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チャート愛好家。ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

三浦大知「I'm Here」のミュージックビデオ・サブスクリプションサービス未解禁はグラミー賞の夢を遠ざけやしないか

昨年の音楽業界を賑わせたKing Gnuがアルバム『CEREMONY』を本日リリース。フラゲ日となった昨日はTwitterで盛り上がりを見せていましたが、メンバーの井口理さんはこのようなツイートを。

作品が発売日にきちんとサブスクリプションサービスでも聴取可能である旨を紹介しています。作品への自信や伝えたい思いが感じられます。

他方、同日発売となった三浦大知さんのシングル、「I'm Here」はサブスクリプションサービス未解禁の措置が採られました。今日のSpotifyアーティストページをみると、先行配信され後にシングルのカップリングに収録された「COLORLESS」が最新のリリースとして表示されています。

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解禁しない等の措置については今週月曜、三浦大知さんがInstagramライブ配信の中で明かしています。視聴された方によると、1月31日にミュージックビデオおよびサブスクリプションサービスが解禁されるとのことですが、個人的にはどうも腑に落ちません。カップリング曲で昨年サブスクリプションサービスで解禁されるや否や多くの方に衝撃を与えた「COLORLESS」の、サプライズ配信でいっそう増幅された喜びは一体何だったのでしょう。

 

CDを売りたいこだわりは今作のキャンペーンから見えてきます。

しかし、キャンペーン開始日が本日であるにも関わらずフラゲ日となった昨日には既にパネルが置かれていた店舗が多数あった模様。こういう不徹底は不信すら招きかねないと考えます。

 

尤も、三浦大知さんの楽曲伝播の手段に違和感を抱いたのは今回が初めてではありません。

前作「片隅」(2019)がYouTubeにてショートバージョンで公開され、さらには”ショートバージョン”と銘打たず、あたかも2分ちょっとの曲であるかのようにエディットしているやり方は、動画を機に楽曲を所有/接触した方に戸惑いを抱かせるのに十分。前作「Blizzard」(2018)がフルバージョンでの公開だっただけに、尚の事ショックでした。そしてこの「片隅」が、「Cry & Fight」でブレイクを果たして以降の三浦さんの作品の中ではチャートアクションが最も低くなってしまったのです。

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ビルボードジャパンソングスチャートでは100位以内に4週のみ在籍。シングルCDセールス指標が初加算された週の総合22位という順位、そしてシングルCDセールス指標加算2週目の100位圏外というのは2016年以降のシングルCD表題曲ではワーストとなってしまいました。他方、Twitter指標での盛り上がり(ファンの間では”ブリ活”と呼ばれたツイート活動)も功を奏した「Blizzard」は、昨年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)でのパフォーマンス効果で100位以内に再浮上したのみならず、一昨年の暮れから昨年春にかけてロングヒット。

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「Blizzard」と「片隅」での大きな違いは、ストリーミング(サブスクリプションサービスの再生回数を示す指標。上記CHART insightの青の折れ線グラフで表示)、および動画再生(YouTubeおよびGYAO!の動画再生回数を示す指標。赤で表示)の接触指標群が充実しているか否か。「片隅」はストリーミングが100位未満ながら300位以内に通算2週ランクイン、そして動画再生は一度も300位以内に達していません。

実は「片隅」のチャートアクションが芳しくないと判った段階で、「片隅」における問題点を記載したエントリーをアップしました。その際は所有指標も低いとは記載しましたが。

今回「I'm Here」における施策が所有指標の(それもCDに特化した)拡充であり、「Blizzard」で好調だった接触指標群の立て直しどころか半ば無視と言っても過言ではない状況、それでいてCDショップのフラゲ日を意識しないかの如きキャンペーンの設定は巧いとは言い難く、納得出来ない自分がいます。

 

 

海外ではミュージックビデオを公開していない曲が最新米ビルボードソングスチャートで首位に立ちましたが、そのロディ・リッチ「The Box」はリリックビデオを公開したばかりであり、ミュージックビデオの登場は間もなくと思われます。敢えて公開を遅らせる手法を採ったと言われるかもしれませんが、ならばMTV等で既に登場しているはずであり、単純に制作スケジュールの問題や、曲が思った以上に早くヒットしたことが原因と考えます。

また、サブスクリプションサービスを公開しないという手段を採る歌手はアメリカではほとんどいなくなりました。テイラー・スウィフトは以前、サブスクリプションサービス開始数ヶ月が無料になることで歌手側に対価が支払われない点を理由に一時サービスから曲を引き上げる等距離を置き、アルバム『Reputation』(2017)までは発売からサブスクリプションサービス解禁までタイムラグを設けていましたが、『Lover』(2019)では同時解禁となっています。

その代わりといっていいでしょう、テイラーは4種類のCDデラックス・エディションを用意。初週ミリオン達成とはならなかったものの、CD施策が初週功を奏しているのは明らかです。

アメリカではCD施策を採る歌手が今後増えるものと予想されます。グッズやチケットを同梱しあたかもCDはおまけというやり方に対してはチャートのカウント方法にメスが入ってきていますが、それでもCD施策が増えると考えるのは、あくまで音楽業界の土台はサブスクリプションサービスであるため。これは音楽プロデューサーの亀田誠治さんも語っていたことであり(下記ブログエントリーにて紹介)、テイラー・スウィフトもサービスの存在を無視出来なくなったゆえに『Lover』の同時解禁に踏み切ったものと考えます。

 

ミュージックビデオやサブスクリプションサービスの存在が欠かせないアメリカの音楽業界の最高賞であるグラミー賞の受賞を以前から夢だと語る三浦大知さんにとって、今回「I'm Here」で採ったやり方はその夢を潰えさせかねない矛盾を孕んでいるものと思わずにはいられません。Instagramライブを観た方のツイートを辿ると今回の施策に対し三浦さん自身が納得いかないところがある模様で、だとすれば自分が昨年記載した(三浦さんの所属事務所である)ライジングプロダクションの方針転換という悪い意味での予感が的中したことになります。

そしてその施策はあくまでCD売上を主軸にするという旧態依然の考えが根っこにあるわけで、その考えに芸能事務所側が立っている以上は三浦さんがこれ以上飛躍出来ないのではないかと強く危惧します。

 

今回の「I'm Here」における施策は動かすことが出来ないでしょう。ならば今回の結果をきちんと検証することは絶対に必要です。仮にCDが予想以上のセールスを記録したとしても接触指標群が伴わなければビルボードジャパンソングスチャートでロングヒットには至れず、社会的ヒットになったとは言えません。三浦大知さんがグラミー賞を目指すならばその夢の実現のために何をすべきか、ライジングプロダクションは今一度考えてほしいと切に願います。