今週は、八代亜紀さんの初となるジャズアルバム『夜のアルバム』にちなんで、演歌歌手が他の音楽ジャンルに挑戦した際のカヴァー曲を紹介します。
『夜のアルバム』には、あの「五木の子守唄」と名曲「いそしぎ (The Shadow Of Your Smile)」がひとつになった曲がクレジットされていたことから、曲を実際に聴く前に今企画を立て、”珍盤を中心にまとめてみよう”と思っていたのですが、実際の八代亜紀さんの楽曲が素晴らしく、マッシュアップが極々自然だったので驚きました。珍盤どころか曲もアルバム全体も名曲・名盤なのです。なので、今回は前半に、聴く側の頭に”?”が浮かびそうなカヴァー曲を、後半に名カヴァーを並べてみます。
・金沢明子「イエロ・ーサブマリン音頭」(オリジナル:ビートルズ)
あ、初っ端から民謡歌手でした…でもこれは紹介しないわけには。
チャートの成績こそ最高64位と高くないものの、自分も(リリース当時)子供ながらに曲の突飛性を実感していて、おそらく世間では”珍曲”として浸透したであろう曲。”ビートルズ meets コブシ(甲高い声)”がアレンジの妙もあってこれほどまでにしっくり来るのも凄い。さすがは大瀧詠一さん仕事。
”誕生秘話”が放送されたラジオ番組がコチラにて聴取可能。Wikiにもあります。
2009年作。德永英明さんのヒットを経て数多くのカヴァー集が生まれていますが、おそらくその流れに乗ったものであろうJ-Pop主体のカヴァー集、『Love Music』収録曲。いやまだしっくり来る気がするのは気のせいか…個人的には「雪の華」での”本家より必死感(適度にディレイする箇所があって、追いつこうとするときの必死さが余計に沁みるのです…)”を是非聴いて欲しいところ。
どうやらアルバム収録曲が『やまだひさしのラジアンリミテッドDX』や『加藤浩次の吠え魂』でネタとして?使われていたようですね…。
・五木ひろし「TRY ME ~私を信じて~」(オリジナル:安室奈美恵 with スーパーモンキーズ)
アルバム『五木ひろしリサイタルライブ(21世紀の喝采がきこえる)』収録。リサイタルでのサービスタイムとしてのカヴァー(曲を聴くにメドレーの1曲の模様。globe「DEPARTURES」なども)なのでしょうが、なんでしょうこのしっくり来ない感。いなたいシンセのウワモノが輪をかけてその感覚を助長させてるようで…。五木ひろしさんは何を歌っても、良くも悪くも”五木ひろし”なのかも。
ちなみにその後、スタジオレコーディング音源で山下達郎「Ride On Time」や、ピクミンの曲などもカヴァーしていたり…もしかしたら五木さんご本人がJ-Pop好きなのかもしれないですね。
・長山洋子「ヴィーナス」(オリジナル:ショッキング・ブルー 長山洋子版はバナナラマ版のカヴァー)
彼女の場合はアイドルから演歌歌手に転向し、アイドル時代以上の成功を収めたわけですが。で、演歌歌手転向後にアイドル時代の曲を歌うテレビ番組の企画(といっても一番有名なのはこの曲なのでしょう、この曲を歌う姿ばかり観てる気が)を観る度、今の方がやけに色っぽいなあと思うんですよね。その上歌唱力も上昇して、非常に巧いのです。
ちなみに『ザ・ベストテン2003』でも披露したのですが、バックの宙吊りの違和感、意図の不明さたるや…これこそザ・ベストテンの不条理感なのかもですね。
オリジナルも演歌ですが、演歌らしくない演歌(歌謡曲テイスト)なので強引にエントリー。ギターが確実にドゥービー・ブラザーズ「Long Train Running」を意識しているのですが、これがまた格好いいのです。
ジェロさんの歌声は正統派で非常に巧い一方、良い意味で軽い耳障り(耳心地)でもあり、こういう演歌らしくない演歌にハマってますね。もっと評価されていいと思うのですがどうでしょう。
・美空ひばり「L-O-V-E」(オリジナル:ナット・キング・コール)
なんだろう、この”微笑みながら歌っているのが如実に浮かんでくる”ような素晴らしい歌唱は!
演歌界の大御所である彼女が軽やかにジャズと戯れているその姿は、まさにジャズシンガーそのもの。『LOVE! MISORA HIBARI JAZZ & STANDARD COMPLETE COLLECTION 1955-66』という編集盤の冒頭を飾る曲ですが、40年以上も前の音源集なのに古さを感じさせないのは歌唱の妙、なのかもしれません。
ちなみにこの曲、FPM(田中知之さん)のMIXCDにも収録されています。
・八代亜紀「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」(オリジナル:ジャズ・スタンダード)
最後もジャズで。今週リリースのアルバム『夜のアルバム』に収録。全編、本当にオススメです。小西康陽さんプロデュース。彼女のスモーキーな歌声がより映える、よりクールで都会的なジャズの作品集です。是非。
その昔、テレビ番組『夜も一生けんめい。』という番組で、ゲストが自身の持ち歌と海外の有名曲とが勝手に合わさった作品(ビジーフォーの演奏力が凄く、自然に混ざり合うそれらは今でいうところの”マッシュアップ”の原型ですね)を歌っていくというコーナーがあったのですが、演歌歌手の皆さんの適応力の高さには深く唸ったものです。その番組のスペシャル版、『ザッツ宴会テイメント』では長尺で歌コーナーが楽しめ、そこで北島三郎さんが”和製ジェイムス・ブラウン”なんだ!と強く実感した次第。そういう番組(コーナー)があったからこそ、こういうカヴァー企画や、『エンカのチカラ』たるJ-Popカヴァー企画CDも登場したのかもしれませんね。
とはいえ、カヴァーの方法、アプローチは様々。その様々で”予想もしなかった”アプローチにて、今後もカヴァーに挑戦してほしいところです。
書いてみてあらためて、”サブちゃん meets JB”は絶対やってほしい!と思ったり。