イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

今の演歌の販売手法の問題を踏まえ、再興のためのデジタル推進を提案する

今年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)の出場者決定後、出場/落選組についてこのような私見を記載しました。

新顔が登場しない、飛び抜けたヒットがない、ヒットした作品に"複数種同時×数カ月後に2回目、3回目発売"が多く売上枚数のユニークユーザー数が見えない、そもそもシングルCDセールス指標以外に飛び抜けた指標が存在しない…これらを踏まえると演歌歌謡曲は、コアなファン以外の支持を得られない限り縮小傾向に歯止めがかからないでしょう。

この演歌界の状況を、今年演歌界で最もヒットしたとされる氷川きよしさんのシングルからみてみます。

氷川きよしさんの今年のシングル「大丈夫」「最上の船頭」のダブルAサイドシングルの発売イベントが一昨日開催されました。

この見出しでも解るように、今回がこのシングルCDの7~9種類目。

同シングルのジャケット写真とカップリング曲が異なるA・B・Cタイプが3月12日に、D・E・Fタイプが8月27日に発売。それに続く今回のG・H・Iタイプで、カップリング曲は、Gタイプが演歌「天地人」、Hタイプがバラード「恋初めし(こいそめし)」、Iタイプがロック「確信」で、もう1曲のカップリング曲は、9月6日に開催した大阪・大阪城ホールでも歌唱された「hug」が3タイプすべてに収録。

・上記記事より

 今回のイベントでは、3種類独自および3種類共通のカップリング曲も披露されており、シングルCDを購入してほしいとの思いが伝わってきます。

さて、カップリングが異なる仕様は、たとえばアイドルにおいては常套手段と言えます。しかしアイドルはシングルCDセールスのみならずTwitterやルックアップ等、ビルボードジャパンソングスチャートではシングルCDセールス以外の指標も弱くはなく、超短期的にでもトップ10入りすることは少なくありません。紅白歌合戦出場の段階で97800枚売れていた(第70回紅白歌合戦の出場者傾向のこと - WASTE OF POPS 80s-90sより)、氷川きよしさんの場合はどうでしょう。

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ビルボードジャパンのCHART insightによると、「大丈夫」はA・B・CタイプのシングルCDセールス初加算週に同指標4位、D・E・Fタイプでは6位をマーク。しかし総合では前者においては11位とトップ10入りを果たせず、後者においては35位となっています。というのも。

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最初のグラフから総合ソングスチャート(黒の折れ線で表示)、シングルCDセールス指標(黄色)を抜いたのが上記。「大丈夫」がシングルCDセールスに大きく頼っていることが解ります。同曲のシングルCDセールス指標は常に300位以内をキープしている一方、他指標が伴っていません。パソコン等にインポートする際のインターネットデータベースへのアクセス数を示すルックアップは、前者においては32位→100位圏外(300位以内)と300位以内在籍はわずか2週、後者は68位の翌週に300位圏外と達しており、CDは接触としてほぼ用いられていないことが解ります。また動画再生指標は一度として300位以内に入っていませんが、ショートバージョンならばやむを得ないかもしれません(ショートバージョンが動画再生指標に貢献しないことは弊ブログで幾度となく触れています)。

そしてストリーミング指標を構成するサブスクリプションサービスについて。

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たとえばSpotifyをみると解禁曲があまりにも少ない状況です。ポップス(GReeeeN書き下ろしの「碧し」を含む)のみというのは、レコード会社や芸能事務所サイドの姿勢を示すかのようです。

 

「大丈夫」「最上の船頭」のダブルAサイドシングルCDは先週発表の段階において6種類で10万弱の売上となっており、1種類あたりの平均は1万5千強。全種類購入する熱心なファンが歌手を支えていると仮定して、シングルCD9種類(そして全てのバージョンに同じ表題曲が含まれる)購入で1万強支払うのはなかなか根気の要ることではないかと。それでいてD・E・Fタイプ発売前には「大丈夫」「最上の船頭」が収録されたアルバム『新・演歌名曲コレクション9 −大丈夫/最上の船頭−』がリリース、G・H・Iタイプの前には『新・演歌名曲コレクション10. −龍翔鳳舞−』が発売されているわけです。これではよほど体力のあるファンしか付いてこられないと思うのですがいかがでしょう。9種類で12曲出すならば1枚3000円程度でアルバムが制作可能では?そんな疑念を抱かれてしまったならば、ますますファン離れが加速するばかりではと考えます。

 

先述したブログ【WASTE OF POPS 80s-90s】さんでは、昨年の氷川きよしさんをはじめとする演歌歌手のシングルCDセールス動向を踏まえこのようなことを記載されています。

でも、演歌系の番組は激減したわけでもなく、配信にだばだば回ってしまうような世代でもなく、実際どの歌手も別にサブスクにガンガン曲出しているわけでもないのに、それでもこれだけ売り上げが減っているのは何故だろうと考えてみたのですが、単純な話として新規ファンの流入よりもファンをやめたり死んだり寝たきりになってる数の方が多いというのはあるにしても、それ以上に、市街のレコード屋が消え、ショッピングモールのCDショップも潰れていく今、購入するための接点がどんどん失われているという理由も相当あるのではないか、と何となく思いました。

演歌のシングルのこと - WASTE OF POPS 80s-90s(2018年12月28日付)より

(勝手ながら紹介させていただきました。問題があれば削除いたします。)

CDを購入出来る環境の減少もさることながら、このような売り出し方に嫌気が差してファンをやめる方も実は少なくないのでは?というのが私見。そしてどんどん体力のある方に頼っていくのだとしたら、そのうち演歌は衰退することは間違いないと言っても過言ではないでしょう。

 

ではどうするべきか…そのヒントは所有から接触への移行、そして所有する接点の増加にあると考えます。そしてその全てにおいて、演歌を好むとされる年配者をネット弱者から強者に変えることが求められるでしょう。ネットショッピング(AmazonタワーレコードHMV等)が活用出来るようになれば所有する意欲が高まります。また接触においてもスマートフォンが普及すれば(尤も、いわゆるガラケーがどんどん少なくなってきており普及はやむを得ないという側面もあるのですが、それを好機に捉えるべきと考えます)、動画再生やサブスクリプションサービスの活用でどんどん演歌に触れられることを訴求出来るはずです。そのハードルは高いかもしれませんが、たとえば認知症予防やネットリテラシー向上の側面を謳うことも有効のはずです。最も大変なのは"面倒臭いの一点張り"でしょうが。

逆にいえば、既にネットに長けた年配者の方がいらしたとして、YouTubeで検索してもフルバージョンが見つからない、サブスクリプションサービスでも解禁されていないと知って接触を諦めた方もいらっしゃるのではないでしょうか。先に氷川きよしさんのサブスクリプションサービス解禁楽曲がポップス系のみであることにレコード会社や芸能事務所サイドの姿勢を示すかのようと書きましたが、仮にレコード会社等が"年配者は接触しない"という前提で動いているのだとしたら機会損失であると同時に、年配者を甘く見ているとすら思ってしまいます。

それでも旧来の方法を維持したほうがいいというならば、たとえば演歌歌手が在籍するレコード会社が結集してラジオ番組を制作し、AM・FM・コミュニティFM局等販路を限定せず安価で売ることも一つの手段です。たとえば早朝5時台の1時間番組を用意し、番組の中でデジタルへの対応の仕方をレクチャーするコーナーを設け、番組の公式YouTubeチャンネルを用意しそこでより細かなレクチャーを実施するのも有効ではないかと。

 

ここまでデジタルの活用にこだわったのは、旧来の手段のままでは先細りが確実であることに加え、先日亀田誠治さんが語っていた内容においてとりわけ旧態依然と化したジャンルは演歌だと思ったゆえ。いや、邦楽全体がそうなのですが。

この5~6年間に日本が行ってきた、怠慢とまでは言わないけれども、イノベーション潰しというか、イノベーションの様子をうかがっている中で、バランスを取って「とにかく今あるものを」ということでしがみついてしまったおかげで、今、すごく残念な結果になっています。

日本の音楽産業が欧米に乗り遅れた理由 音楽プロデューサー・亀田誠治氏が語るサブスクリプション配信の価値 - ログミーBizより

このまま行けば来年の紅白は演歌枠の減少は必至ゆえ、挑戦する価値はあるはずです。同時に市井においても、演歌が少ない紅白はおかしいと非難するよりもまず、自身の周囲に演歌は流れているか、手に取りやすい環境かを確認し、現状を変えるにはどうすべきか考えを巡らす必要があるでしょう。

ルイス・キャパルディが坂本九に並ぶ、そして早くもマライア・キャリーが…11月23日付米ソングスチャートをチェック

ビルボードソングスチャート速報。現地時間の11月18日月曜に発表された、11月23日付最新ソングスチャート。前週首位に返り咲いたルイス・キャパルディ「Someone You Loved」が今週もその座を守り、通算3週目の首位を獲得しました。

ストリーミングでは前週比2%アップの2460万を獲得し同指標7位となった一方、ラジオエアプレイは同3%ダウンの9810万となり同指標首位をキープしながらも1億割れ、ダウンロードは同4%ダウンの12000(同指標8位)となっています。この曲のリリース元であるキャピトル・レコードにとって、男性ソロ歌手での3週1位は坂本九上を向いて歩こう (英題:Sukiyaki)」が1963年6月15日付から3週連続で首位を獲得して以来の最長タイ記録となりました(なお男性ソロ歌手以外の記録では、ビートルズ「I Want To Hold Your Hand」(1964)およびケイティ・ペリー「I Kissed A Girl」(2008)が7週首位を獲得)。

とはいえ2位のポスト・マローン「Circles」とは接戦。「Circles」はストリーミングが前週比6%ダウンの2300万(同指標6位)、ダウンロードが同6%ダウンの15000(同5位)、ラジオエアプレイが同6%アップの8840万(同2位)であり、ラジオエアプレイの勢いがある「Circles」は曲としてのピークを迎えていないことから次週首位が入れ替わる可能性もあるでしょう。

その2曲を追いかけるのが新たなトップ5入りを果たした2曲。

アリアナ・グランデの客演によるリミックスの影響でトップ10入りを果たしたリゾ「Good As Hell」が2ランクアップし4位に到達。ラジオエアプレイは先述の2曲に迫り前週比12%アップの8530万(同指標3位)、ストリーミングは同12%ダウンの1390万(同25位)、ダウンロードは同8%ダウンの13000(同6位)。デジタル2指標の落ち込みが気掛かりですがまだ勢いはあります。そして。

前週トップ10入りしたマルーン5「Memories」は5位に上昇。ラジオエアプレイは前週比9%アップの6290万(同指標9位)、ストリーミングは同5%アップの1760万(同18位)、ダウンロードは同4%ダウンの17000(同2位)と概ね好調。彼らにとって10曲目となるトップ5ヒットとなりました。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (1位) ルイス・キャパルディ「Someone You Loved」

2位 (2位) ポスト・マローン「Circles」

3位 (3位) ショーン・メンデス & カミラ・カベロ「Señorita」

4位 (6位) リゾ「Good As Hell」

5位 (9位) マルーン5「Memories」

6位 (4位) リゾ「Truth Hurts

7位 (7位) クリス・ブラウン feat. ドレイク「No Guidance」

8位 (5位) セレーナ・ゴメス「Lose You To Love Me」

9位 (9位) リル・ナズ・X「Panini」

10位 (10位) ダン+シェイ & ジャスティン・ビーバー「10,000 Hours」

もうすぐトップ10はこちら。下記3曲はいずれも最高位を更新しています。

・シェイド「Trampoline」(14位)

ジョナス・ブラザーズ「Only Human」(18位)

・リル・ベイビー「Woah」(19位初登場)

さらには、以前10位を記録したテイラー・スウィフト「Lover」にショーン・メンデスが参加したリミックスが先週水曜リリースされたことにより、同曲が43位から26位へ上昇しています。デジタル2指標はわずか2日間の集計ながら、ダウンロードは前週比192%アップの20000を記録し同指標首位に。ストリーミングは同33%アップの1020万(同指標50位未満)、ラジオエアプレイは同14%アップの3310万(同26位)と上昇。勢いがキープしたならば、集計期間フルでリミックスがカウントされる次週はさらなるアップが期待されます。

先週半ばにリリースされたビリー・アイリッシュ「Everything I Wanted」も74位に初登場を果たしており、こちらも次週の動向が気になるところです。

そして、マライア・キャリー

「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」が39位にリエントリー。こんなに早い時期にカムバックを果たしたのははじめてです。同曲が初めて収録されたアルバム『Merry Christmas』(1994)の25周年記念盤の影響と思われますが、それにしても強いですね。

今年の『NHK紅白歌合戦』出場/不出場についての私見をまとめてみる

今年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)の出場歌手一覧が先週発表されました。このラインアップから思うことを書き綴ります。

 

まずは初登場組について。

初出場となる8組は、ビルボードジャパンソングスチャートを追いかけていれば極めて妥当でありほぼ最善の選出と言えるでしょう。LiSAさんはTVアニメ『鬼滅の刃』オープニングテーマ「紅蓮華」がロングヒット、且つサブスクリプションサービス解禁後は更に勢いづいていますので、2018年の米津玄師「Lemon」のようにテレビ出演後に大ヒットする可能性も秘めています。そしてなによりOfficial髭男dismは紅白出場を目標と公言していただけに、自分のことのように嬉しいですね。

しかしながら視聴者の中には音楽のヒットを未だにオリコンランキングだけで判断する方もいらっしゃるかもしれず、Official髭男dismやKing Gnuの紅白出場に異を唱えられるのではという懸念も拭えません(今のところはそのような意見が見当たらないのは救いなのですが)。ビルボードジャパンソングスチャートがどんどん社会的ヒットの鑑に進化していくものの認知度はオリコンにまだ及ばないだろうことを踏まえれば、それをどう変えていくかがビルボードジャパンに問われていると思います。

 

今年のラインアップ、特に演歌歌謡曲についての検証は、ブログ【WASTE OF POPS 80s-90s】の内容に同意するところが多いですので是非そちらをチェックしていただきたいと思います。

(勝手ながら紹介させていただきました。問題があれば削除いたします。)

演歌歌謡曲の歌手の顔ぶれは昨年と一切変わらず、無論演歌歌謡曲枠も増減なし。ですが、これは喜べる状況じゃないでしょう。新顔が登場しない、飛び抜けたヒットがない、ヒットした作品に"複数種同時×数カ月後に2回目、3回目発売"が多く売上枚数のユニークユーザー数が見えない、そもそもシングルCDセールス指標以外に飛び抜けた指標が存在しない…これらを踏まえると演歌歌謡曲は、コアなファン以外の支持を得られない限り縮小傾向に歯止めがかからないでしょう。自分が高齢になった際に演歌歌謡曲を好んで聴くとはとても思えません。これは由々しき事態だと捉えています。

 

演歌歌謡曲以外でみると、まずはいわゆる"NHK貢献度"が薄れたことが印象的。昨年は朝の連続テレビ小説まんぷく』主題歌を担当したDREAMS COME TRUEが落選し、今年はNコンの課題曲を担当したSHISHAMOがいません。今年の朝ドラ『なつぞら』主題歌を担当したスピッツについては…【WASTE OF POPS 80s-90s】の考えに同意します。とにかく、NHK貢献度は以前に比べて絶対ではなくなっているようですし、貢献度以上にヒットしたかどうかが基準になっているように思います。

他方、出演に貢献したのはベストアルバムの存在。aikoさん、PerfumeDA PUMP(過去の代表曲の再レコーディング含む)、そして嵐。また、今年末から来年はじめに作品をリリースする方も複数ラインアップされており、紅白出演を作品のヒットにつなげようとする見方も出来ます。出演者の一部には、今年ビルボードジャパンソングスチャートでそこまで大きなヒットがないのではと捉えられておかしくない方もいらっしゃいますが、年末感や紅白感という意味では妥当な選出であり、紅白のいい意味でのマンネリを再認識した次第です。 

一方、気掛かりなのはあいみょんさんの不出場。ビルボードジャパンでは昨夏リリースの「マリーゴールド」を含めヒットが続いていることから、今年出ても何ら違和感ないのにと思っていました。この点は非常に残念に思いますし。

昨年のあいみょんさんの紅白出場はブランディングの一環だと考えています。アルバムの大ヒットの一因に紅白出場があることも間違いないでしょう。ただ、今年もヒット曲を連発している中で不出場となると、邪推する方が出かねないと考え記載しました。捉え方は各自の自由と考えます(誹謗中傷はNGですが)

11月14日付のツイートより(別の方のつぶやきへの引用リツイートゆえ、このような形で紹介します。リンク先には元のツイートが掲載されています)

これは紅白サイドにとっても、あいみょんさんサイドにとっても勿体無い、というのが私見です。

 

さて、落選した方々についてはいろいろと思うところがあります。そこで、自分がスタッフの一員を務める11月24日放送のFMアップルウェーブ『わがままWAVE It's Cool!』(日曜17時 サイマル放送もあります)では【どうして紅白に出なかったんだ?!アーティスト】と題した特集をお送りすることになりました(タイトルは一昨年同時期の【どうして紅白に出ない?!荻野目洋子】特集を踏襲しています)。今年紅白に出場してもおかしくなかった歌手を我々なりにまとめてみますので、リクエストは下記経由にてお待ちしております。

また今後追加発表される(だろう)分と合わせて、ラインアップが出揃った際には紅白出場者発表直前のメディアによるいわゆる飛ばし記事の検証が必要だと考えています。飛ばし記事が結果的に正しかったとしても、です。同時に、受け手のネットリテラシーをどう高めるかを提案することも必要ですね。

90年代R&Bで紡ぐ”Baby Makin' Music”

一昨日のラジオ特集はまさしくツボでした。

星野源『Same Thing EP』は、日本にベイビーメイキングミュージックという概念をもたらす意味でも重要作になるのだと実感。さすがの着眼点だと思います(し、実際に曲も好いです)。

90年代にR&Bにハマった自分には、R&Bがそういう概念を持ち合わせた音楽であるだけに特集がドツボだったと同時に、ジェーン・スーさんの「涙そうそう」事件じゃないけれど自分もそういうプレイリストまとめてみたなあというのを思い出したり。尤も、ベイビーメイキングミュージックなシチュエーションには用いませんでしたが。

 

ということで、この特集に触れて思い出した、90年代R&Bのベイビーメイキングミュージックな楽曲をいくつか、思いつくままに紹介。

90年代に雨後の筍の如く登場したボーカルグループの中でも屈指の実力を誇ったエクスケイプ。現状ラストアルバムとなる『Traces Of My Lipstick』(1998)収録のこの曲は、よくよく考えれば彼女のいる男との”秘密”を歌ったものゆえベイビーメイキングミュージックとは異なるかもしれませんが、「Ain't Nobody Know」同様にBPMより明らかに速いリズムが刻まれているのが共通項。当時興隆したティンバランドのビート(”チキチキ”と呼ばれていました)を、プロデューサーのジャーメイン・デュプリが意識したのかもしれません。

エクスケイプの場合、「My Little Secret」の直後に訪れる「Softest Place On Earth」こそ混じりけのない(?)ベイビーメイキングミュージックだと思いますが、その「Softest Place On Earth」を手掛けたジョーの出世作「All The Things (Your Man Won't Do)」(1996)を。実際この曲もエクスケイプ同様、”彼氏がやってくれないこと、俺なら全部出来るよ”という意味深(いや、直接的)な内容なのですが、この曲に対するR&Bファンや好事家の熱狂は凄まじかった記憶があります。

内省的な側面を強く打ち出したジャネット・ジャクソンのアルバム『The Velvet Rope』(1997)から、ロッド・スチュワートでお馴染みの「Tonight's The Night」を。リラックスして歌うジャネットの声、そしてその声を美しく重ねていくプロデューサーのジャム&ルイスの手腕は見事。アメリカで首位を獲得したオリジナルバージョンに新たな価値を与えた傑作カバーです。

最後はトータル。パフ・ダディ(当時の名前)のレーベル、バッドボーイから登場した彼女たちのセルフタイトルアルバム(1996)から「Kissin' You / Oh Honey」を。オリジナルの「Kissin' You」はラファエル・サディークが手掛けたアコースティック的な美しいミディアムスロウなのですが、パフ・ダディとスティーヴィー・Jが施したのはデリゲーション「Oh Honey」(1977)のサンプリング採り入れ。これで夜をさらにメロウに彩るバージョンが完成しました。

 

サブスクリプションサービスが興隆し、プレイリストがヒットチャートを作り上げる可能性を秘めた時代となりました。ラジオでも”ベイビーメイキングミュージックと検索すれば沢山出てくる”と言っていましたが、日本でもこのようなプレイリストが登場して、夜の概念が変わるならば…などと考えたりしております。

カニエ・ウェスト新作にも参加、聖俗共に活躍するウォーリン・キャンベルのレーベルコンピレーションが豪華なのです

この1ヶ月ほどで弊ブログにおけるゴスペル関連エントリーが大量発生。カニエ・ウェスト初の全編ゴスペル作『Jesus Is King』や、AIさんのデビュー20周年記念アルバム『感謝!!!!! - Thank you for 20 years NEW &BEST -』がこの1ヶ月の間に相次いでリリースされたことに因るところが大きく、そこから様々なゴスペル(関連)作品を紹介しています。

そのカニエ・ウェスト『Jesus Is King』はリリースされて初めて制作陣のクレジットが明かされたわけですが、そこに聖俗共に活躍するプロデューサーのウォーリン・キャンベルの名があり、強く納得した次第。ウォーリン・キャンベルについては以前弊ブログにて取り上げています。

そのウォーリン・キャンベル、自身が運営するレーベル【My Block Inc.】からコンピレーションアルバム『Warryn Campbell Presents My Block Inc.』を先月リリースしました。レーベルコンピレーションは現在このような歌手を抱えていますよという訴求の場と言えるのですが、これが実に濃いラインアップなのです。

ウォーリン・キャンベルは妻のエリカ・キャンベルとの共演曲を昨年リリースしていましたが(先述したウォーリン・キャンベルのブログエントリー参照)、エリカと彼女の妹のティナ・キャンベルから成る姉妹デュオのメアリー・メアリーと共に「Feel So Good To Be Loved」に参加。もしかしたらウォーリンは歌手としても表舞台に出るようになったのかもしれません。現在はエリカおよびティナ共にソロ作に力を入れていますが、今回を機に『Something Big』(2011)以来となるメアリー・メアリーとしてのオリジナルアルバムをリリースしてくれたならと切望します。

 

それにしても今回興味深いのは、かつて日本でも注目を集めた面々がレーベルコンピレーションに参加していること。日本でラジオを中心に「Always」(2009)が注目を集めたジェイソン・チャンピオンの名を見たときには驚きました。さらには唯一のオリジナルアルバム『Two Eleven』(2000)が好作だったトニ・エステスも登場。 

とはいえ、ジェイソン・チャンピオンについては昨夏のブログエントリーでMy Block Inc.入りを果たしたことを伝えていましたし、トニ・エステスにおいてはbmrで昨年レーベル入りを報じていましたので、単なる自分の失念ではあるのですが。

(それにしても、bmrはメジャーからゴスペルまでを網羅し情報量多かったなあとあらためて実感。今年の春以降パタッと止まったのは勿体無いというか…事情はなんとなく読めるのですが。)

そのジェイソン・チャンピオンとトニ・エステスの共演盤が心を揺さぶります。

このアプローチは、メアリー・メアリー「In The Morning」(2002)を彷彿とさせますが、音のダイレクトさ、踊りやすさはきちんと今の音となっていますね。

さらにはゴスペル界の若き実力派、ウォールズ・グループがMy Block Inc.入りし、レーベル入り後初めてのナンバー「High And Lifted」を公開。レーベルコンピレーションに収められています。彼らについても以前記しましたが、レーベル移籍にはいい意味で驚かされます。

ちなみに、ウォーリン・キャンベルの妻、エリカ・キャンベルのソロとしての新曲「Praying And Believing」も収録。驚くのはそのミュージックビデオが現在の悪しき社会情勢を映していること。

先行シングルだったこの曲のジャケットをみると、なるほど社会情勢を謳っていることが解ります。

祈り信じることで現状を変える可能性があると伝えるのもゴスペルのひとつの形。ゆえにオバマ大統領の登場以降は特にゴスペル界(のみならずアメリカのエンタテインメント界)全体が民主党支持だったと捉えています。だからこそカニエ・ウェストトランプ大統領支持を表明したことへの疑問は業界内外に根強いわけですが、それでも『Jesus Is King』に参加したウォーリン・キャンベルは”良い作品を創る”という自身の信念を第一に据えたのではないかと勝手ながら考えています。

 

その他にも今回のコンピレーションは良曲が続々。先述したトニ・エステスのソロによる「Stressed Out」の80年代な音使いにもニヤリとさせられますし、ウォーリン・キャンベルの妹、ジョイスターはアルバムが出ずじまいなのですが健在ぶりをアピール。

ちなみにジョイスターはレーベルコンピレーションとは別に、先週新曲「Wait For Me」をリリースしています。

 

今回のレーベルコンピレーションは、所属するほぼ全員による「Working!」が冒頭を飾ります。

参加メンバーは”Warryn Campbell, Mary Mary, Jason Champion, Toni Estes, Lena Byrd Miles, JoiStarr, The Walls Group, Krista Campbell, MC Lyte and Jason McGee & The Choir”(上記動画の説明欄より)。トニ・エステスのbmr記事で一時期レーベルに所属していたと言及されているジョン・Bがいないのが残念ですが、今後は彼らそれぞれのソロ作品がきちんと出ることを待ちわび、期待しましょう。無論、ウォーリン・キャンベルの今後のプロデュースワークも楽しみです。 

ビルボードジャパンソングスチャートはSpotify導入を機に、より実態に即した社会的ヒットの鑑になっていく

昨日のエントリーでは最新11月18日付ビルボードジャパンソングスチャートについて紹介しましたが、この日(集計期間は11月4~10日)からSpotifyがストリーミング指標に加わっています。

さらには、今回Spotifyが導入されたタイミングで新たな試みも始まっています。下記は一昨日付、ビルボードジャパンストリーミングソングスチャート紹介の記事より。

なお、Spotifyを含む複数のストリーミング・サービスが次年度以降に、無料と有料を分割してのデータ提供が可能となる見通しを踏まえ、当週より、Billboard JAPAN独自調査によりストリーミング全体数から無料と有料を按分、それぞれに異なる係数を乗じてポイント化することとした。当ニュースにおける再生数は無料と有料の合算としている。

無料と有料とで異なる係数を乗じる方法は、アメリカで昨夏から導入されたもの。日本では係数がいくらかについては公開されていませんが、アメリカでは公開されています。

ニールセンの2018年第3四半期より、有料配信サービス(Apple MusicやAmazon Musicなど)、または有料/広告支援ハイブリッド・サービスにおける有料プラン(SpotifySoundcloudなど)での再生は、広告支援サービス(YouTubeなど)や有料/広告支援ハイブリッド・サービスにおける無料配信より比重が大きくなる。

ソング・チャート“Hot 100”におけるストリーミング・データの算出方法については、2018年からは有料(1再生=1ユニット)、広告支援(1再生=2/3ユニット)、プログラム配信(いわゆるプレイリスト。1再生=1/2ユニット)に分けて計算する。“Hot 100”指標データの重要性はストリーミングが最も高く、次に全ジャンル・ラジオ・エアプレイ、そしてデジタル・ソング・セールスと続く。

米ビルボード・チャート、ストリーミング算出方法を6/29より変更 | Daily News | Billboard JAPAN(2018年5月2日付)より

有料と無料とで分けた理由は明快。

ビルボード・チャートにおけるストリーミングの集計方法を多層的なアプローチに変更したのは、ストリーミングによる収益と、ユーザー側のアクセス方法を反映させる形で再生数を算出しようとする世界的な動きに合わせたものだ。

米ビルボード・チャート、ストリーミング算出方法を6/29より変更 | Daily News | Billboard JAPAN(2018年5月2日付)より

有料サブスクリプションサービスで聴くと収益が上がり歌手やレコード会社をより支えられること、そのためにもユーザーには有料を勧めることが米ビルボードのチャートポリシー変更の狙いではないかと。日本もそれを踏襲したのだろうと考えます。

 

Spotifyの導入、そして有料と無料とで係数を設けることは自分が以前提示した希望に沿ったものです。先月、ビルボードジャパンソングスチャートを構成する8指標についての改善案を提示しましたが、ストリーミング指標についてはまさしく希望する方向となっています。

今年度終了まで間もなくですが、他の指標にもメスが入りまた指標毎にウェイトの変更が行われれば(特にシングルCDセールスについては、毎週のように首位が入れ替わりまたその首位曲が翌週急落する傾向を踏まえれば、見直しは必須だと考えます)、来年度以降のビルボードジャパンソングスチャートはより実態に即した社会的ヒットの鑑になるものと考えます。

 

ビルボードジャパンには是非とも、ソングスチャートを構成する指標群の説明や係数導入の理由をより広く伝播してほしいと希望します。

デジタル解禁の嵐が躍進、「Turning Up」は次週の動向を注目せよ…11月18日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点をソングスチャート中心に紹介します。

今週のソングスチャートを制したのはNMB48恋愛至上主義」でした。

獲得ポイントは16900。前作「母校へ帰れ!」の首位獲得時(8月26日付)に比べて82.1%と大きく落ち込んでいます。「母校へ帰れ!」は翌週26位(ポイント前週比10.9%)ですので、シングルCDセールスがチャート構成比の9割を超えた「初恋至上主義」が同様の道を辿る可能性は高いと思われます。なお前週首位の=LOVE「ズルいよ ズルいね」は今週42位に急落、ポイント前週比9.7%となっています。今年度の首位獲得作品と翌週の推移はこちら。

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今週注目すべきは、なんといっても嵐の躍進。

前週初登場した「Turning Up」は、集計期間終了のわずか5時間前の解禁で10位にランクイン。集計期間フルでカウントされた今週は2指標でトップとなり総合2位に。『デジタル解禁日である前週の計測最終日(11月3日)で「Turning Up」が獲得したダウンロードとTwitterのポイントは3,663で、当週のポイント合計数の13,297と合計すると「初恋至上主義」を逆転して総合1位となる』(上記記事より)とのことで、仮に11月4日月曜に解禁していたならば…と思うと、勿体無いと思う部分も否めません。

嵐については、11月3日日曜にデジタルシングル「Turning Up」をリリースしたほか、旧作シングルCD表題曲も一部先行曲を除きサブスクリプションサービスで解禁、およびダウンロード配信を開始。その結果。

このように、とんでもない記録を打ち立てています。デジタル解禁曲のチャート推移を一覧化すると。

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Spotifyの11月3~10日のデイリーチャート順位、および今回の11月18日付ビルボードジャパンソングスチャート総合およびダウンロード(DL)、サブスクリプションサービス等がカウント対象となるストリーミング(ST)ソングスチャート一覧がこちら。Spotifyで強い曲がビルボードジャパン総合チャートにもランクインする傾向がありますが、たとえば最新CD曲「BRAVE」はチャート構成比の4分の1以上をシングルCDセールスおよびルックアップで、「感謝カンゲキ雨嵐」は半分以上をTwitterで占めています。

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前者は最新シングルゆえ、後者は櫻井翔さんのツイートに曲名が付いたことによる効果とみられます。

このように、新曲以外がさらに盛り上がるには何かしらのプラスアルファが有効だということが解ります。

しかしながら勿体無いのは、動画再生指標がほぼ全ての曲で未加算であるということ。嵐の公式YouTubeチャンネルにおいては現段階でアップロードされた動画はわずか13本(「Turning Up」のミュージックビデオ、「A・RA・SHI」等先行配信5曲のミュージックビデオおよびライブビデオ等)。仮に全てのシングルCD表題曲のミュージックビデオが解禁されていたならば最新のビルボードジャパンソングスチャートでは22曲を遥かに上回る楽曲がランクインし、トップ10にも複数曲送り込んだのではないでしょうか。以前、ミュージックビデオを公開しない理由を推測しました。

一点、違和感を表明するならば今回のデジタル解禁にオリジナルアルバムはさることながら、ベストアルバムが含まれていないこと。アルバムCDはシングルよりも廃盤になりにくいこと、またベストアルバムの売れ行きが好調であることを考えれば、ダウンロードは解禁されても1曲250円の価格設定を高いと思い、ならばベストアルバムを買ったほうが得として購入に至らせる心理誘導が今回の施策の根本にあるかもしれません。そう考えれば、全シングル曲をダウンロードおよびサブスクリプションサービスで解禁しながらYouTubeで未解禁のままなのも、リリースされて間もないミュージックビデオ集への誘導と思えば合点がいきます。

ミュージックビデオ未解禁はいわばフィジカルへの誘導ゆえの施策と捉えていますが、チャートでのインパクトがより強ければ”ならばミュージックビデオ集を買おう”という心理を広くライト層(歌手や曲には興味はあれど絶対買うわけではない人たち)に形成出来たのではないかという気がします。

 

さて、ソングスチャート3位にはOfficial髭男dism「Pretender」が登場。ストリーミング再生回数はゆるやかに降下し、総合ポイントも2週連続で前週を下回ってはいます。

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しかしながら心配は要らないかもしれません。「Pretender」を収録したアルバム『Traveler』は今週、4週ぶりにトップに返り咲いています。

ルックアップが特段に強いのがOfficial髭男dismの特徴であり、ストリーミング指標同様接触の強さが目立っています。ストリーミング(サブスクリプション再生回数)はダウンしつつもアルバムをフィジカルでチェックする人たちが増えているわけで、「Pretender」そしてOfficial髭男dismの作品全体が今後しばらく高水準をキープするものと思われます。『NHK紅白歌合戦』の出演次第ではさらなる爆発も期待出来ます。

 

さて次週は、嵐「Turning Up」の動向に注目しましょう。これまでジャニーズ事務所所属歌手の作品はシングルCDセールスが強く同指標初加算週に首位を獲得することが多かったものの、今年度首位を獲得した同事務所所属歌手の作品は翌週すべてトップ10落ち、翌週のポイント前週比は山下智久「CHANGE」を除き10~20%という状況でした。仮に次週「Turning Up」がトップ10内をキープし、ポイント前週比20%を大きく超える結果を残すならば、同事務所はデジタルへの移行(導入)を本格的に協議して好いと考えます。

 

明日、このブログではSpotify新規導入におけるビルボードジャパンチャートポリシー変更についてまとめてみます。既に今週から変化していますが、個人的にはこの変化を強く歓迎します。