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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

2018年のグラミー賞、主要4部門を予想する

日本時間の来週月曜に開催される第60回グラミー賞。そこで、主要4部門の個人的な予想を書き連ねてみます。ここ数年書きつつ外していますがあくまで個人的な、ということで。

 

今年のグラミー賞、主要部門の傾向は、渡辺志保さんによるこの記事が非常にわかりやすいので是非ご一読ください。

ノミネーションリストはこちら。

そして私的ながらここ数年の総括は下記に。

・2015年

・2016年

・2017年

それでは予想してみましょう。

 

●最優秀レコード賞

・チャイルディッシュ・ガンビーノ「Redbone」

  (2017年ソングスチャート年間25位)

・ルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキー feat. ジャスティン・ビーバー「Despacito (Remix)」

  (2017年ソングスチャート年間2位)

・ジェイ・Z「The Story Of O.J.」

  (年間ソングスチャート未ランクイン)

・ケンドリック・ラマー「HUMBLE.」

  (2017年ソングスチャート年間4位)

ブルーノ・マーズ「24K Magic」

  (2017年ソングスチャート年間16位)

ビルボード年間ソングスチャートを制したエド・シーラン「Shape Of You」が入っていないことが話題になりましたが、年間ソングスチャートを制した曲が必ずしも獲るとは限らないのがこの部門。とはいえ、一昨年は2015年度1位だったマーク・ロンソン feat. ブルーノ・マーズ「Uptown Funk!」、昨年は2016年度7位のアデル「Hello」が受賞し、ある程度の大ヒット曲が選ばれる傾向にはあり、その点でジェイ・Zは外れそうです。またブルーノ・マーズにおいては最優秀楽曲賞にノミネートされた「That's What I Like」が年間チャートでより高い順位であるにもかかわらず「24K Magic」が選ばれていることに少々疑問も。チャート成績を踏まえるにブルーノもないかも。不気味なのはチャイルディッシュ・ガンビーノが週間チャートでトップ10しなかったにもかかわらず年間チャートで25位という好成績を収めておりダークホース的かと思われるのですが、一昨年のディアンジェロ&ザ・ヴァンガード的な立ち位置なのかもしれずこちらも予想から割愛。

となると「Despacito (Remix)」か「HUMBLE.」に。前者は最優秀楽曲賞にもノミネートされ、16週1位を獲得した大記録保持曲なのですが…次に述べる最優秀アルバム賞を踏まえるにケンドリック・ラマーの勢いのほうが上ではないかと考え、ケンドリック・ラマーを推してみます

 

●最優秀アルバム賞

・チャイルディッシュ・ガンビーノ『Awaken, My Love!』

   (2017年アルバムチャート年間32位)

・ジェイ・Z『4:44』

   (2017年アルバムチャート年間36位)

・ケンドリック・ラマー『DAMN.』

   (2017年アルバムチャート年間1位)

   (BBC The Top 10 Albums Of 2017 1位)

・ロード『Melodrama』

   (2017年アルバムチャート年間114位)

   (BBC The Top 10 Albums Of 2017 3位)

ブルーノ・マーズ『24K Magic』

   (2017年アルバムチャート年間2位)

昨年の予想同様、BBCの指標を用意してみました。

こちらを踏まえるとロードも脅威となります。メディアや評論家が上位に選んだ作品が選ばれるのは2015年のベック『Morning Phase』(米ビルボード2014年アルバムチャート年間60位)も同様でしたので。しかし、2016年のテイラー・スウィフト『1989』および2017年のアデル『25』はいずれも前年のアルバムチャート制覇作品。内容以上に(と書くと語弊があるかもしれませんが)売上をグラミー賞側が評価する傾向となっています。ただし、テイラーもアデルもどうやら自身が受賞するとは思っていなかったようで、テイラーは受賞の瞬間にケンドリック・ラマーの元へ駆け寄っていますし、アデルもスピーチでライバルだったビヨンセの名を挙げており、質の高さでは社会問題等を掲げたブラック系の作品のほうがより好かったという姿勢をみせています。

ゆえに、今年はメディア等でも最高位を与えられ、チャートも制したケンドリック・ラマー『DAMN.』になるのは自然な流れであり、逆にいえばこれで選ばれなかったならば『ここ20年においてブラック系のアーティストが主要部門を制したのは2度』(上記ビルボードジャパンの記事より)しかないことも踏まえるにブラック系、ヒップホップが冷遇されているという印象をグラミー賞側が与えかねず、それは避けるのではないかと。しかもケンドリックはオリジナリティ3枚目にして3度目の最優秀アルバム賞ノミネートゆえ、ここまでの才能をもはや無視することなど出来ないはず。心配な点があるとすれば反ブラック系の投票者(があるとすれば、ですが)がロードに投じる、もしくはジェイ・Zとヒップホップ内でバッティングが起きる、ということでしょう。しかし今回のグラミー賞でパフォーマンスする方々のリストを見るとロード、ジェイ・Zの名はありません(ジェイ・Zが最多8部門にノミネートされているにもかかわらず、です)。これを踏まえるにケンドリック・ラマー有利だと言えそうです

 

●最優秀楽曲賞

 ・ルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキー feat. ジャスティン・ビーバー「Despacito (Remix)」

  (2017年ソングスチャート年間2位)

  ・ジェイ・Z「4:44」

  (年間ソングスチャート未ランクイン)

 ・ジュリア・マイケルズ「Issues」

  (2017年ソングスチャート年間29位)

 ・ロジック feat. アレッシア・カーラ&カリード「1-800-273-8255」

  (2017年ソングスチャート年間31位)

 ・ブルーノ・マーズ「That's What I Like」

  (2017年ソングスチャート年間3位)

最優秀アルバム賞でケンドリック・ラマーが受賞を逃す可能性があるとするならば、この部門でのノミネーションを逃していることなのですがそれは置いておき。ここでもヒップホップが2曲ノミネートされており、ここでは「1-800-273-8255」を受賞すると予想します。「Despacito (Remix)」の勢い、ジュリア・マイケルズをこの一曲のみ(と言っても過言ではない)で最優秀新人賞に押し上げた「Issues」の力、アルバム発売以降のシングルながら週間1位を記録した「That's What I Like」、そしてチャート上では弱いもののベテランラッパー健在を見せつけた「4:44」…どの作品も強豪といえます。とはいえロジック等の作品の素晴らしさは社会的な意義を強く発信するところにあります。

人種差別への反対やLGBTを認めようという多様性讃歌が大なり小なり提示されるグラミー賞にあって、自殺しないよう呼びかける曲の意義はまさに賞にピッタリではないかと。おそらく今年のグラミー賞において反トランプ(大統領)のメッセージが色濃く反映されるものと考えられますが(そうでないとケンドリック・ラマーをオープニングに据える(らしい)ことは考えられない)、この曲もまた、反トランプの根底にある"認めること"を強く謳うという意味で無くてはならないメッセージだと思うのです。

 

●最優秀新人賞

・アレッシア・カーラ

   (2017年トップアーティストチャート年間27位 / 2016年同38位)

・カリード

   (2017年トップアーティストチャート年間21位)

・リル・ウージー・ヴァート

   (2017年トップアーティストチャート年間12位 / 2016年同94位)

・ジュリア・マイケルズ

   (2017年トップアーティストチャート年間75位)

・SZA(シザ)

   (2017年トップアーティストチャート年間57位)

一番読みにくいのはこの部門でしょうか。アレッシア・カーラは2015年11月にアルバム『Know-It-All』をリリースしそこから「Here」もヒットしたため昨年のグラミー賞の段階で同部門にノミネートされてもおかしくないのですが、もしかしたら昨年のチャンス・ザ・ラッパー受賞前に同部門がノミネート条件を緩和したことで、アルバムリリース翌年でも目覚ましい活躍をした方に資格が与えられるということになったのかもしれません。現に彼女、アルバムからのシングル「Scars to Your Beautiful」(8位)、ゼッドに客演参加した「Stay」(7位)、最優秀楽曲賞にもノミネートされたロジック、カリードとの「1-800-273-8255」(3位)、そして最高56位とヒットには至らなかったものの映画『モアナと伝説の海』テーマ曲「How Far I'll Go」を昨年ヒットに至らせています。ディズニーのお墨付きを得たというのは人気者の証といえるでしょう。

カリードはアルバム『American Teen』が2017年アルバムチャート年間14位、「Location」が週間でトップ10に至らずも2017年ソングスチャート年間21位、「Young Dumb & Broke」が同年間78位を記録。先述したロジック、アレッシア・カーラとのトップ3ヒットも飛ばし、さらにはアメリカン・ミュージック・アワードでのイマジン・ドラゴンズとのマッシュアップも話題になりました。

リル・ウージー・ヴァートはアルバム『Luv Is Rage 2』が2017年アルバムチャート年間41位、主演曲「XO Tour Llif3」が週間7位、2017年ソングスチャート年間13位。そしてなによりミーゴスに客演参加した「Bad And Boujee」がソングスチャートを制し年間でも6位を記録しています。

ジュリア・マイケルズはソングライターとして5年ほど前から活躍し、ジャスティン・ビーバーに提供した「Sorry」は週間1位を記録。アルバムやミックステープのリリースは未だなく、EP『Nervous System』のみの発売にとどまっていますが、冒頭曲「Issues」が2017年週間ソングスチャート11位ながら年間29位の大ヒットを記録。今後が期待されます。

そしてSZA。アルバム『Ctrl』は2017年アルバムチャート年間42位、トラヴィス・スコットをフィーチャーした「Love Galore」は週間32位ながら同ソングスチャート年間80位、マルーン5に客演参加した「What Loves Do」は週間9位、年間97位を記録。なにより『Ctrl』は"BBC The Top 10 Albums Of 2017"で2位を記録しています。

ざっと5組の実績を書いてきましたが、先述した今年のグラミー賞パフォーマンスリストにリル・ウージー・ヴァートおよびジュリア・マイケルズの名前はないため2組は予想から外してかまわないかもしれません。そしてこの中で(この部門を含む)最多ノミネートを果たしたのが。

ジェイ・Zが最多8ノミネート、ケンドリック・ラマーが7ノミネート、ブルーノ・マーズが6ノミネートと続き、チャイルディッシュ・ガンビーノ、カリード、SZAおよびノーI.D.の4組。リル・ウージー・ヴァートは予想から外し、カリードとSZAとの戦いと考えるのですが、アルバムのクオリティ(BBCのランキング)を最終的な判断基準とするに、SZAが獲るのではないかと考えます。

 

 

そんなわけで、主要4部門を自分なりに予想してみました。今年はラジオ生中継がない模様なので移動先でリアルタイムで追いかけられないのが極めて残念。SNSの反応を見ながら受賞結果を確認しようと思います。