イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【Diggin'】09. Men Sing ”Miyuki"

今週リリースされたCDの中から一作品を取り上げ、その音世界をちょっと広く、ちょっと深く掘り下げていく金曜日の特集、"Diggin' "。

今週の特集は、【男が歌う中島みゆき】です。

 

今週リリースされた、清水翔太初のカヴァーアルバム『MELODY』。全13曲の中で、正直、「化粧」(オリジナルは中島みゆき(1978年4月)。同年10月、桜田淳子がカヴァーし、また別ヴァージョンにて1981年にシングル化)は異質ともいえる選曲でした。他の収録曲との時代性の合わなさ、そして様々なミュージシャンによるカヴァーアルバムでもなかなか取り上げられないタイプの曲ゆえ。しかし、はじめてこの曲(シングル「君さえいれば」(2012)のカップリングにて初お目見え)を聴いたとき、あまりの歌ヂカラに震えました。声が泣いている…心からの悲しみ、自分を責めたり自嘲したりという様々な心境が入り混じったその表現力が実に素晴らしい。もしかしたら彼は、他の歌手もこぞってカヴァーしている中島みゆき(楽曲)に敢えて挑まんと、特に思い入れの強いこの曲を選んだのかもしれません。彼が生まれる大分前の楽曲ではあるのですが、彼の中で”時代を超えて良い曲を届けたい”という思いが選曲理由なのかな、とも。

 

清水翔太「化粧」(カヴァーアルバム『MELODY』(2012)収録)

 

 

個人的に、中島みゆきの大ファンだった時期があり、今でも彼女の音楽に触れる機会が多いのですが、"男が歌う中島みゆき"というものは意外に少ないような気がしています。しかしリリースされたものは良曲が多く、今回、「化粧」を機にまとめてみようと思った次第です。

 

 

Bank Band「糸 (Live Version)」(カヴァーアルバム『沿志奏逢』(2004)収録)

Mr.Childrenとしての新譜も好調な桜井和寿とプロデューサー小林武史等が中心のバンドによる初のカヴァー集。30万枚限定、中古市場で高く取引(実は2種類あり、それぞれボーナストラックが異なる仕様ゆえ)されていた作品。オリジナルは、TBSドラマ『聖者の行進』(1996)に用いられ同年シングル化(後にベストアルバム『Singles 2000』に収録)。元来はオリジナルアルバム『EAST ASIA』(1992)に収録された作品。桜井和寿独特の優しく語りかけながらの歌唱が優しく染みこんでくるよう。『沿志奏逢』冒頭の「僕たちの将来」もみゆき曲(オリジナルアルバム『はじめまして』(1984)収録)ですが、こちらの語りかけ方はリアルさ、ヒリヒリした感覚が伝わってきます。

 

 

平井堅草野マサムネ「わかれうた」(平井堅カヴァーアルバム『Ken’s Bar II』(2009)収録)

平井堅のみゆき曲カヴァーは想像できましたが、まさか草野マサムネとのデュエットとは…! と聴く前は驚いたものの、聴いてみるとあまりにスムーズに心に入り込んでくる…そんな不思議な感覚に襲われる曲。アレンジはショーン・コルヴィン(Shawn Colvin)「Sunny Came Home」を彷彿とさせますが(いや、イントロはそのまんま?)、適度な軽さの中に重みも垣間見られるようなこのアレンジは秀逸な気がします。みゆき自身のヴァージョンはシングルとして1977年にリリース、アルバム『Singles』(1987)に収録。

 

 

福山雅治「ファイト! (Live Version)」(スタジオ録音版はカヴァーアルバム『The Golden Oldies』(2002)収録)

今月からOAのカロリーメイトのCMソングで満島ひかりがカヴァーしているこの曲(ナタリーの記事を参照)。実に多くのカヴァーが存在していますが、彼の作品は秀逸。独特な歌唱ゆえ、歌が巧いかについてはともすれば評価が分かれるかもしれません。が、不思議な説得力を持ち合わせているんですよね。この曲のYouTubeのコメント欄にある『福山さんは今の時代の「拓郎」みたいな存在だと思う』を読んで、凄く同感。カヴァー集の曲目にはビートたけし浅草キッド」や遠藤賢司「おでこにキッス」など通好みと思われる選曲もあり、彼は間違いなく音楽が大好きなんだ…と実感しています。みゆき自身のヴァージョンはアルバム『予感』(1983)に収録、後に「空と君のあいだに」との両A面シングルとして1994年にリリースし、ベストアルバム『Singles 2000』に収録。

 

 

槇原敬之「空と君のあいだに」(カヴァーアルバム『Listen To The Music』(1998)収録)

先述した「ファイト!」をカヴァー集第2弾で披露しているのが槇原敬之。大ヒットしたテレビドラマ『家なき子』(1994 日本テレビ系)の主題歌であるこの曲は元々『主人公すずの愛犬リュウの目線から』作られたものであり『犬の気持ちで見れば、犬が見えているのは『空』と『君』しかないんです』(共にWikipedia - 空と君のあいだに/ファイト!より)とのこと。中島みゆきの歌唱より槇原敬之版の方が、優しく諭すように聴こえるような気がします。みゆき自身のヴァージョンはベストアルバム『Singles 2000』に収録。

 

 

デーモン小暮「地上の星 (Live Version with 群馬交響楽団」(スタジオ録音版はカヴァーアルバム『GIRLS’ ROCK Best』(2010)収録)

 みゆき自身のヴァージョンはシングルとして2000年にリリース。2002年に自身が紅白歌合戦に出演したその翌年、”紅白効果”でシングルセールスチャートを制し100万枚を突破、数々の記録も打ち立てています(Wikipedia - 地上の星/ヘッドライト・テールライト参照)。ベストアルバム『Singles 2000』に収録。

プロジェクトX』というタイアップ先に相応しい重厚でドラマティックな音ゆえにファンも多く、10組以上にカヴァーされていますが、この閣下によるヴァージョンはオーケストレーションとロックが高い次元で融合したアレンジを、それを超えるヴォーカルで制すというとんでもない逸品。デーモン小暮閣下の音楽性の豊かさ、高さを窺い知ることができます。

 

 

吉田拓郎中島みゆき「永遠の嘘をついてくれ (Live Version)」(吉田拓郎によるスタジオ録音版はベストアルバム『THE BEST PENNY LANE』(1999)収録)

ソングライターである吉田拓郎がなぜ中島みゆきによる曲提供(みゆき自身のヴァージョンはアルバム『パラダイス・カフェ』(1996)に収録)を受けたのか…その答えとなる誕生秘話は下記を参照してください。

・DE DO DO DO, DE DA DA DA - 永遠の嘘をついてくれ

つま恋”のライヴ共演は、完全復活した拓郎へのみゆきの祝福なのかもしれません。

 

 

前川清「涙」(ベストアルバム『前川清 スーパープレミアムボックス』(2012)収録。収録内容はコチラ)

1988年2月リリースのシングル。中島みゆきによる曲提供(みゆき自身のヴァージョンはアルバム『グッパイガール』(1988)に収録。その際タイトルを「涙 -Made in tears-」に変更)。

『女性歌手が男言葉を使って男心を唄うのが男歌、男性歌手が女言葉を使って女心を唄うのが女歌』(ジャックの談話室 - 男歌・女歌より)という定義がありますが、前川清ほど”女歌”に長けた歌手はいないかもしれません。もしかしたら、彼に女歌を歌って欲しいとして中島みゆきが書いたのかも、と思ったり。だとすれば完全に狙い通りといえる曲に仕上がっていますね。

 

 

上杉昇「世情」(アルバム『SPOILS』(2006)収録)

WANDSの脱退、al.ni.coの解散を経て2006年にリリースされたデビュー15周年記念アルバムに収録。WANDSからal.ni.coへ”変貌”したときの衝撃は凄まじいものがありましたが(ただし、それが本来彼がやりたかったことなのかもしれません)、このカヴァーは声に若干の荒さはあれど、みゆき自身のヴァージョンより淡々と歌い上げているように思います。

この曲に付いた『3年B組金八先生』における逮捕や連行のイメージは中島みゆき自身も感じているようです(現在開催中のコンサートについてのスポーツニッポン記事より。コンサートのネタバレがあるので注意してください)。それだけ曲の持つ重さとシーンが合致し、時代を超えた名場面と言えるでしょう。ちなみに歌詞については様々な解釈ができるというブログ記事があります。自分の解釈はどれに近いかを検索しつつ探ってみるのも好いかもしれません。みゆき自身のヴァージョンはオリジナルアルバム『愛していると云ってくれ』(1978)、主題歌集となるベスト的アルバム『大銀幕』(1998)に収録。

 

 

根津甚八「ピエロ」(オムニバスアルバム『中島みゆき SONG LIBRARY BEST SELECTION』(2003)収録)

現在は俳優業を休止している根津甚八の、1979年発売のアルバム『ル・ピエロ - Le Pierrot -』収録曲(みゆき自身のヴァージョンはシングル「りばいばる」のカップリングとして、『ル・ピエロ - Le Pierrot -』と同日となる1979年9月にリリース。アルバム『Singles』(1987)に収録)。歌手が本業ではないものの、伸びのある歌唱は巧いなあと実感します。同じアルバムではみゆきの「狼になりたい」をカヴァー。ミディアム~アップの曲は必ずしも上手く対応できているとは言いがたいですが、酒を煽ろうとして”ビールはまだか”と言うシーンなどの説得力がとにかく凄いんですよね。

アルバム『ル・ピエロ - Le Pierrot -』に関するブログ記事は、TEA FOR ONE - 狼になりたい「ル・ピエロ」根津甚八を参照してください。なお、みゆき自身による「狼になりたい」はアルバム『親愛なる者へ』(1979年3月)収録。

 

 

竹中直人「紅灯の海」(アルバム『シエスタ』(1997)収録)

みゆき自身のヴァージョンはアルバム『わたしの子供になりなさい』(1998)に収録。竹中直人の、普段バラエティ番組で見せる顔とは別の、朴訥とも思わせる真摯な歌声がスーッと沁み入るよう。アコースティックによるアレンジも効果的で、彼の歌声を際立たせ、沁み込ませることに一役買っています。

 

 

 

他にも、『VOCALIST』シリーズで毎回必ずみゆき(関連)曲を取り上げる徳永英明や、春の甲子園の入場曲となった「宙船」を提供されたTOKIOなどが挙げられます。先述した定義における、中島みゆきを男が歌うその数は決して多いとはいえませんが、各自が自身の音楽性でもって、中島みゆきを敬意を込めて最大限に表現した佳曲揃いです。今後もこのようなカヴァーが登場することを望むところですし、清水翔太の”女歌”があれだけハマっているのですから、今後是非彼には”女歌”を極め、いつかは中島みゆき本人と共演してほしいなと思っています。