face it

チャート愛好家。ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

浜崎あゆみのコンテスト開催で注目、米のチャート戦略にも欠かせない"リミックス"を日本で広めるべき理由

リミキサー界隈がにわかに盛り上がっています。

現在、彼女の告白を基とする小説をベースにしたドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日 土曜23時15分)が話題となっており、そのタイミングでベストアルバム『A COMPLETE~ALL SINGLES~』(2008)が再浮上。以前から価格を1000円未満という安価にて発売していることもあり(本日現在952円)、前週発表の5月11日付ビルボードジャパンアルバムチャートで9位、ダウンロード指標では3位に入りました。彼女の音楽に注目が集まる最中でのリミックス企画なのです。

リミックス(企画)について、こちらのツイートに大きく頷いた次弟。勝手ながら取り上げさせていただきます(問題があれば削除いたします)。

 

思えば2000年前後のCD全盛期、浜崎あゆみさんやMISIAさん等がリミックスアルバムや、シングルCDのカップリングに複数のリミックスを収録しリリースするという手法を採っていました。MISIAさんはLGBTへのサポートをごく初期から始めており、その段階でゲイカルチャーに欠かせないハウスミュージックを積極的に採り入れ、ヘックス・ヘクター等大物リミキサーを起用しています。

また海外では、たとえばアリスタレコードに所属するホイットニー・ヒューストンやデボラ・コックスといった歌ヂカラのあるいわゆる歌姫(ディーヴァ)が常にハウスリミックスを用意したり、またR&Bでは時にオリジナルのメロディラインを大きく変えてリミックスを施すことも行われています。ジャネット・ジャクソンは米ビルボードソングスチャートを制した「Together Again」(1997)において、オリジナルとは別に2種類のメロディを用意したR&Bリミックスを発表したことはその代表例と言っていいでしょう。

ちなみにブランディ「Full Moon」(2002)のようにリミックスのみで10曲超え且つオリジナルバージョン未収録というものも存在しますし、ホイットニー・ヒューストンの2枚組ベストアルバム(2000)の海外発売分はオリジナルバージョンのベストとリミックスベストがコンパイルされたものでした(日本では内容が異なります)。なおSpotifyでは海外版が配信されているのでこの機会に是非。

しかし現在はCDのニーズが減り、さらにクラブカルチャーは以前ほど勢いがない(それどころか、新型コロナウイルスの影響もあって風前の灯火と言われてもおかしくない危機的な)状況といえます。そんな状況にあって、アメリカではここ数年リミックスのニーズが高まっているのです。最新の米ビルボードソングスチャートで新鋭の2組がワンツーフィニッシュを果たしたのは、双方の曲にリミックスが新たに投入されたため。ドージャ・キャット「Say So」にはニッキー・ミナージュが、ミーガン・ジー・スタリオン「Savage」にはビヨンセが招かれています。この客演参加型のリミックスが話題となり、獲得ポイント全体においてオリジナルバージョンを上回ったことで、最新では2曲共に客演参加者がクレジットされることになりました。

ビルボードソングスチャートのチャートポリシーでは、オリジナルバージョンにリミックスが合算されることから、リミックスを投入してチャートの活性化を図ることがよく行われていますが、一方で日本の場合は合算不可となっています。下記ブログエントリーでは合算について説明したポッドキャストのリンクも掲載しています。

このブログエントリーで紹介した、あいみょんさんが曲提供したDISH//「猫」(2017)は、後に一発録り企画"THE FIRST TAKE"でアコースティックバージョンとして披露され、評判となって音源化。前週5月11日付ビルボードジャパンソングスチャートで初登場を果たしたのですが、実は当初オリジナルバージョンとTHE FIRST TAKEバージョンとが合算されて13位と表示されていました。しかしこちらの問い合わせもあってか(それ以前にビルボードジャパンが気付いた可能性のほうが高いとは思いますが)、最終的には26位にTHE FIRST TAKEバージョンが初登場、63位にオリジナルバージョンが前週より19ランクアップという形に訂正されました。これで解ったことは、ビルボードジャパンが合算で集計が可能だということ、そして別バージョンがオリジナルバージョンを活性化させる効果があるということではないでしょうか。

 

個人的には、オリジナルバージョンに新たにリミックス等別バージョンが登場した際は合算したほうが好いと以前から唱えています。別バージョンの投入は今年に入り、嵐やザ・チェインスモーカーズが行い(後者には新田真剣佑さんが参加)、共に一定の成果を上げたことから、今後投入策が増えることも考えられ、ならば尚の事合算したほうがよいのではと記載しました。

合算を求める理由として、以前記した内容を再掲します。

1つ目は日本において、チャート上で合算されないことでリミックスや客演という文化が育ちにくいため。2つ目はアメリカで通用する洋楽やK-Popの戦略が日本のチャート上では成立せず楽曲が成功を収めにくくなり、最終的に日本を主要な音楽市場とみなさなくなる可能性があるため。そして3つ目は、日本の音楽業界で"仕掛け"という戦略や気概が生まれにくいため。

そして理由はこれだけではありません。最新の米ソングスチャートを制したドージャ・キャットや2位のミーガン・ジー・スタリオンの知名度が向上したり、ドレイクにフィーチャーされて「Pain 1993」が7位に入ったプレイボーイ・カルティは今回が初のトップ10入りとなり、ドージャやミーガン共々注目を集めるはず。また基本的に、歌モノのリミックスにはラッパーが多くフィーチャーされることから、特に海外に比べて盛り上がりに欠けている印象がある日本のヒップホップの底上げにも繋がる可能性があります。そして客演のみならずリミキサーも知られていくことでしょう。最新米ソングスチャートでトップ10入りしている2曲にはメジャー・レイザーがリミックスを施しており、その名がさらに轟いたはずです。

リミックス出来る環境を用意することで、リミックスしたいという思いが多くの方に生まれます。冒頭の浜崎あゆみさんの企画が発表されて間もなく、Instagramでフォローする音楽家が早速制作に乗り出しており、またYouTube投稿等のハードルが高くなくなったことで、プロを目指す目指さないにかかわらず、また既に実績を上げている方までもが積極的にリミックスを制作するかもしれません。そうなれば未来の音楽家が育つことにも、リミックスという文化の醸成にもつながり、さらにはリミックスをかける場としてのクラブのニーズも高まるものと考えます。

 

【リミックスや客演文化の醸成】【海外作品の日本市場での流通拡大】【チャートの仕掛けや戦略の活性化】【新鋭歌手の認知度向上】【ヒップホップの人気拡大】【リミキサーの育成】【クラブカルチャーの復興】…すべて上手くいくことはないかもしれませんが、リミックスは何もチャートのみならず、音楽(市場)全体のカンフル剤になる可能性があると断言していいでしょう。そしてその発表の場として、リミックスをまとめたサブスクのプレイリストがCDの代替になるものと考えます。

楽家やレコード会社側のリミックス制作促進、そしてビルボードソングスチャートのチャートポリシー改正について、前向きな検討をお願いしたいところです。