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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Aimer、ミスチル、米津玄師…サブスク等未解禁の影響がチャートアクションに響く例が今週明らかに

日本の音楽業界においては、SpotifyApple Music等のサブスクリプションサービス(以下サブスク)が好調に売上を伸ばす一方で、CDの売上は緩やかな減少傾向にあることは、音楽ジャーナリストの柴那典さんによる記事にわかりやすく示されています。

では、全ての歌手がデジタルに明るくなったかというとそうではありません。分かりやすいのはジャニーズ事務所所属歌手の対応で、嵐以外は未だにデジタル未解禁の状況が続きますが、実際は彼ら以外にも未解禁者は多く、それが証拠に一昨日発表された4月6日付ビルボードジャパンソングスチャートにおいて、デジタルに明るくない、もしくはなかった作品にはっきりとした動きが見られるのです。

たとえば、Aimer「春はゆく」。

シングルCDセールス初加算週に4位を記録したこの曲ですが、ダウンロードは解禁されている一方、サブスクの配信はありません。

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チャート推移(CHART insight)は上記に。最新週のチャート構成比をみると紫で示されたダウンロード指標が全体のおよそ5割を占める一方、サブスク再生回数を基にするストリーミング指標(青で表示)が一切ないことが解ります。「春はゆく」は劇場版アニメ「『Fate/stay night [Heaven's Feel]』III.spring song」主題歌という特性上所有指標が高いのが特徴ですが、しかし昨夏リリースの前シングル「Torches」も未だサブスクでリリースされていないことから、直近の作品群はサブスクではなく所有主体で手にしてほしいという歌手側の方針が反映されているものと思われます。この方針は、ベストアルバム『アンコール』以降の作品を未だサブスク解禁していないback numberと同じですが、彼らも現在ソングスチャートに入っているのがサブスク解禁済の「高嶺の花子さん」のみであり、仮に近年の作品をサブスク解禁していれば状況は違っていたはずです。

 

一方、デジタル全体を未解禁とする方法を採っていたのがMr.Children「Birthday」。劇場版アニメ『映画ドラえもん のび太の新恐竜』主題歌としてリリースされ、3月16日付で3位に登場しながらもランクダウンを続けていたこの曲が今週11位まで復活を果たした理由は、集計期間初日にダウンロードおよびサブスクを解禁したため。

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紫の折れ線グラフで表示されるダウンロードは3位、青表示のストリーミング(サブスクの再生回数を基とする)は75位に今週初登場を果たし、この2指標で全体の4分の3となる3000以上のポイントを獲得。仮にデジタル未解禁のままであれば、50位未満にダウンすることもあり得たでしょう。

尤もMr.Childrenの場合、ボーカルの櫻井和寿さんがCDショップ応援企画【I ♥ CD shops!】を立ち上げていることから、CDとデジタル(ダウンロード含む)で差別化を図ろうという意志がみえてきます(企画については桜井和寿「I ♥ CD shops!」プロジェクト開始「CDを手に取る喜びを感じてもらいたい」邦楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(2016年11月7日付)をご参照ください)。またミュージックビデオも未だYouTubeにアップされていません。しかしながら、CDとダウンロード、サブスクを仮に同時解禁(同週リリース)して、CDが駆逐されるのだろうかというのが疑問として浮かんできます。

 

そして、未だサブスクを解禁していない米津玄師さんについては、「馬と鹿」が今週50位を割り込みました。

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ストリーミングの青の折れ線が一度として登場しないのが特徴的なチャート推移となっている「馬と鹿」。2019年度のビルボードジャパン年間ソングスチャートでトップ10入りした曲のうち、2019年にリリースされた曲(3位のOfficial髭男dism「Pretender」、4位のKing Gnu「白日」、5位の「馬と鹿」、6位の菅田将暉まちがいさがし」、10位のOfficial髭男dism「宿命」)の中でははじめて50位を割り込みました。これら5曲の2020年度の推移を比べてみると。

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 50位未満はポイント未表示のため、「馬と鹿」の今週のポイント欄には50位のポイントを参考として掲載し、同曲のみグラフでは今週分は割愛しています。

1月13日付が最も伸びたのは当該週が『NHK紅白歌合戦』(以下『紅白』)を集計期間に含むため。その際『紅白』で披露されなかった「馬と鹿」が伸びたのは、番組で菅田将暉まちがいさがし」や嵐「カイト」といった米津玄師さんの提供曲が披露されたことが影響しているものと思われます。King Gnu「白日」は1月のアルバムリリースにより再燃し、Official髭男dism「Pretender」や「宿命」はドラマ主題歌「I LOVE...」効果で最近アップに転じています。ダウンという点では「まちがいさがし」も同じ動きを辿っていますが、『紅白』直前に「馬と鹿」を逆転し今まで上回っていることを踏まえれば、前年ヒットの余韻が最も薄れているのが「馬と鹿」と言えるでしょう。さらに「まちがいさがし」がストリーミングにおいて、2020年度に入り一度として10位を下回っていないことを踏まえれば、サブスク未解禁によりストリーミング未カウントの「馬と鹿」が仮に解禁していたならば…と思うのです。

米津玄師さんは、新ドラマ『MIU404』(TBS 金曜22時 放送延期により番組開始日は未定)に「感電」を提供することが決まっており、おそらく大ヒットしたドラマ主題歌と同様に”月曜ダウンロード解禁→数週間後にミュージックビデオ解禁→数週間後にCDリリース→レンタル解禁”という流れを経て大ヒットに至らせるという図式を用いるものと考えます。新型コロナウイルスの影響による番組開始日延期のため解禁日も遅れることになるでしょうが、ならばドラマの期待値の高さを持続させ、さらには自身の作品群を注目させるべくこのタイミングで解禁してほしいというのが自分の思いです。

 

おそらく歌手側には、サブスク解禁により所有指標群が伸び悩むことが懸念材料としてあるかもしれませんが、コアなファンは物理的なパッケージ(イコールCD)を購入したいという思いが強いはずです。ライト層であっても、映像盤が同梱されていたり、ブックレット等が充実していればCDを手に取る可能性はあるでしょう。そしてデジタル先行解禁した場合、コアなファンはまずそちらを買った後にパッケージを買うというダブルの購入も考えられますし、接触指標群を先行解禁すればライト層をCD等の解禁前に引きつけ、彼らの所有への熱を高める(発生させる)ことも可能ではないでしょうか。その点をよく分析して、あらゆる手段でアプローチするようにしてほしいと思いますし、もっと単純に言えば、今回取り上げた作品等はきちんとサブスク等を解禁していたならばチャートアクションはもっと良かったはずです。