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チャート愛好家。ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

遂に首位を獲得したYOASOBI「夜に駆ける」の勢いの凄さ、そして”愛される動画”が今のヒットの共通点? 6月1日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を、ソングスチャート中心に紹介します。

5月18~24日を集計期間とする6月1日付ビルボードジャパンソングスチャート。前週初の首位に立った瑛人「香水」はポイントを伸ばしながら3位にダウン、YOASOBI「夜に駆ける」が1ランクアップし初の首位を獲得しました。

3位の瑛人「香水」はポイント前週比105.6%となりましたが、集計期間初日に発売された週刊少年ジャンプにて漫画『鬼滅の刃』が最終回を迎えたことでアニメの主題歌となったLiSA「紅蓮華」(前週4位)が逆転して2位に浮上。ポイント前週比は139.2%となり、漫画の影響力の大きさを実感します。

しかし今週最大のトピックはなんといってもYOASOBI「夜に駆ける」のチャート制覇。前週後半に発表された各指標の途中経過の段階で首位は堅いと思われていましたが、蓋を開けるとポイント前週比は160.4%と、とんでもない数値を叩き出したのです。チャート推移(CHART insight)を見ても右肩上がりなことが解ります。

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YOASOBIの特徴は、小説を音楽と映像で具現化するというコンセプトにあるように、その世界観を多方面に打ち出せること。当週の動画再生回数は歌手別で歴代3位の記録を成し遂げています。

多メディアでの世界観の訴求、新曲「ハルジオン」(2週連続で10位を記録)リリースに伴う過去曲のフックアップ、人気企画"THE HOME TAKE"への参加(一発録り企画"THE FIRST TAKE"の、自宅もしくはプライベートスタジオ収録版)、そしてTwitter活動におけるファンとのエンゲージメント確立の巧さ…これらが相俟って生まれたヒットだと感じています。

(ちなみに5月28日木曜7時30分現在、YouTubeにおけるミュージックビデオの再生回数は1698万、"THE HOME TAKE"バージョンは813万。今週の動画再生回数には、権利者の許諾を受けて公式音源を使用したUGC(ユーザー生成コンテンツ)も含まれているものと推測します。)

さて、Twitter活動におけるファンとのエンゲージメント確立の巧さについては以前も取り上げました。

今回の首位獲得を受けて、YOASOBIはこんなツイートを。

ファンへの感謝の思いを伝え、その上で『ここまで来たら今年を代表する1曲になりたい!笑』とさらなる呼びかけを行ってファンとの結束力を高め、そして自身の歌手名を模した"#YOKUBARI"というハッシュタグを使う…これらの言葉のセンスが非常に優れ、また彼らからいやらしさを感じないところが人気確立の理由であり、彼らの魅力だと思うのです。

今週月曜には『とくダネ!』(フジテレビ 月-金曜8時)で特集が組まれたこともあり、さらに勢いを加速させることでしょう。今週獲得した12797ポイントは、未CD化曲で昨年度の年間チャートトップ10入りを果たしたKing Gnu「白日」(年間4位)や菅田将暉まちがいさがし」(同6位)の週間最高ポイントを上回っており、次週さらにポイントを積み重ねれば、米津玄師「馬と鹿」(同5位)においてシングルCDセールス指標加算前に獲得した17437ポイント(昨年8月26日付)に追いつくかもしれません。

 

 

さて、コロナ禍の影響でCDリリースが延期された作品が多いことで、CDセールスに頼らない曲の勢いがチャートで目立つようになりました。それを裏付ける形で、昨日ビルボードジャパンがこのようなコラムをアップしています。

サブスクの再生回数を基とするストリーミング指標のソングスチャートにおいて、『3月以降は、計9組のアーティストが初のトップ100入り&3週以上のチャートインを果たした』ことを特筆すべき点として紹介しており、『TikTokで流行した楽曲が多いこと』『9曲中6曲がインディーズ・レーベルまたは「TuneCore」「The Orchard」といったデジタルディストリビューション・サービスを通して配信された楽曲』を共通点として挙げています(『』内は上記記事より)。TuneCore Japanについては以前瑛人「香水」を取り上げた際に紹介しています。

この記事から、新曲か過去曲か、メジャーかインディかそれとも完全インディペンデントかは関係なく、好い曲は好いから聴きTikTokで使うという姿勢が垣間見えます。コロナ禍による自粛期間中、休校期間が長引くなかで学生のTikTok利用が増えたという調査結果が記事にて紹介されていることから、嗜好が固まらない若年層こそ分け隔てなく柔軟に聴こうとする姿勢があり、それがチャートに反映されたものと考えます(対照的に歳を重ねると嗜好が固まり柔軟性が薄れることについては、”33歳までに音楽的嗜好が固まる”という研究結果から思ったこと(2015年5月20日付)にて記載しています)。この調査結果は下記リンク先からも辿ることが出来ます。

TikTokの再生回数増加は、他指標よりも速くストリーミングおよび動画再生といった接触指標群に波及することは以前から紹介しています。またYOASOBIのようにメディアミックス的な売り出し方をしたり、メンバーがいわゆるボカロPや歌い手として活動していることが、動画再生でより火が付きやすい環境を構築したと言えるかもしれません。この動画再生に注目すると、たとえば今週ソングスチャート11位につけた「春を告げる」を歌うyamaさんは『2年ほど前からカヴァー曲の動画をアップし始めた、いわゆる「歌い手」と呼ばれるシンガーのひとり』(アフター・コロナのヒットパターン?! yamaの「春を告げる」が急上昇 | Daily News | Billboard JAPAN(5月23日付)より)。また今週デビューアルバム『HELP EVER HURT NEVER』がアルバムチャートを制した藤井風さんは『小学校の終わりに言われた父の一言「これからはYouTubeの時代」で、実家の喫茶店で撮影したピアノカヴァー動画をYouTubeにアップした事が、後に音楽の世界へ飛び込むきっかけとなった』(Profile | 藤井 風 OFFICIAL SITEより)とのこと。彼らのYouTubeアカウントに残っている最初の動画も合わせて紹介します。

YouTubeを介して自身の表現活動を世界に向けて伝え続け、腕を磨き上げた結果が今なのです。

動画サービスへの投稿を続けて世界観を確立したり、曲をオーディオのみならずビデオでも伝えることに重点に置いたり、またはTikTokで多くの方に好まれる等、ざっくりとした表現になりますが”愛される(支持される)動画”に用いられる曲がヒットする、その傾向が一気に高まったと言えるのではないでしょうか。先述した"THE FIRST TAKE"もその一端と言えるでしょう。接触指標群がチャートに大きな影響を及ぼす流れは、フィジカル施策が連発される前の米ビルボードソングスチャートを想起させ、実に面白いと思います。そして、未だにミュージックビデオ等をフルバージョンでアップしない歌手やその運営側においては、自身のプロモーションを見直す必要があると考えます。