イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

『NHK紅白歌合戦』はビルボードジャパンソングスチャートのどの指標に影響を及ぼすのか

昨年大晦日の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)の視聴率が芳しくないことを機に、低調の予兆はあった云々の記事がスポーツ誌を中心に登場していますが、そのような後出しジャンケンをして咎めるよりも、内容を客観的に精査した上で"ならばどうすべきだったか、そして今後どうすればいいか?"の提言をしてくださったほうがはるかに好いと思う自分がいます。

 

さて、音楽チャートの面から紅白の動向をみてみましょう。デイリーでチャートが更新され詳細な数値が出るもののひとつがSpotify。このサブスクリプションサービスは昨年度末にビルボードジャパンがストリーミング指標に導入(同時に、有料サービスと無料サービスとでウェイトを分ける方法も採用)していることもあり、日本でも認知度が高まりつつある同サービスの動向を追いかけてみます。まずは昨年のビルボードジャパン年間ソングスチャート3位、紅白でも披露されたOfficial髭男dism「Pretender」のこの1ヶ月ちょっとの動向を押さえます。

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「Pretender」は期間中連日1位を続ける曲ですが、12月29日までをみると基本的に週末(青色表示の土曜および赤色表示の日曜)が高い傾向があり、これがSpotifyにおける基本動向と言えるでしょう。そして12月30日からは年末年始休暇の影響からか、週末並の数値をキープしているのですが、元日になると前日比84.5%と急落。翌1月2日には平日並みに回復しています。

では、昨年の紅白で披露した曲の動向はどうでしょう。

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1月1日付で200位以内に登場した曲を抽出し同日付の上位から順にまとめた結果が上記(嵐については「A-RA-SHI:Reborn」はカウントせず)。紅白直前に再浮上したについては、直近で200位以内に入っていた日付および順位を補記しています。再浮上した曲は以前より数値を伸ばしているだろうものの、紅白以前から200位以内に入っていた曲はOfficial髭男dism「Pretender」同様、12月30~31日は土日並の数値をキープするものの元日は低いという動向が見て取れます。一方で1月2日は土日並の水準に至る曲が多いようです(「Pretender」も先述したように回復していますが、King Gnu「白日」や菅田将暉まちがいさがし」、LiSA「紅蓮華」よりは回復度合いが低いですね)。

こう考えると、明日の朝までに発表されるだろう1月3日付についても前日程度の水準となり、仮にSpotify以外のサブスクリプションサービスも同様の動きをみせるならば、12月30日~1月5日を集計期間とする1月13日付ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標では元日を除く6日間が土日並の高い数値を上げることが予想されます。しかしながらLiSA「紅蓮華」が大晦日Spotifyで初めてトップ10入りした以外は特に100位以内において順位に大きな変動はあまりみられないことから、サブスクリプションサービスの数値上昇はストリーミング指標全体の底上げにはなれど、紅白歌唱曲の総合チャート上昇には直接つながりにくいのかもしれません。

 

そこで、一昨年の2019年1月14日付ビルボードジャパンソングスチャートを振り返ってみます。同日付ソングスチャートは下記に。

2018年の大晦日からの1週間を集計期間とするチャートでは、米津玄師「Lemon」、DA PUMP「U.S.A.」、あいみょんマリーゴールド」そしてMISIA feat. HIDE(GReeeeN)「アイノカタチ」と、上位4曲が一昨年の紅白歌唱曲。そしてその紅白を機に認知度が上昇し昨年は遂に日本レコード大賞を受賞するに至ったFoorin「パプリカ」は100位圏外から32位に登場しています。「アイノカタチ」以外は2019年のビルボードジャパン年間ソングスチャートでトップ10入りしていますが(同チャートはこちら)、そのトップ10入りした曲の一昨年の紅白前後の動向をみてみましょう。同じく年間トップ10入りしながら紅白では披露されなかった、あいみょん「今夜このまま」も記載しています。f:id:face_urbansoul:20200104075458j:plain

(前週比の右側は各指標の順位。左からCD:シングルCDセールス、DL:ダウンロード、ST:ストリーミング、RA:ラジオエアプレイ、LU:ルックアップ、TW:Twitter、MV:動画再生、KA:カラオケ を示します。)

ほぼすべての指標がジャンプアップした「パプリカ」とサブスクリプションサービス未解禁の「Lemon」を除けばストリーミング指標の順位はさほど変わらないことが解ります。そしてソングスチャートを構成する8つの指標の中で最も大きな変化が見られるのはシングルCDセールスだということが判明します。「U.S.A.」においてはダウンロードがダウンし、また同曲を収録した『THANX!!!!!!! Neo Best of DA PUMP』が紅白の3週ほど前にリリースされていながら、シングルCDセールスの順位が上昇するという傾向がみられるのです。

 

これを踏まえれば、紅白の影響はストリーミング指標にも表れるものの、シングルCDセールスという所有指標により大きく表れるのかもしれません。とはいえその売上枚数がデイリー単位ですべて見えてこないため、土日並のシングルCDセールスが年末年始ずっと続くかは解りかねるのですが。お年玉をもらった子どもたちが年始の買い物でCDショップに繰り出し紅白で印象的だった曲を購入する…そんな行動が、CD全盛期ほどではないにせよ未だに根強くあるのかもしれません。

レコード会社や芸能事務所はこれを踏まえ、CDショップでの展開は勿論のこと、年末年始のメディアでの披露曲のプレイリストを各サブスクリプションサービスに用意するなどして再生回数の拡大につなげる必要があるでしょう。下記プレイリストはSpotifyが作成したものですが、NHKも積極的にこのような仕掛け(そしてその仕掛けはアフターフォローにつながります)を行うことで、紅白の影響力の持続に結びつけることが出来るのではないでしょうか。