イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本におけるミュージックビデオ”短尺版(ショートバージョン)”公開をあらためて疑問視する

おとといアップしたブログエントリーに、たくさんのアクセスをいただいております。心から感謝申し上げます。

このエントリーを紹介してくださった方がこのエントリーの最後の一文を引用していて嬉しくなった次第。そこであらためて、このブログエントリーを記載した意図のひとつを掲載したところ、多くの反応をいただきました。

基本的に喜怒哀楽の感情は抑えめに記載し、読んでくださった方が自発的に考えを巡らせてくれたなら…というのが自分のスタンスなのですが、音楽制作者や音楽評論家の方々が引用の上取り上げてくださったことで、日本のレコード会社(や一部歌手)のストリーミングやミュージックビデオへのスタンスに対する疑問は多くの方が抱いているのだと実感出来た気がします。

 

 

さて、日本におけるミュージックビデオの短尺版(ショートバージョン)問題。これについては自分なりの結論を以前出しました。

Mrs. GREEN APPLEはシングルCDリリース前にレコード会社発でミュージックビデオの短尺版がアップされ、シングルCDリリースの翌週以降に歌手側発でフルバージョンのミュージックビデオがアップされるという、2種のビデオが存在する手法をここ数作で採っています。そのチャートアクションやスケジュールを踏まえ、レコード会社はミュージックビデオの短尺版を、フルバージョンの映像盤が同梱されるシングルCD購入促進の一環としての”商品(のための商品、と書くと紛らわしいですが)”と認識しているのではないかと考えるに至りました。しかしながらMrs. GREEN APPLEのここ数作のシングルCDの初週セールス動向は必ずしも上昇しているわけではなく、それを踏まえレコード会社の認識に疑問を覚えたわけです。

ミュージックビデオは"商品"である、というのは理解出来ます。収録された映像盤をCDに同梱することが自然なことである日本(市場)においては、映像盤が購入の動機のひとつとなるゆえ尚の事です。しかしそれはあくまでCDを売るための施策としての"商品"という位置付けが主体になりすぎてはいないかと。デジタルダウンロードやストリーミングにつなげるための"プロモーション"(そして、ビルボードジャパンソングスチャートではそもそも動画再生がカウント対象となります)、そして歌手の芸術性を提示したり、その存在を日本のみならず諸外国へ発信する等、大袈裟かもしれませんが"文化"という意味合いで用いなければ、フル尺公開が常という諸外国側が日本のドメスティックなやり方を疑問視し触れたくても敬遠する可能性がありますし、逆に日本の音楽を世界に放つことも出来にくくなります(デジタル興隆により、音楽をフィジカルで輸出する必要がなくなったゆえ尚更)。無論チャートアクションにも影響するわけで、その点をレコード会社等は考えていただきたいと思います。

Mrs.GREEN APPLE「ロマンチシズム」がトップ10ヒットに至れなったことから考える、日本におけるミュージックビデオの位置付け問題(4月21日付)より

短尺版とフルバージョンでCDの売れ方が全く違うから短尺版にこだわるようになった、という過去の(実験)データがあるならばそれを知りたいのですが…おそらくは過去には行っておらず、フルバージョン公開したら売れなくなるのを仮定するばかりで踏み切ろうとしていないのでは?というのが、穿った見方でしょうが自分の考えです。

 

…と、昨日そのミュージックビデオの短尺版についてあらためて私見を述べたのですが、そこから1日も経たないうちに考えさせられる出来事が。

公開されたばかりの三浦大知「片隅」のミュージックビデオが短尺版でした。6月12日にリリースされるダブルAサイドシングルの1曲。デジタルダウンロードおよびストリーミングは既に解禁されています(フルバージョンは3分45秒)。

聴き比べると解るのですが、今回のミュージックビデオで用いられているのは短尺版といってもエディットされていて、フルではノーイントロ、サビからはじまる「片隅」がビデオでは(最初のサビ後の)1番Aメロからはじまりそこから2番Bメロへジャンプする構成(その後は最後まで同じ)。これ、ミュージックビデオを観て気に入った方が配信等に触れた際に驚くのではないかと思うのです。

いやいや2分強の曲をフルバージョンとは誰も思わないから大丈夫でしょうと言う方もいらっしゃるかもしれませんが、近年は3分を切る曲が結構出現していて、たとえばリル・パンプ「Gucci Gang」(2017 米ビルボードソングスチャート最高3位)は2分4秒しかありません(下記動画は2分11秒)。

楽曲の短尺化傾向を踏まえれば、YouTubeのタイトルにショートバージョン等の旨が記載されていない以上誤解を招きかねず、非常に不親切ではないかと思うのです。特に、おそらく世界的に人気のドラゴンボールの映画主題歌に起用された「Blizzard」を機に増えたと思しき外国人のファンからすれば、「Blizzard」がフルバージョンだったゆえなおさら、この短尺版をフルサイズと勘違いしてもおかしくないのではと。しかもエディットしているのですから尚の事です。諸外国には短尺版という概念がほぼないはずですから。

 

海外ではシングルCDという概念はなくなってきていて、今やアルバムCDすらリリースしない歌手が増えているのが現状です(たとえば今年の作品でいえばビヨンセのライブアルバム、そして妹のソランジュのオリジナルアルバム等)。となると「片隅」に反応しYouTubeに書き込んでいる外国人のファンにとっては、来日しない限りシングルCDに同梱される映像盤に収録されたミュージックビデオを物理的に手にすることが難しいわけで、非常に不親切な気がします。いや、外国人に限らず、前作「Blizzard」がフルバージョンで解禁されていたゆえ短尺版になった(戻った)ことに疑念を抱く方は少なくないのではないでしょうか。「Blizzard」はおそらく2019年度のビルボードジャパンソングスチャートで年間トップ40内に入ることは確実なのですが、そのヒットの理由のひとつにレコード会社や歌手側のYouTubeへの対応の変化があると考えていたゆえ、「片隅」で戻ってしまったことが至極残念でなりません。

(ちなみに上記エントリーの段階では短尺版について『絶対的に間違っていると断言出来るだけの材料がない』と書いていましたが、Mrs. GREEN APPLEの件を踏まえ、やはり間違っているという結論に至っています。)

 

 

以前からミュージックビデオの短尺版については違和感を覚えていた自分は、ある歌手の作品が厳密には短尺版とは異なるものの途中でCMを挟んだミュージックビデオを公開した際にその旨をつぶやいたところ、その歌手のファンの方から”フルバージョンを公開してCDが売れなくなったらどうするのか”と言われたことがあります。なるほどその懸念はあるのかと実感し気付きを得た一方、コアなファンはほぼ間違いなくCDもしくはデジタルダウンロードで購入するはずではという結論に至りました。むしろその歌手のファンというわけではない、曲に興味はあるが迷っている等の”ライト層”はCDやデジタルダウンロードでの購入以外にも単曲のダウンロードやストリーミング、CDレンタル等幅広い手段(そして所有のみならず接触も)が選択肢にあるはずで、ミュージックビデオのフルバージョンを収録した映像盤を同梱したCD購入一択ではないはずです。コアなファンからの支持を受け続けていくことも大事ですが、ライト層をどう取り込むか、そしてCDを売ることが利益や成績面で第一義という考えからどう変えていくか…海外展開等も踏まえればレコード会社や歌手側の意識の速やかな変革は必須だと考えます。三浦大知さんの目標がグラミー賞獲得だと伺っているゆえ、尚の事です。