イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Official髭男dism「Pretender」返り咲き首位を踏まえ、ロングヒットの条件を考える…12月2日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点をソングスチャート中心に紹介します。

 

今週のソングスチャートを制したのはOfficial髭男dism「Pretender」。5週ぶり通算2度目の首位獲得です。

前週は集計期間中に『NHK紅白歌合戦』(NHK総合他)の出場歌手が発表された影響で出場歌手の作品群が軒並み伸びたのですが今週は一転し、前週トップ10入りした楽曲のうち8曲がポイントを下げています。しかし「Pretender」およびKing Gnu「白日」はポイントを伸ばし、前者は最高ポイントを、後者は最高位をそれぞれ更新しています。

今後『NHK紅白歌合戦』までの期間に各テレビ局が大型音楽番組を編成することもあり、今年を代表する楽曲が伸びることが予想されます。

 

他方、「Pretender」に破れたアンジュルム「私を創るのは私」については。

2曲のチャート構成比は非常に対照的です。

f:id:face_urbansoul:20191128071249j:plain

f:id:face_urbansoul:20191128071303j:plain

「私を創るのは私」はシングルCDセールスが1位ながら他指標はトップ10入りを逃し、ルックアップも29位であることからユニークユーザー数がセールスと大きく異なることも考えられます。一方「Pretender」はシングルCDセールスが100位未満(300位圏内)、ルックアップもアルバム『Traveler』リリース以降ははっきりとダウンしており(アルバムがレンタル解禁されてからより明確)、シングルCDに頼らず最高ポイントを更新出来たわけです。「Pretender」の大ヒット且つロングヒットを見習うならば、所有よりも接触指標群を如何に伸ばすか、そして所有の中でもダウンロードを伸ばすことが大事だと解ります。それが証拠に、今年度の首位獲得曲の翌週の動向をみれば、シングルCDセールスに頼らない(もしくはデジタルリリースのみの)作品が翌週もポイントを落としていないこと、むしろ伸ばしている曲もあることが理解出来ます。

f:id:face_urbansoul:20191128072227j:plain

今年度のチャートは今週がラスト。12月上旬にはビルボードジャパン年間チャートが発表される模様ですので、この表と年間ソングスチャートとを照合してみたいと思います。

 

アンジュルム「私を創るのは私」だけではありません。シングルCDセールスに特化した作品が伸びなかったのは先週問題視した演歌においても。

f:id:face_urbansoul:20191128072548j:plain

「大丈夫」は春のA~Cタイプ、晩夏にD~FタイプのシングルCDをリリースし、今回はG~Iタイプのセールスが初加算となってシングルCDセールス指標では12位に躍進。しかし他指標ではルックアップが79位にランクインしたのみで、明らかに一指標に特化した形となりました。演歌は年配の方が好むとされルックアップが強くないだろうことは想像出来るとして、しかしここまで販売に特化したやり方(これは氷川きよしさんだけではなく多くの歌手が採用している手法)では演歌のジャンルそのものの衰退は避けられないでしょう。前週指摘した内容を再掲し、あらためて演歌がデジタルを意識した戦略を練ることを願うばかりです。

 

戦略の見直しといえば、LiSA「紅蓮華」における動画再生指標においても。

f:id:face_urbansoul:20191128073345j:plain

総合では10→12位、ポイントも3782→3207とダウンしていますが、サブスクリプションサービスの再生回数は1993703→2024729と増加しています。「紅蓮華」はLiSAさん自身のサブスクリプションサービス解禁後に3度目のトップ10入りを果たし、『NHK紅白歌合戦』初出場発表効果も相俟ってロングヒットが期待出来ると思うのですが。

f:id:face_urbansoul:20191128073832j:plain

CHART insightにおいて総合チャート(黒の折れ線で表示)、ストリーミング(青)および動画再生(赤)の各指標のみ抽出したものが上記(ストリーミングは歌詞検索サイトの閲覧回数も対象となるため一時期100位未満(300位圏内)にランクインしていたものと考えられます)。接触指標群の2指標で大きな乖離というのは、現在ロングヒット中の楽曲にはみられない傾向です。

f:id:face_urbansoul:20191128074232j:plain

上記はCHART insightより、最新週のソングスチャート上位13位までにおける各指標毎の順位を示したもの。接触指標群が伴っていないシングルCDセールスに特化した作品、サブスクリプションサービス未解禁の米津玄師「馬と鹿」、動画発信アカウントがNHKであったためかISRC未付番により長らく動画再生指標未加算だったFoorin「パプリカ」を除けば、「紅蓮華」以外はストリーミングおよび動画再生の両指標共にトップ10入りを果たしています。それゆえ「紅蓮華」の歪なチャート構成比が目立つのです。これは前週も指摘したように、YouTubeに掲載されたのがショートバージョンであることが影響しているのは間違いないでしょう。

ミュージックビデオが映像盤としてCDに付属され、商品としての価値を帯びてから長い年月が経ったこともあってか、ショートバージョンはチャート的にも止めたほうがよいのではと提案すると、"CDが売れなくなったならばどうするのか?"という反論を耳にすることがあります。しかし、現在はCDが売れなくなったこともさることながら、率先してCDを買う人が減った一方でダウンロードもしくは接触という選択肢を優先する方が多い状況。「紅蓮華」はCDも売れ続けてはいるものの、サブスクリプションサービスの解禁後にチャートを上昇したことを踏まえれば、"CDは買わないけれど接触出来る環境が整えば率先して聴く"需要が十分にあったと言えるわけです。この需要を見越してレコード会社や歌手側は、CDを売ることは重要ながらもそれだけに頼らない戦略を採ることを考えないといけないでしょう。その際、ミュージックビデオをYouTubeでチェックした方がショートバージョンに触れ、途中で終わったり尺が短くエディットされていることを知ったら愕然とするのではないでしょうか。"ならばCDを買って聴く"や"サブスクリプションサービスでチェックする"よりも、"がっかりした、もう聴かない"という不信感を抱かれたならばこれ以上の伸びは期待出来ないかもしれません。一方でサブスクリプションサービスを昔から解禁しYouTubeもきちんとフルバージョンでアップしているOfficial髭男dismやKing GnuがアルバムCDセールスも伸ばしてるのは、総じてきちんと開放していることによる信頼感の表れと言えるかもしれません。この"信頼"と"不信"をきちんと考えて動くこと、短期的な利益は手放す可能性はあれど中長期的に利益を得られる戦略に移行出来るかが今後のレコード会社等に課せられた課題だと考えます。尤もこの不信感、かつてのコピーコントロールCD等のそれと通じるものがあり、個人的にはまた同じことが繰り返されているのではと思うのですが。