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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(修正あり) Official髭男dism『Traveler』はなぜロングヒットしているか、ビルボードジャパンアルバムチャートから紐解いてみる

最新5月25日付のビルボードジャパンアルバムチャートは上位20作品のうち12作品が初登場という週となりましたが、個人的に注目すべき点が。

ルックアップには上位5作品がすべて前週以前にリリースされた作品が並んでおり、1位から順番に、Official髭男dismの『Traveler』(総合7位)、King Gnuの『CEREMONY』(総合8位)、JUJUの『YOUR STORY』(総合5位)、Uruの『オリオンブルー』(総合11位)、あいみょんの『瞬間的シックスセンス』(総合16位)となっている。新型コロナウイルスによる様々な状況が落ち着いた後、リリースは今以上に増えていくだろうが、そんな中で上記5作品がどのように変遷していくかは注目だろう。

【ビルボード】Rain Drops『シナスタジア』が総合アルバム首位 ルックアップ指標で過去作に存在感 | Daily News | Billboard JAPAN(5月20日付)より

ルックアップとは、CDをパソコン等に取り込んだ際にインターネットデータベースにアクセスされる回数のこと。売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)、そしてレンタルの多さをここから推測することが出来ます。あいみょん『瞬間的シックスセンス』は本人出演のCM効果も相俟って上昇、JUJU『YOUR STORY』はレンタルされやすいベストアルバムの特性およびリリースから時間が経っていないため強いと言えますが(Uru『オリオンブルー』も同様に最近の作品)、一方でKing Gnu『CEREMONY』はリリースから4ヶ月が、Official髭男dism『Traveler』に至っては7ヶ月以上経過しながら強さを誇っているのです。

今回はヒゲダンの『Traveler』に注目。アルバムチャートおよびCDセールスやダウンロードについての記事から判明する売上枚数の推移から見えてくるものとは何でしょうか。

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※追記(2020年6月3日 5時32分):上記数値において、CDの売上枚数の不明分を明記したものを以下に掲載。最新週分も追記しています。また差し替えた表を踏まえ、修正箇所に打消線を引き、訂正しました。

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前週5月18日付においては新型コロナウイルスによる発売延期やゴールデンウイーク期間中によるリリースの少なさが影響し、CDセールスが全体的に少なくなっているため順位的には浮上しているのですが、しかしきちんとロングヒットに至っていなければ浮上はなかったわけです。実際、『Traveler』は今まで一度もトップ10落ちしたことがありません。特にダウンロード指標においてはトップ10を常にキープし、現在までに84555ダウンロードを記録しています。

ルックアップの強さは先述したようにユニークユーザー数の多さ、そしてレンタルの多さを指し、後者はデジタル以外での接触手段となります。登場2週目(つまりはレンタル解禁前)には東方神起、まふまふさんおよびPerfumeに破れ4位となっていますが、それ以外はトップ3内をキープ。今年『Traveler』を上回ったのはKing Gnu『CEREMONY』が大半を占め、NEWS、ジャニーズWESTおよびKis-My-Ft2というジャニーズ事務所所属歌手が初登場週に超えたのみとなっています。この指標はベストアルバムが強いのですが、JUJU『YOUR STORY』が未だ『Traveler』を上回っていないことも、『Traveler』の強さを示す要因と言えそうです。

そして注目すべきは、『Traveler』は昨年度より今年度のCDセールスが勝っているだろう勝っているということ。初登場週は9万弱となり、これはKing Gnu『CEREMONY』の初登場週における24万強という数字の半分未満となっていますが、現在までの売上は今週『CEREMONY』が40万枚を突破したのに対し、『Traveler』は35万近くと35万を突破しその差を詰めてきています。そして『Traveler』は前年度分を多く見積もっても前年度と今年度のCD売上比率が1:1となるものと推測されます前年度と今年度のCD売上比率がほぼ1:1となりました。ダウンロードにおいては今年度分が4万9千近くに達しを突破し前年度分を上回っていることから、初週売上こそ大きいものの、ロングヒットに至っているということが解ります。

全週分が判明しているダウンロードの売上推移をみると、前週を上回るダウンロード数を記録した週の集計期間中にはテレビパフォーマンス、主題歌となった作品の初回や最終回放送、新曲の解禁等があるため、それらがきちんとチャートに表れていることが解ります。「I LOVE...」、「パラボラ」や『めざましテレビ』(フジテレビ 月-金曜5時25分)のテーマ曲「Hello」、そして公開延期にはなりましたが映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』の主題歌「Laughter」といった作品は『Traveler』にいずれも未収録ですが、これら新曲に興味を持ったライト層が『Traveler』にまずは触れ(その接触手段はサブスクやレンタル等、デジタルかフィジカルかは問いません)、そこで気に入った方がアルバムの所有を決める…という流れが生まれていることは明らかです。言い換えれば、アルバムが長く愛されるためにはリリース後立て続けに新曲を投入し常に歌手側への興味を向けさせることが必要かもしれません。また『NHK紅白歌合戦』というキラーコンテンツの存在は、その興味をより高くさせる意味でも重要だと言えます。

 

 

今回『Traveler』のロングヒットを取り上げたのは、2つの記事等への疑問に対する自分なりの回答という側面もあります。ひとつはコロナ禍に半ば強引にくっつけたかのような紅白非難。

音楽番組が通常の形で放送出来ないことは事実ながらも、この記事で取材を受けた方がことごとく匿名なのは無視することが出来ませんでした。「I LOVE...」が間違いなく今年を代表するヒット曲であることはこのブログで取り上げてきた通りであり、それが『Traveler』にも連動している以上、Official髭男dismは既に『NHK紅白歌合戦』出場確定と言っても過言ではなく、また今年の目玉歌手で間違いないはずです。

 

そしてもうひとつは、川谷絵音さんの発言への疑問。

毎週ショップには新しいCDが並びますけど、面出しは最初の数週間だけで、すぐ目立つところでの展開はなくなるじゃないですか。そういう意味でCDには“賞味期限”があると考えたんですよね。それなら最初からホントに賞味期限付きの何かを出したら面白いんじゃないかなって。

ゲスの極み乙女。「ストリーミング、CD、レコード」川谷絵音インタビュー|混沌の時代に一層ゲスらしく - 音楽ナタリー 特集・インタビュー(5月11日付)より

店の展開を暗に非難しているのでは?と思った自分はひねくれているかもしれません。たしかにリリース当初とその後とでは週間売上枚数は大きく異なりますが、それでもロングヒットする作品にこそ、CDショップは光を当てようとするのではないでしょうか。

新曲リリースによって歌手への注目度を高次元でキープすることやその新曲のヒットが過去作であるアルバムの売上キープにつながることを踏まえれば、リリースして終わりという施策よりその後のスケジュール策定が重要と言えますし、またアルバム収録曲に話題となった先行曲(『Traveler』における「Pretender」のような位置付けの曲)を用意することも必要でしょう(尤もそのような曲を用意することが難しいことは承知ですが)。今の時代であれば、アルバム発売後にシングルCD化はしなくともシングルカットという位置付けでミュージックビデオを制作し公開するということも有効ではないかと思うのです。