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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボード、グッズとセットになったアルバム(バンドル)のカウント方法を変更へ…それでもバンドルを認めた理由は

ビルボードは来年1月3日からアルバムチャートにおいて、アルバムとアルバム以外の商品(グッズ)がセットで販売されたいわゆる"バンドル"についてチャートポリシーを変更します。既に発売された作品も対象となり、2020年1月18日付のチャートから適用されます。

ルール改正後は、バンドルがチャートにおいてアルバム・セールスとしてカウントされるには、バンドルに含まれているアルバム以外の商品が、同時に同じウェブサイトで個別にも購入できるようになっていなければならない。また、それらの商品がセット売りされる場合、アルバムが含まれているバンドルより低く価格設定されていなければならない。さらに、アルバム・バンドルは、アーティストが運営する公式オンライン・ストアのみで販売され、第三者サイトを通じて販売されてはならない。

米ビルボード・アルバム・チャート、来年からバンドル販売のカウント方法を変更 | Daily News | Billboard JAPAN(11月27日付)より

この件については過去に問題となった事例も含め、下記に分かりやすく記載されています。

ライブチケットとのバンドルもみられ、現に首位を獲得する作品も少なくないことからバンドル自体の疑問は根強く存在します(ちなみに今回のチャートポリシー変更ではチケットとのバンドルは対象外。その理由はビルボードジャパンの記事にて掲載されています)。しかし今回のチャートポリシー変更ではバンドルという商法自体をアウトとするのではなく、言い換えるならば今回設けた基準をクリアすればアルバムチャートにカウント出来るというわけです。

 

今回米ビルボードがバンドル商法をOKとしたのには3つの理由があるものと考えます。1つ目は【今後新たな事案が生じても可及的速やかに対応出来るビルボードの自負がある】こと。以前レディー・ガガ『Born This Way』(2011)が99セントで販売し物議を醸したのですが、米ビルボードはその年のうちに、今後底値での販売はカウントしないようチャートポリシーを変更しました(ビルボード・チャート、「安売り」セールスを反映しない方針に | bmr(2011年11月17日付)参照)。今回も比較的速やかに対処したと言えますし、今後新たな商法が登場してもまた変更するという意志が見て取れます。

 

2つ目は【売上の軸足はあくまでもバンドルではない】ということ。これは以前、今の演歌の販売手法の問題を踏まえ、再興のためのデジタル推進を提案する(11月20日付)でも触れた、音楽プロデューサーの亀田誠治さんによる公演から見出すことが出来ます。亀田さんはテイラー・スウィフトの新作『Lover』のデラックス・エディションを購入し持参、彼女の商法を説明した上でこう述べています。

これを4種類も発売していて、「オイオイちょっと待てよ、この売り方は日本でもやっていたやつと似てるんじゃねーか」と思うでしょ、握手券とか。似てるんじゃない? と思うかもしれないけれども、大間違いです。

欧米、アメリカでは先ほど言ったように、75パーセント以上がもうサブスクに移行しているというベースがあるんです。イノベーションによって作られた、新しい時代のグローバルな音楽の基準、土台というものができているわけ。できたうえで、こうやってTaylorちゃんは(笑)、Taylorちゃんって友達じゃありませんが、自分の日記を載っけて、CDを何パターンも作って、そしてファンとのコミュニケーションとして使っているわけです。

「イノベーションを起こすのはテクノロジーではない」 音楽プロデューサー・亀田氏がイノベーティブマインドの重要性を語る - ログミーBizより

バンドルやデラックス・エディションも売上に寄与しますが、あくまでも土台にサブスクリプションサービスがある以上それらは主にはならないでしょう。米ビルボードアルバムチャートはサブスクリプションサービスの再生回数もカウント対象であり、より質の高い作品は聴かれ続けることでチャートを上昇、キープします。逆に購入は基本的に一度のみなのです(無論、1枚の購入と1枚分の再生(接触)では前者のほうがウェイトは高くなっていますが)。

 

そして【売上とは別にれっきとした質の評価軸が存在する】というのが3つ目の理由。グラミー賞や各種メディアのベストアルバム企画等、質の高さを評価する指標が多数あることから、売ったかどうかは別問題だと割り切れるのだと考えます(ちなみに米ビルボードではビルボードミュージック・アワードを毎年開催する等、チャートを基準とした賞も存在します)。

 

アメリカでは今後も商品やチケットとのバンドルは定番化し、またデラックス・エディション商法は増えていくものと考えます。しかし何か卑怯といえる商法が編み出されるたびに取り締まるだろう米ビルボードの存在は実に大きいと言えるのです。