イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

NHK紅白歌合戦 出場する・しない歌手に関する私見②

歌手を好きになる条件には様々あります。自分は特に曲の良さを求める傾向にありますが、うまさを求める人も多いはず。そのうまさも、音を外さない巧さ、表現力が豊かであるという旨さに分かれますし、声が個性的であったりバンドならば演奏力に長けてたり、もしくは仮に歌自体が上手くない、たとえ口パクだと揶揄されようともダンスが格好良い、イケメン/美人である…というのも条件だと言えるでしょう。たとえこれらのうち突出したものがひとつもなかったとしても、人が好さそうとの理由で好きになる人もいるかもしれません。尤も、突出した才がないとデビュー自体出来ないかもしれませんが。

 

では、この方はどうでしょう。今年の『NHK紅白歌合戦』で39回目の出場を手にした和田アキ子さんです。

私見を前提に記載しますが、デュエット相手のEXILE SHOKICHIさんが器用過ぎるきらいはあれどメロディを美しく紡いでいるのに対し、和田さんのボーカルは紡ぎ方が器用ではなく音のピッチに難があり(Bメロの♪もうすがらない、での高音など)、そしてそもそも深みが足りないように思うのです。ブルージーな作品なら地声が活きるかもしれませんが、かのジャム&ルイスが提供したR&Bテイストの同曲には、正直なところ合っていないと実感しています。そもそもなぜジャム&ルイスに依頼したのか(そしてジャム&ルイスがなぜ承諾したのか)…それすら疑問に思ってしまいました。

 

 

和田アキ子さん、"紅白"出場が決まる度に、ネットを中心に"なぜ出場出来るの?"という声が数多く出てきます。"(芸能界の御意見番としての)発言が無礼である"ことを理由にバッシングを受けることもありますが、その大半は"セールスが伴っていない"というもののように見受けられます。そしてその客観的数値たるセールスの週間最高順位は、正直言ってあまりにも低いのです。最高順位と登場回数(登場週)は下記のリンク先に掲載されているのでご参照ください。

先述の曲を収録したアルバム、『WADASOUL』は今週初登場168位。シングル「晴レルヤ」は連続ドラマのタイアップでありながら順位の記録がないという状態。2010年のシングル「人生はこれから」が最高143位と出ていることから、「晴レルヤ」はおそらく200位以内にランクインしていないのではと推測されます。たしかにこれでは、売れているなどと言えるものではありません。無論、ダウンロードやストリーミングもカウントすれば変わってくるかもしれませんが。

 

他方、和田さん同様に今年の"紅白"に出場を果たした歌手の皆さんはどうでしょうか。ジャンルを演歌に絞り、2014年秋から2015年にかけてのシングルを対象に、白組も含めて見てみます。データは和田さん同様、オリコンのものを参照しています。

<紅組>

石川さゆり 「あぁ…あんた川」最高35位 登場回数26週

       「ちゃんと言わなきゃ愛さない」最高38位 登場回数5週

伍代夏子  「矢車草」最高順位48位 登場回数40週

坂本冬美  「風うた」最高順位47位 登場回数14週

・島津亜矢  「独楽」最高順位26位 登場回数26週

天童よしみ 「いのちの人」最高順位34位 登場回数18週

       「いのちの春」最高順位33位 登場回数14週

       「5時の汽車で」最高順位75位 登場回数5週

藤あや子  「笑う月/浮き世ばなし」最高順位120位 登場回数1週

       「麗人草」最高順位118位 登場回数3週

水森かおり 「大和路の恋」最高順位10位 登場回数34週

<白組>

五木ひろし 「桜貝」最高順位14位 登場回数48週

       「渚の女」最高順位64位 登場回数13週

       「夕陽燦燦」最高順位29位 登場回数13週

氷川きよし 「ちょいときまぐれ渡り鳥」最高順位3位 登場回数20週

       「さすらい慕情」最高順位8位 登場回数21週

       「愛しのテキーロ/男花」最高順位2位 登場回数8週

細川たかし 「艶歌船」最高順位46位 登場回数14週

       「北岳」最高順位30位 登場回数14週

三山ひろし 「お岩木山」最高順位13位 登場回数41週

美輪明宏  「愛の讃歌(日本語バージョン)」データ無し

・森進一   「えにし」最高順位60位 登場回数4週

       「あるがままに生きる」最高順位26位 登場回数6週

山内惠介  「恋の手本」最高順位9位 登場回数38週

       「スポットライト」最高順位10位 登場回数40週

<特別企画>

小林幸子  「色々あるけど会いたいよ」最高順位151位 登場回数2週

       「無限∞ブランノワール」(しょこたん♥さっちゃん)名義

        最高順位12位 登場回数1週

<以下は今年落選した歌手>

香西かおり 「くちなし悲歌」最高順位43位 登場回数8週

       「とまり木夢灯り」最高順位62位 登場回数28週

福田こうへい「おかげさま」最高順位21位 登場回数33週

<以前弊ブログで紅白出場期待と記載した歌手>

市川由紀乃 「海峡岬」最高順位18位 登場回数26週

       「命咲かせて」最高順位25位 登場回数31週

大前提として、美輪明宏さん以外シングルがランクイン(しているデータが残っています)。ちなみに美輪さんは今年、ベスト盤のみのリリースにとどまっています。また、福田こうへいさんの「おかげさま」は「南部蝉しぐれ」「峠越え」の既発シングル2曲とライブバージョン2曲による作品であり、(スタジオ録音による)新曲はシングルとしてリリースされていません。

無論、和田さんは演歌ではなく歌謡曲・ポップスのジャンルゆえ、演歌歌手と比較させるのはナンセンスかもしれませんが、チャート上でも好成績を残した市川由紀乃さんや「とまり木夢灯り」がロングヒットした香西かおりさんが出られず、シングルでのチャートインデータのない和田さんが残るのはたしかに不自然だと言えるでしょう。この客観的数値が売上枚数を基準にすれば若干異なる結果になるかもしれませんが、それでも和田さんよりどの歌手も数値が上になることはほぼ間違いないはずです。

 

 

そういえば、"紅白"の選考基準は『(1)今年の活躍、(2)世論の支持、(3)番組の企画・演出――を前提』とありました(ももクロ落選に音楽関係者疑問の声も「活躍」「支持」欠いたのか? (スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース(11月27日付)より)。そう考えれば、先述したシングル最高順位データが無い美輪明宏さんについては、"紅白"において小細工無しの真剣勝負たる演出が続いていたことから、(3)を考慮にしての選考だったのかもしれません。では和田さんは…となると、(3)では説得力に欠ける気がするのです。ならば、(2)の世論の支持が前提なのかもしれませんが、仮に世論の支持を"好感度"と同一とみなした場合、下記のランキングでは上位50位以内にランクインしていないのです。それも、最近2年間はずっと。

女性タレント人気度上位50 | ビデオリサーチ

DREAMS COME TRUE(そういえば、"紅白"出場一覧に掲載されていませんね…)、いきものがかり中島みゆきさん等、歌手もランクインしているこのランキングで、長年芸能界に君臨する和田さんが入っていないということは、突出した好感度を持ち合わせていないといえるかもしれません。さらに最近ではこのような問題も。

佐村河内氏の名誉を毀損(きそん)する人権侵害があったとして再発防止を求める勧告を出した。勧告は人権委が出す最も重い判断。

「アッコにおまかせ」にBPO勧告 佐村河内氏会見巡り:朝日新聞デジタル(11月17日付)より

自分は放送を観ていないので放送内容について語る資格はありませんが、ここ数年は下世話なワイドショー化して久しいと聞きますし、ラジオ番組『ゴッドアフタヌーンアッコのいいかげんに1000回』(ニッポン放送)での発言(記事になることが多いですね)を踏まえれば、いくら相手が社会的に悪いことをした人であるとはいえ、その他者に改心を求めるのではなく平然と非難する姿勢に強い疑問を覚えています。まして前回の『アッコにおまかせ!』ではBPO勧告について本人からのコメントはありませんでした。無論、芸能界で慕われていることも理解していますし、BPO勧告について必ずコメントしなければならないというルールはありませんが、果たしてそのような非難をよく口にし、一方で自らの問題には口をつぐむ人の音楽に、心がこもっているでしょうか。

 

(ちなみに、自分が参加するSNSにおいてつい先日、『どんなに創り手の人間性に疑問があろうと、その創り手の放った作品が好いものならば支持する』という書き込みがあり、なるほどたしかにそれも一理あるよなあと実感しました。しかしそれはその作品が"好ければ"の話。冒頭で引用したジャム&ルイス曲での技巧力の欠如等をみるに、好いとは思えない自分がいます。)

 

 

さて、和田さんの技巧力で思い出したのがメアリー・J・ブライジ。荒削りな歌い方ながら音作りにおいてその時流を先導し、1992年に「You Remind Me」デビューして間もなく"クイーン・オブ・ヒップホップ・ソウル"と呼ばれるようになった方で、特に失恋の歌における表現力の豊かさ、情念が込められた歌唱で後に"クイーン・オブ・ソウル"とも呼ばれるようになっています。同じく"クイーン・オブ・ソウル"の愛称で長年愛されたアレサ・フランクリンともゴスペル曲等で共演。「Never Gonna Break My Faith」(2006)の力強さ、大先輩のアレサと堂々と渡り合う姿には圧倒させられます。

ピッチが外れている部分がないとは言いませんが、ソウルフルな歌唱、魂の込め方は年齢を重ねるにつれて明らかに深まっており、その点においてメアリーが好きだという方は少なくありません。20年以上の活動で、クリスマスアルバムを含む全てのオリジナルアルバムが米ビルボード総合10位以内・R&B3位以内にランクインしているのは支持者の多い何よりの証拠だといえるでしょう。日本とアメリカの歌手を比べるのは無理があったかもしれませんが、歌唱面で勝手ながら似ているとして比較表記した和田さんとメアリーには、セールス面でもこれだけの差があるのです。そして歌唱の変遷において、過去の和田さんの歌声を聴くに、たとえば「古い日記」における瑞々しさとソウルフルとが融合した歌声はワンアンドオンリーと断言してもよく、そしてピッチの外れも目立っていません。それを踏まえれば、今の和田さんは歌唱力がダウンしてしまっているような気がしてならないのです。

 

 

 

主観も交えながら、でも客観的な指標でもって、和田アキ子さんが"紅白"に出場するに相応しくない理由を掲載しました。辞退してもらおうという意図など一切ありません。歌唱におけるレベルの再アップを目指し、他者を非難しない姿勢を持ちあわせ、そして(他者と比較して)売れていない現状を真正面から感じてほしい…つまりは"謙虚になっていただきたい"のです。以前和田さんを追いかけたドキュメンタリーで、ステージ前には敬愛するレイ・チャールズの写真を必ず見る姿が映し出されていたのですが、謙虚な姿勢を必ずしも持ちあわせているとはいえないだろう現在の和田さんを、天国のレイ・チャールズはどう思っているのだろう…と考えてしまいます。

 

 

ちなみに"紅白"関連記事において、和田さんの出場は同じ芸能事務所に所属する綾瀬はるかさんが紅組司会になったことによる"バーター"である、という論評もありました。それら記事はよくよく読めば"紅白"非難等何かしら(誰かしら)を小馬鹿にする姿勢が垣間見られて読んでいて気分が悪くなることが多いのですが、それでもたしかにその"バーター"論は一理あると思うのです。真に自身が芸能界の大御所(御意見番)であると自負するのであれば、バーターと揶揄されないくらいのヒット作を輩出し、出場に懐疑的な人々に対し真正面から突破していただきたいものです。