イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) フリートウッド・マック「Dreams」がリバイバルヒット…日本でも同様のヒットが生まれるために必要なこととは

(※追記(2022年12月5日7時40分):筒美京平さんの訃報に関するNHKの記事がリンク切れとなっていたことから、同日付で掲載された朝日新聞の記事に差し替えました。)

 

 

 

今週発表された10月17日付米ビルボードソングスチャートでは、21位にフリートウッド・マック「Dreams」が再登場を果たしています。

今から43年前、1977年6月18日付で首位を獲得した「Dreams」。今回人気再燃のきっかけとなったのはTikTokのバズであり、さらにその動画をメンバーのミック・フリートウッドが再現したことも上記記事で示されています。

@420doggface208

Morning vibe ##420souljahz ##ec ##feelinggood ##h2o ##cloud9 ##happyhippie ##worldpeace ##king ##peaceup ##merch ##tacos ##waterislife ##high ##morning ##710 ##cloud9

♬ Dreams (2004 Remaster) - Fleetwood Mac

@mickfleetwood

@420doggface208 had it right. Dreams and Cranberry just hits different. ##Dreams ##CranberryDreams ##FleetwoodMac

♬ Dreams (2004 Remaster) - Fleetwood Mac

元動画の投稿は9月25日、一方でミック・フリートウッドの投稿は10月5日。最新10月17日付米ビルボードソングスチャートの集計期間はストリーミングおよびダウンロードが8日まで、ラジオエアプレイが11日までとなっており、ミックの動画がビルボード再浮上を加速させたといっても過言ではないでしょう。しかもミックのTikTokアカウントはこの動画のみというのが興味深いところです。

「Dreams」のミュージックビデオや、同曲が収められた名盤の誉れ高き『Rumors』(1977)のサブスク解禁等はきちんと成されています。つまりはTikTokの人気がデジタルの増加につながり、そのデジタル環境を整えていることがリバイバルヒットにつながっているわけです。さらにミック・フリートウッドのTikTokアカウント開設は流行に乗り楽しもうとするチャレンジ精神ゆえと言えるかもしれず、その行動にも好感が持たれていると言えるでしょう。

 

TikTokによるリバイバルヒットはこの数年での特徴ですが、訃報による再浮上もある種のリバイバルヒットと言えるかもしれません。そしてサブスクサービスやYouTubeが浸透した現在にあっては、ファン等の追悼の思いが再生回数を増加させ、チャートを押し上げることも度々みられます。

10月6日に亡くなったギタリスト、エディ・ヴァン・ヘイレンを偲んでヴァン・ヘイレンやエディの参加曲等、様々な曲がラジオを中心に再浮上。とりわけアルバム『1984』に収録されたこの「Jump」(1983)は最新10月19日付ビルボードジャパンソングスチャート(集計期間:10月5~11日)で90位にリエントリーを果たしました。ラジオエアプレイ5位となったのみならず、ダウンロード、Twitterそして動画再生の各指標が100位以内に入っているのです。無論こちらも上記ミュージックビデオの他、サブスクも解禁されています。

 

流行や訃報等に触れた際に生まれる”聴きたくなった”という衝動は、デジタルの興隆により即座に叶うようになりましたそして先のミック・フリートウッドによる動画投稿は、その衝動を加速させることに一役買っていると言えます。次週発表される10月24日付米ビルボードソングスチャートでは「Dreams」がトップ10入りするという見方がありますが、それも納得です。

 

 

ただこれは、海外の歌手だからこそチャート再浮上の傾向がより強まるのかもしれません。日本の歌手、作品についてはどうでしょうか。

筒美京平さんの訃報を機に、ラジオ番組で特集が組まれる等様々な形で故人の作品に再度光が当たっています。ならば故人を偲び筒美さんの作品を率先して聴いてみようと、サブスクをチェックした方もいらっしゃることでしょう。しかしそのリストはデジタル上では完璧とは言い難いのが日本の現状です。

一昨年リリースされた『筒美京平自選作品集 50th Anniversaryアーカイヴス』(2018)でみてみましょう。このコンピレーションアルバムはコンセプトの異なる3作品が用意され、それぞれ40曲が収められています。各コンピレーションにおいていくつの曲がサブスクで確認できるか、Spotifyを例に取り上げてみると。

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AOR歌謡が26曲、アイドル・クラシックスが28曲そしてシティ・ポップスは20曲。シティ・ポップスに至っては半分のみの解禁にとどまっています。アイドル・クラシックスは女性アイドルのみで構成されるため男性アイドル曲は他のシリーズに収録されていますが、ジャニーズ事務所所属歌手の作品群を含め、未解禁が目立つ形です。無論このリスト以外にも様々な有名曲や名曲はありますが、上記リストを見る限りSpotifyで確認可能かは期待を抱きにくいと思わせかねません。ましてYouTubeにおいては公式なアップロードが少ないだろうことが容易に想像できるのです。

 

 

大物歌手の未解禁は減ってきた印象があります。本日になって久保田利伸さんがサブスクを解禁しており、尚の事です。

他方、かつて一世を風靡した歌手の作品は未だ解禁されない作品が多いのが現状と捉えています。無論、海外の歌手においても一部未解禁の歌手や作品があるものの、フリートウッド・マックヴァン・ヘイレンの再浮上を踏まえれば、日本の歌手の作品のほうがデジタル未解禁が多いだろうことは容易に想像がつきます。

仮に、このような日本の音楽業界の下で今回のフリートウッド・マック「Dreams」のようなバズが発生した際、リバイバルヒットのうねりがより大きくなりはしないのではという強い疑問を覚えるのです。至極単純に、”解禁していないんだ…”という印象を抱かせイメージを悪化させかねない点においても、未解禁は勿体無いと思わざるを得ません。

 

日本においてTikTokでバズを起こしソングスチャートにランクインした曲は今年のヒットの一形態となっていますが、瑛人「香水」等この数年内にリリースされたものが多いと言えます。しかしTikTokに用いられる曲、バズを起こす可能性のある曲に発売時期は関係ないはずです。だからこそいつ何時でも光が当たってもいいように、デジタル環境を整備することが必要ではないでしょうか。そしてその整備こそ、日本の素晴らしい音楽のアーカイヴス構築につながるものと考えます。

次週のビルボードジャパンソングスチャート、LiSA「炎」は首位なるか? 注目する理由は動画のフルバージョン公開に有り

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を紹介します。

10月5~11日を集計期間とする10月19日付ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)、初週のシングルCDセールスが圧倒的だったSnow Man「KISSIN' MY LIPS」が首位に立ちました。

前週のHey! Say! JUMP「Your Song」同様にラジオエアプレイ2位。最近のジャニーズ事務所所属歌手の作品は一定以上のラジオエアプレイを獲得しているとはいえ、この2週の動向は特筆すべきと言えます。

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一方、「KISSIN' MY LIPS」において勿体無いと感じるのは動画再生の動向。9月上旬に公開されたミュージックビデオは解禁時から動画再生指標が高水準を維持していたものの、最新週においては同指標のカウント開始以降最低となる41位に。邪推の域を出ないと前置きして書くならば、ミュージックビデオをフルバージョンで解禁していないことで思うように再生回数が伸びなかったのではと考えます。

ショートバージョンにて公開する理由としては、フルバージョンで公開すればミュージックビデオを収めた映像盤を同梱するCDの売上が落ちるのではという懸念があるものと考えますが、弊ブログではフルバージョン解禁でも売上には大きな変化がないものと幾度か記載しています。そしてショートバージョンがビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標を押し上げないだろうことについても指摘させていただいています。

 

 

そのミュージックビデオ問題を克服してきたのがLiSA「炎 (ほむら)」。昨日CDがリリースされ、月曜にはダウンロードおよびサブスクが解禁されましたが、CDのフラゲ日にあたる火曜、ミュージックビデオをフルバージョンにて解禁しました。

このブログを執筆する10月15日7時30分の段階で再生回数は320万を突破。ビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標では日本における再生回数が加算されるためこの数字が丸々加算対象とはなりませんが、主題歌となった映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が明日公開されてからはさらに再生回数が加速しそうです。CDレンタルの解禁はアルバム同様10月31日土曜になるためレンタルにおけるルックアップのピークは今後となりそうですが、CDセールス(および購入者の取込に伴うルックアップ)、ダウンロード、サブスクそして動画再生が今週同時公開されたことにより、来週発表の10月26日付ソングスチャートにおいて高位置での登場が予想されます。仮に首位を獲得したならば、悲願と呼べるかもしれません。

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鬼滅の刃』の大ヒット、『NHK紅白歌合戦』出演そして一発録りYouTubeチャンネル”THE FIRST TAKE”への出演とその評判…これらによりロングヒットを続ける「紅蓮華」は、最新10月19日付ソングスチャートでトップ10に返り咲きました。おそらくは『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』への期待感の高さでしょう、ポイントは前週比100.2%と勢いをキープしています。今週トップ10入りした曲の中でCDセールス初加算曲を除けばポイントを落とす曲が多い中にあって、この踏み止まりは凄いことです。

しかしながら「紅蓮華」は、動画再生指標が優れているとは言えません。

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チャート推移から総合順位(黒の折れ線で表示)と動画再生(同赤)のみを抜き出したものをみると、総合は最高2位に対した一方で動画再生は8位となり乖離しています。最高ポイントを叩き出したのは今年1月13日付、つまり『NHK紅白歌合戦』放送日を含む集計期間となるのですが、その際のポイントは9897であり、終ぞ1万ポイントに達していないのです。同日付ではTwitter指標を制し、シングルCDセールスおよびルックアップ、ダウンロードそしてストリーミングで4位、カラオケで7位と高水準だった一方、動画再生が30位という成績であり、動画再生指標の高くなさはおそらくはミュージックビデオがショートバージョンだったことに起因するものと考えています。

1月13日付では紅白効果が如実に表れ、同日付で4位を記録したLiSA「紅蓮華」より上位にはOfficial髭男dism「Pretender」(1位)、King Gnu「白日」(2位)そして菅田将暉まちがいさがし」(3位)と、全て前年の紅白初出場者およびその披露曲が入っていますが、上位3強は総合順位と動画再生指標の順位がイコールであり、だからこそLiSA「紅蓮華」の動画再生指標が勿体無いと感じるのです。なお同日付の上位3強はストリーミング、ダウンロード指標も共に3位以内となっており、紅白効果はダウンロードやサブスク、動画再生に真っ先に影響を与えることがここから見て取れます。だからこそデジタル指標群の充実が必須であることはこのトップ3から解るのです。

 

このような経緯があったことが、「炎」をフルバージョンにて公開した要因ではないかと思われます。

月曜の段階で、仮に「炎」ミュージックビデオがフルバージョンで公開されたならばチャートアクションでより大きなうねりが起きるものと書きました。「炎」は公開以降iTunes Storeが毎時表示するダウンロードソングスチャートを制し続け、動画再生は24時間で200万を突破。下記スタッフのツイートをみると、「炎」ミュージックビデオの再生回数を映画公開に合わせて盛り上げようとする思いが汲み取れます。

そしてシングルCDセールスにおいても、ビルボードジャパンとデータ元は異なれど、フラゲ日のオリコンデイリーランキングを制し、その売上は2万7千を突破。仮にビルボードジャパンでも同程度であるならば、「紅蓮華」の初週CDセールス(24262枚)を既に超えていることになるのです。

 

今週シングルCDをリリースする曲で強力なライバルが存在しないだろう状況を踏まえれば、LiSA「炎」は「紅蓮華」で未だ成し得ていないビルボードジャパンソングスチャート週間1万ポイント超え、そして週間1位を狙えるだろうと考えます。そして「炎」が悲願を達成したならば、CDもリリースする曲における適切な解禁タイミング、またミュージックビデオをフルバージョンで解禁すること、これらの重要性が日本の音楽業界全体に伝播するはずです。

初登場首位獲得曲が今年量産される理由を米ビルボードが自問自答していた件

ビルボードソングスチャートはビルボードジャパンとは異なり、初登場で首位を獲得する曲が少ないのが特徴でした。最新10月17日付までにおいてその数は44曲…少ないように見えるのですが、実は今年に入り9曲が初登場首位を成し遂げているのです。44曲のうち2割以上が今年になって量産された理由を、ソングスチャート(以下”Hot 100”)の歴史も踏まえて米ビルボードが記事にしています。この、いわゆる【米ビルボードの自問自答】とも言うべき内容が面白いので、意訳しつつ歴史を補足、および私見を交えて紹介します。

初登場首位獲得曲のリストはこちらに。

 

記載のきっかけはおそらく、投函段階(実際の投函日は10月8日木曜)において最新チャート(10月10日付)でにおいてトラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」が首位に立ったこと。トラヴィスにとっては1年弱で3曲目となる初登場首位獲得という記録を成し遂げています。しかしながら「Franchise」は、最新10月17日付で25位に急落し、首位からの急落記録で歴代2位となりました。このような急落が多いことが、チャートの自問自答を行うれっきとした理由であったはずです。最新チャート動向は下記に。

今年初めて初登場にて首位を獲得したのは4月18日付におけるドレイク「Toosie Slide」。それから僅か半年の間で初登場首位が量産されていきます。トラヴィス・スコットとキッド・カディのユニット、ザ・スコッツによる「The Scotts」(5月9日付)、アリアナ・グランデジャスティン・ビーバー「Stuck With U」(5月23日付)、レディー・ガガアリアナ・グランデ「Rain On Me」(6月6日付)、シックスナイン & ニッキー・ミナージュ「Trollz」(6月27日付)、テイラー・スウィフト「Cardigan」(8月8日付)、カーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン(ミーガン・ジー・スタリオン)「WAP」(8月22日付)、BTS「Dynamite」(9月5日付)そして「Franchise」…今年の初登場首位獲得曲は現在までに9曲となり、これまで最多だった1995年および2018年の4曲を大きく上回っているのです。

 

 

Hot 100は1958年に開設されましたが、37年に渡って初登場で首位を獲得した曲はありませんでした。これは複合指標に因るチャートにおいてラジオエアプレイが強く、同指標が曲のリリース当初から高位置に登場することはない、緩やかにピークを迎えるという特徴があるため。現在におけるチャート構成指標はこのラジオエアプレイに加えストリーミング、ダウンロード(英語表記ではRadio Songs, StreamingそしてDigital Songs)となりますが、リリース直後に後者2指標がピークを迎えるのに対し、ラジオエアプレイの伸びは緩やかであり、ピーク到達時も他指標に比べて遅いことから、このピークのずれがチャートアクションに影響を及ぼすのです。

チャートの歴史が動いたのは、マイケル・ジャクソン「You Are Not Alone」が初登場で首位に到達した1995年9月2日付。同年にはマライア・キャリー「Fantasy」、ホイットニー・ヒューストン「Exhale (Shoop Shoop)」そしてマライアとボーイズIIメンによる「One Sweet Day」といった曲も初登場で首位獲得に至っています。これらの特徴は、ラジオエアプレイがピークに達した頃のタイミングでフィジカルをリリースすることにありました。当時のHot 100のチャートポリシーは、フィジカルを切らない限りどんなにラジオエアプレイが高くともランクインできないというものであり、あえて販売を遅らせることでリリース時には高位置での初登場が可能。焦らした分だけファンの熱心さを高めることができたのかもしれません。

ただし、その後レコード会社等はアルバムを売るために敢えてリード曲等をフィジカルリリースしないという戦略を採り始めます。これによりラジオエアプレイチャートとHot 100とに大きな乖離が生まれることとなり、1998年末にフィジカル未リリース曲もランクインできるようチャートポリシーが改正。1999~2002年に初登場で首位に至る曲がなかったのはそのためです。

 

後に、2003年から2006年にかけて4曲の首位初登場曲が誕生します。これらはすべてアメリカのオーディション番組『アメリカン・アイドル』シーズン2~5の優勝者によるもの(ただし2は優勝したルーベン・スタッダードではなく準優勝のクレイ・エイケン「This Is The Night」(2003年6月28日付)が獲得という逆転現象が発生)。同番組で優勝が決定されて間もなくリリースされたことで番組への熱が反映され、ラジオエアプレイが少なくともその少なさを売上がカバーする形で頂点に立っています。

 

3年のブランクを経て、2009年10月24日付でブリトニー・スピアーズ「3」が初登場で頂点に立ちます。この「3」以降、ケイティ・ペリー「Part Of Me」までの3年半で6曲もの首位獲得曲が誕生するのですが(うちブリトニーは「3」を含む2曲)、この理由は2010年前後にiTune Storeでのダウンロードセールスがピークを迎えたため。一方で、後述する現在に似た形でラジオエアプレイとの乖離が生じていたためにロングヒットに至れないのも特徴でした。ただしブリトニーやケイティ、エミネム、ケシャそしてレディー・ガガという顔ぶれからも解るように、ダウンロードセールスに長けたスターが初登場首位獲得に至れるという特徴が見えてくる気がします。

 

その後、Hot 100はストリーミング指標を採り入れ始めますが、2013年3月2日付からはYouTubeの再生回数もストリーミングの加算対象としたことで、同日付でバウアー「Harlem Shake」が初登場にて首位を獲得。ダンスチャレンジモノの先駆けと言えるかもしれない同曲の人気は下記記事でも紹介されています。

2013~2019年の動向については冒頭に紹介した米ビルボードの記事では言及がないのですが、このYouTube再生回数の加算は大きな変革といえます。たとえばテイラー・スウィフト「Shake It Off」(2014年9月6日付)やジャスティン・ビーバー「What Do You Mean?」(2015年9月19日付)、アデル「Hello」(2015年11月14日付)等、とりわけ新作を待ち望まれた方が満を持してリリースした作品が、2010年前後ほどではなくともまだまだ好調だったダウンロードを稼ぎ、同時にミュージックビデオ(同時)解禁にて注目を集めることでその再生回数の多さがラジオエアプレイの少なさを補完する形で初登場首位に躍り出ることができたわけです。2018年5月19日付で首位を射止めたチャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」などはYouTube時代の典型と言えるのではないでしょうか。

(※このミュージックビデオには暴力的映像が含まれるため視聴には注意が必要です。)

 

そして2020年、ダウンロード指標は大きく衰え、ストリーミングが主流となり最大のウェイトを占めるようになる一方でやはりラジオエアプレイの緩やかな上昇は変わらない中にあって、9曲もの首位獲得曲が登場した背景には唯一の所有指標であるダウンロードの押し上げがあることは間違いありません。初登場時におけるダウンロード指標をみると、ドレイク「Toosie Slide」が25000と決して多いとは言えないものの、トラヴィス・スコットとキッド・カディのユニット、ザ・スコッツによる「The Scotts」が67000、以下アリアナ・グランデジャスティン・ビーバー「Stuck With U」(108000)、レディー・ガガアリアナ・グランデ「Rain On Me」(72000)、シックスナイン & ニッキー・ミナージュ「Trollz」(116000)、テイラー・スウィフト「Cardigan」(71000)、カーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン(ミーガン・ジー・スタリオン)「WAP」(125000)、BTS「Dynamite」(300000)そして「Franchise」(98000)と極めて多いのです。無論ストリーミングも高い作品が多いものの、ダウンロード指標を押し上げる要因はドレイクを除きフィジカルを用意したことにあり、1995~1998年のCD全盛期といえる時期を彷彿とさせます。また10年前のダウンロード全盛期でも言えたことですが、いわゆるスターの作品に多いというのも特徴と言えるでしょう。

普段のリスニングには用いる可能性が高いとはいえないフィジカルを敢えて用意する理由は、スターゆえに熱狂的なファンの購買意欲を高められることにあるといえます。トラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」においては15ものフィジカルが用意されており、購買意欲へ十分な刺激を与えていると言えそうですし、売り切れる可能性を見越してファンがさらに率先して購入することを考えれば、初週セールスがより高まるものと考えます(ゆえにその反動もまた大きくなるのですが)。

 

加えて米ビルボードの集計方法において、いわゆるフィジカル施策が有効に作用したのも大きな要因です。この施策をはじめて行なったのはテイラー・スウィフトと言われていますが(パニック・アット・ザ・ディスコのブレンドン・ユーリーを客演に迎えた「Me!」(2019))、自身のホームページにてフィジカルを販売し、発送が数週間後であれど購入段階で売上にカウントするのみならず、購入時に商品到着までの代替手段として購入者が手に入れられるダウンロードもカウント対象とするのがこの施策の特徴。このフィジカル施策は初登場首位獲得曲に限らず、ドージャ・キャット feat. ニッキー・ミナージュ「Say So」(5月16日付)、メーガン・ザ・スタリオン feat. ビヨンセ「Savage」(5月30日付)、ハリー・スタイルズ「Watermelon Sugar」(8月15日付)でもチャートアクションのカンフル剤として用いられ、( )内の日付にて首位に躍り出たのです。しかしこのフィジカル施策にメスが入りました。フィジカルは購入段階ではなく発送段階で加算されるように変更され、購入時のダウンロードはカウント対象外となったことで、10月頭までに実質無効となっています。

 

このフィジカル施策を主に行なっているのはスター歌手であると記載しましたが、さらに大半の曲においてスター同士のコラボレーションが行われていることもまた所有指標を押し上げる要因であり、今年初登場で首位を獲得した9曲のうち7曲がコラボ作となります。これは双方のファンからの注目を集めることでよりその勢いを伸ばすことができるという役割を果たしますが、とはいえコラボなしの場合であっても、テイラー・スウィフト「Cardigan」は初のサプライズアルバムからのリード曲、BTS「Dynamite」は初の全歌詞英語曲という、それぞれ初の試みが功を奏したとも言えます。一方でBTSTikTok経由でヒットしたジョーシュ・シックスエイトファイヴ × ジェイソン・デルーロ「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」のリミックスに加勢して最新週において同曲を初の首位に押し上げましたが、ダウンロードが前週比814%アップというのはまさにBTSファンの力が大きいと言えるのではないでしょうか。

 

しかし、「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」が次週連覇を達成する可能性は高いとは言えないかもしれません。これは最新週においてラジオエアプレイがむしろダウンしていることからも言えることで、BTS参加版がラジオエアプレイに大きく寄与しているとは言い難いため。ラジオエアプレイの加速が他指標より遅いことは先述した通りですが、所有指標のブーストは翌週に大きな反動を生むため、ストリーミングが漸増しまたラジオエアプレイが伸びない限りはダウンロードの急落を補完できず、翌週の急落を招くのです。「Franchise」そしてシックスナイン & ニッキー・ミナージュ「Trollz」(1→34位)が顕著な例ですが、今年は首位初登場を果たした9曲中7曲(「WAP」「Dynamite」以外)、そしてフィジカル施策によりトップに躍り出た4曲は全て、連覇を果たすことができませんでした。つまりは(ジャンルではなく)各指標をまたいだクロスオーバーヒットの不在が、今年の相次ぐ首位獲得曲の誕生と急落による入れ替わりの激しさ、そしてその結果としての首位獲得曲数の多さを呼んでいます。

 

ちなみに今年は現在までに16曲が(初登場に限らず)首位を獲得しており、昨年の15曲を上回っているのですが、昨年はもっと首位獲得曲数が増えた可能性がありました。しかし、先述したフィジカル施策のパイオニアであるテイラー・スウィフト feat. ブレンドン・ユーリー「Me!」等を阻んだのが、リル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」。この曲がなければ「Me!」を含む5~6曲が首位を獲得できたのではないかと言われています。

TikTok人気を経て週間で1億を超えるストリーミング再生回数を獲得した「Old Town Road」は19週連続首位という最長不倒記録を達成するのですが、首位獲得5週目から16週目にかけての12週間、ラジオエアプレイでトップ10入りを果たし同指標で最高2位を獲得しているのです。今年においてはザ・ウィークエンド「Blinding Lights」が唯一、首位在籍4週の間にストリーミング(在籍1週目)とラジオエアプレイ(在籍3~4週目)の双方を制し、また首位在籍7週のダベイビー feat. ロディ・リッチ「Rockstar」では首位在籍後半にストリーミング1位、ラジオエアプレイトップ10入り(在籍7週目に最高2位)を果たしていますが、このようなクロスオーバーヒットが初登場首位獲得曲ではみられないというのが今の短絡的とも言えるチャートアクションを示す首位獲得曲の特徴と言えます。

 

 

 

ビルボードの記事では最後の段落で、『Is this just the new normal for the Hot 100's top spot? (これがHot 100初登場首位獲得の新常識なのだろうか?)』と自問自答しています。しかしながら『it's to not expect this or indeed any chart trend to just continue indefinitely (実際にチャートのトレンドが無期限に続くとは考えられない)』としており、近い将来チャートポリシーを変更することを示唆しているものと考えます。とはいえチャートポリシーが変更されたとしても、1995~1998年にみられたフィジカルセールスのリリースタイミングや、今年秋まで有効だったフィジカル施策に代表される形で、どのようにして首位を獲得するかを狙っていく姿勢は変わらないだろうというのが米ビルボードの結論であり、自分も同じ意見です。 

フィジカル施策が意味を成さなくなったとしてもダウンロード指標にブーストをかけるやり方は、たとえばビルボードジャパンソングスチャートのシングルCDセールス指標が一定の売上枚数に達した際に係数をかける(その枚数は30万と推測されています)ような算出手法をHot 100が採り入れない限りはしばらく続くと言えるでしょう。リリース初週か否かに限らず、BTS「Dynamite」のように10近いリミックスバージョンを用意したり、その「Dynamite」や「Franchise」、BTS参加版の「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」のようにインストゥルメンタルバージョンを用意することもまた所有指標ブーストの一因となります。さらにスターは所有指標に長けているため、とりわけその側面が強いK-Popアクトを客演やリミックスに迎える作品も多く登場するでしょうし、フィジカルを用意して発売週に発送させる手段を採ることも出てくるでしょう。悪く言えば(チャートポリシー変更との)いたちごっこかもしれませんが、良い意味では今後もこれら工夫が行われていくものと捉えています。

10月17日付米ビルボードソングスチャート、BTSがワンツーフィニッシュを達成した理由は

ビルボードのソングスチャート、現地時間の10月12日月曜に発表された10月17日付最新ソングスチャート(Hot 100)においてジョーシュ・シックスエイトファイヴ × ジェイソン・デルーロ × BTS「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」が前週の8位から上昇し、初の首位に輝きました。

元来「Savage Love」はニュージーランド出身の高校生だったジョーシュ・シックスエイトファイヴによる曲でTikTokで人気となったものを、ジェイソン・デルーロが当初無断でカバー、後に公式に音源化されたものでした。

そして今回のBTS追加版はインストゥルメンタルバージョンも含めて10月2日金曜に公開。今週のチャートは10月2日からの1週間がストリーミングおよびダウンロードの集計期間であり、大きく加勢されたわけです(なお、ラジオエアプレイはその3日後からの1週間が集計期間)。ラジオエアプレイは前週比2%ダウンしたものの(7060万 同指標5位)、ストリーミングは前週比32%アップの1600万(同指標14位)、そしてダウンロードは同814%アップの76000(同指標2位)となり、総合で前週から7ランク上昇し初の頂点に立ちました。歌手名のクレジットは3指標の総合でリミックスバージョンがオリジナルに勝った場合、リミックスに参加した歌手が併記される形となりますが、ダウンロードではBTS参加版が圧勝、ラジオエアプレイは不参加版が圧倒しストリーミングは互角、しかしながら総合でBTS有版が勝ったことで今回BTSが追加表記されています。

今回の「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」により、BTSは後述する「Dynamite」に次ぐ2曲目の首位を獲得、ジェイソン・デルーロにとっては「Whatcha Say」が2009年11月14日付で首位を獲得して以来2曲目の1位に。ジョーシュ・シックスエイトファイヴにとっては初。また「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」は今年16曲目となる首位にして、米ビルボードソングスチャート62年の歴史において実に1111曲目の首位という、いわゆるキリ番を獲得しています。

 

BTSは「Dynamite」が今週も2位となり、ダウンロードが前週比9%アップの94000(同指標1位)、ストリーミングが同2%ダウンの1340万(同指標21位)、ラジオエアプレイが同18%アップの2730万(同指標26位)に。BTSの存在はとりわけ所有指標を押し上げていることが解ります。「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」そして「Dynamite」により、BTSは2009年6月から7月にかけてのブラック・アイド・ピーズ(「Boom Boom Pow」「I Gotta Feeling」で4週)以来となるデュオもしくはグループでのワンツーフィニッシュを達成。この記録は他にアウトキャスト(2003-2004 8週)、ビー・ジーズ(1978 5週)、ザ・ビートルズ(1964 10週)のみが達成しており、BTSは5組目となります。

 

ジョーシュ・シックスエイトファイヴ × ジェイソン・デルーロ × BTS「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」は先月米ビルボードが新設した2つのグローバルチャートでもヒット。Global 200では首位に到達し、Global 200からアメリカの分を除いたGlobal Excl. U.S.では3位に。いずれもBTSがクレジットされていますがこれはグローバルチャートが主要デジタルプラットフォームのダウンロードおよびストリーミングの2指標で構成されラジオエアプレイは加算対象外のため。なお、Global Excl. U.S.で首位に立ったBLACKPINK「Lovesick Girls」はGlobal 200で2位となり、Global 200およびGlobal Excl. U.S.のトップ3をK-Popアクトが占拠したことになります。

 

ラジオエアプレイで30週目の首位を獲得し(前週比1%ダウンの7940万)、総合で6位につけたザ・ウィークエンド「Blinding Lights」は通算34週目のトップ10入りとなり、ポスト・マローン「Circles」(2019-2020)の39週に次ぐ歴代単独2位に躍り出ています。

 

そしてトゥエニーワン・サヴェジ & メトロ・ブーミンのコラボアルバム『Savage Mode II』からの2曲が、アルバムが10月17日付ビルボードアルバムチャートを制した勢いを受けてランクイン。なお先述したBLACKPINKも同日付アルバムチャートで『The Album』が2位となり、「Lovesick Girls」がグローバルチャートで上位進出を果たした原動力となっています。

「Runnin」が9位、そしてドレイクを迎えた「Mr. Right Now」が10位に初登場。ストリーミングは「Runnin」が2610万で同指標2位、「Mr. Right Now」が2470万で同指標3位となっています。

(ちなみに同指標を制したのは今週もカーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン(ミーガン・ジー・スタリオン)「WAP」(総合3位)ですが、前週比11%ダウンの2830万となっており3千万を切っている状況です。)

トゥエニーワン・サヴェジにとっては今回の2曲ランクインによりトップ10ヒットが3曲となりました(最初のトップ10入りはポスト・マローンにフィーチャーされた「Rockstar」で、2017年に8週1位を獲得)。メトロ・ブーミンにとっては今回が歌手として初および2曲目のトップ10入り(一方でソングライターとしてはすでに6曲、プロデューサーとしては5曲トップ10ヒットを獲得しており、そのうちミーゴス feat. リル・ウージー・ヴァート「Bad And Boujee」(2017)およびザ・ウィークエンド「Heartless」(2019)を首位に送り込んでいます)、さらにドレイクは42曲目のトップ10ヒットとなり、首位獲得曲数で2位のマドンナとの差を4曲に拡げたほか、「Mr. Right Now」が自身27曲目となる初登場でトップ10入りとなります。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (8位) ジョーシュ・シックスエイトファイヴ × ジェイソン・デルーロ × BTS「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」

2位 (2位) BTS「Dynamite」

3位 (3位) カーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン「WAP」

4位 (5位) 24Kゴールデン feat. イアン・ディオール「Mood」

5位 (4位) ドレイク feat. リル・ダーク「Laugh Now Cry Later」

6位 (6位) ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」

7位 (7位) ダベイビー feat. ロディ・リッチ「Rockstar」

8位 (10位) ギャビー・バレット feat. チャーリー・プース「I Hope」

9位 (初登場) トゥエニーワン・サヴェジ & メトロ・ブーミン「Runnin」

10位 (初登場) トゥエニーワン・サヴェジ & メトロ・ブーミン feat. ドレイク「Mr. Right Now」

 

一方で、前週首位を獲得したトラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」は25位に急落しています。ストリーミングは前週比40%ダウンの1170万、ダウンロードは同85%ダウンの15000となり、シックスナイン & ニッキー・ミナージュ「Trollz」の33ランクダウン(7月4日付)に次ぐ首位からの急落記録となってしまいました。「Franchise」についてはこのような施策も行っていますが、施策がなかったらワースト記録を塗り替えてしまっていたかもしれません。

なお、首位からの急落記録は本来、今年1月11日付で前週の首位から100位圏外となったマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」が該当するのですが、今回の米ビルボードの記事には記載がありません。おそらくは集計期間の関係により1月11日付でクリスマスソングが一掃されたため、「All I Want For Christmas Is You」はこの記録の対象としてカウントされないのかもしれません。

back number「エメラルド」、LiSA「炎」が本日解禁…月曜解禁には大きな意味があった

来週水曜に発表される10月26日付ビルボードジャパンソングスチャートが今から楽しみで仕方ありません。というのも、上位登場が確実な2曲が本日解禁されたのです。

 

back numberについては、「エメラルド」サブスク解禁に向けての準備が行われていました。

ベストアルバム『アンコール』(2016)より後の作品がサブスクおよびフルバージョンでのミュージックビデオ未解禁だったことへは以前にも疑問視していたのですが、これでback numberもサブスクを積極的に活用する姿勢が見えてきました。

 

そして本日はLiSA「炎 (ほむら)」も先行解禁。

LiSAさんは既にデジタルのみで解禁する曲もありましたが、シングルCD表題曲を、CDが明日以降手に入る状況ながら配信を先行で用意したのは面白い試みです。

 

 

back number「エメラルド」そしてLiSA「炎」が本日解禁した理由は、タイアップ作品の余韻をさらに強固なものにしたり、作品公開への期待を膨らませる役割もありますが、ビルボードジャパンソングスチャートのデジタルやシングルCD初加算週のポイントを大きく伸ばすためでもあるはずです。同チャートは構成される8指標がすべて月曜集計開始となり、10月26日付ソングスチャート(集計期間:10月12~18日)においてはデジタル解禁日から一週間分がフルで加算されるわけです。

 

 

月曜解禁により大きなうねりを作り上げることができた曲には馴染み深い作品が多いのです。たとえば星野源「アイデア」。

朝の連続テレビ小説主題歌として、そのドラマスタートから3ヶ月以上経過してのリリース。シングルCDは未リリースながら上記ミュージックビデオもデジタル解禁に合わせ、しかもフルバージョンにて公開、Twitter施策等も採られたこの曲は2018年9月3日付で首位を獲得し翌週も連覇を達成しています(ただしサブスク解禁および他の曲のフルバージョンでのミュージックビデオ解禁は翌年夏となります)。実は初登場で首位に立った週、back number「大不正解」もシングルCDセールス初加算週に当たるのですが、ダブルスコアに近いポイント差となっているのです。

 

またCDでもリリースされた曲の例としては米津玄師「Lemon」が挙げられます。今年8月リリースのアルバム『STRAY SHEEP』発売日までサブスクを解禁しない状況は上記「アイデア」と同じですが、ダウンロードをドラマ『アンナチュラル』(2018 TBS)の放送回直後ではなく月曜0時に解禁したことでこちらも大きなうねりを作ることができました。ダウンロード初加算週である2018年2月26日付ビルボードジャパンソングスチャート2位に初登場すると、シングルCD初週セールスに長けた作品に阻まれ5週間首位を獲れなかったものの高ポイントをキープ。そしてシングルCDセールス加算2週目である同年4月2日付にて遂に首位を獲得したのです。

「アイデア」とは異なり、解禁スケジュールはダウンロード開始→ミュージックビデオフルバージョン公開→シングルCDリリース→シングルCDレンタル開始と2~3週の間隔が空いていますが、言い換えればタイミングをずらして投入することで4つの波を作ることができ、首位に至るまで常時1万ポイント以上を獲得し高い熱を持続させたのです。LiSA「炎」においてもCDレンタル解禁日はCD発売から17日後に当たるため、この「Lemon」シフトに近い形となるでしょう。

(ただ、私見と前置きして書くならば、シングルCDレンタル解禁において歌手もしくはレコード会社の意向が反映され解禁日が一斉にならないことは気になります。レンタル解禁日遅らせ施策は米津玄師さんや坂道グループ等、特にソニーミュージック系列に目立つ気がします)。

 

 

back number「エメラルド」そしてLiSA「炎」からはこの2曲が想起された次第。曲への支持、タイアップ作品の人気により大ヒットも見込めるのではないかと思うのですが、あとは現在未解禁のミュージックビデオがどのタイミングで発表されるかが気になるところ。back numberは自身のYouTubeアカウントを解説し『MAGIC』収録曲を含めフルバージョンで解禁しているため「エメラルド」でもフルバージョンでの解禁が期待できる一方、LiSAさんは大ヒットした「紅蓮華」(2019)がショートバージョンとなっていることが引っ掛かります。ショートバージョンが動画再生指標上昇に貢献しづらい件はこのブログで幾度となく述べています。

ショートバージョンの可能性は懸念されるものの、しかしミュージックビデオにおいても両者は最高のタイミングでの投入を狙っていることでしょう。次週以降のチャート動向が実に楽しみです。そしてこれら楽曲の投入タイミングである集計期間初日0時の解禁が標準化されれば、チャート上でも、そして音楽業界全体が活性化されるものと考えます。

ラジオ聴取率の報道されない、もしくは報道しても偏っている問題…解決に必要なのは客観的な開示である

ラジオが盛り上がってきたとの声は以前から聞きます。『日経トレンディ』最新11月号でラジオが特集される等、ネット時代にあってラジオが見直されているという声をあちこちで耳にします。

では、その人気の尺度を測る物差しは何でしょう。質の高さを示す賞の存在もありますが、受賞する作品は社会問題を取り上げた特別番組が多くレギュラー番組に光が当たりにくい印象。ならば単純に数で測るべきかもしれないのですが、radikoのアクセス数も見えてこない上、それ以前から長きに渡って調査されている聴取率の結果がほぼ可視化されないのは由々しき事態だと思うのです。

 

9月に行われた首都圏ラジオ局の聴取率調査の結果はTBSラジオニッポン放送そしてJ-WAVEの同率首位となりました。しかし下記リンク先では日刊文化通信速報の定期購読者のみが内容を確認できる仕様です。

またTBSラジオニッポン放送はそれぞれ、聴取率トップ獲得を自社のホームページ内で掲示しましたが、こちらもサイトの登録者のみ見られる仕様であり一般のリスナーは確認できません。

聴取率は今後の営業における武器になることを踏まえればばセールス向けに用いるので十分かもしれませんが、リスナーには(数字の面から)どの番組や局が人気かが見えてきません。ゆえにどの番組を聴けば好いかの判断基準が解らず、ラジオ全体の活性化の機会を自らフイにする行為をラジオ業界全体が行ってしまっているのではと強く危惧するのです。

 

一方で、限られながらも報じられるその内容にも問題が。ラジオニュースに長けラジオへの愛情も感じるオリコンですが、その聴取率報道には偏りがあります。

自分は8月期(9月実施)の聴取率調査の結果について、まずは上記およびマイナビニュース・ラジオのツイートで知りました(マイナビニュース・ラジオは後に記事化)。しかしオリコンマイナビニュース・ラジオもあくまでニッポン放送が首位に立ったという一側面からしか語っていません。オリコンで”聴取率”にてニュース検索すると昨年12月の調査以降は今回同様ニッポン放送の視点からのみ報じられており、おそらくニッポン放送側から出るソースをほぼそのまま流している点において客観性に欠けていると感じます。仮に客観的視点を持ち合わせていると自負するならば、8月調査週の開始日に新番組をスタートさせたことに対し疑義を示すことこそ報道する者の使命だとも思うのですが。

 

オリコンマイナビニュース・ラジオには客観的視点を持ってほしいと願いますが、とはいえこれらメディアが取り上げることがラジオ業界の盛り上げに一役買っていると歓迎するならば、次回調査での首位陥落も予想されるTBSラジオニッポン放送並に自社ニュースを外部に示す必要があると考えます(これはニッポン放送以外のラジオ局全体にも言えることですが)。オリコン等のみならず、radikoTwitterアカウント発のニュースもニッポン放送を取り上げる機会が多い印象があるので尚の事。ニッポン放送聴取率調査週間をスペシャルウイークと題して10月期も豪華ゲストの用意や特番編成(およびレギュラー番組休止)を行うはずで、個人的にはこの姿勢を以前から疑問視していますが(私見については上記ブログエントリー参照)、同局がオリコン等へ積極的な情報提示を行うことが良好なコネクションを築き、報道メディアにおけるニッポン放送優遇を招いているのでしょう。

 

他局の情報提示も大切ですが、しかし最大の解決策は聴取率の結果をきちんと開示することにあるはずです。首位獲得局からの発表ではなく、聴取率を調査するビデオリサーチ社がテレビ視聴率同様に行うべきではないでしょうか。報道に偏りが生まれる理由は、データに客観的にアクセスできないため主観で報じていいという思考が暗躍するためではないかと考えるに、このビデオリサーチ社の姿勢も含めてラジオ業界がきちんとデータを示すべく変わらなければいけません。

最新米チャートを制したトラヴィス・スコット「Franchise」が早くもリミックスを投入した理由

今週発表された10月10日付米ビルボードソングスチャートで初登場首位を達成したのはトラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」でした。1年以内に3曲もの首位初登場を成し遂げたのはトラヴィス・スコットが初であり、勢いの凄さを感じます。

最近のトラヴィス・スコットは快進撃が続いています。米マクドナルドは1992年のマイケル・ジョーダン以来およそ28年ぶりに著名人の名を冠したセット、トラヴィス・スコット・ミールを販売。同社の売上は7~9月期において前年比上昇を果たし、トラヴィスが貢献したとアナウンスしています。

また上記記事にもありますが、トラヴィス・スコットはクリストファー・ノーラン監督の映画『TENET テネット』に主題歌「The Plan」を提供。ノーラン監督に『長年のパズルを完成させる最後のピースとなった』と言わしめるトラヴィスの声は今のエンタテインメント業界に欠かせないものとなっています(『』内はクリストファー・ノーランが語る新作「TENET テネット」におけるトラヴィス・スコットの役割。「パズルを完成させる最後のピースとなった」 | HIP HOP DNA(8月19日付)より)。映画は世界中で大ヒットし、日本でも3週連続で週末興行収入ランキングを制しています。

そこからの「Franchise」リリースであるわけで、勢いづかないほうがおかしいのかもしれません。しかし実際の数字は好いとは言えず、初登場週におけるストリーミングは1940万にとどまっています。トラヴィス・スコットがこの1年で初登場首位に送り込んだ他の2曲は首位獲得週において、キッド・カディとのユニット”ザ・スコッツ”名義による「The Scotts」が4220万(5月9日付)、単独名義での「Highest In The Room」が5900万(は昨年10月19日付)を獲得しており、「Franchise」の低下は明らか。しかも今作は所有指標の大きさが首位獲得に大きく貢献したことから、次週の所有指標、そして総合順位の急落は避けられません。

 

そこでトラヴィス・スコットは急遽と言えるかもしれません、この「Franchise」リミックス版を現地時間の8日木曜までに送り込んでいます。

このリミックスで新たに招聘されたのはフューチャー。一方オリジナルバージョンから参加しているM.I.A.のパートはごく僅かとなってしまいました。というのも。

(余談ですが、マクドナルドや『TENET テネット』の業績が好調だからといって新曲の人気が押し上がるわけではないこと、芳しくないことにははっきりとその態度を示すことに、アメリカの国民性が表れていると思う自分がいます。) 

この「Franchise」リミックスの追加投入がチャートにおいてどこまでテコ入れとなるかは解りませんが、チャートアクションに注目したいところ。というのも、米ビルボードソングスチャートの予想家のひとり、Talk of the Chartsは「Franchise」が不名誉な記録を作りかねないと指摘しているのです。

首位獲得から翌週最も急落したのはシックスナイン & ニッキー・ミナージュ「Trollz」の1→34位(7月4日付)。尤も、1月4日付で首位を獲得したマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」が翌週100位圏外となりましたがこれはクリスマスソング一掃に因るもの。いわゆるフィジカル施策を用いた反動により記録を更新してしまった「Trollz」を破ることがあるならば、まさに不名誉と言えるかもしれません。ただし上記指摘ツイートはリミックス投入前のものなのです。

今回のリミックスが既に用意されリリースを待つのみだったのか、それとも急造なのかは解りません。しかし次週10月17日付のデジタル2指標の集計期間が8日木曜まで(ラジオエアプレイは11日日曜まで)であることを踏まえれば、このリミックスがある程度の下げ止まりに貢献することは確実と言えます。

 

 

リミックス投入がチャートへのカンフル剤の役割を果たすことは以前から弊ブログにて紹介しています。今回の追加投入はリミックスの楽しさや文化の伝播よりチャートへのカンフル剤の側面が強くないかという違和感は拭えませんが、それでも今作の動向には注目せざるを得ないのです。