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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボード年間チャート発表を踏まえ、2019年のチャートトピックス10項目を挙げる

今年の音楽業界をチャートから振り返る企画、一昨日は邦楽を取り上げましたが、今回はアメリカの状況をみてみます。邦楽については下記に。

そして昨年のアメリカの動向についてはこちら。

昨年はグラミー賞の動向も踏まえて振り返りましたが、今年はチャート動向を主体にチェックします。

 

今年の米ビルボードチャートについてはこちらでまとめられています。各ジャンルについても無料で確認可能です。

そしてソングスチャートおよびアルバムチャートについては、ビルボードジャパンにて詳細な記事が掲載されていますのでそちらを是非ご覧ください。

ソングスチャートは100位まで、チャートを構成する3指標(ウェイトの大きい順にサブスクリプションサービスの再生回数や動画再生回数等を基とするストリーミング、ラジオエアプレイおよびダウンロード)はそれぞれ75位まで紹介されていますが、ソングスチャート上位50位までに入った作品について総合順位、最高位ならびに各指標の順位を一覧化しました。

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指標におけるSTはストリーミング、RAはラジオエアプレイ、DLはダウンロードを示し、青は各指標トップ10を、黄色は各指標51~75位を、灰色は各指標75位未満となります。またマルーン5 feat. カーディ・B「Girl Like You」(22位)およびジュース・ワールド「Lucid Dreams」(48位)の最高位は2018年度のものです。なお、ストリーミング9位のピンクフォング「Baby Shark」は総合75位、ダウンロード6位のローレン・デイグル「You Say」は同60位にランクイン。また2019年の週間チャートを制した曲のうち、ポスト・マローン「Circles」は総合62位に登場した一方、トラヴィス・スコット「Highest In The Room」およびセレーナ・ゴメス「Lose You To Love Me」は100位以内にランクインしていません。ただし2曲とも10月以降の首位獲得であり、リリースが早ければ年間100位以内はあり得たでしょう。

 

それでは一昨日の日本版に倣い、10項目挙げてみます。

目次

 

① リル・ナズ・X、「Old Town Road」がソングスチャート新記録達成

今年はリル・ナズ・Xの年となりました。昨年単独クレジットでリリースした「Old Town Road」は、TikTokでカウボーイハットを被るチャレンジモノのBGMとして用いられ、Spotifyサブスクリプションサービスに伝播。後にビリー・レイ・サイラスを客演に招いたバージョンが登場し、単独版で1週および客演有バージョン(オリジナルより再生回数等が上回ればそちらが歌手名としてクレジットされることに)で18週連続首位を記録し、これまでの記録を3週も上回る19週もの首位を達成しました。リル・ナズ・Xは続く「Panini」も年間40位に送り込み、一発屋の称号を回避した印象があります。

 

 

TikTok経由等、SNSを介した新たなヒットの形が確立

以前からもTikTokを利用したチャレンジモノはみられましたが、先述した「Old Town Road」の爆発力はこれまでの作品を圧倒、ストリーミングソングスチャートにおける週間再生回数上位10傑のうち実に8週を占めたこともあり【TikTokサブスクリプションサービス→総合チャート】へヒットしていく流れが確立された感があります。

「One Thing Right」に限らずTikTokで人気となった曲をはじめ、SNS上の口コミでヒットする曲がたとえばSpotifyバイラルチャートなどで可視化され、ヒットを知る上で重要な存在となっています。2020年度初回となる12月7日付米ビルボードソングスチャートではアリゾナ・ザーヴァス「Roxanne」が5位に躍進し次の首位候補に躍り出ましたが、彼もリル・ナズ・Xの流れを受けた存在。

今後もこの方程式をなぞるヒット曲が確実に登場することでしょう。

 

 

③ ひとつのジャンルには括れない、多様性を内包した曲の登場

「Old Town Road」は米カントリーソングスチャートに一時ランクインするもののヒップホップの側面が強い観点から(またはカントリーというジャンルが保守的でありヒップホップとそぐわないと考える向きもあったのでしょう)、同チャートから外されてしまいます。それに異を唱えたのがベテランカントリー歌手であり、マイリー・サイラスの父でもあるビリー・レイ・サイラス。ビリーの客演により「Old Town Road」がカントリーにおいても十分な説得力を帯びたのはいい意味で皮肉と言えるかもしれず、その影響や話題性も19週連続首位の推進力となったはずです。このカントリーとヒップホップの融合はブランコ・ブラウン「The Git Up」(年間56位)にも当てはまります。

一曲の中に多様なジャンルを内包したものが今年のトレンドと言えそうですが、ヒップホップが保守と言われるカントリーの壁までいい意味で壊そうとしているのは面白い傾向かと。「Old Town Road」に限らず最近のカントリーの他ジャンルとの融合は以前まとめています。

 

 

④ 客演有リミックス等、多様な仕掛けの定番化

年間ソングスチャートでトップ10入りした曲をみると、「Old Town Road」のビリー・レイ・サイラスは勿論のこと、4位のビリー・アイリッシュ「Bad Guy」にはジャスティン・ビーバーを加えたリミックスも登場。後者も、リミックス版投入により最終的に首位を獲得するに至りました。また3位を獲得したホールジー「Without Me」は、スマートフォン時代を意識した縦型ミュージックビデオを投入したことでストリーミングが伸び首位に到達しています。これらの追加投入戦略等、仕掛けが数多くみられたのが今年度のチャートの特徴です。

客演有リミックスについては、米ビルボードソングスチャートがリミックスや客演の有無に関係なくオリジナルバージョンに合算する、その上で客演有バージョンがオリジナルを上回ったならばそのバージョンを歌手名に表記するというチャートポリシーが影響しています。日本と逆ですが、個人的にはビルボードジャパンもこの動きを踏襲してほしいものです。そのほうが様々な戦略が立てられ、音楽がより楽しめるものになるものと考えます。

 

 

⑤ リル・ナズ・X、ビリー・アイリッシュ、リゾ…新鋭の台頭

今年はメジャーファーストシングルやフルアルバムを放った歌手の大ヒットが目立ちました。先述したリル・ナズ・Xもさることながら、初のフルアルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』を年間アルバムチャート首位へ送り込んだビリー・アイリッシュ、そしてメジャー初のフルアルバム『Cuz I Love You』をリリースし「Truth Hurts」が週間チャート制覇および年間13位に輝いたリゾ(この「Truth Hurts」もまた、リミックス版が首位到達の後押しに)…新鋭の活躍が目立ったのも印象的です。

この3組は来年発表されるグラミー賞において、いずれも最優秀新人賞(Best New Artist)にノミネート。ビリー・アイリッシュおよびリゾは同賞を含む主要4部門全てに、リル・ナズ・Xは最優秀楽曲賞(Song Of The Year)以外全てにノミネートされており、台風の目となることは間違いありません。

 

 

⑥ 新しいヒットの形が旧譜に焦点

前項で触れたリゾの大ブレイクの要因となったのが「Truth Hurts」のヒットに間違いないのですが、この曲は元々一昨年秋のリリース。それが、今年4月にNetflixで公開された映画『サムワン・グレート 〜輝く人に〜 (原題:Someone Great)』、およびTikTok におけるチャレンジモノ(#DNATestChallenge)に用いられたことでブレイクを果たし、アルバム『Cuz I Love You』にはボーナストラックとして収録されたのです。

リゾは後に、「Truth Hurts」よりも前にリリースしていた「Good As Hell」をシングル化し最新チャートでトップ3入りを果たしていますが、そもそも以前の曲に光を当てることが出来たのはTikTokの影響と言えるでしょうし、今後はNetflix映像ストリーミング配信事業で用いられた曲が新旧問わずヒットする可能性も秘めています。日本でもNovelbrightがTikTokを契機に昨年リリースの「Walking with you」をヒットの波に乗せており、この動きは世界中で生まれてくるものと思われます。

 

 

⑦ ポスト・マローン、2010年代後半を代表する歌手に台頭

ひとつのジャンルで括れない曲が多く存在したということは③で触れましたが、その動きを加速させたのがヒップホップの歌モノ化と言えるかもしれません。とりわけポスト・マローン「Better Now」(年間32位)が今年のグラミー賞(昨年ノミネート発表)において、ヒップホップではなくポップ部門にノミネートされたのは象徴的な出来事でした。

ポスト・マローンは今年、スウェイ・リーとの「Sunflower (Spider-Man: Into The Spider-Verse)」が年間2位、「Wow.」が同5位となり、昨年トゥエニーワン・サヴェジを招いた「Rockstar」およびタイ・ダラー・サインを迎えた「Psycho」が年間5、6位に入ったのに続いて2年連続で2曲同時トップ10入りを達成。ザ・チェインスモーカーズが2016年と2017年に同様の記録を達成していますが、ホールジーを迎えた「Closer」が2016年に10位、2017年に7位と2年連続で登場していることを踏まえれば、ポスト・マローンが如何に偉業を成し遂げたが解ります。年間アルバムチャートでも2年連続で2作をトップ10入りさせており、2年連続で複数作をトップ10入りさせたのは1966~1967年のハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスによる3作品ずつ以来。ソングス/アルバム両チャートでの成功により、ポスト・マローンは今年の米ビルボード最優秀アーティスト賞(Top Artist Of The Year)を獲得しました。

 

 

テイラー・スウィフト、アルバム3作連続での年間首位を逸失

2019年度後半となる8月リリースにした段階で年間アルバムチャートを制することはさほど意識してはいなかったのかもしれませんが、テイラー・スウィフトのアルバム『Lover』は年間アルバムチャート首位の座を逃し4位という結果に。3曲もの米ソングスチャート首位獲得曲を収録した『1989』(2014)が2015年の年間アルバムチャートを、前作『Reputation』(2017)が2018年のチャートをそれぞれ制覇していたことを踏まえると、今作もという期待は大きかったのではないでしょうか。

『Lover』は初週ユニット数が2019年度最大となる867000を獲得した一方、その大半となる679000がアルバムセールスであり、米の大手小売業であるターゲット限定で4種類の限定盤CDをリリースしたことがセールス偏重に影響したと言えるでしょう。尤も、サブスクリプションサービスの再生回数を基とするストリーミングの初週ユニット数(アルバム換算分)も175000と大きかったのですが、『Lover』がさらなる大ヒットに至れなかったのは次項にあるように、ソングスチャートでの強くなさがアルバムにつながらなかったものとみています。 

 

⑨ 指標の偏りは大ヒットに至れないことが証明

先に掲載した年間ソングスチャート50位までの表をみると、テイラー・スウィフトは「You Need To Calm Down」が39位、ブレンドン・ユーリー(パニック・アット・ザ・ディスコ)を招いた「Me!」が43位と2曲送り込んでいるのですが、指標毎にみると最もウェイトの小さいダウンロードの順位が高い一方、最もウェイトが大きいストリーミングでは共に50位未満となっています。ゆえに、週間チャートの最高位は2位ながら所有指標(ダウンロード)に偏重し、一方で接触指標群(ストリーミングおよびラジオエアプレイ)が持続しなかったことが想像出来ます。これはたとえば、年間ソングスチャート3位に「Without Me」を送り込んだホールジーを招き、「Boy With Luv」を4月27日付で週間チャート8位に送り込んだBTSについても同様で、同曲はトップ10入りした翌週に40位に急落。彼らのアルバムも接触より所有指標(特にCDセールス)が強いことを踏まえれば、所有指標に偏った作品は週間順位が高くとも年間となると上位に進出出来ない傾向があります。これは昨日記載した日本におけるシングルCDセールス偏重曲にもあてはまります。

ただ、アメリカの場合は必ずしも【所有<接触】が正しいわけではなく、バランス良く獲得することが重要であり、ラジオエアプレイおよびダウンロードが共に年間トップ10入りしながらもストリーミングが71位と大きく落ち込んだゆえに年間11位とトップ10入りを逃したパニック・アット・ザ・ディスコ「High Hopes」の例からも解ります。年間ソングスチャートトップ10入りした曲のうち、2指標以上トップ10入りしたのは7曲もあることから、そのバランスこそが重要なのです。

 

 

⑩  新しいヒットの形をなぞる曲に足りないものが判明

先述の表をみると、首位を獲得したリル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」はストリーミングおよびダウンロードを制しながらもラジオエアプレイが20位と極端に低いことが解ります。しかしながらストリーミング週間再生回数上位10傑に8週分も送り込んだことで同指標がぶっちぎりのトップを達成、逃げ切れたと言えそうです。

ジャンルと各指標毎の関係性として、保守的とされるカントリーやロックがストリーミングに弱く、ヒップホップはラジオエアプレイに弱いとよく言われますし実際その通りなのですが、ヒップホップに括られるリゾがストリーミングよりラジオエアプレイに強かったり、R&B歌手のカリードによる「Talk」(年間8位)においてはラジオエアプレイが他指標より強いことを踏まえれば、ジャンル毎の得手不得手が必ずしも全てに当てはまるわけではありません。

ただ、②で触れた新しいヒットの形をなぞる曲は共通してラジオエアプレイに弱いことが判明。ブランコ・ブラウン「The Git Up」(年間56位)はカントリーとヒップホップとの融合ながらラジオエアプレイで75位以内に入らず、またリル・テッカ「Ran$om」(年間28位)やブルーフェイス「Thotiana」(同47位)、先述したリル・ナズ・X「Panini」(年間40位)もラジオエアプレイが75位未満となっています。

ラジオがSNSの人気動向を捉えにくいのかもしれませんが、言い換えれば新しいヒットの形をなぞる曲はラジオエアプレイが浮上することで総合的なヒットに至れるとも。ラジオエアプレイの攻略は今後の課題となることでしょう。

 

以上10項目を取り上げてみました。今後追加等あれば記載する予定です。