イマオト - 今の音楽を追うブログ -

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最近のNHK歌謡コンサートに対する違和感の正体

一昨日の『NHK歌謡コンサート』(NHK総合 毎週火曜20時)には驚かされました...五木ひろしさんがクリス・ハートさんや山内惠介さん、純烈と共にと三代目J Soul Brothers「R.Y.U.S.E.I.」を披露したのですから。

NHK歌謡コンサート 五木ひろしさん R.Y.U.S.E.I.を歌い踊る事案が発生 - NAVER まとめ

面白いとかウケるという反応が案の定多く、自分も最初は面白がって観ていた部分はあったのですが、あらためて歌そのものを振り返ると...お世辞にも上手いとは言えませんでした。あの五木ひろしさんですらBPMが早くファルセットを多用する曲に苦戦しており、演歌とJ-POPの歌唱法の違いをまざまざと見せつけられたような気がします。とはいえ山内惠介さんの苦しすぎる高音や音程のブレの少なくなさには、ジャンルの違い以前にそもそもの歌唱力を疑ってすらしまうほどでした。

 

実は正直なところ、最近の『NHK歌謡コンサート』はおかしいと思うところがあるのです。今週の番組についてもそうでしたが、自分が感じている違和感を四点にまとめてみました。

① 奇をてらった演出が増えている

② 演歌・歌謡曲以外にJ-POPが入り込んでいる

③ 特にJ-POP枠出演者において、出演が宣伝の役割を果たしている

④ 新しい世代の歌手に歌唱力があるとは言い難い

NHK歌謡コンサート』の番組ホームページにて過去3ヶ月分の放送内容が記載されておりますので、その間の各回出演者、およびその中でJ-POP枠の歌手ならびに披露曲を抜粋してみましょう。

 

過去3か月の放送 - NHK歌謡コンサートより、

 演歌/歌謡曲以外の歌手および曲名

2月17日放送 ”夢の共演!歌謡ナイト”

 ...安倍なつみ「光へ」→12/17DVDリリース

  その他、ゴスペラーズ一青窈藤澤ノリマサMay J.登場

出演:安倍なつみ,市川由紀乃,ゴスペラ―ズ,天童よしみ,一青窈,

   藤澤ノリマサ,松原健之,May J.,水森かおり,山内恵介,

   1966カルテット

2月24日放送 ”湯けむり旅情 名曲選”

 …華原朋美いい日旅立ち」→2/11CDリリース(披露曲収録)

出演:秋川雅史,大川栄策,大月みやこ,華原朋美,北山たけし,

   桜井くみ子,椎名佐千子,原田悠里,増位山太志郎,細川たかし

3月3日放送 ”きみまろ瓦版!艶(あで)やかひな祭り”

 ...工藤静香「MUGO・ん...色っぽい」「単・純・愛 VS 本当の嘘」

  →2/18CDリリース(披露曲収録)

  水樹奈々「南の花嫁さん」→1/14CDリリース

出演:綾小路きみまろ,石川さゆり,工藤静香,長山洋子,西田あい,

   水樹奈々,杜このみ,八代亜紀,山本あき

3月17日放送 ”絆・故郷・人情歌謡”

 …miwa「リンゴの唄」→2/254/8CDリリース

出演:さとう宗幸,杉良太郎,千昌夫,田川寿美,成世昌平,藤あや子,

   松原健之,水森かおり,miwa,山本譲二

3月24日放送 ”春・旅立ちの歌 贈ります”

 ...藤澤ノリマサまた逢う日まで」、

  平原綾香なごり雪」→5/13CDリリース

出演:太田裕美,海援隊,布施明,小柳ルミ子,藤波辰爾,坂本冬美,永井裕子,

   西尾夕紀,平原綾香,藤澤ノリマサ,松村和子,吉幾三

3月31日放送 ”歌の花咲く 春らんまん”

 ...新妻聖子「夜来香」、

  森麻季「朧月夜」→2/254/22CDリリース

出演:石川さゆり,市川由紀乃,五木ひろし,弦哲也,桜井くみ子,谷村新司,

   天童よしみ,新妻聖子,水田竜子,森麻季

4月7日放送 ”春のご陽気うた祭り”

 …荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー

  →2/18CD3/25DVDリリース(披露曲収録)

出演:荻野目洋子,川上大輔,川中美幸,小金沢昇司,伍代夏子,純烈,西田あい,

   福田こうへい,細川たかし,杜このみ,森山愛子,山内恵介,山川豊

4月14日放送 ”昭和歌謡で楽しまナイト”

 ...渡辺美里My Revolution」→4/1CDリリース

出演:秋元順子,石原詢子,北島三郎,椎名佐千子,ジェロ,竹島宏,夏川りみ,

   氷川きよし,前川清,八代亜紀,由紀さおり,渡辺美里

4月21日放送 ”頑張るあなたへ 心に響く応援歌”

 ...May J.「元気を出して」→2/25CDリリース

  大原櫻子「瞳」3/25CDリリース(披露曲収録)

出演:秋川雅史,岩崎宏美,大原櫻子,小林旭,島津亜矢,瀬口侑希,徳永ゆうき,

   藤あや子,水森かおり,May J.,我武者羅應援團

4月28日放送 ”日本縦断 いい歌旅気分”

 ...一青窈「女ひとり」

出演:川野夏美,冠二郎,北山たけし,小金沢昇司,田川寿美,天童よしみ,

   中村美律子,一青窈,水田竜子,三山ひろし

 

※ 5月5日放送は歌謡チャリティーコンサートのため割愛

 

5月12日放送 ”歌おう!カラオケ名曲選”

 ...五木ひろし クリス・ハート 山内恵介 純烈「R.Y.U.S.E.I.」、

  クリス・ハート「未来予想図Ⅱ」→6/3CDリリース(披露曲収録)

  クマムシ「あったかいんだからぁ♪」→2/4CDリリース(披露曲収録)

  水谷豊「カリフォルニア・コネクション」「花の首飾り」

  →3/4CDリリース(披露曲収録)

出演:五木ひろし,岩崎良美,クマムシ,クリス・ハート,坂本冬美,

   椎名佐千子,純烈,氷川きよし,水谷豊,山内恵介,山本あき

 

【① 奇をてらった演出が増えている】...いや実際はそんなに増えてはいないかとは思うのですが、「R.Y.U.S.E.I.」があまりにインパクトが大きく、また荻野目洋子さんが披露した「ダンシング・ヒーロー」は、折角昨年リリースしたセルフカバー版が素晴らしかったにも関わらず(以前言及しています→2014 JP Songs Best - face it(2014年12月31日付))、そこに盆踊りという追加アレンジを施して雰囲気を台無しにするということも。ちょっと悪ふざけし過ぎてやいないかという印象があります。

 

 

【② 演歌・歌謡曲以外にJ-POPが入り込んでいる】という点。過去3ヶ月の放送では毎回必ず一組以上は出演しているということに驚きました。今週放送分ではクマムシが登場したことに驚きましたが、カラオケ受けが好い側面があるのでどちらかといえば自然なほうかもしれず、むしろカラオケでよく歌われる曲という流れで水谷豊さんが登場したことが、失礼を承知で書くならば意外でした。

他にも最近では、水樹奈々さんや荻野目洋子さん、安倍なつみさんなども登場。それぞれアニソン枠で紅白出場、セルフカバー作品での復活、クラシックとのクロスオーバー...という背景が番組視聴者層と相性が好いのかもしれませんが、それでも『NHK歌謡コンサート』には違和感があるように思っていました。しかし、彼らがこの番組に出演したのはおそらく次の理由ゆえでしょう。

 

【③ 特にJ-POP枠出演者において、出演が宣伝の役割を果たしている】…これについては上記のJ-POP出演者および披露曲の右側に掲載したリリース情報を確認してみてください。ほぼ全てのJ-POP枠出演者が、出演前後2ヶ月の間にCD等をリリースしているのです。今週放送分に関しても、水谷豊さんは代表曲に加えてカバー集から一曲披露し、またクリス・ハートさんの「未来予想図Ⅱ」は今後発売されるカバー集第三弾からの曲であり、あたかもこれらを前提としたカラオケ企画だったんじゃないか...と穿った見方すらしてしまいます。NHKでは特定の商品の宣伝はNGのはずなのですが、商品名に触れなくとも広く名前を浸透させる形で(出演することで名前を)売ることについては何ら問題ないのか?と思うのです。

いや、ほぼ毎回、番組後半では演歌歌手が新曲を歌う枠が用意されてはいます。今週放送分の新曲枠に登場した3組については、氷川きよしさんが3/4山内惠介さんが6/3、そして五木ひろしさんが2/25にいずれも最新曲をリリースしています(リリースします)。しかしながら、新曲枠ではその直前に各歌手の意気込みなどを伺う時間はほぼ設けられておらず、一方J-POP枠の歌手に対しては、彼らの出演自体が珍しいゆえ司会者とのやりとりが設けられることが少なくないんですよね。これはちょっと差別的ではないのかな、と思うのです。ただでさえJ-POP枠が設けられることで演歌歌手の出演者数が減るというのに...と考えると、②および③の理由によって、番組と演歌歌手との間に軋轢が生じかねないと思うのですが、気のせいでしょうか。

 

【④ 新しい世代の歌手に歌唱力があるとは言い難い】について...これは『NHK歌謡コンサート』というよりは演歌界自体の問題ではあるのですが。

冒頭で触れた「R.Y.U.S.E.I.」における山内惠介さんの歌唱力、ならびに同じ回でAI「Story」に挑戦した椎名佐千子さんもそのボーカルが軽かった印象があります。さらに自分が以前観た回では、竹島宏さんが歌っていた「勝手にしやがれ」はお世辞にも上手いとは言えないどころか明らかに下手でした。最近の若手演歌歌手に実力者がいないのでは?とすら思ってしまったほどです。

あくまで私見ですが、若手演歌歌手で最も人気のある氷川きよしさんの歌唱力についても疑問を抱いています。しかし、氷川さんが演歌界のプリンスとしてデビュー直後から高い人気が続いている状況を見ると、氷川さんが【歌唱力<ルックス】という方程式を築き上げ(てしまっ)たがために、氷川さん以降は男女の隔てなく”画になる人”探しに演歌界が奔走し過ぎてやいないかと思うのです。それゆえに先述したような、歌唱力に疑問がありながらも画になるような若手演歌歌手が大挙登場したのではと。

しかし、北島三郎さんが勇退した翌年、2014年の紅白歌合戦で白組演歌枠が一枠減ったという事実はかなり重いと思うのです。演歌のヒットの少なさもあれど、ルックスを重視するあまり実力のある若手演歌歌手の少ない(いたとしても売れていない)、そして育っていかない...いわば中長期的なビジョンのない演歌界の失態の表れなんじゃないかとすら。そこまで見た目が好いと言えなくても、実力者を育て上げるという方がはるかに健全だと思いますし、今後の演歌界のためでもあると思うんですよね。

 

 

もしかしたら若手演歌歌手の実力の問題を、番組側がJ-POP歌手を補うことで穴埋めしているのだとしたら...というのはさすがに考え過ぎかもですが、ともかくこれら四つの違和感が、ここ最近の『NHK歌謡コンサート』を軽いものにしてしまっているのではないかと実感しています。それにしてもここ最近急激に変化しているように思うのですが、一体なぜなのでしょうか。