face it

青森県在住。毎週日曜日17時から、FMアップルウェーブ発の番組の一員として参加。音楽・ラジオ好きによる"日々の音"やメディアの話

良質なトリビュートアルバムの三条件

昨日情報公開された、”複数の歌手によるDREAMS COME TRUEのカバーソングアルバム第二弾、『私とドリカム2』。特設サイトが開設され、ナタリーの記事も登場。通常、複数の歌手が一組の歌手の作品をカバーして取りまとめた作品の場合、それを【トリビュートアルバム】と呼ぶ場合があります。『私とドリカム』シリーズは”BEST COVERS”と記載しており、敢えてトリビュートとは呼ばせない意図があったのかは不明ですが、便宜上【トリビュートアルバム】と呼ばせていただきます。

さてその『私とドリカム2』ですが、収録内容を見て正直違和感を覚えました。それは、既発曲が少なくないということ。再度録音した可能性はありますが、そのような表記は見当たりません。

※ 既発曲の場合は【既発】と記載、収録作品を併記 

01. サンキュ. / 大森靖子

02. 眼鏡越しの空 / 片平里菜

03. やさしいキスをして / 川畑要【既発】

  カバーアルバム『ON THE WAY HOME』収録(→iTunes Store)

04. うれしい!たのしい!大好き! / クリス・ハート【既発】

  カバーアルバム『Heart Songs II』収録(→iTunes Store)

05. 雪のクリスマス / JUJU【既発】

  シングル「守ってあげたい」収録(→iTunes Store)

06. The signs of LOVE / JUNHO(From 2PM)

07. LOVE LOVE LOVE / 徳永英明【既発】

  カバーアルバム『VOCALIST』収録(→iTunes Store)

08. 決戦は金曜日 / NICO Touches the Walls【既発】

  シングル「夢1号」収録(→iTunes Store)

09. うれしはずかし朝帰り / 西内まりや

10. 何度でも / May J.

11. a little waltz / MONGOL800

12. 未来予想図 II / 三浦大知

13. 晴れたらいいね / LiSA

14. 朝がまた来る / Little Glee Monster

14曲中5曲が既発。これを少ないと見る向きもあるかもしれませんが、個人的に更に問題だと思ったのは、この既発曲に関しての歌手のコメントにあります。上記リンク先にいずれも掲載されており、そこから引用させていただくと。

『この素晴らしいアルバムに参加出来てとても光栄ですし、名曲を歌わせて頂き本当に感謝しております』(クリス・ハート)

『この曲を僕が歌う日が来るとは!』(NICO Touches the Walls・光村龍哉)

捉え方によっては、今回のトリビュートアルバム制作に”合わせて録音した”と思われてもおかしくないコメントであり、非常に紛らわしいと思ったのです。トリビュートを購入し気に入ったので各歌手の作品もチェックすると実は既に以前から存在していた…と知ったらがっかりするというか、大袈裟かもしれませんが裏切られた感すら生まれる可能性はあるのではないかと。そういう意味で、既発曲であることを隠して(と思われかねない表現を用いて)、誤魔化さないでほしかったですね。

(また、それとは直接関係ないのですが、トリビュートアルバムのサブタイトル、”ドリカムワンダーランド2015 開催記念”と銘打つ必要はあるのでしょうか。『私とドリカム2』だけで十分通じると思ったのは私だけではないでしょうし、DREAMS COME TRUEの曲数の多さからすれば今後シリーズ化することは可能なわけで、その度に長いサブタイトル付けるのは非常に面倒な作業だと思うのですが。)

 

 

トリビュートアルバムにおいては、昨年末に発売された『宇多田ヒカルのうた - 13組の音楽家による13の解釈について -』(特設サイトはコチラ。こちらも”ソングカバー・アルバム”という名目ではありますが、便宜上トリビュートアルバムと呼ばせていただきます)が非常に素晴らしく、各歌手の”本気度”が伝わり、逆に言えばどこからも惰性がほとんど感じられない作品で、あそこまで完璧に近いトリビュートアルバムは今までなかったとすら思ったほど。今後出るトリビュートアルバムは『宇多田ヒカルのうた』との比較(ハードルとして設定)だと、個人的には考えております。

では、『宇多田ヒカルのうた』を踏まえて考えた、”良質なトリビュートアルバムの条件”を列記してみます。

 

 

① 既発曲が(ほとんど)ない

収録曲のうち、「For You」(→YouTube)を歌う加藤ミリヤさん、「Stay Gold」(→YouTube)を歌う大橋トリオはそれぞれ、以前宇多田ヒカルさんの別の曲を音源化しています。

加藤ミリヤ「Automatic」(アルバム『MUSE』収録 →iTunes Store)

大橋トリオ「traveling」(アルバム『FAKE BOOK』収録 →iTunes Store)

しかしながら『宇多田ヒカルのうた』にはそれらの作品は未収録。それぞれ良質なカバーではあるのですが、おそらくは全曲新曲にしたいというスタッフサイドの意向により収録されなかったのかもしれません。そのため、『宇多田ヒカルのうた』は全曲未発表曲という”鮮度の高さ”という面でより高い注目を集め、リリース前の音源公開時にSNS等で盛り上がった記憶があります。

 

 

② カラオケではない

これはトリビュートアルバムに限らずカバー曲全般に言えるのですが、いわゆる”歌ってみた”との違いが感じられないものが残念ながら少なくありません。歌ヂカラ一本で勝負できるならまだしも、各歌手の個性は音の世界観などにも表れます。それをただオリジナルの音源に倣ってアレンジしました…ということでは、厳しい物言いだけどカラオケの域を超えないのではないでしょうか。

たとえば井上陽水さんによる「SAKURAドロップス」での、ラテンアレンジおよびBメロでオルケスタ・デ・ラ・ルスに主旋律を謳わせ自身はハーモニーに徹するという、オリジナルからは想像もつかない作品が出来上がることこそカバーの醍醐味であり、それがあまりに突き抜けているので聴いていて楽しいのです。

もしくは、オリジナルに比較的忠実に、BPMもほぼ合わせて…というのであれば、浜崎あゆみさんによる「Movin' on without you」(→YouTube)を見習うのが好いでしょう。ハウス的なオリジナルと展開は一緒ながら、現代流EDMにブラッシュアップ。近年の浜崎あゆみさんの音の世界観とも合致し、その世界観を広めることにも成功。彼女の再評価につながる動きも見られます。

 

それでも、アレンジが大きく違ってくるとなると(オリジナルを知っているだけに尚の事)違和感を覚えるという声が出てくるかもしれませんが、ならばオリジナルを聴けばいいだけなのでは?という話なんですよね。各歌手のチャレンジ精神を尊重する姿勢を持っていただきたいものです。

 

 

③ 選曲が安易ではない

宇多田ヒカルのうた』は全曲シングル(一部その英語版)ではあるため選曲に妥当性があるかもしれません。しかし『私とドリカム2』では、その第一弾トリビュートアルバムと、「サンキュ.」(英語版と日本語版との差異あり)、「やさしいキスをして」、「うれしい!たのしい!大好き!」、「WINTER SONG / 雪のクリスマス」(英語版と日本語版との差異あり)、「LOVE LOVE LOVE」、「決戦は金曜日」、「何度でも」、「未来予想図II」の実に8曲も被っているのです。シングルだけで52枚リリースしているにもかかわらず歌う曲が偏りすぎてはいないでしょうか。

おそらくはより多くの方に知られている曲、そしてカラオケで歌われている曲を中心にセレクトしたのでしょうが、だからこそ保守的になりすぎて面白味に欠けると思ってしまいます。第一弾での倖田來未さんによる「IT'S SO DELICIOUS」は選曲もそれか!という感じでしたし実際に彼女に合致していたゆえ、非シングル曲や攻撃性の強い曲を選んで欲しかったですし、そうすればDREAMS COME TRUEのベスト盤のみならずオリジナルアルバムにも注目する人がきっと増えるはずです。

 

 

保守的になり”安全性”にこだわった方が売れるのかもしれません(そしてそこからは制作サイドの”攻撃か保守か”も垣間見られるようです)が、その姿勢は面白味や新鮮さを欠けさせるものだとも言えます。既にリリースが決定している『私とドリカム2』には、大森靖子さんなどの仕上がりに期待することにして(彼女を冒頭に据えたことは今回のトリビュートアルバムにおいては冒険というか面白いとは思います)、今後リリースされるかもしれない様々な歌手のトリビュートアルバムが上記の三条件をクリアしたものであってほしいと切に願います。