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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

第59回グラミー賞、主要4部門を予想してみる

いよいよ日本時間の来週月曜、アメリカ最大の音楽賞、第59回グラミー賞が発表されます。というわけで、昨年同様今年も極々個人的ながら主要4部門(最優秀レコード賞・最優秀楽曲賞・最優秀アルバム賞・最優秀新人賞)を予想してみます。

昨年の予想はこちら。

そして結果と総括。

最優秀アルバム賞を除く3部門で的中出来たのですが、ケンドリック・ラマーを破ってテイラー・スウィフトが最優秀アルバム賞を受賞…というのは、予想出来なくはなかったものの、一昨年から昨年にかけて一気に社会への提言という色が薄れたことが影響しているのだろうと。テイラーの受賞にケチをつけるつもりは毛頭ありませんが、個人的には(予想云々ではなく)本当に残念だったと思います。

 

さて今回は、【ドナルド・トランプ大統領に対する批判がどこまで反映されるか】に注目が集まるのでは?という声が聞かれるのですが、その点においては"そこまで強くは反映されないのでは?"という見方を提示させていただきます。というのも、今回の投票が大統領就任前に締め切られているのです。スケジュールは音楽評論家、吉岡正晴氏の記事に詳しく掲載されています。

とはいえ、ドナルド・トランプ大統領が起こしそうなことはあらかじめ想起出来ていた(し実際に実行し続けていることで混乱が生じている)ことを踏まえれば、ドナルド・トランプ政権に対する懐疑の目、およびそれを前面に示した楽曲やトランプ大統領が解決するどころか見放すばかりであろう"多様性の尊厳"を訴える作品が選ばれる可能性は十分あるでしょう。

 

では、それら前置きを踏まえ、主要4部門を予想してみます。なお、今回参照するデータは下記に。

米ビルボードソングスチャート 2016年年間トップ100

米ビルボードアルバムチャート 2016年年間トップ200

 (いずれも上記より前年のチャートに移動可能)

BBC、究極の2015年ベスト・アルバム・ランキングを発表 | V.A.(洋楽) | BARKS音楽ニュース(2015年12月24日付)

2016年ベスト・アルバム・ランキングの総ランキング発表 | V.A.(洋楽) | BARKS音楽ニュース(2016年12月22日付)

  (上記ニュースに登場するランキングは英BBCによるもの、『影響力がある25のメディアのリストを集計し“Poll of Polls(ランキングのランキング)”』として公開しています(『』内は2016年のニュースより。25のメディア名も掲載されています。)

 

まずはこちらから。なお、作品の下に表記するデータは、米ビルボードチャート、および英BBCのPoll of Polls(以下PoP)です。

●最優秀アルバム賞 (Album Of The Year)

・アデル『25』

  (2016年アルバムチャート年間1位 / 2015年PoPチャート年間12位)

ビヨンセ『Lemonade』

  (2016年アルバムチャート年間4位 / 2016年PoPチャート年間1位)

ジャスティン・ビーバー『Purpose』

  (2016年アルバムチャート年間3位)

・ドレイク『Views』

  (2016年アルバムチャート年間2位)

・スタージル・シンプソン『A Sailor's Guide To Earth』

  (2016年アルバムチャート年間200位未満)

昨年のこの部門を受賞したテイラー・スウィフト『1989』は2014年のアルバムチャート年間3位、翌2015年1位と特大ヒットとなり、いわばセールス最上位がグラミー賞を制したとも言えるのですが、その流れを受けてか今年はチャート上位4作品が順当にノミネートされた印象があります。他方、スタージル・シンプソンはカントリーやアメリカンロック畑で活躍する、いわば"ミスターアメリカ"的な存在(プロフィールはこちら)。カントリーやアメリカンロックはまさしくドナルド・トランプ氏を支持する"保守"が好むとされる音楽であり(大統領選でも特にカントリー音楽が根付く地方では共和党支持が多かったとのこと)、セールス的に(週間チャート最高3位ながら)そこまでの結果を残していない方がノミネートされていることに、トランプ大統領支持者の表の流入が考えられ、ゆえに予想しにくい状況になっています。

で、それ以外の4強についてはどうか…ちょっと穿った見方ですが書くならば、アデルは前作『21』の大ヒットの流れを引き継ぎ今作もヒット、ビヨンセは突如リリースというサプライズ、ジャスティン・ビーバーはアルバムからの先行3曲(+ジャック・Uへの客演)が矢継ぎ早にヒットしアルバムを牽引、ドレイクは純粋なセールス以上にストリーミングポイントが牽引…というのがそれぞれのヒットの要因だと考えます。そのうちはっきりと政治や社会に対するメッセージを打ち出しているのはビヨンセくらいでしょうか。

セールス面ではアデルの圧勝といえますがそうなるとアデルは『21』に続き2作連続での受賞となります。が、アルバム収録曲でソングスチャートを制したのが「Hello」1曲のみであること(その点において、テイラー・スウィフトは3曲をトップに送り込んでいます)、ジャスティン・ビーバーとドレイクはリリース年のPoPランキングに登場しないことを踏まえれば、ビヨンセが受賞することが最も相応しいのではないかと考えます。反トランプ政権への票が彼女を後押しすることもあり得るでしょう…が、政治色が反映されるならばスタージル・シンプソンの存在はやはり怖いですね。とは言いつつ、やはり本命はビヨンセ『Lemonade』で。

 

●最優秀レコード賞 (Record Of The Year)

・アデル「Hello」

  (2016年ソングスチャート年間7位 / 2015年同年間35位)

ビヨンセ「Formation」

  (2016年ソングスチャート年間100位未満)

・ルーカス・グラハム「7 Years」

  (2016年ソングスチャート年間12位)

・リアーナ feat. ドレイク「Work」

  (2016年ソングスチャート年間4位)

・トゥエンティ・ワン・パイロッツ「Stressed Out」

  (2016年ソングスチャート年間5位)

面白いのは、昨年の年間チャートでワンツーフィニッシュを果たしたジャスティン・ビーバー(1位「Love Yourself」および2位「Sorry」)、3位のドレイク「One Dance」が入っていないということ。両者とも最優秀アルバム賞ノミネート作収録曲なのですが。

さて今回は混戦と思しき中で、やはりビヨンセを推します。正直この作品がノミネートされることは先述したスタージル・シンプソンの如き疑問もあるのですが、チャート以上にこの曲は昨年のスーパーボウル、ハーフタイムショーにおけるインパクトを踏まえれば(後の"スーパーボウルに警察批判を持ち込むな"という論争を起こしたという意味においても)、チャート順位以上の価値を持つ曲なのだと思います。とはいえ、この曲が選ばれた際はそれはそれで"チャートと乖離している"という論争も起きかねない気がしますが。

 

●最優秀楽曲賞

ビヨンセ「Formation」

  (2016年ソングスチャート年間100位未満)

・アデル「Hello」

  (2016年ソングスチャート年間7位 / 2015年同年間35位)

・マイク・ポスナー「I Took A Pill In Ibiza

  (2016年ソングスチャート年間15位)

ジャスティン・ビーバー「Love Yourself」

  (2016年ソングスチャート年間1位)

・ルーカス・グラハム「7 Years」

  (2016年ソングスチャート年間12位)

社会への浸透度とは別に、楽曲そのものの良さで競われるこの部門。参考の一つとして新たに加えたいデータを下記に掲載します。

『TIME』誌が選ぶ2016年のベスト&ワースト・ソング・トップ10 | V.A.(洋楽) | BARKS音楽ニュース(2016年12月1日付)

最優秀楽曲賞の大賞楽曲はこの『TIME』誌のランキングよりも社会的浸透度が高い楽曲のほう(米ビルボードソングスチャートの年間ランキング)だと言えるでしょうが、ノミネート作のうち『TIME』誌でベストに挙げられたのはビヨンセ(1位)のみ。逆にワーストにはマイク・ポスナー(6位)、ルーカス・グラハム(10位)の2作がランクインしてしまっています。

となるとビヨンセ…でしょうが、今回は非常に難しいといえます。なにせ「Love Yourself」と「7 Years」はロングヒット。ロングヒットはまさに良い曲ゆえ人気が絶えないという証だと思うのです。しかも昨年、この部門では同じくロングヒットしたエド・シーラン「Thinking Out Loud」(週間最高2位ながら年間でも2位を記録)が受賞。そのエドが3月リリースの新作に入れようとしたものの譲ることにして、手を加えて売り出され大ヒットしたのがジャスティン・ビーバー「Love Yourself」…ということを考えればジャスティンにも十分なチャンスはありえます。といいつつ、インパクト等を踏まえればビヨンセに絞れるかと。2010年に同部門で一度獲得しているのですが、その曲「Single Ladies (Put A Ring On It)」はいい意味で変態性の高いビートやサビにもかかわらず受賞したわけで、今回も攻めの楽曲とはいえ受賞は十分可能性あるかと。

 

●最優秀新人賞

・ケルシー・バレリーニ (Kelsea Ballerini)

  (アルバム『The First Time』 2016年米アルバムチャート年間117位)

・ザ・チェインスモーカーズ (The Chainsmokers)

  (アルバム『Bouquet (EP)』 2016年米アルバムチャート年間75位

   2016年米ビルボードアーティスト100チャート年間13位)

・チャンス・ザ・ラッパー (Chance The Rapper)

  (アルバム『Coloring Book』

   2016年米アルバムチャート年間72位 / 2016年PoPチャート年間4位

   2016年米ビルボードアーティスト100チャート年間98位)

・マレン・モリス (Maren Morris)

  (アルバム『Hero』 2016年米アルバムチャート年間145位)

・アンダーソン・パーク (Anderson .Paak)

  (アルバム『Malibu』 2016年PoPチャート年間13位)

ここでは新たに、米ビルボードの【アーティスト100】という指標を紹介します。

Top Artists - Year-End 2016 | Billboard

 その年を代表する歌手の指標とでもいうのでしょうか、昨年の1位はアデルでしたが、ランクインしている歌手を上記に掲載してみました。となると圧倒的にザ・チェインスモーカーズが頭数個分抜け出している…のですが、彼らは対抗と考え、個人的にはチャンス・ザ・ラッパーを推すことにします。というのも"レーベルとの契約を持たない" "ストリーミング以外での有償リリースを行わない"という異例の歌手でありながら作品がことごとくヒットし、ついにはグラミー賞における最優秀新人賞のポリシーを変更させるに至ったわけです(来年のグラミー賞からストリーミング限定作品も候補対象に | bmr(2016年6月17日付)より)。となると、グラミー賞はある種、彼のために門戸を開けたと言っても過言ではなく、今年の賞が彼に与えられることはほぼ間違いないでしょう。

ただ…あくまで個人的にはですが、フィジカル、それもCDという形で手に入れたい自分のような人間には複雑な心境です。ネット環境がない方はCDというメディアでないと容易に聴けないわけで、その方々への配慮は果たしてあるのかな、と。とはいえ、よくよく考えたらCD購入時にもオンラインショッピングが当たり前になってきている以上、ネット環境がないというのは極めて稀なのかもしれませんが。

 

 

というわけで、個人的な今回のグラミー賞主要4部門予想は、最優秀新人賞がチャンス・ザ・ラッパー、それ以外がビヨンセだと予想します。ビヨンセについては現代社会…ドナルド・トランプ大統領が加速させてきている差別意識への対抗として立ち上がった(今年度主要部門ノミネート分における)唯一の作品とも言えるでしょうから、是非とも受賞してほしい…という願いを込めています。

 

 

さて、今年もタワーレコードInterFM897において予想クイズが行われていますので、そちらにも是非参加してみてください。

締め切りがそれぞれ異なりますのでご注意ください。

 

そしてひとつ気になるのは…昨年までとは異なり、今年はInterFM897でのradikoプレミアム(エリアフリー)配信が行われず、またタイムフリーにも非対応とのこと。ちょっとこれは悲し過ぎますね…Twitterで理由を伺ったものの現段階で返答はなく、ちょっと冷たいなあと思ってしまいます。