えるのですが、そのTuneCore Japanはさらに新たなサービスを昨日開始し、ヒットを生み出す環境をさらに強化しています。

 

TikTokからサブスクや動画再生といったストリーミング全体に波及し、遂には総合チャートで上昇するという流れ、米ビルボードソングスチャートではごく自然に見られる現象となっています。

「Old Town Road」の特大ヒットについては昨年度のチャート振り返り時に記載しています。

最近ではドージャ・キャット「Say So」も同様。日本では別の曲が既にチャートインしていましたが、TikTokでのヒットを経て「Say So」の人気も徐々に高まっています。

さらに、3週前に米ビルボードソングスチャートを初登場で制したドレイク「Toosie Slide」は、配信開始直前に敢えてTikTokにて未発表曲だとアナウンスし使わせることで成功に至っています(もしかしたら狙ってリークしたのではないのかもしれませんが、狙ったと分析している方は少なくありません)。現にTikTokでは新記録を樹立しているのです。

能動的な仕掛けがあるか否かの差はあれども、TikTokがヒットにとって重要な要素であり起点になっていることは間違いなく、そしてそこでヒットした曲をサブスクにつなげる動線を用意することも必要となります。その意味で、TuneCore Japanの役割が如何に重要か、そしてサブスクが如何にヒットを後押ししている存在かがよく分かるはずです。今後、瑛人「香水」のようなヒットが生まれてくることは間違いなく、ならば先に取り上げた音楽ナタリーをはじめとするニュースサイトや、「香水」がラジオエアプレイ指標で今週300位未満となっている状況を勘案するにラジオなどの既存メディアも、フレキシブルに紹介しないといけなくなるものと考えますし、チャートを追いかける身としても気を引き締めた次弟です。

 

 

最後に。今週発表された米ビルボードソングスチャート、およびビルボードジャパンソングスチャートを紹介するポッドキャストを更新しました。こちらでは米チャートにおけるビヨンセの力、そして日本のチャートにおけるDISH//「猫」の取り扱いを中心に触れていますので、こちらも是非よろしくお願いいたします。

2020年4月の私的トップ10ソングス+α、選出しました

1月からはじめた【私的トップ10ソングス+α】企画。前の月にリリースされた曲を中心に、しかしその縛りは出来る限り緩くして、今月も選んでみました。ミュージックビデオ等動画がない曲は巻末のプレイリスト(Spotify)でチェックしてみてください。過去の私的トップ10ソングスについてはこちらをご参照ください。

 

10位 The 1975「If You're Too Shy (Let Me Know)」

1980年代の音を現代にアップデートするのがムーブメントの中、AメロBメロサビのメロディが高レベルのきらびやかさでアレンジに負けないところが見事。既に日本で大人気になっているバンドですが、なるほどこのようなキャッチーさが愛される所以ですね。

 

9位 ポルカドットスティングレイ「JET」

ノーイントロの曲で重要なのは最初の数秒。歌声と楽器でどれだけ惹き付けるかではないかと思いますが、「JET」における雫さんの可愛らしさと説得力(きちんと一音一音を置くというか)を併せ持った歌声、そしてギターが持ち合わせるファンクネスに魅了されます。全体的に、声そしてひとつひとつの楽器がきちんと立ち上がっていて心地よいですね。

 

8位 Mighty Crown feat. Super Criss「Stay Together」

まさかこの現在の状況を見越してなのかと思うほどキャッチーなタイトル。昨年RHYMESTER「予定は未定で。」を手掛けたMighty Crownによるこれからの季節にぴったりなレゲエチューン。

 

7位 ミーガン・ジー・スタリオン feat. ビヨンセ「Savage (Remix)」

最新5月9日付米ビルボードソングスチャートで初のトップ10入りを果たしたミーガン・ジー・スタリオンによるナンバー。トラックやミーガンの声の格好良さもさることながら、ビヨンセが加わることでさらなる彩りや攻めの姿勢が生まれ、より逞しくなっているのが見事。ビヨンセの客演はそこまで多くないと思うのですが、その存在感たるや見事。

 

6位 Official髭男dism「パラボラ」

もはや現代日本のポップス職人と言っても過言ではないOfficial髭男dismによる、春の始まりにふさわしい清涼飲料水CMソング。この曲もサブスクでヒットしながら、サブスクヒットの定形とは異なる長尺(5分強)となっており、その点だけを見ても曲の展開やアレンジにこだわる彼らの姿勢が見て取れるようです。

 

5位 常田大希「COMPILE III」

King Gnu、millennium paradeの常田大希さんによるチェロの独奏。昨年冬のイベントで生演奏された曲が配信化。ヒリヒリするチェロの音色、そして常田さんの息遣いが刺さります。

 

4位 トロイ・シヴァン「Take Yourself Home」

質感からチャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」(2018)を想起したのは自分だけでしょうか。新型コロナウイルスが蔓延る世界の状況を受けて前倒しでリリースしたというこの曲、歌い終わった後の40秒程のアウトロ(そしてそれに呼応するリリックビデオ)が今の息苦しさを思わせてくれます。それにしても椎名林檎さんといいこの曲といい、最近印象的なアウトロが増えている気がしますね。

 

3位 トゥエニーワン・サヴェジ feat. サマー・ウォーカー「Secret」

これはズルいです。自分が大好きな、そして昨秋ブログで紹介したエクスケイプ「My Little Secret」(1998)を大胆に使用し、サマー・ウォーカーにメロディをなぞらせているのですから…これには抗えません。ブログについてはこちらに。

 

2位 藤井風「優しさ」

自分がスタッフの一員を務めるラジオ番組、『わがままWAVE It's Cool!』(FMアップルウェーブ 日曜17時)で大学生DJしょうごくんが一押ししていたのが藤井風さん。ソウルを基調とし、艶のある声でしかし変な?タイトルの曲で評判となっていたことは知っていましたが、先月配信されたこの曲の、とりわけアレンジの切迫感にはひれ伏すばかり。アレンジはこれまでに聴いたことないタイプだと思うのですが、3位の元ネタであるエクスケイプとの流れで聴くと自然につながる気がします。

 

1位 millennium parade「Fly with me」

5位で取り上げた常田大希さんのソロプロジェクト曲が先月の1位。ミュージックビデオの完成度の高さも押し上げた一因ですが、サビの10拍子というトリッキーな構成、サビ始まりに鳴るブラスの力強さがとにかく格好良く、さらに最後のサビ後半でブラスの刻み方が溜める形に変化するとそのサビのメロディを4拍子で歌い直すというのが技あり過ぎ。そこからAメロの変形に戻る…これには本当に感動しました。

 

以下、次点として10曲。

クラムボン「夜見人知らず」

・TENDRE「LIFE」

三浦透子「おちつけ」

・アント・サンダース「Miscommunications」

・ブルーノ・メジャー「Old Soul」

・dvsn feat. ブジュ・バントン & タイ・ダラー・サイン「Dangerous City」

・GZティアン「Tokyo Girl」

・オスカー・ジェローム feat. ブラザー・ポートレイト「Your Saint」

・SGルイス「Chemicals」

・イェジ「When I Grow Up」

クラムボンがいい意味でPerfumeを思わせたり、三浦透子さんへの仕事共々TENDREが良かったりと素晴らしい作品が多かった4月。しかしながら新型コロナウイルスの影響で発表を延期した作品も少なくないことから、今後どうなっていくのかが気掛かりです。 

 

Spotifyのプレイリストはこちらに。

今月も素晴らしい音楽に出会えることを願っています。

トラヴィス・スコットとキッド・カディのユニット、ザ・スコッツ「The Scotts」がフォートナイト効果で初登場首位…5月9日付米ビルボードソングスチャートをチェック

ビルボードのソングスチャートをチェック。現地時間の5月4日月曜に発表された5月9日付最新ソングスチャート、トラヴィス・スコットとキッド・カディによるユニット、ザ・スコッツによる「The Scotts」が初登場で首位を獲得しました。

現地時間の4月23日木曜から5回に渡り、ゲーム『フォートナイト』内でバーチャルライブを行ったトラヴィス・スコット。その中で初披露された「The Scotts」が4月24日金曜にリリースされ、今回の首位獲得に至りました。『フォートナイト』とのコラボレーションについてはこのブログでも触れています。

通算37曲目となる初登場での首位獲得となった「The Scotts」。ストリーミングは4220万、ダウンロードは67000を獲得し2指標を制覇。他方ラジオエアプレイは550万にとどまっており、ゲーム人気や昨年2月に同じく『フォートナイト』にてバーチャルライブを行いチャートでも実績を上げたマシュメロの例がありながらも、ラジオエアプレイが思うほど伸びなかった印象があります。

なお、ダウンロードについてはフィジカル(シングルCD、カセットテープおよびレコード)も対象となるのですが、トラヴィス・スコットのホームページにてこのフィジカルが販売され、購入のタイミングでダウンロードが可能に。フィジカルの到着は早くて6週間後となるのですが、この施策がダウンロードを押し上げた要因と言えるでしょう。ダウンロードの67000という数値は、2020年においてBTS「On」の86000(3月7日付)、ジャスティン・ビーバー「Yummy」の71000(1月18日付)に次ぐ記録となります。

「The Scotts」により、トラヴィス・スコットにとっては「Sicko Mode」(2018)、「Highest In The Room」(2019)に次ぐ3曲目の首位を獲得。初登場首位は「Highest In The Room」に次ぐ2曲目で、複数曲を初登場首位に送り込んだのはマライア・キャリー、ドレイク(この2組は3曲)、ジャスティン・ビーバーアリアナ・グランデおよびブリトニー・スピアーズに次ぐ6組目に。一方のキッド・カディ(本名はスコット・メスカディ)にとっては初の首位となり、トップ10入り自体も「Day N' Nite」が2009年に3位を獲得して以来となります。

「The Scotts」の米ビルボードでの名義はユニット名のみならず、トラヴィス・スコットおよびキッド・カディの両名が併記されています。2名以上が(客演ではない)主演名義で首位を獲得したのは昨年8月31日付でショーン・メンデス & カミラ・カベロ「Señorita」が獲得して以来、実に36週ぶりのことです。

 
 
 
この投稿をInstagramで見る

#Hot100 (chart dated May 9, 2020)

Billboard Charts(@billboardcharts)がシェアした投稿 -

また歌手(ユニット)名を含む曲の首位獲得は、ソウルジャ・ボーイ・テレム「Crank That (Soulja Boy)」以来13年ぶり。過去にはヴァニラ・アイス「Ice Ice Baby」(1990)やザ・チップマンクス with デヴィッド・セヴィル「The Chipmunk Song」(1958-1959)も頂点に輝いています。

 

首位の座を明け渡したザ・ウィークエンド「Blinding Lights」はラジオエアプレイが前週比1%ダウンの1億970万。同指標4週目の首位獲得ながら、3指標中最もピークに達するのが遅いラジオエアプレイがダウンに転じたことで、曲のピークは過ぎたと見ていいでしょう。

 

4位にはミーガン・ジー・スタリオン「Savage」が10ランクアップし初のトップ10入り。ミーガン自身にとっても初のトップ10エントリーとなります。

この急浮上は、集計期間終盤にビヨンセをフィーチャーしたリミックスが公開されたため。

ダウンロードは前週比160%アップの26000(同指標2位)、ストリーミングは同48%アップの2690万(同指標3位)、ラジオエアプレイは同52%アップの4050万(同指標18位)と、ビヨンセ参加版の加算が「Savage」の上昇に大きく貢献しました。ミーガンにとってはニッキー・ミナージュとタイ・ダラー・サインをフィーチャーした「Hot Girl Summer」(2019)の11位を上回り、自己最高位を更新しています。なお、ビヨンセ参加版はオリジナルバージョンに合算されますが、今週は総合的にはオリジナルバージョンが上回っているためチャート上のクレジットはミーガンのみ。次週はビヨンセもクレジットされるものとみられます。

(なお、以前ブログのコメント欄で、Megan Thee Stallionのカタカナ表記が”ミーガン・ジー・スタリオン”でよいのかというご指摘をいただきました。このブログで新鋭歌手が登場した際には、カタカナ表記化して検索した際の検索数や、音楽評論家やライターの表記を参照にしており、ゆえにブログの途中から表記を変更することがあることをご了承ください。ミーガン・ジー・スタリオンについては音楽ライターで翻訳家の池城美菜子さんの最近のツイートを参考にしています→こちら。)

 

今週1ランクダウンし6位に入ったドージャ・キャット「Say So」は、5月1日金曜にニッキー・ミナージュを迎えたバージョンが公開されたことで次週のチャートで浮上する可能性があります。「Savage」や「Say So」の新バージョンについて、さらに後述するドレイクについては今週アップしたブログエントリーにて取り上げています。

 

最新のトップ10をあらためて。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (初登場) ザ・スコッツ (トラヴィス・スコット & キッド・カディ)「The Scotts」

2位 (1位) ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」

3位 (2位) ドレイク「Toosie Slide」

4位 (14位) ミーガン・ジー・スタリオン「Savage」

5位 (3位) ロディ・リッチ「The Box」

6位 (5位) ドージャ・キャット「Say So」

7位 (4位) デュア・リパ「Don't Start Now」

8位 (6位) ポスト・マローン「Circles」

9位 (8位) ジャスティン・ビーバー feat. クエイヴォ「Intentions」

10位 (7位) ハリー・スタイルズ「Adore You」

先に紹介したブログエントリーでも触れているように、次週はドレイク「Toosie Slide」が首位を奪還する可能性が高いでしょう。5月1日に突如ミックステープ『Dark Lane Demo Tapes』をリリースしたことで、「Toosie Slide」を含む収録曲が大挙エントリーするものとみられます。なお「Toosie Slide」は今週ラジオエアプレイが前週比16%アップとなる6790万を獲得し同指標10位に入ったことで、ドレイクにとって同指標23曲目のトップ10入りを果たしました。1990年12月以降のラジオエアプレイ指標トップ10入り曲数はマライア・キャリーに並ぶ史上2位タイ(なお首位はリアーナの29曲)。次週はそのドレイク「Toosie Slide」がザ・スコッツ「The Scotts」から首位奪還なるか、注目しましょう。

三浦大知「I'm Here」は今の時代を生きるためのアンセムになっていると感じる

音楽が、その発表当時とは違う意味を新たにまとうことは少なくありません。バラエティ番組に使われた過去の名曲を聴くとその映像が浮かんでしまうということなどもありますが、今日紹介するのは今の新型コロナウイルスが蔓延る中にあって人々が救いや希望として聴いている曲、そして歌手がその前向きな思いを伝えたいという意志を持って示す曲。

(リンク先の記事全文を読むには無料登録が必要です。)

蘇ったと言いつつもその基準たる売上の伸びはそこまで大きくないのではという印象がありますが、たとえばアンドラ・デイ「Rise Up」はレディー・ガガが開催を表明、WHO等が主催したイベント【One World: Together At Home】の冒頭を飾ったことが影響しているのかもしれません。『闘う人全てへのアンセム』は、多くの方を勇気づけたと言えるでしょう(『』内はヴィンテージな雰囲気をまとい、話題の新人アンドラ・デイがデビュー - TOWER RECORDS ONLINE(2015年7月22日付)より)。

 

さて、日本でもその位置付けになっている曲があると感じています。それが三浦大知「I'm Here」。

当初はドラマ『病室で念仏を唱えないでください』(TBS)の主題歌として用いられていましたが、この曲の”位置付けが変わった”と感じたのが、同じくTBSで3月6日に放送された『A-Studio』でのパフォーマンス。さらに3月末に同局ではじまった『CDTV ライブ! ライブ!』(月曜22時)でこの曲を披露したことでさらなる高みに達したように思うのです。その点について、Spotifyでの再生回数を軸に以前ブログに記載しました。

そして先週金曜の5月1日、『A-Studio+』(TBS 金曜23時。『A-Studio』がこの春リニューアル)にリモートで出演した三浦大知さんは、斎藤ネコさんのアレンジ、総勢46名による「I'm Here」のリモート収録版を初披露。同日のうちにTBSの公式YouTubeチャンネルにて公開されました。

三浦大知さんが今だからこそ発したい思いはこの曲のパフォーマンスに込められた”希望”に表れていると感じていますし、番組側が視聴者に伝えたい思いもそこにあるのだと思います。

 

この時代を生きる人々にとって前を向いて生きるためのアンセムに成り得ると言えるだろう「I'm Here」は、3月の番組でのパフォーマンス以降比較的安定した動きを見せていました。3月以降の日本のSpotifyにおける再生回数は下記に。

f:id:face_urbansoul:20200504082044j:plain

デイリー200位未満は再生回数不明につき、4月27日は数値が不明。そして『A-Studio+』出演翌日に「I'm Here」が200位未満というのは残念ではありますが、しかし3月1日以前の数値(先述のブログエントリー参照)と比べて明らかに上昇していることを踏まえれば、発表直後よりも今のほうが緩やかなれど着実に盛り上がっている状況は異例と言えるかもしれません。この数値から人々が「I'm Here」を求める動きが見て取れ、新型コロナウイルスが蔓延る状況下、今の日本におけるアンセムになってきていると捉える自分がいます。