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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパン年間ソングスチャートにみる、2017年の音楽業界トピックス10

一昨日発表されました。

複合指標ではないオリコンよりも早く発表されることに、チャートの意義を伝えようというビルボードジャパンの思いが伝わってくるかのようです。

さて、個人的に今回の年間チャートから思うところを10項目、取り上げてみようと思います。あくまで私見ですのでその点はご了承ください。

 

① 2016年ヒット曲の長期ヒット化

ソングスチャート(HOT100)では、星野源「恋」(2016年度3位→2017年度1位)、ピコ太郎「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」(6→8位)、RADWIMPS前前前世」(2→9位)、欅坂46サイレントマジョリティー」(10→10位)と、トップ10内でこの2年被っている楽曲が4曲も。ドラマや映画のムーブメント、紅白歌合戦(以下紅白と表記)効果であることは明白、その一方で今年社会的ヒットとなった(大袈裟な表現ながら、誰もが口ずさめると言っていい)楽曲が存在しなかったとも言えるでしょう。

そんな中で昨年度トップ10に4曲をも送り込んだAKB48は今年度ゼロに終わっています。

 

② シングルCDセールスのウェイト減少、および歌手毎のウェイト調整

実は昨年度のAKB48による”席巻”、昨年の年間チャート発表直後自分はこう疑問を呈しました。

『『ミュージックステーション』(テレビ朝日系 金曜20時)で発表された今年の1曲ランキングに「前前前世」「恋」「ペンパイナッポーアッポーペン」「サイレントマジョリティー」が登場していながら「翼はいらない」がトップ10に入らなかったこともあって(中略)、個人的には「翼はいらない」の首位に懐疑的な部分は否めない』と書いたのですが、その後ビルボードジャパンはシングルCDセールス指標にメスを入れた模様です。

CD売上が高い作品に関しては、累進課税的にCD売上換算が引き下げられる対策が施されている(通常通り「売上枚数の8.5%」の数値から、更に枚数に応じ割合減算されていると推測される。

Billboard JAPANの仕様(2017年度版) ( J-POP ) - “天”ブログ - Yahoo!ブログより

(勝手ながらブログを紹介させていただきました。問題があれば削除させていただきます。)

ビルボードジャパンのソングスチャートを構成する各指標については下記に掲載されているのですが、シングルCDセールスにおいては『全国推定売上枚数』とのみ書かれています(12月9日正午に確認)。

各構成指標においては現在の社会的影響度に応じて割合が増減していますが、”累進課税的に引き下げ”という記載はありません。昨年度までのチャートにおいては(今夏ですが)このような指摘もあり、自分のような声も出ていたことでそれらを勘案して”累進課税引き下げ”がなされたものと思われます。そうでないと、シングルCDセールス指標で1~4位を独占したAKB48ソングスチャート(HOT100)のトップ10入りを逃すことについては説明がつかないわけで、こういうポリシー変更においては詳細まで発表しなくともせめて”ポリシーを変更します”というアナウンスをきちんと行わないと、ビルボードジャパンへの不信感を抱く方はいらっしゃるはず。前もっての発表を強く願います。

とはいえ、今回のポリシー変更により、ビルボードジャパンのソングスチャートが社会的ヒットをより反映し、また社会的ヒットの鑑としてより強く機能するようになったというのが私見です。

 

③ ”AKB<坂道”の構図

シングルCDセールスでは【AKB48乃木坂46欅坂46】の図式ですがソングスチャート(HOT100)では形成が逆転。歌手部門のランキング(TOP ARTISTランキング)では【欅坂46(2位)>乃木坂46(4位)>AKB48(6位)】となるのが興味深いところ。

12月1日に『ミュージックステーション』(テレビ朝日系 金曜20時)で発表された”今年の1曲ランキング”でもやはりその構図が示されています。

1位 DAOKO×米津玄師「打上花火」(ビルボードジャパン年間3位)

2位 星野源「Family Song」(年間13位)

3位 倉木麻衣渡月橋~君 想ふ~」(年間52位)

4位 乃木坂46インフルエンサー」(年間7位)

5位 欅坂46「不協和音」(年間4位)

6位 WANIMA「やってみよう」(年間42位)

7位 桑田佳祐「若い広場」(チャーインせず)

8位 嵐「つなぐ」(年間29位)

9位 TWICE「TT」(年間6位)

10位 三浦大知「EXCITE」(年間30位)

桑田佳祐さんがランクインしないのは意外であり、アルバム『がらくた』発売のかなり前の段階で先行配信しておけば...と思ったのですがそれは置いといて。乃木坂46および欅坂46がランクインしながらAKB48が入っていない状況からも、社会的影響力の大きさがAKBグループより坂道グループにあるということが理解出来ます。

坂道グループの成功は、両グループの明確なコンセプトの打ち出しや純粋な曲の好さもあれど、穿った見方ですが”AKBグループは良くない”という上に成り立っている部分もあるのではないかと。複数種発売等の手法が”AKB商法”と言われることで彼女たちをあくどいとみなす向きがあることで、同商法を取り入れる他のグループがAKBグループをスケープゴート的に扱えるいうのもあるかもしれません。AKBグループがこれを破るには相当優れた楽曲を輩出しないといけないでしょう。

 

④ アイドルは秋元康プロデュースとジャニーズがほぼ席巻

②で述べたように、ソングスチャート(HOT100)におけるシングルCDセールス指標が前年度までに比べて大きく下落し、特にアイドル系を中心にウェイト調整が図られたであろう結果、アイドルの年間チャートへの登場が少なくなったように思います。いや、週間チャートにおいてシングルCD発売週のポイントが加算された際は急激な伸びを示すものの、翌週以降は一気に下がってしまう傾向があり、長期滞在には継続的な話題性、そして楽曲自体の力がないと難しくなりました。これはアニメ系やいわゆるキャラソン等にも言えることです。

そんな今年度のTOP ARTISTランキング上位20傑に登場するアイドルは③で述べた女性アイドルおよびジャニーズ事務所所属歌手(嵐(11位)・SMAP(13位)・関ジャニ∞(19位))、およびAAA(15位)のみ。AAAをアイドルと括るには無理があるかもしれませんが(同様にPerfumeや、後述するK-Popも)、瞬発力だけでは生きていけないということが解ります。ちなみにジャニーズ事務所所属歌手についてはHey!Say!JUMPがトップ100内に3曲を送り込んでいるため稼ぎ頭の一角になっていることが証明されたように思います。

 

⑤ 米津玄師、大ブレイク

米津玄師さんは3位にランクインしたDAOKOさんとの「打上花火」をはじめ、5曲をトップ100に送り込みました。TOP ARTISTランキングには『HOT100とHOT ALBUMSで10位以内に入ったアーティストがちょうど10組ずつで、重複するアーティストは、Mr.ChildrenAKB48ONE OK ROCKRADWIMPS、米津玄師の5組。それらは皆(一部限定的とはいえ)ダウンロード解禁済で、ストリーミング未解禁なのは米津玄師のみ』とあり、ひとり何度も再生してポイントアップに貢献出来るストリーミングを解禁しないながらも5作品をも送り込むのは、それだけ多くの方が米津さんの作品を購入している証拠といえます。ストリーミングを解禁すればより上位に来たことは間違いないでしょう。尚、「打上花火」はストリーミング解禁されており、抜きん出た結果を残しました。

 

⑥ TWICE・BTS...K-Popの新たな潮流

KARAや少女時代が席巻した後、一時期の勢いが沈静化したと思しきK-Popに新潮流が生まれました。曲名をかたどった”TTポーズ”で知名度を高めたTWICEは、アルバム収録の日本語版全5曲とシングル「One More Time」を送り込み、「TT」は年間6位にランクイン。またBTS(防弾少年団)は「血、汗、涙」が27位にランクインしています(これについては、韓国語版と日本語版が合算された可能性もあります)。

面白いのは、TWICEが韓国をはじめ日本や台湾のメンバーとで構成される多国籍グループ、BTSは『Love Yourself : Her』が米ビルボードアルバムチャートで今年7位にランクインし、また最新の同ソングスチャートで28位に登場したシングル「MIC Drop」ではスティーヴ・アオキがリミックスを手掛けラッパーのデザイナーが参加...とこちらも多国籍な形を用いている点。この多国籍、多様性と言い換えてもいい方法は新しいK-Popの形と言えるかもしれません。

 

⑦ 高質な映像作品のタイアップ曲がランクイン

ここでの”高質”は、視聴率等の数字の面のみならず、数字が決して高くなくとも評判を呼んだ作品も指します。特に、椎名林檎さんが提供したDoughnuts Hole「おとなの掟」(ドラマ『カルテット』主題歌)は、ドラマ自体の視聴率が10%を切ったとはいえ脚本と俳優陣との室の高さが評判を呼び、年間ダウンロードチャートで6位にランクイン、総合のソングスチャートでも65位に入りました。その他、大ヒット映画『君の膵臓を食べたい』主題歌のMr.Children「himawari」(34位)、コント的な要素も含む不倫モノのドラマ『奪い愛、冬』主題歌のAAA「MAGIC」(37位)、口コミ的に話題になったアニメ『けものフレンズ』主題歌のどうぶつビスケッツ×PPP「ようこそジャパリパークへ」(48位)、TBS系火曜22時枠で大胆に不倫を取り上げ、東出昌大さんの怪演も話題になった『あなたのことはそれほど』の主題歌、神様、僕は気づいてしまった「CQCQ」(55位)等、数字・内容のどちらかが(もしくは共に)評価されている作品のテーマ曲が上がる傾向が顕著でした。これはCMタイアップも同様で(auのCMソングだったWANIMA「やってみよう」(42位)など)、良作に起用される曲はきちんと評価されることが証明。シングルCD自体が売れなくなったとしても、作品タイアップは今も意義があるということです。

 

⑧ きちんと社会的ヒットを抑えている『紅白歌合戦

ということが言えるのではないかと。たとえば今年初登場の10組のうち、先述したTWICEやWANIMA、Hey!Say!JUMPに加え、三浦大知さんは「EXCITE」が30位、SHISHAMOは「明日も」が54位にランクインしています。また12年ぶりの返り咲きとなる倉木麻衣さんは「渡月橋~君 想ふ~」が52位、6年ぶりの平井堅さんは「ノンフィクション」が76位にランクインしており、抑えるところは抑えているといえそうですし、紅白歌合戦ビルボードジャパンのチャートを十二分に考慮しているとも言えるかもしれません。無論、すべての歌手がチャート上位であるとは限らないのですが。また、三浦大知さん、SHISHAMO倉木麻衣さんそして平井堅さんはいずれもタイアップソングであり⑦に当てはまります。

他方、この結果を踏まえるに、米津玄師さんやDAOKOさん、Suchmos菅田将暉さんには出てほしかったとあらためて想うのです。DAOKOさんや菅田さんは米津玄師さんと共演するならば面白いことになったでしょう。そして今年もきちんと結果を残したAAA(⑦で記載)が漏れたのはちょっと不可解だと思っています。

 

⑨ 洋楽は2010年代の”インスタントクラシック”が流行

インスタントクラシックとは『英語のスラングで、発表された瞬間に歴史年表に載ってしまうような大傑作』を指します(塔の上のラプンツェル [映画感想] | にわか映画ファンの駄目な日常より。勝手ながら引用させていただきました。問題があれば削除させていただきます)。R&B雑誌『bmr』(現在休刊しインターネット媒体へ移行)でも用いられていたはずのこの表現を使ったのは、洋楽において2010年代、ただし昨年以前の作品が複数ランクインしているため。ジャスティン・ビーバー「What Do You Mean?」(21位)は2015年の、マーク・ロンソン feat. ブルーノ・マーズ「Uptown Funk!」(58位)は2014年の作品でいずれもCMソングに起用されている他、後者はバラエティ番組『A-Studio』(TBS系 金曜23時)にも用いられています。以前はタイアップに起用される洋楽といえば70年代等の名曲が多かったのですが、こういった2010年代にスポットが当たるのは楽曲のフレッシュさ、耳に触れた方が動画やストリーミングで再度チェックすることでチャートに長くランクイン出来るゆえかもしれません。他にも、映画テーマ曲だったウィズ・カリファ feat. チャーリー・プース「See You Again」(2015)が64位、マルーン5「Sugar」(2015)が98位、テイラー・スウィフト「Shake It Off」(2014)が100位にランクインしており、インスタントクラシックが重宝されているように思います。

 

エド・シーラン「Shape Of You」、3つのフェーズで大ヒット 

今年洋楽でナンバーワンヒットとなったのがエド・シーラン「Shape Of You」で、総合でも年間2位という好成績を収めました。ソングスチャート(HOT100)ではこの曲について『国内ストリーミングでも1位となり、同曲はダウンロードで12位、動画再生で5位、ラジオで2位という華々しい結果』と報じています(そして『ストリーミングが伸びてもダウンロードの収益を損なうことなく、共に上位となり、その相互要因となったのが動画再生』というのは今後邦楽においてきちんとフィードバックしないといけない点かと。ミュージックビデオでの面白さもさることながら、ストリーミングとダウンロードとが”ぶつかるとは限らない”ということは特筆すべきですね)。

この曲においては3つのヒットの時期があると考えています。ひとつはアメリカで12週もの1位を記録した春、次いで夏はドラマ『僕たちがやりました』(フジテレビ系)の挿入歌に起用され、秋は来日公演...が本人のアクシデントになり中止したことでラジオを中心に流れたということ。最後に関しては災い転じての如き流れではありますが、比較的長く売れ続けているのは特に夏における挿入歌の起用があったと言えるでしょう。

 

 

そんなわけで、駆け足で10項目書いてみました。他にもこんな見方があるよというのがあれば、教えていただけたならば嬉しいです。