イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

好い議論と悪い議論についての私見

弊ブログでは何度か、LGBTについて言及しています。様々な理由がありますが、『ハートネットTV』(Eテレ)や『午後のまりやーじゅ』(NHKラジオ第一)に出演していたタレントのブルボンヌさんの落ち着きある物言いに感銘を受けて、いろいろ学ぶようになったというのも理由のひとつです。

 

さて、今月11日に放送された『NHK 週刊 ニュース深読み』(NHK総合 毎週土曜 8時15分)、そこで【世界に広がる"同性婚" どうなる?結婚のカタチ】という特集が組まれ、ブルボンヌさんが専門家のひとりとして出演していました。ますだおかだの増田さんなど事情に明るくないゲストや視聴者に対して説明をしていたのですが、その応対が実に素晴らしいものでした。

とりわけ感銘を受けたのは、視聴者から寄せられる、はっきりいってしまえば”心ない声”への接し方。Twitterでの声には同性婚の事情を知らない以前に、”気に入らないので知る必要もない”、または”気に入らないので聞く耳は持たない”、“少数派と言うだけで権利主張したがる”などというものが散見され、その言葉に含まれる怒気等に滅入ってしまったのですが、ブルボンヌさんはそういった声が紹介されたときも必ず柔和な表情で聞き入り、その上でやわらかな言葉を使って反論していたのです。反論といっても怒気を含めることは一切なく、諭すというスタイルで、まるで菩薩のようだ...というと大袈裟かもしれませんが。

ともすれば同性婚反対の声に含まれる怒気や罵倒に、ブルボンヌさんが心の中で滅入ったときがあったかもしれません。が、そういう意見があることも“判ります”とまずは理解した(もしくは理解を示した)上で、冷静沈着に”実際はこうなんですよ”と述べることで、対峙する声のいわば”幼さ”が際立ってしまうのですよね。主観且つ感情論に対して冷静客観な意見で答える...どちらが正しいか、そして説得力を帯びているかは一目瞭然でしょう。尤も、番組に出演していた専門家の方々はいずれも同性婚への理解を示している方ばかりゆえ、反対論者はTwitterにしか存在しなかったわけですが。

このようなブルボンヌさんのスタイルは非常に好いと思うのです。それによって、議論を観る側にも冷静な考えが芽生え、また知識が構築され、議題に対し一定の理解が生まれるでしょうし、議題に反対する方がいらしたとしてその反対理由は感情論を越えないということも見えてくるはずです。

 

 

実は先日、同じNHK総合の特別番組の後追い記事を読んで、いろんな意味で考えさせられるものがありました。

評論家の田原総一朗氏(81)との対談では、田原氏にいきなり「今いくつ?」と年齢を尋ね、「人が話しているときに、意見をさえぎっているようにみえる」などと続々とツッコミ。その毒舌ぶりが話題となり、ツイッターのトレンド入りも果たした。

田原総一朗氏に「今いくつ?」…“毒舌”はに丸が再復活 ― スポニチ Sponichi Annex 芸能(5月5日付)より

危ない番組を作ること、面白い番組を作ることが重要だと言っていた田原氏。意見をさえぎるのは”相手に本音を言って欲しいため”の手段だそうです。たしかに本音は引き出せるでしょうが、しかしながらその際は満足に話せないイライラ感を伴わせてしまうものです(それによって冷静さが失われるため本心が露わになる、ということもあるでしょう)。それによって議論が、議論とは名ばかりの“言い争い”になり、中傷合戦にすらなるのを” 面白い”と考えたゆえに『朝まで生テレビ!』が誕生し、またそのイズムが『TVタックル』(いずれもテレビ朝日系)に受け継がれているのかもしれません。が、それを観ると、政治や社会問題はあくまでエキサイトするため、番組に視聴者を呼び込み視聴率を上げるための”ネタ”であり、問題を真に解決せんとする心意気はないのでは?とすら思うときがあるのですが、自分だけでしょうか。

 

今年、『LIFE!』(NHK総合)の”宇宙人総理”にて、田原氏自身もゲストに迎えた『朝生』風コントが披露されましたが、正直言って面白かったです。議論とは名ばかりの言い争いは、コントだから画になるのでは、ならば『朝生』の存在自体がコントなのかもなあとすら思ったほど。コントと開き直るならば面白いかもしれませんが、朝生本編は政治等をネタにしている(のでは?という)段階で悪しきものだよなあという私見を抱いてしまいましたし、それが長きに渡り放送され続けることによって、言い争う政治家や言い争いでなければ取り上げられない社会問題自体に辟易した市井が増えた結果、中長期的に政治等への関心が薄れ、とりわけ投票率の低下を招いたのかもしれません。ならばその点において、『朝生』そして田原氏は罪深い人だなあと思ってしまうのです。

 

無論、議論ではない言い争いじゃないと面白くないと思う人は少なくないでしょう(『日曜討論』(NHK総合)だとテンポ感が...と思うことは無きにしもあらずです)。ならば『朝生』より冷静で、日曜討論よりやわらかい『深読み』を観ることをお勧めしますし、先述したブルボンヌさんのような、反対意見をきちんと咀嚼した上で意見を伝えることが出来る人を起用するほうが未来にとって断然好いものと考えます。放送人には、政治や社会問題が”ネタ”ではないこと、視聴率至上主義から脱却すること、冷静さを持つことを心に留めていただきたいと切に願います。無論、受け取り手たる視聴者も同様です。