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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

サブスクリプションサービスの新たなヒットの形…著名人のプレイリストは楽曲躍進の原動力になることが証明される

嵐がCDデビュー20周年に当たる11月3日に全シングル曲および新曲をデジタルで解禁したことのインパクトの大きさは、解禁からわずか5時間でデジタル限定シングル「Turning Up」がビルボードジャパンソングスチャートトップ10入りを果たしたことから明らかです。そのことについて、Real Soundに寄稿した内容が昨日公開されています。

嵐がSNS上で注目を集めている証拠に、SNSでシェアされた回数に基づくSpotifyのバイラルチャートでは、先行解禁された「A・RA・SHI」などの5曲が11月5日、6日とトップ5を独占。「Turning Up」等が未ランクインなのは不思議なのですが、嵐は日本を代表するアイドルなんだよなあと感じずにはいられません。

そんな嵐独占の最中にあって、上昇を続ける洋楽がいくつか。その中のひとつがゴスペル歌手のカーク・フランクリンによる「Road Trip」。

2015年リリースのアルバム『Losing My Religion』収録の、しかし地元アメリカではシングル化されなかったこの曲ですが、11月6日付の日本のSpotifyバイラルチャートで10位に上昇。また、チャンス・ザ・ラッパーにグラミー賞最優秀新人賞をもたらしたミックステープ『Coloring Book』(2016)から、同じくカーク・フランクリンが客演のひとりとしてクレジットされている「Finish Line / Drown」も5日、6日と続けてトップ50入りを果たしています。

「Finish Line / Drown」については、音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんがラジオ番組『ジェーン・スー 生活は踊る』(TBSラジオ 月-金曜11時)の中で今月、カニエ・ウェストによる初のゴスペルアルバム『Jesus Is King』に関連したゴスペル特集時に紹介されており、カニエの以前のアルバムにはカーク・フランクリンも参加していたことから、いよいよゴスペルが注目されはじめたのか!?と思っていました。

ただ、カニエ・ウェスト『Jesus Is King』収録曲で最も勢いのある「Follow God」は日本のSpotifyデイリーチャートで最高82位止まり。ゴスペル曲がここまで高い位置に来たこと自体実は凄いことなのですが、どうも今回の動きとは関連性が高くないと考え、あらためて調べてみるとこれらの曲の推薦者が見つかったのです。その方とは、星野源さん。

【so sad so happy】と名付けられたSpotifyのプレイリスト(そういえば、高橋芳朗さんが以前担当していたTBSラジオの番組名は『HAPPY SAD』でしたね)には、最新EP『Same Thing』収録曲を含む自身の楽曲も含まれていますが、これまで星野さんがラジオ番組『星野源オールナイトニッポン』(ニッポン放送 火曜25時)やテレビの特番『おげんさんといっしょ』(NHK総合)などで紹介した作品が網羅されています。そういえば今年、星野さんがサブスクリプションサービスにて自身の楽曲を解禁した際にApple Music内のラジオ番組、Beats 1 Radioにて『Pop Virus Radio』を担当していましたが、その中で紹介していたのがカーク・フランクリン「Road Trip」だったわけで、同曲の収録に合点がいった次第。さらには『おげんさんといっしょ』第1弾で紹介したマイケル・ジャクソンがボーカルを務めるThe Jacksons「Blame It On The Boogie」と、歌詞にマイケルへのオマージュを忍ばせた星野さん自身の「SUN」を共に入れるなど、選曲は本当に気が利いています。ラジオ番組やテレビのファン、星野さんのファンのみならず音楽通の方をも満足させるであろうこのプレイリストが再生回数を増やすことで、公開翌日以降のバイラルチャートで大量エントリーを果たしたというわけです。

 

プレイリスト収録曲がヒットに至ることについては、以前ブログにてエド・シーラン「Shape Of You」のロングヒットを取り上げた際に記載し、多くの反応をいただいています。リリースからまもなく3年になるこの曲は現在も、全世界のSpotifyデイリーチャートで未だ100位前後、日本では50位前後を推移しているのですが、Spotifyで歌手名+曲名で検索すると100を余裕で超えるプレイリストが登場しており、ヒットの条件はプレイリストへの引用にありと断言していいでしょう。

今回の星野源さんによる【so sad so happy】プレイリストは、楽曲をプレイリストに取り込むのがサブスクリプションサービスのユーザーではなく星野源さんというところに違いがありますが、収録曲は実際にチャートを駆け上がっており、人気者によるリコメンドが多くの人に伝播することが今回証明されたと言えます。星野さんのラジオなどからは純粋な音楽愛が伝わってくるわけで、星野さんのプレイリストは間違いない!と多くの方が捉えているだろうことが、プレイリストが支持を集める理由ではないでしょうか。ちなみに星野さんがSpotifyでプレイリストを作成、公開した理由は今週放送の『星野源オールナイトニッポン』で紹介されていますので、みやーんさんによる文字起こしを勝手ながら紹介させていただきます(問題があれば削除いたします)。

ヒップホップからゴスペル、Ovallから松任谷由実さんに至るまで、多様なジャンルを網羅したプレイリストは、純粋に好き!という星野源さんの姿勢が如実に表れており、また彼の作品も何ら違和感なく混ざり合っています。こうして少しでも多くの人に新しい音楽との出会いが、またジャンルに関係なく聴く習慣が生まれるならば最高ですね。

個人的には、以前ブログで紹介したレ・シンズが取り上げられているのも嬉しいのですが(ブログエントリーはこちら)、R&Bながらポジティブな歌詞や、繰り返しまくる転調がまさしくゴスペルライクなビヨンセ「Love On Top」が入っているのが実に嬉しいのです。今週はもう1件、ゴスペル関連の大きなリリースがあったこともあり、ゴスペルが浸透していくならばこれほど嬉しいことはありません。

近年、「Shape Of You」のように多数のプレイリストに採り入れられることがヒットの新たな図式となっていますが、これからは歌手がプレイリストを制作することもヒットの新たな形になっていきそうです。