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青森県在住。毎週日曜日17時から、FMアップルウェーブ発の番組の一員として参加。音楽・ラジオ好きによる"日々の音"やメディアの話

グラミー賞私的総括~最優秀アルバム賞への私見

日本時間で昨日開催された、第58回グラミー賞。弊ブログで主要4部門の予想を行いましたが(今年のグラミー賞を予想する(2月14日付)参照)、結果最優秀アルバム賞を除く3部門が的中しました。受賞者リストは下記に。

この結果を踏まえての私見を書くならば、ケンドリック・ラマーがアルバム賞を逃したことはすごく悔しい…というのが最も強く考えていることです。今回受賞したテイラー・スウィフト『1989』がよくなかったということでは決してなく、今蔓延る社会問題を提示し、複数のメディアで最高の評価を受け(これらについては一昨日のブログに記載しています)、さらにはあのデヴィッド・ボウイの遺作『★(Blackstar)』のインスピレーション源となったケンドリックのアルバム、『To Pimp A Butterfly』が獲ることに”より大きな”意義があったと考えていたからです。

 

彼の作品が獲れなかった理由は主に3つあるのではないかと推察しています。

 

一つ目は、今回の主要4部門受賞作品(受賞者)が、各部門においてチャートの最上位に位置していたことを踏まえるに、チャート成績が大きな判断材料になっていたとみられる点。チャート成績も一昨日のブログで確認出来ますのでよかったら。

 

二つ目は、今回のグラミー賞(のテレビ放映分)は純粋にお祭り要素が強く、ケンドリック等が訴えるBlackLivesMatterという精神が昨年に比べてほとんど示されなくなっていたという点。いや、ケンドリックはラップ4部門を全制覇し、ディアンジェロ&ザ・ヴァンガードも、そして昨年の賞の大トリを飾った映画主題歌、コモンとジョン・レジェンドによる「Glory」も今年受賞したのですが、昨年に比べてBlackLivesMatterに関連したパフォーマンスが激減。その分というか、孤軍奮闘していたケンドリック・ラマーの鬼気迫るパフォーマンスは賞賛の嵐となり、ビルボードでもこの日のショウで最高のパフォーマンスだという記事を載せています。

「The Blacker The Berry」、「Alright」そしてフリースタイルという圧巻のパフォーマンス、そしてケンドリックの衣装や燃え盛る炎、さらに最後に示された背景については是非映像を確認していただきたいと思います。

昨年は「Glory」が大トリを務めたことで、BlackLivesMatterの精神をグラミー賞が賛同し後押ししていたように思えたのですが、一方で今年の大トリはピットブル。彼が悪いというわけではないのですが、それにより今年は”音楽を純粋に楽しもう”という空気感がより強かったのかなと。尤も昨年だって全部が全部BlackLivesMatterの精神を示したものではなかったのですが、大トリに選ばれた曲に、お祭り要素の強い作品が支持されたことが端的に示されているのではと考えています。

(ちなみに一昨日書いた、前週のスーパーボウルでのビヨンセ「Formation」のパフォーマンスに対する”警察非難”、”祭にメッセージ性のある曲を持ち込むな”というアンチビヨンセの声がグラミー賞の投票に反映されたのでは?とふと思ったのですが、投票は先月中旬が締め切りだった模様。それゆえアンチ云々は投票行動に現れなかったものと考えます。)

 

そして三つ目は、ラップミュージシャンが主要4部門において冷遇されているのではないかという点。主要4部門におけるラップミュージシャンの受賞は、1999年にローリン・ヒルが『The Miseducation of Lauryn Hill』で、2004年にアウトキャストが『Speakerboxxx / The Love Below』でそれぞれ最優秀アルバム賞、2014年にマックルモア&ライアン・ルイスが最優秀新人賞を獲得した3例のみ。ローリン・ヒルはラップと同時に歌モノの比重も強く、またマックルモア~については彼らはラップではなくポップのカテゴリーだと批判されており(グラミー4冠のマックルモア、無冠のケンドリック・ラマーに「君が授賞すべきだった」 | bmr(2014年1月28日付)参照)、純粋な(というと語弊があるかもしれませんが)ラップミュージシャンの受賞はアウトキャストのみと言えるかもしれません。たとえば新譜を(TIDALのみで)発表したばかりのカニエ・ウェストは主要4部門の受賞を切望しているとも言われており、ラップミュージシャンにとって受賞を悲願と捉える人は少なくないはず。しかしながらここまでの冷遇はもしかしたら、グラミー賞で揶揄されることも少なくない”保守的”投票者がケンドリック以外に投票したのではないか…と考えているのですがどうでしょう。そういえばアウトキャストもアルバム収録曲で全米1位を記録した「Hey Ya!」がソウルミュージックを踏襲した楽しい内容となっており、”ラップの要素がより強く”、そして”メッセージ性の強い”ラップ作品はまだまだ敬遠される傾向にあるのかもしれません。

 

 

自分はR&B好きゆえ、SNSR&B系ライターの反応を追いかけることが多いのですが、ケンドリックが受賞を逃したことを納得出来ないとする声が多かったですね。でも実は、受賞したテイラー・スウィフト本人が何より納得出来なかった…というか最優秀アルバム賞受賞はサプライズだったのかもしれません。下記はグラミー公式アカウントに掲載された、最優秀アルバム賞発表の瞬間。

受賞の瞬間に一瞬呆然としたテイラーが、登壇する直前に駆け寄ったのがケンドリックのところ。ケンドリックの居場所を見つけるや否や真っ直ぐ駆け寄ってハグしています。どんな言葉を交わしたのか、そもそも言葉を交わしたのかすら判りかねますが、お互いの健闘を讃え合うというより、もしかしたら”あなたが受賞するべきだった”という思いを伝えようとしていたのかもしれません。それにしても彼女、最優秀楽曲賞ではエド・シーランの受賞を本人以上に喜んでいたし、素直に人を褒めることが出来る純粋な心の持ち主なのかもしれませんね。

 

 

グラミー賞はこのような結果になりました。この結果を踏まえて気になる作品をチェックし、今度は聴き手それぞれが自分の中のグラミー賞を決めてみるのはどうでしょう。テイラーとケンドリックを聴き比べてみるというのも好いかもしれません。

また、今回のグラミー賞を踏まえて、音楽ジャーナリストでラジオパーソナリティ高橋芳朗さんが今度の日曜、『ジェーンスー・高橋芳朗 グラミー賞でも踊る』(TBSラジオ 2月21日日曜19時)にてグラミー賞を総括します(2/20(土)&2/21(日)スペシャルウィークのお知らせ。 - ジェーン・スー 相談は踊る(2月14日付)より)。ライブ音源も放送されるということで、注目しようと思います。

 

 

それと、主要4部門以外ですが、最優秀ゴスペルアルバム賞をイスラエル&ニュー・ブリード『Covered: Alive In Asia』が受賞したのは本当に嬉しかったですね。日本でも行われたライブレコーディングが元になった作品ですので、ある意味で日本関連作品が受賞したということに。弊ブログでも取り上げていますので、グラミー受賞者、イスラエル&ニュー・ブリードのアジアツアーがCD化。来日公演までの軌跡と奇跡(2015年4月9日付)をよかったらチェックの上、アルバムを聴いてみてください。