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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Mrs.GREEN APPLE「ロマンチシズム」がトップ10ヒットに至れなったことから考える、日本におけるミュージックビデオの位置付け問題

水曜に発表された、最新4月22日付ビルボードジャパンソングスチャートで24位にランクインしているMrs.GREEN APPLE「ロマンチシズム」。デジタル先行で解禁されたこの曲は、4月3日にシングルCDがリリースされたことで前週シングルCDセールス指標を初加算し11位まで上昇しましたが、前2作のシングル「青と夏」(最高10位)、「僕のこと」(同7位)で成し遂げたトップ10入りを果たすことが出来ませんでした。

その理由を探るべく、「ロマンチシズム」のCHART insightをみると興味深い事実が浮かびます。

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下のグラフはCHART insightの中から総合順位(黒の折れ線グラフ)、シングルCDセールス指標(黄)および動画再生指標(赤)だけを抽出したもの(後に取り上げる楽曲についても2種類のグラフを掲載します)。「ロマンチシズム」は動画再生指標が4月1日付で一度100位未満(300位以内)に登場しながらも翌週には圏外になり、シングルCDセールス指標初加算の翌週に98位に再登場しています。98位といえどチャート構成比のおよそ10%を占め、総合ポイントは今週1777であることを踏まえれば、動画再生指標だけで180ポイント前後を稼いだことに。しかしなぜ動画再生指標が一度消え、再度ランクインしたのでしょう。

 

実は、「ロマンチシズム」には2種類の公式動画が存在します。

上記は1分強のショートバージョン。3月14日に所属レコード会社、ユニバーサルミュージックジャパンの公式アカウント発で公開。そして下記はMrs.GREEN APPLEの公式アカウント(Official VEVO Channel)に、4月8日に公開されたフル尺の動画となります。

最新4月22日付ビルボードジャパンソングスチャートの集計期間は4月8日からの1週間ゆえ、今回動画再生指標が100位以内に登場したのはこのフル尺公開に因るものが大きいと言えるでしょう。

 

この2種類の動画の公開タイミングおよび発信元に違和感を覚えた次第です。

 

YouTubeでのフル尺公開タイミングに関しては以前、YouTube Premiumというサービスを敬遠してシングルCD発売日まで公開を控えるという傾向があるだろうことを書きました。顕著な例が欅坂46「黒い羊」ですが。

しかし「黒い羊」がストリーミング全体をシングルCD発売日まで行わなかったのに対し、「ロマンチシズム」はシングルCD発売に先立つ3月15日より、デジタルダウンロードおよびストリーミングを解禁済ゆえ、YouTube Premiumを警戒することはほぼないと思われます。

 

では何が違和感なのか? それはミュージックビデオの扱い方について。「ロマンチシズム」のミュージックビデオはシングルCDに同梱されるDVDに、メイキングと共に収録されています。そのシングルCDが発売した翌週月曜になってフル尺を、それも別アカウントで公開したことのみならず、ショートバージョンには限定公開と謳われていること(YouTubeの動画のタイトルの真下に、チェーン的マークおよび"限定公開"の文字が)を踏まえれば、先にショートバージョンを公開したレコード会社側には、このミュージックビデオを"シングルCDを購入した上で観てほしい"という思いが強くあったのでは、と推測出来る気がします。

尤もMrs.GREEN APPLEと所属レコード会社とで、ミュージックビデオのYouTube公開に対して取り決めがあるだろうことが想像出来ます。というのも、先述した「青と夏」「僕のこと」にもショートバージョンとフル尺のミュージックビデオがそれぞれショートバージョン先行公開の形で用意されているゆえ。下記日付をクリック(タップ)すると動画を確認出来ます。

・「青と夏」シングルCD発売:2018年8月1日

  ユニバーサル動画公開:2018年7月11日

  Mrs.GREEN APPLE公開:2018年8月9日

・「僕のこと」シングルCD発売:2019年1月9日

  ユニバーサル動画公開:2018年12月25日

  Mrs.GREEN APPLE公開:2019年1月17日

「青と夏」「僕のこと」のMrs.GREEN APPLE側での公開は月曜ではなかったため、今回「ロマンチシズム」の歌手側での公開タイミングが月曜だったことはチャート対策ではなくただの偶然かもしれません。しかしいずれにせよ、【ショートバージョン公開→シングルCD発売(ミュージックビデオ収録のDVD同梱)→フル尺公開】という流れであることは変わりません。そして。

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「青と夏」「僕のこと」のCHART insightをみると、シングルCDセールス指標より遅く動画再生指標が盛り上がるという構図であり、「ロマンチシズム」も同種の動きとなることが考えられます。ただ、【ショートバージョン公開→シングルCD発売(ミュージックビデオ収録のDVD同梱)→フル尺公開】の条件は同じだとして、「ロマンチシズム」はショートバージョンで既に動画再生指標300位以内に入っており、おそらくはシーブリーズCMソングという夏の風物詩的タイアップに基づく注目度の高さとゆえのランクインと考えるに、ショートバージョンと知った方がネガティブな感情を抱き再生を繰り返さなかったことで同指標が翌週圏外になったのではないでしょうか。仮に今回、動画再生までのいつものスケジュールを覆し、先行でフル尺にてミュージックビデオを公開していたならば総合でトップ10入りを果たせた可能性は十分あったと考えると、いつものスケジュールに則ったのは非常に勿体無いと思うのです。にもかかわらず、それでもフル尺の公開を遅らせる措置を採ったのは、レコード会社側がミュージックビデオに"商品"としての価値を強く持たせた(ことでシングルCD購入への流れを作りたかった)のかもしれません。がしかし、ビルボードジャパンシングルCDセールスチャートで初登場した週の売上枚数をみると、「青と夏」が9882枚、「僕のこと」が11283枚に対し「ロマンチシズム」は10716枚となっており、特段上昇しているわけではないため功を奏したとは言えないというのが私見です。

 

 

ミュージックビデオは"商品"である、というのは理解出来ます。収録された映像盤をCDに同梱することが自然なことである日本(市場)においては、映像盤が購入の動機のひとつとなるゆえ尚の事です。しかしそれはあくまでCDを売るための施策としての"商品"という位置付けが主体になりすぎてはいないかと。デジタルダウンロードやストリーミングにつなげるための"プロモーション"(そして、ビルボードジャパンソングスチャートではそもそも動画再生がカウント対象となります)、そして歌手の芸術性を提示したり、その存在を日本のみならず諸外国へ発信する等、大袈裟かもしれませんが"文化"という意味合いで用いなければ、フル尺公開が常という諸外国側が日本のドメスティックなやり方を疑問視し触れたくても敬遠する可能性がありますし、逆に日本の音楽を世界に放つことも出来にくくなります(デジタル興隆により、音楽をフィジカルで輸出する必要がなくなったゆえ尚更)。無論チャートアクションにも影響するわけで、その点をレコード会社等は考えていただきたいと思います。

 

提案ですが、次のMrs.GREEN APPLEのシングルCDリリースのタイミングで、フル尺でのミュージックビデオをデジタル先行解禁時、もしくは遅くともシングルCD発売日に公開するのは如何でしょう。その結果をここ最近のシングルと比較してみていただきたいものです。そこでミュージックビデオ収録のDVDを同梱したシングルCDが極端に売れなくなるならば現在の公開スケジュールに戻せば良いのではないでしょうか。チャートを追いかける身としては、高い動画再生指標が加算されることにより自己最高位を更新出来るの可能性が高いと思うのですが。