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青森県在住。毎週日曜日17時から、FMアップルウェーブ発の番組の一員として参加。音楽・ラジオ好きによる"日々の音"やメディアの話

竹内まりや、矢沢永吉、テイラー・スウィフトそしてトゥール…四者四様のアルバム販売戦略が面白い

今週の日本、そしてアメリカの音楽チャートではベテラン歌手がアルバムチャートワンツーを決めています。そんな彼らの販売戦略はそれぞれ特徴的で実に面白いのです。

 

まずは9月16日付ビルボードジャパンアルバムチャートを制した、竹内まりや『Turntable』。

アルバムは初回限定盤として『イラスト・ヤマザキマリによる別冊「まりやちゃん special book〈全28Pブックレット予定〉」封入+三方背BOX仕様』(上記サイトより)となっていますが、DVDは同梱されず実質1種と言ってよいでしょう。販売店/サイトで異なる購入特典が用意されているのですがこれは他の歌手でもよくみられます。興味深いのは、来月リリースのシングル「旅のつづき」との連動特典として、来年開催されるライブへの招待企画が用意されていること(詳しくはRELEASE | 竹内まりや 40th特設サイトをご確認ください)。ライブ開催は貴重ゆえ、観たいという方は多いはずです。

 

同日発売でビルボードジャパン2位発進、矢沢永吉『いつか、その日が来る日まで…』については5種でのリリース。

CDのみの通常盤に加え、初回限定盤は2種類の映像盤が同梱。AとBそれぞれBlu-rayとDVDの双方が用意されており、実質3種といえます。1970~90年代の厳選されたライブ映像が初回限定盤A、2000年代以降のが同Bに収録され、ファンはAとBを共に購入することで映像をコンプリート出来ます。竹内まりやさん同様に販売店/サイトで異なる購入特典が用意されていますが、ハンカチタオルやフェス撮り下ろし写真等バラエティに富んでいます。さらにはこちらもライブ招待企画が用意され、締切は本日いっぱい。

この『いつか、その日が来る日まで…』は9月16日付オリコン週間アルバムランキングを制していますが、前作『Last Song』(2012)が初週売上5.5万枚だったのに対し(【オリコン】矢沢永吉、歴代最多50作アルバムTOP10 | ORICON NEWS(2012年8月7日付)より)、今作は倍以上となる11.2万枚を初週に記録(矢沢永吉、最年長でのアルバム1位「ジワジワと喜びを実感」【オリコンランキング】 | ORICON NEWS(9月10日付)より)。前作は実質1種(通常盤に加え、Tシャツ付の初回限定盤が用意されていた)ゆえ、倍増したのはファンの多くが2種購入しただろうことが大きいと言えそうです。ちなみにビルボードジャパンアルバムチャートのルックアップでは竹内まりや『Turntable』が2位に対し、『いつか、その日が来る日まで…』は4位となっています。

 

『Turntable』および『いつか、その日が来る日まで…』は共にダウンロード未解禁。ストリーミングもほぼ同様であり(唯一、矢沢永吉さんについてはアルバム収録曲「魅せてくれ」が解禁されています→Apple Music)、接触するには共にレンタル開始を待つ必要がありますが、『いつか、その日が来る日まで…』は矢沢永吉さん自身が立ち上げたインディレーベル発のため、レンタル解禁は通常の17日後とは限りません。現段階でTSUTAYAでレンタル検索してもアルバム自体出てこないため、しばらく解禁はないものと思われます。

 

一方のアメリカ。最新9月14日付アルバムチャートで2位にランクインしたのはテイラー・スウィフト『Lover』でした。前週は初登場で1位となり、今年最高のユニット数を獲得しています。

初登場時のユニット数は86.7万。うち単曲ダウンロード、ストリーミング再生それぞれのアルバム換算分を除くと67.9万枚のセールス。今作からストリーミングを同日解禁したことが影響してか、初週121.6万を売り上げた前作『Reputation』(2017)に比べて純粋なアルバムセールスが下がってはいますが、それでもしっかりヒット。セールスにおけるダウンロードとCDの比率は判りかねますが、テイラー・スウィフトは『Lover』の限定盤CDを、大手小売店のターゲットのみで販売しています。

上記はバージョン1であり、他3バージョンも上記リンク先で紹介。初回限定盤には『テイラーが小さいころからずっと書き続けている日記のコピー』が封入(テイラー・スウィフト、新曲「The Archer」をリリース! インスタグラムの生配信でテイラーが語ったこととは…?[音源・動画あり] | tvgroove(2019年7月24日付)より)、さらに各バージョンで異なるポスターも。コアなファンならば全種手に取るのは間違いなく、tvgrooveの記事内では全種類を持ったテイラーの写真(インスタグラムに掲載)が紹介されています。

 

そのテイラー・スウィフト『Lover』を破り、最新米ビルボードアルバムチャートを制したのはトゥール『Fear Inoculum』。

初動ユニット数270,000のうちアルバム・セールスが248,000枚と、昨今主流になっているライブ・チケットの還元やグッズ販売による売上がないながら、25万枚近くを売り上げた『フィア・イノキュラム』は、2019年のロック・アルバム最大初動ユニットを記録。この記録は 2018年6月23日付チャートで292,000ユニットを獲得したデイヴ・マシューズ・バンドの『Come Tomorrow』以来最大で、セールスのみの記録としても同作の285,000枚以来、最大の売上となる(なお、『Come Tomorrow』の売上にはライブ・チケット連動あり)。

近年はライブチケットやグッズ付き等の販売施策を実施する歌手が多いのですが、『Fear Inoculum』はそれらを同梱する手法は採らず。一方で『Fear Inoculum』はダウンロード、ストリーミングも同日解禁し、ストリーミング再生のアルバム換算分は21000に。この数値は『ストリーミングが弱い傾向のあるロックバンドとしてはこの数は好調な結果と言える』とのこと(『』内はビルボードジャパンの特集記事より)。『Fear Inoculum』リリースの1ヶ月前に過去作をストリーミング解禁したことが、今作のデジタルが好調に推移した要因ではないでしょうか。

一方、CDとしては1種のみの販売ながら、その仕様が豪華なのです。

初回のみの完全生産限定盤はCD、ブックレットに加えて4インチ・サイズの液晶スクリーン付き動画プレイヤーを搭載して、エクスクルーシヴな限定映像を収録、スピーカー&充電ケーブル付きという、前代未聞のパッケージ。近年、ダウンロードやストリーミングによって“音楽を所有する”ことが廃れつつあると言われるが、そんな風潮に真っ向から斬り込む仕様となっている。

後日通常盤CDもリリースされるそうですが、購入者の映像を見ると初回限定盤CD購入の意欲が高まろうというもの。45~50ドルで販売されていたというこのCD、日本では今朝の段階でAmazonでは2万円もの価格がついています。一方でダウンロードバージョンは3曲多く、その理由はインタールード的な3曲を抜かないと1枚のCDに入りきれないため(収録曲と各曲の尺については最近の楽曲の長さとToolのアルバムのこと - WASTE OF POPS 80s-90s(9月12日付)をご参照ください)。となると、初回限定盤を手にとってインタールードのために別途アルバム単位でダウンロードしないとという懸念はありますが、たとえばiTunes StoreをみるとCD未収録曲は全て単曲でダウンロード可能となっています。

 

 

今回紹介した4組はいずれもフィジカルに重きを置いていますが、その売り出し方は四組四様。CDが売れなくなったとされる今の時代にあって、非常に興味深い戦略ではないでしょうか。コアなファンならば複数枚購入することでしょうが、たとえばファンというわけではないものの曲等に興味はあるライト層ならばどの売り出し方が手にしやすいか、逆に自分が歌手側ならばどの販売戦略を採るか、そしてデジタルはどう扱うか…これらを考えてみるのも面白いかもしれません。