イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

チャートアクションに影響を与えた縦型ミュージックビデオ集、そして邦楽への渇望

最新8月24日付米ビルボードソングスチャートで、19週連続の首位を獲得していたリル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」から遂にその座を奪ったのがビリー・アイリッシュ「Bad Guy」。その原動力となったのがスマートフォン視聴に最適な”縦型ミュージックビデオ”にあることは昨日お伝えした通り。

オリジナルの再編集盤というよりも、舞台裏も挿入され面白い作品となっています。

 

縦型ミュージックビデオ、アメリカではヴァーティカルビデオ(Vertical Video。直訳すると垂直ビデオ)と呼ばれるビデオの登場がチャートに大きく寄与した例として、昨日のブログエントリーではホールジー「Without Me」を挙げました。常に彼女と向き合っているような映像で、オリジナル(→YouTube)よりも生々しさを感じます。

 

この縦型ミュージックビデオ、他にも登場しています。

 

 

 

サム・スミス & ノーマニ「Dancing With A Stranger」

オリジナル(→YouTube)に登場するダンサー陣を排し、サムとノーマニ、そしてオリジナルではほぼ登場しなかった薔薇のクローズアップが大半を占めています。

 

・カミラ・カベロ feat. ヤング・サグ「Havana」

オリジナル(→YouTube)がドラマ仕様、そして最後に自身のこれまでの環境を踏まえたメッセージを添えているのに対し、こちらは駅を舞台にカジュアルに撮影。ヤング・サグのパートもカミラが(口パクで)担当しています。

 

・ベニー・ブランコ、ホールジー & カリード「Eastside」

オリジナル(→YouTube)がベニーやホールジーの過去を振り返るような内容に対し、こちらはまさに”スマートフォン仕様”。途中とんでもない映像やスマートフォンならではの挿入も挟みつつ、オチもまたなるほどという展開。

 

テイラー・スウィフト「Delicate」

オリジナル(→YouTube)がショウ仕立てだったのに対し、こちらは自撮り風なノーカット映像で、極々シンプルに描かれています。

 

先述したビリー・アイリッシュにおいては以前にも縦型ミュージックビデオがいくつか制作されていましたが、たとえば下記の楽曲は縦型のみの公開となっていた模様。ひとつの楽曲から2つのミュージックビデオという試みは今回が初かもしれません。

「Bad Guy」の2作品制作は、おそらくチャートアクションのテコ入れという側面もあるでしょう(このブログがチャート定点観測を行っているため、この点をより着目していました)。が、縦型ミュージックビデオは「Bad Guy」に限らず、オリジナルとの差異を明確に示したり、スマートフォン仕様の構成にしたりと、単にテコ入れというわけではないきちんとした工夫がされていることが解ります。ゆえにこの工夫への支持がチャートアクションのさらなる伸びにつながっているのではないでしょうか。今回紹介した作品はほぼ全て米ビルボードソングスチャートでトップ10入りし、ロングヒットとなっています。

 

一方日本では、縦型ミュージックビデオこそいくつか制作されているものの、大きな話題になったという話はあまり聞かない気がします。個人的に、真っ先に思い出したのは三浦大知「普通の今夜のことを ー let tonight be forever remembered ー」でしょうか。

しかし、オリジナルと縦型とのふたつのミュージックビデオを用意した例は耳にしません。

 

たとえばアイドルがミュージックビデオとは別に、自撮り風もしくはメンバーが常時画面に(そし出来ればあまり飾らない形で)登場するタイプの縦型ミュージックビデオを用意したならば注目されると思うのです。K-PopアクトのNCT Dreamによる「Boom」はまさにそんな感じなんですよね。

 

縦型ミュージックビデオではありませんが、スマートフォンを意識した遊び心をくすぐる作品として、画面の真ん中に指を置くと楽しめる安室奈美恵「Golden Touch」も話題になりました。

今の音楽業界には、オリジナルバージョンとは別に2作品目を用意する余裕はないかもしれませんが、自撮り風やスマートフォン仕様等の工夫を凝らせば出来ないことはないでしょう。評判を呼べば自然とアクセス数が増え、ビルボードジャパンソングスチャートのチャートアクションにも影響を与えるはずです。邦楽作品のチャレンジを渇望しています。