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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

シングルCDセールス2位も総合で逆転、米津玄師「馬と鹿」が嵐「BRAVE」に勝った理由は? 9月23日付ビルボードジャパンソングスチャート"頂上決戦"をチェック

9月9~15日を集計期間とする、9月23日付のビルボードジャパン各チャートが昨日発表。ソングスチャートは米津玄師「馬と鹿」が制しました。

ビルボードジャパンのツイートから想像出来るように、今週は嵐「BRAVE」との接戦が予想されていました。個人的には前週のチャート振り返りの際、嵐に軍配が上がるものと思っていたのですが、蓋を開けてみると42603ポイント対35762ポイントと予想以上の差が生まれていました。

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(※「BRAVE」は昨年のテレビ番組で既に披露されていたため、昨年の段階でTwitter指標が盛り上がっていたものと推測されます。)

 

ではなぜ、米津玄師「馬と鹿」の逆転劇が生まれたのでしょう。昨日はこのようなことをツイートしました。

一部のファンが納得しないと書いた理由は、CD販売手法について互いの一部(だろう)ファンが相手を非難したのを目にしたこと、また9月23日付オリコン週間合算ランキングでは嵐「BRAVE」が勝っているためにそのような見方をする方がいらっしゃるのではないかと考えたため。しかしながらオリコン週間合算ランキングは所有、とりわけCDにこだわる点でビルボードジャパンソングスチャートよりも社会の流行の鑑になりにくいと以前指摘しています。

 

さて、米津玄師「馬と鹿」および嵐「BRAVE」、両作品ともこれまでよりシングルCDセールスが高いのです。「馬と鹿」についてはドラマ主題歌として似た立場にある「Lemon」(2018)と、「BRAVE」については前作「君のうた」(2018)とそれぞれ比較すると。

米津玄師「馬と鹿」のシングル・セールス初週売上は431,270枚で、同「Lemon」は205,169枚と倍以上のセールスを稼いだが、一方の嵐「BRAVE」は708,595枚で、前作「君のうた」は382,812枚とこちらも倍近いセールスをマークし、シングル1位となった。

「馬と鹿」「BRAVE」は共に3種リリースながら、「馬と鹿」は映像盤同梱、ペンダント添付盤および通常盤に分かれ、「BRAVE」はBlu-rayおよびDVDの映像盤(内容は同一)同梱および通常盤が用意。それぞれCD収録内容は同じであり、特に嵐においては映像盤付を購入する際はBlu-rayかDVDどちらかを選べばよいだろうゆえ、この状況下でセールスがほぼ倍に達したのには驚きました。おそらく、両作品とも封入されたシリアルナンバーを使ってコンサート(ツアー)予約が可能なことから、複数買いが生まれたと想像出来ます。

総合ポイントにおけるシングルCDセールス指標の割合を「馬と鹿」が6割、「BRAVE」が8割と仮定すると、同指標での獲得ポイントは「馬と鹿」が25562、「BRAVE」が28610。ここからシングルCDセールス1枚あたりのポイントは「馬と鹿」が0.059、「BRAVE」が0.040となります。シングルCD1枚あたりのポイントに差が生じているのは各作品に係数が用いられているため(詳しくは【Billboard JAPAN Chart】よくある質問 | Special | Billboard JAPANをご参照ください)。この係数の算出方法については公開されておらず、もしかしたらこの点をもってビルボードジャパンソングスチャートへの不信感を唱える方がいらっしゃるかもしれませんが、係数という概念がなければ先のオリコン合算ランキング同様、シングルCD売上枚数至上主義的な形になってしまいます。そして今回「BRAVE」の係数が高くなかった理由を考えるに、ルックアップの順位が考えられます。

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パソコン等に取り入れた際のインターネットデータベースへのアクセス数を示すルックアップにおいて、「BRAVE」は「馬と鹿」に敗れているのです。しかも「馬と鹿」は(おそらく所属先のソニーの方針により)レンタル解禁が17日後に設定されている一方、「BRAVE」は発売と同日解禁(これはジャニーズ事務所経営のレコード会社でも異例のこと。詳しくは6月3日付ビルボードジャパンソングスチャート首位曲からはじまる、ジャニーズ事務所所属歌手のシングルCDの展開手法を疑問に思う(5月30日付)をご参照ください)。レンタル店は昨夏の段階でおよそ2000店あり、1店舗あたり10枚分が集計期間中に借りられたとすれば2万枚。すなわち、セールス+レンタルで人々の手に渡ったCDは「馬と鹿」の43万に対し「BRAVE」は73万であり、ルックアップは「BRAVE」が勝ると思うのが自然でしょう。しかしそうはならなかったのは、購入者のインポート率も考慮する必要がありますが、ともすれば「BRAVE」のユニークユーザー数(実際にCDを買った方の数。仮に100万枚売れたとしても一人平均10枚購入したならばユニークユーザー数は10万となります)は前作とあまり変わらず、複数買いが増えたゆえに枚数の割にルックアップが上昇しなかったと言えそうです。これが前作「君のうた」同様、通常盤にカップリング曲が用意されていたならば状況は違っていたことでしょう。ルックアップはレンタルの動向と共にユニークユーザー数を推測可能な要素であり、ビルボードジャパンはこの点を踏まえ係数に差を設けた可能性があります。逆に「馬と鹿」は「Lemon」の倍以上のセールスながら、ユニークユーザー数も倍近くに達したのかもしれません。

 

「BRAVE」はシングルCDセールスおよびTwitter指標で「馬と鹿」に勝るものの、その他では敗れています。ジャニーズ事務所所属歌手であり、且つ同事務所が運営するレコード会社発のためミュージックビデオのティーザーは用意されず動画再生指標はカウントされません。またレコチョクでは嵐の楽曲一覧の中に「BRAVE」が含まれるものの、イントロのみもしくはサビのみという部分配信となっており、ダウンロード指標も300位未満に。デジタルに不便な状況を続ける事務所の姿勢が、今回の逆転を許したと言われてもおかしくないかもしれません。

一方の「馬と鹿」はストリーミング未解禁こそあれど、ダウンロードとミュージックビデオも加算され、チャート構成比において前者はおよそ2割、後者は5%程度を獲得。最新チャートではシングルCDセールス初加算週にもかかわらず、ダウンロードは前週から1万近くも増加しています。この理由はラジオエアプレイの動向からも読取可能。

主題歌として書き下ろしたドラマ「ノーサイド・ゲーム」の盛り上りも話題となるなか、同最終回とシングルリリースが重なった今週、チャートイン5週目にして期待通りの堂々1位を飾った。事前アナウンス無しでドラマ内での楽曲初解禁に始まり、物語が白熱するに準じてシンクロ率の高い楽曲への注目度も上げつつ、それが最高潮に達した最終話を迎える週にリクエストも倍増させシングルリリースと、1位獲得に向けた完璧なシナリオであった。

「馬と鹿」における、突如のダウンロード解禁→ミュージックビデオ解禁→シングルCDリリースというタイミングは、ミュージックビデオ解禁が「Lemon」に比べ1週間ほど遅くなりましたがほぼ「Lemon」の流れを踏襲、そしてドラマの最終回放送週のシングルCDリリースも同様。これが楽曲の注目度を高め、フィジカル(CD)もデジタルも伸ばした理由と言えます。この戦略はデジタルを解禁しているからこそであり、「BRAVE」では採用することが出来ませんでした。またラジオエアプレイについて、嵐のシングルCDセールス初加算週の順位が「夏疾風」33位→「君のうた」46位→「BRAVE」56位と落ちていることも気になります。

 

ラジオエアプレイ共々、ウェイトがそこまで高くないと思しきTwitter指標でも「BRAVE」の強くなさが目立ちます。いや、「馬と鹿」には勝ってはいるのですが同指標は3位。同じジャニーズ事務所所属のA.B.C-Z「DAN DAN Dance!!」(9月25日発売)に敗れているのです。

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チャート構成比がTwitterのみで占められた「DAN DAN Dance!!」の獲得ポイントは1664。嵐「BRAVE」のTwitter指標は全体の4.5%と推測され、Twitter指標での獲得ポイントは1609前後。これはA.B.C-ZのファンによるTwitter活動の凄さとも言えますが、ジャニーズ事務所内でも屈指のファン数を誇るであろう嵐がTwitter指標で、それも呟きやすい1単語の曲名で、これから新曲をリリースするA.B.C-Zに敗れるのは意外でした。仮に嵐ファンがTwitter活動に本腰を入れていたならば同指標で2000ポイントは余裕で叩き出せたのかもしれません。Twitter活動もある意味デジタルの一環であり、嵐のデジタル全体の強くなさが露呈した形です(それでも1600ポイント以上稼ぐのは立派ではあるのですが)。

 

 

今回の頂上決戦を振り返るに、嵐「BRAVE」がシングルCDセールス一点集中型という旧来からの手法が米津玄師「馬と鹿」が採った段階型という戦略に敗れたことの意味は大きいと思います。デジタル解禁することの意味の大きさは勿論(ですが、米津玄師さんがストリーミングを未だ解禁していないことには疑問があることについてはきちんと言及しないといけません)、シングルCDセールスが急増してもその内容が伴っていないと他指標や係数のアップにつながらないことも判明。チャートに不服を申し出る方もいらっしゃるかもしれませんが、ジャニーズ事務所所属歌手においてはたとえばダウンロード指標で上位入りした山下智久「CHANGE」の例もあり、また同曲からはダウンロード解禁がシングルCDセールスを駆逐しないことも証明されています。

ならばジャニーズ事務所や経営するレコード会社には是非とも、デジタルについて前向きに考えていただきたいと強く願います。またファンは事務所側に前向きな提言をし続ける必要がありますが、デジタルに明るくならないうちはルックアップやTwitter、ラジオエアプレイには局へのリクエストの形で、出来る範囲で活動することを勧めます。

 

もうひとつ。楽曲が真にヒットしているかを判断する基準のひとつが、シングルCDセールス指標加算2週目の動向。下記ブログエントリーにその理由を記載しています。

シングルCDセールス指標加算2週目のポイント前週比は米津玄師「Lemon」が54.8%に対し嵐「君のうた」は14.7%。「馬と鹿」も「BRAVE」もシングルCDセールスが共に比較対象作品を大幅に上回っていますがその反動で2週目のセールスが下がり、今作におけるポイント前週比は比較対象作品を下回る可能性があります。この動向をチェックして、真のヒットと言えるかを見極めていきたいと思います。

 

 

なお、今週のソングスチャートトップ10等全体の動向等については明日取り上げる予定です。