face it

青森県在住。毎週日曜日17時から、FMアップルウェーブ発の番組の一員として参加。音楽・ラジオ好きによる"日々の音"やメディアの話

ビルボード年間ソングスチャートとグラミー賞を踏まえた、2018年米音楽業界トピックス10

今年の音楽業界をチャートを主体に振り返る企画、先日は邦楽を取り上げましたが、今回はアメリカの音楽業界をみてみたいと思います。邦楽については下記をご参照ください。

 

 

既に米ビルボードの年間ソングスチャート、および来年開催される第61回グラミー賞の主要部門ノミネーションについては以前記載しています。

上記エントリーでも触れてはいますがあらためて、今年のトピックス10項目を挙げてみるとこういった感じでしょうか。 

① ドレイク、半年以上ソングスチャートを制覇

② ヒップホップが34週首位獲得しながら年間ソングスチャートトップ10入りはわずか半分

③ "歌モノヒップホップ"ポスト・マローン強し

④ 主演/客演に大人気、カーディ・Bはお騒がせラッパーからチャートの常連へ

⑤ エクスエクスエクステンタシオン、マック・ミラー…訃報後チャートにて急上昇

⑥ 年間ソングスチャートトップ10入りした非ヒップホップ曲にみるラジオエアプレイの強さ

⑦ チャイルディッシュ・ガンビーノ、BTS…デジタルとラジオエアプレイの乖離による超短期型ヒットの増加

テイラー・スウィフト、年間アルバムチャート制覇もソングスチャートは低調

ジャスティン・ティンバーレイク、ニッキー・ミナージュ…人気者はことごとく不調

⑩ ヒット(量)と内容(質)の乖離? グラミー賞主要部門はヒットする/しないを超越したノミネーション

ちなみに、毎週の米ビルボードソングスチャートトップ10速報は、弊ブログの"米ビルボード速報"カテゴリーを御覧ください。

 

年間ソングスチャート発表時にも触れたのですが、これまで以上にストリーミングの瞬発力の強さを実感したもので、ストリーミングは歌手が亡くなった後のチャート上昇にも大きく影響しています。とりわけヒップホップはアルバムがリリースされると単曲ダウンロードやストリーミングの影響により、アルバム収録曲が全曲週間チャート100位以内に入ることが珍しくなくなりました。米ビルボードは今夏チャートポリシーを変更し、ストリーミングのウェイトと一律同じとせず有償サービスを重視する形としましたが、ストリーミング利用者がさらに増えれば、今回の変更はあまり意味がなくなるかもしれません。ストリーミングとデジタルダウンロードの集計期間初日である金曜に突如音源を解禁し高位置で初登場するパターンが増えたのですが、これもストリーミングの瞬発力を見据えた動きといえます。

それゆえ、曲のインパクトを強めることがストリーミングでよりチェックされるためには大事であり、その成功例だったのがチャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」なのですが…しかし首位を獲得しながらもチャートを急落してしまい年間ソングスチャートは51位。Twitterが他の歌手より断然強いBTSもアルバムが2作連続で初登場首位を獲得し、「Fake Love」はアルバムの初登場週にトップ10入りするものの、翌週急落しています。社会風刺な楽曲や外国語曲がヒットしづらいという側面があるのかもしれませんが、瞬発力の高いストリーミングだけではなく、じわじわ上昇し持続性の高いラジオエアプレイも押し上げ、3指標がバランスよく獲得出来ないとロングヒットに至れないことが今年強く証明された気がします。これは34週もの間チャートを制したヒップホップが、年間ソングスチャートとなるとトップ10に半分しか入っていないことにも表れており、ストリーミングとラジオエアプレイとの乖離がより目立ったと言えます。ラジオエアプレイにおいては、歌モノと言われてもおかしくないポスト・マローンが比較的強い印象があり、ヒップホップに馴染みがない層にも"歌"として浸透した感がありますし、なによりドレイクは段階的な話題作り(プロモーション)を施し、曲と自身の知名度を高めることに成功…それがラジオエアプレイに火を付けたとも言えそうです。

また面白いのは、ヒップホップ中心にチャート上で成功した作品と、グラミー賞のノミネーションに差がある点。最優秀アルバム賞のノミネート作品について、2018年の米ビルボード年間アルバムチャートにおける順位をみると。

●最優秀アルバム賞 (Album Of The Year)

・カーディ・B『Invasion Of Privacy』(6位)

・ブランディ・カーライル『By The Way, I Forgive You』(200位圏外)

・ドレイク『Scorpion』(2位)

・H.E.R.『H.E.R.』(68位)

・ポスト・マローン『Beerbongs & Bentleys』(3位)

・ジャネル・モネイ『Dirty Computer』(200位圏外)

・ケイシー・マスグレイヴス『Golden Hour』(200位圏外)

サウンドトラック『Black Panther : The Album』(12位)

3作品が200位圏外なのです。また逆に、前作『1989』が同賞を獲得したテイラー・スウィフトは、今作『Reputation』が年間チャートを制覇したにもかかわらずノミネートされていません。ここ数年はチャートでも成功した作品が最優秀アルバム賞を獲る傾向にあったにもかかわらず、です。このチャート(量)と内容(質)の乖離と言っていい流れは、様々なメディアのランキングを集計したAlbum Of The Year(AOTY)の年間チャートでも表れているように感じます。

2018 Music Year End List Aggregate - Album Of The Year

今回よりグラミー賞の主要部門のノミネート数が5→8作品となり、より多様なジャンルがノミネートされるようになったことも影響していそうですが、しかしながらヒップホップが占拠していたチャートとは思った以上に乖離があるように思うのです。逆に言えば、質の高い作品が米チャートでどうすれば上昇に至れるかを模索しないといけないというのが、米音楽業界の課題だと考えます。

 

今年のチャートにおけるストリーミングとラジオエアプレイ、チャートと賞およびレビュー…今年のアメリカ音楽業界にはこれらの"乖離"が強く見られました。ゆえに、来年はラジオエアプレイに長けたヒップホップやストリーミングが強いカントリーといった作品が出てきてほしいというのが、個人的な願いです。