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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ジュース・ワールドの遺作『Legends Never Die』が米アルバムチャートを制覇、ソングスチャートへの波及の可能性を考える

ジュース・ワールドの遺作となるアルバム『Legends Never Die』が、日本時間で今朝発表された7月25日付米ビルボードアルバムチャートを制しました。初動ユニット数は今年最高となる497000ユニット。グッズバンドルの効果もあり209000ものアルバムセールスを獲得したのも大きいですが、ストリーミング数のアルバム換算分が283000ユニット(4億2263万回再生)となり今年最高、歴代4位となったことが今年最高のユニット数に至った要因と言えます。

ジュース・ワールドはエモ・ラップというジャンルを代表するラッパー。『ロックミュージックにも影響を受けながら厭世感や内省的な感情をラップする』(BAD HOPに続くスターは現れるか? 渡辺志保が注目の若手ヒップホップクルーを解説 - Real Sound(2018年10月12日付)より)というエモ・ラップでは他にも、XXXテンタシオン(エックスエックスエックステンタシオンとも表記)やリル・ピープなどが有名ですが、スティング「Shape Of My Heart」をサンプリングした「Lucid Dreams」(2018)が米ビルボードソングスチャートで2位を獲得し、一躍時の人となったジュース・ワールドが最も知られているのではないでしょうか。しかしながら彼は昨年12月、不慮のオーバードーズにより21歳という若さでこの世を去りました。彼を失った悲しみは、昨年12月21日付の米ビルボードソングスチャートに「Lucid Dreams」が8位再登場を果たしたことにも、その大きさが表れています。

ジュース・ワールドの遺族は『未公開の音楽や、彼が情熱を傾けて制作していた他のプロジェクトを公開することを通して、ジュースの才能や彼の魂、彼がファンのみなさんに対して感じていた愛情を祝福する予定です』(上記記事より)と語っていましたが、それが形となったのが『Legends Never Die』です。

ビルボードアルバムチャートを制したことで、明日発表される同ソングスチャートにも大量エントリーを果たすことが見込まれます。米ビルボードのアルバムチャートは曲単位の購入分やサブスク・YouTubeの再生回数がユニット数(アルバム換算分)として計算されますが、これらはソングスチャートにも影響を与えます。7月25日付米ビルボードソングスチャートが明日発表されるのを前に、米Spotifyデイリーチャートの動向からジュース・ワールドの大量エントリーの可能性を探ってみましょう。

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(7月10~16日分が7月25日付米ビルボードソングスチャートにおけるストリーミング指標に反映されます。)

デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミさんによると、『Spotifyなど音楽ストリーミングは30秒以上の再生時間を「1再生」とカウント』し、『30秒未満でスキップされた曲は「ゼロ再生」となる』ため、21秒の「Get Through It (Interlude)」はカウントされない模様です(『』内は音楽ストリーミングの成功を左右する「スキップレート」に、アーティストや音楽業界はどう向き合うべきか | All Digital Music(2019年3月25日付)より)。ゆえにこの曲を除く20曲がSpotifyに登場、解禁日となった7月10日には先行4曲を含む20曲が22位までにランクインを果たしており、この勢いがアルバムの再生回数4億2263万回(ユニット換算分283000)に至った理由と言えます。ゆえに前週アルバムチャートを制し、ソングスチャートにも収録曲全てが100位以内にランクインを果たしたポップ・スモークに次ぐ大量エントリーが見込まれるのです。しかもトップ10内の半分近くがジュース・ワールドで占められるのではという予想もみられます。

一方で明日発表のソングスチャートではポップ・スモークの大量ランクダウンが見込まれており、次週はジュース・ワールドも同様の動きをたどるでしょう。しかしながらSpotifyデイリーチャートではホールジーとの「Life's A Mess」、マシュメロとの「Come & Go」をはじめ5曲が1週間トップ10入りし続けています。キープした曲の中にはこの1週間のうちにミュージックビデオを公開したものもあり、興味を惹き続けるためのスケジュールが組まれていることが解ります。これらが最新ソングスチャートのみならず次週にも勢いが波及するだろうことを考えれば、米ビルボードソングスチャートで2週続けてジュース・ワールドの曲が複数トップ10入りを果たす可能性もありそうです。

ジュース・ワールドの勢いの凄まじさに触れ、あらためて彼の存在の大きさを思い知らされます。そして下記noteで音楽ジャーナリストの柴那典さんが述べているように、XXXテンタシオンやリル・ピープ、ジュース・ワールドの相次ぐ訃報がエモラップ自体の終焉に至ってしまうのではと思うと、複雑な思いに駆られます。 

「Wishing Well」のミュージックビデオで表現されているのは、薬物依存の苦しみ。ジュース・ワールドの遺族はこのビデオ、そして彼の音楽を通じて、これ以上の被害者が出ないことを願っているのだと思うのです。『Legends Never Die』がその一助になってほしいと切に願います。