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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

AKB48「僕たちは戦わない」、2つのセールスチャートで124万枚以上の差が生じる

今にはじまったことではないのでしょうが、このタイミングで掲載します。

 

人気アイドルグループ・AKB48の40枚目のシングル「僕たちは戦わない」(5月20日発売)が初週で167.3万枚を売り上げ、6/1付週間シングルランキング1位に初登場した。シングルのミリオン達成は、「桜の木になろう」(2011年2月発売)から21作連続通算22作目。自身の持つ歴代1位記録の「シングル連続ミリオン獲得作品数」(歴代2位=B’z、13作連続)、「同・通算ミリオン獲得作品数」(同=B’z、通算15作)をそれぞれ更新した。

(省略)

本作は、『AKB48 41stシングル選抜総選挙』の投票用シリアルナンバーカード入りシングル。

AKB48が金字塔 史上初の20作連続“初週ミリオン” | ORICON STYLE (5月26日付)より 

いわゆる”投票券付きシングル”は他作品より売れることはここ数年の傾向ではあります。とはいえこの数字は純粋に凄いなと思うのです。

一方で、複合指標を合算したビルボードジャパンのチャート。その指標のひとつであるセールスチャートを見てみると。

AKB48の40thシングル『僕たちは戦わない』が、6月1日付Billboard JAPAN週間セールスシングルチャート“Hot Singles Sales”にて1位を獲得した。

島崎遥香がセンターを務めた今作は、41stシングル選抜総選挙の投票シリアルナンバー入り。(省略) 実売数42.7万枚という圧倒的な記録を打ちたて、見事に首位となった。

総選挙で大注目のAKB48 40thシングル 実売数42.7万枚でビルボード週間セールスチャート1位に│Daily News│Billboard JAPAN (5月25日付)より

オリコンビルボードのセールスチャート、両者における売上枚数には124万枚以上の差が...これはいくらなんでも開き過ぎではないでしょうか。

 

そこで調べてみると。

2012年の総選挙までは、一般のCDショップで販売される通常盤にしか投票券が封入されなかったが、2013年の「さよならクロール」からは「キャラアニ.com」で販売される劇場盤にも封入されるようになった。この変化により、これまで総選挙への資金投入の為に購入が敬遠されがちだった劇場盤の売上が伸び、売上規模が拡大した。

AKB48、41stシングル選抜総選挙投票券付「僕たちは戦わない」オリコンデイリー初日売上は史上1位の "1472375枚" - The Natsu Style (5月20日付)より

”劇場盤”の存在が、おそらくは先述したふたつのチャートにおける差なのでしょう。ちなみにその劇場盤は3種類が存在(僕たちは戦わない【劇場盤】 AKB48 KING RECORDS OFFICIAL SITEより)。握手会でのメンバー指名参加券や生写真といった、ファンにとっては嬉しいであろう特典が付いています。更に投票券も付いているとなると、一般のCDショップで購入するよりもファンにとってのお得感は強いゆえ、劇場盤の売上だけでミリオンを達成しているものと思われます。

 

ちなみに売上枚数について、詳細な分析がなされているところが他にも。

僕たちは戦わない 初週売上|teaMJ-Blog *Jurinalism* (5月26日付)

こちらでは、オリコンと”サウンドスキャン”による売上を比較し、劇場盤の売上は両者の差と同じ124.5万枚だとしています。そしてサウンドスキャンでの計測は427,926枚。ビルボードのセールスチャートにおける実売数(42.7万枚)と同じですね。

 

サウンドスキャン。調べてみると、ある事業譲渡の報道に辿り着きました。

株式会社エス・アイ・ピー(以下SIP)と株式会社阪神コンテンツリンク(以下HCL)は、SIPの運営するサウンドスキャン事業を2014年12月31日付でHCLに譲渡することで合意し、先般、事業譲渡契約を締結いたしました。

この度の事業譲渡により、SIPサウンドスキャンジャパン)とHCL(ビルボードジャパン)において、それぞれ高い信頼と評価を得てきたデータサービスを更に多くのお客様にご提供することが可能となるのみならず、今後、両事業の強みを活かした新たな解析サービスをご提供していくことが可能となるものと確信しております。

サウンドスキャン事業に関する事業譲渡契約締結のお知らせ | 阪神コンテンツリンク (2014年10月17日付)より

ビルボードジャパンチャートは阪神コンテンツリンクの音楽事業の一つであり、この事業譲渡によって、サウンドスキャンのデータがビルボードジャパンチャートへより迅速に反映しているものと思われます(同時に、密に連携しているゆえ、よりきちんとした情報公開も求められます)。これにより、サウンドスキャンのデータがビルボードジャパンのセールスチャートと同一であると断言してよいでしょう。

 

 

オリコンの数値も、ビルボードジャパン(サウンドスキャン)の数値も、データそのものについては正しいと思います。個人的にはビルボードジャパンのほうを支持します。その理由としてビルボードジャパンでは以前にも、三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE「starting over」(2015)における”コンサートチケットへのCD同梱”分をカウント対象外にしており(オリコンチャートのチケット”同梱”カウント問題。問題はカウントそのもの以上に根深い(4月24日付)より)、一般流通に絞る(こだわる)チャート作りの姿勢が見て取れるためです。 

 

歌手の側から、またレコード会社からすれば、より売れることに越したことはありません。CD売上の落ち込みが叫ばれる中で、AKB48EXILEなどの売上が見込める歌手の存在は音楽業界にとって大きいかもしれません(売上が見込める歌手によって得た利益を、レコード会社内の別の歌手への投資や新人育成にも見込めるため)。無論、小売店の利益になるという意味でも同様です。しかしながらその売上が一般的なCDショップに還元されない(グループ内のみで囲い込む)仕組みというのは、その小売店の利益を生まないという点において、あまり健全とはいえない気がするのです。そういう手法が124万枚以上もの差につながったことで、商法云々だと揶揄されるのではないでしょうか。特典の多さや複数種発売を糾弾するつもりはないのですが、客観的な数値により”劇場盤”の存在が明白になった以上、その膨大な分を少しでもCDショップに還元し、音楽業界全体を盛り上げるモチベーションにつなげたほうがより好いと考えます。