イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ソングスチャートにおけるオリジナルとリミックス、客演の有無…日本はアメリカに合わせて合算したほうがよいのではないか

日本とアメリカ、双方のソングスチャートの動向を追いかけていると、アメリカにおける”仕掛け”が重要な意味を成していることが解ります。とりわけ客演参加等のリミックスやミュージックビデオの追加投入は曲にさらなる魅力を与えるのみならず、それらがオリジナルバージョンに合算されるためチャートを上昇させる点でも有効な戦略なのです。

この仕掛けが功を奏し首位を奪取した例はいくつもあり、最近ではリル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」の20週目の首位を阻止したビリー・アイリッシュ「Bad Guy」が話題に。その他、現在トップの座に君臨するリゾ「Truth Hurts」はダベイビーを迎えたリミックス等が初めて加算された週に1位に初めて1位を獲得しました。

「Bad Guy」の場合、厳密にはリミックス投入の後に縦型ミュージックビデオを公開したタイミングで首位を奪取したのですが、ジャスティン・ビーバーの参加が大きなトピックとなったのは事実。日本でもラジオでよく流れていましたが、その日本ではビリー単独のオリジナルバージョンとジャスティン参加版とで集計が分かれています。日本では客演参加等のリミックスは合算されない…ここに日米のチャートの違いが表れています。 

「Bad Guy」ジャスティン・ビーバー参加版の最高位は7月29日付の59位でありオリジナルバージョンを上回ることはありませんでしたが、同日付のオリジナルバージョンは46位。仮に合算していたならばトップ20に入る可能性もあったと考えられるだけに、至極勿体ないと思うのです。

 

合算されない例でいえば、BTSがホールジーをフィーチャーした「Boy With Luv」が日本語版制作においてホールジー抜き(客演なし)バージョンとなり、オリジナルバージョンと別集計となる事態も発生しています。 日本語版が初登場した7月15日付で仮に合算されていたならば「Boy With Luv」がトップ10入りしたはずです。

 

リミックスや客演参加の有無を合算するかどうか、以前ビルボードジャパンにその方針を問い合わせた結果は弊ブログにて掲載しています。

『基本的に、同一歌手による同じタイトルの複数の曲は最終的には名寄せの上でランクインさせます(リマスター前後、等)。 ただ、客演やリミックス等オリジナルにない要素が追加されていると判断すれば分けます』『言語違いの複数タイトルは原則合算します』というのがビルボードジャパンのチャートポリシー(『』内は上記ブログエントリーより)。ですのでホールジーも日本語が出来たなら「Boy With Luv」日本語版が加算されることになったわけです。この”客演やリミックス等はオリジナルにない要素が追加するため分け”るという説明に当時は納得出来たのですが、しかし最近の追加投入等の仕掛け(とチャートでの結実)を踏まえるに、日本でもアメリカに倣って合算してもいいのでは?という思いに駆られています。

 

逆に、ビルボードジャパンのチャートでは下記の作品が合算されているのですが、あらためて考えると合算が成り立つのかと思い至る曲がいくつか浮かんできました。

たとえば星野源「アイデア」のミュージックビデオでは、大サビの弾き語りシーンで元の音源と歌い方やブランクの時間が異なります。

ビルボードジャパンソングスチャートを構成する指標のひとつである動画再生(YouTubeおよびGYAO!)においては、ミュージックビデオに国際標準コードのISRCが付番された曲がカウント対象となるのみならず、権利者の許諾を受けて音源が使用されたユーザー生成コンテンツ(UGC)も対象になります。「アイデア」においてはISRCが付番されたことで、ミュージックビデオが元の音源と多少異なれど合算対象になったことが解ります。

ではリバイバルヒットとなった荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)」はどうでしょう。こちらはUGCであるバブリーダンスの動画が大きく寄与し、動画再生指標で首位を獲得、総合でも最高2位を記録しています。 

しかしこの動画で用いられるバージョンは、イントロ前や1番サビ後の間奏に別曲が挿入され、更にはBPMがオリジナルバージョンより速くなっており、ここまでくるとリミックスと言われてもおかしくないのではないでしょうか。

これら例示した曲について、動画におけるオリジナルとは異なる音源は動画をより魅せるための工夫でありオリジナルバージョンのISRCが付番されているため問題ない、あくまでビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標の基準を満たしているのだから元の音源と合算してもよいと言われればそれまでです(なおISRCUGCについてはダイナソーJr.をはじめ複数の楽曲が動画再生指標を稼ぎチャートを急伸した理由…ほぼ判明しました(2月10日付)を、動画再生指標の基準については【Billboard JAPAN Chart】よくある質問 | Special | Billboard JAPAN内のYouTubeについてをご参照ください)。仮にこれらを合算対象外にするのならば、ショートバージョンやより尺の短いティーザー等、フルバージョンでないものは合算すべきではないという考えも出てくるでしょう(個人的にはそうしたほうが好いのではとも思いますが、集計基準がISRCUGC等の埋め込まれたデータである以上、フルバージョンとそれ以外を分けるのは非現実的でしょう)。

ただ、合算されるものが純粋にリマスターと言えない、オリジナルにない要素が追加されている場合でも合算されている状況が発生しています。

先の「ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)」のCHART insightページに貼付されているミュージックビデオは『ディア・ポップシンガー』(2014)収録の新録バージョン。音をブラッシュアップし歌い直しを実施しています。原曲と大差ないためリマスターに近いとして合算していると思われますし、動画の詳細欄における登録内容はオリジナルバージョンとなっています(これはこれで疑問が残ります)。しかし最後のサビ直前、オリジナルバージョンにはないフェイクの”Oh”が登場、そこからサビに入る際に元のメロディを少し変更しているのです。

上記ミュージックビデオはショートバージョンゆえに”Oh”の登場部分前に尺が終了しますが、これはオリジナルにはない要素であり、別集計になるのではないか…そう思うと、「ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)」のオリジナルバージョンと、バブリーダンスバージョンおよび2014年版とは音の上で全て別物であり、『同一歌手による同じタイトルの複数の曲は最終的には名寄せの上でランクインさせます(リマスター前後、等)』という説明における”リマスター”とは比較的大きく異なるリミックス(もしくはマッシュアップ)的なものや再レコーディングバージョンであるため、名寄せするのは無理があると思うのです。

 

ビルボードジャパン側が最終的に合算していることには賛同しますが、ならばオリジナルバージョンもリミックスや客演バージョンもアメリカに倣って合算すべきではないかというのが今回の提案です。実際、そのほうが計算上楽ではないかというのもありますが、主な理由は3つ。1つ目は日本において、チャート上で合算されないことでリミックスや客演という文化が育ちにくいため。2つ目はアメリカで通用する洋楽やK-Popの戦略が日本のチャート上では成立せず楽曲が成功を収めにくくなり、最終的に日本を主要な音楽市場とみなさなくなる可能性があるため。そして3つ目は、日本の音楽業界で"仕掛け"という戦略や気概が生まれにくいため。

上記ページで【Chart insight biz】という法人向けサービスが紹介されていますが、このサービスでは大半のデータが開示されているものと思われます(リンク先にはCHART insightとの比較も掲載)。レコード会社や芸能事務所はこのサービスでの情報を元に、次のリリース戦略を練っていることでしょう。ただその際、アメリカで有効な仕掛けを日本で施せないことにジレンマを感じているのではないでしょうか。

 

ビルボードジャパンには次のチャートポリシー変更の際、この合算する/しないについての再考、議論を求めたいと思います。自分は合算に強く賛同します。