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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「POISON」「3月9日」は「カブトムシ」に学んでほしい…いつどんなリバイバルヒットが生まれてもいいように”受け皿”を充実させよ

ネットのバズがリバイバルヒットを生み出す…最新3月16日付ビルボードジャパンソングスチャートからはそのような例が確認出来ます。

1998年7月にリリースされた反町隆史の「POISON~言いたい事も言えないこんな世の中は~」が、赤ちゃんに聞かせると泣き止むいう説がワイドショーで特集され、ネット上の話題に拍車がかかり、Twitter 2位、ダウンロード38位と急伸して、総合38位に初登場した。

【ビルボード】JO1「無限大」がシングル344,299枚を売り上げ総合首位 赤ちゃんが泣き止むと話題の反町「POISON」はTwitter 2位で総合38位に | Daily News | Billboard JAPAN(3月11日付)より

『とくダネ!』(フジテレビ 月-金曜8時)が【反町隆史「POISON~言いたい事も言えないこんな世の中は~」を聴いた赤ちゃんが泣き止む説】を紹介したのは今月5日のこと。しかしながらこの説を遡れば、ロケットニュース24で取り上げられたのが先月末、さらに反町隆史さん自身がラジオ番組で言及したのが昨年11月のことでした。

それゆえ、リバイバルヒットにはテレビ効果が大きいことを実感するのですが、一方で、この曲の音源を見つけるのに苦労した方は少なくはなかっただろうなということを、チャートアクションから想起することが出来ます。

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最新3月16日付ビルボードジャパンソングスチャートで38位に登場した「POISON~言いたい事も言えないこんな世の中は~」は、先述した記事にもあるようにチャート構成比の8割強がTwitter、2割弱がダウンロードで構成。シングルCDが十中八九廃盤のため購入やレンタルが出来ないこと、このバズをラジオがあまり追いかけていなかったことも原因でしょうが、ミュージックビデオおよびサブスクが未解禁であることはさらなる上昇に至れなかった要因ではないかと思うのです。これを至極勿体無いと考える理由は、同じ週に急伸を遂げた曲と対比すると明らかなため。

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 卒業シーズンの定番曲にして、タイトルの日付前後に盛り上がるレミオロメン「3月9日」は今年も上昇。最新チャートの集計期間が3月2~8日ゆえ今年は次週も上位登場が予想されますが、こちらのチャート構成比はシングルCDおよびルックアップ以外の6指標で構成されています。昨年の3月4~10日を集計期間とする2019年3月18日付ビルボードジャパンソングスチャートでも「3月9日」がランクインしているのですが、チャート構成比において今年はストリーミングが際立って高いことが解ります。

昨年のチャート構成比は上記リンク先をご参照ください(なお、昨年はTwitter指標も高いのですが、これはおそらく(曲名ではない)3月9日が集計期間に含まれているゆえでしょう)。昨年のストリーミング指標が著しく低かった理由は、レミオロメンのサブスク”引き上げ”にあると上記ブログエントリーで結論付けたのですが、一方で今年のストリーミング指標が上昇したのは、昨年10月2日にレミオロメンがサブスク一斉解禁を行ったことにあると言えるでしょう。

話題になったり、ふと聴きたいと思ったときに、ダウンロードやサブスク、ミュージックビデオといったユーザーの受け皿となるものがいくつあるか…これが話題曲のチャート押し上げ幅に大きく関わってくると思うのです。

 

この最良の例を、aiko「カブトムシ」で見ることが出来ます。aikoさんはシングル「青空」のリリースとなる2月26日にサブスクおよびミュージックビデオのフルバージョンを一斉解禁し、ダウンロードも充実させていますが、その前週に『井口理のオールナイトニッポン0』(ニッポン放送 木曜27時)にゲスト出演しKing Gnu井口理さんと「カブトムシ」を共演したことで、サブスク等解禁効果が反映される1週前の段階でチャートを賑わせ始めました。

その段階で一度ブログにまとめていますが、そこから2週経過した今週は総合14位に入り、2週連続でトップ20入りを果たしています。

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特筆すべきはカラオケの急浮上。2019年度の同指標開始以降一度として100位未満にならなかったのも注目すべきですが、この4週で72→72→28→20位と急浮上。またラジオエアプレイも2週連続で100位未満ながら300位以内に入りポイント獲得に至っています。仮にサブスク等が解禁されていなかったならば動画再生はそこまで大きくなく、さらにサブスク再生回数を基とするストリーミング指標はゼロと予想され、ここまでのリバイバルヒットには至れなかったでしょうし、カラオケやラジオエアプレイにも反映されなかったと思われます。そう考えれば受け皿の多さ、そして動画再生指標においてはミュージックビデオフルバージョンの存在が極めて大事であることを実感するのです。

いや、上記ミュージックビデオの再生回数は現段階で100万強であり、下記で紹介するラジオでの共演動画が動画再生指標に大きく寄与しているものと思われます。この動画にはレコード会社等が著作権管理団体として登録されており、動画のアップロード主もしくは著作権管理団体のどちらが登録したかは解りかねるものの、こちらが放送直後から消されていないのを見る限り、レコード会社等が”敢えて残す”判断をしているのかもしれません。この動画に、ビルボードジャパンソングスチャートにおける動画再生指標のカウント基準であるISRC(国際標準レコーディングコード)が付番、もしくはUGC(ユーザー生成コンテンツ)とみなされていることが、動画再生指標上昇の一因と言えそうです。”敢えて残す”の成功例は、先に掲載した2月28日付ブログエントリーにて紹介していますのでそちらを是非。

ラジオ共演動画の動画再生指標獲得は反則行為と捉える方もいらっしゃるかもしれませんが、ストリーミング指標が高値安定していることを踏まえるに、ラジオ共演は「カブトムシ」のヒットのひとつのきっかけであり、やはり受け皿の充実が瞬発力の高さに繋がっていることは確実。もしかしたら「カブトムシ」はそのままロングヒットにも至れるのかもしれません。他方、日付タイトルによって毎年この時期にヒットするレミオロメン「3月9日」については、今年ストリーミングは充実してきたといってもミュージックビデオは未だショートバージョンのままであり、さらには曲名でYouTube検索すると、他者のカバーバージョンが最上位に来るという状況。これは歌い手の名が伏せられ、しかもフルバージョンと謳っていることから生まれる勘違いの多さが最上位登場の理由と思われます。今朝の段階の結果(キャプチャ)は下記に。

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カバー動画にアクセスしてしまった方が愕然とし本家を見る前に離れてしまうという心理は十分あり得るでしょう。またミュージックビデオがショートバージョンゆえ動画再生が伸びないのは以前から指摘していることでもあり、動画再生指標100位未満(300位以内には登場していますが)という状況には納得してしまうのです。非常に勿体無いと思わざるを得ませんし、だからこそaikoさんがサブスク解禁時にミュージックビデオもフルバージョンで解禁したことは大きな意味があるのです。

 

いつどんなリバイバルヒットが生まれるかは分かりませんが、いつどんなリバイバルヒットが生まれてもいいように、曲を所有、それ以上に接触出来る環境を整備してユーザーの受け皿を増やすことは必須と言えます。増やすほどにヒットへの瞬発力、そして持続力が上がることは、aiko「カブトムシ」を見れば自明。今回、反町隆史「POISON~言いたい事も言えないこんな世の中は~」はリバイバルヒットしたとは言えども、ユーザーの受け皿があまりに少ないゆえ瞬発力が高くなかったと言えるでしょう。レコード会社や芸能事務所は、過去曲についても増やしていくことが求められます。