イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

お得感の低いデラックス盤を、それでも購入すべき理由

下記のデラックス盤が釈然としなかったのでメモ。

 

鈴木雅之デビュー35周年を記念して、2004年に発表されたトリビュートアルバム『SUZUKI MANIA』に、新たなカヴァー3曲を追加収録。装いも新たにデラックス盤としてリニューアル・リリースされることが決定致しました。

鈴木雅之トリビュートアルバムがデラックス盤としてリニューアル・リリース!! - INFORMATION - 鈴木雅之 official websiteより

『SUZUKI MANIA DELUXE』の曲目は上記リンク先に掲載されています。追加収録される”新たなカヴァー”は冒頭および最後の2曲に配置。ですが、これらはいずれも既発曲です。

・トラック01:BENI「RUN AWAY」(シングル「さつきあめ」(2013)収録 → Amazon)

・トラック12:怒髪天×SCOOBIE DO「め組のひと」(シングル「恋のレキシカン・ロック/おんな」(2012)収録 → Amazon)

・トラック13:シェネル(Che'Nelle)「ガラス越しに消えた夏」(アルバム『ラブ・ソングス』(2011)収録 → Amazon)

デラックス盤に向けて”新録”された楽曲がないのは淋しい限り。怒髪天SCOOBIE DOによる曲は、タワーレコード限定リリースだったため収録の意義はあったかもしれません(だとすればなぜAmazonで扱われているのか謎ですが)。が、やはり全て既発曲というのはどうなのでしょう。そして、”新たなカヴァー”という公式サイトの表現は誤解を招きかねないのではないかと。

(ちなみにトリビュート/カバーアルバムについては以前、良質なトリビュートアルバムの三条件というエントリーを掲載していますのでよろしければ)

 

加えて、『SUZUKI MANIA DELUXE』の価格は税込3,200円。一方で3月にリリースされた鈴木雅之さんのベストアルバムが、ボーナスディスクを同梱した初回限定盤(4枚組)で税込4,500円ということを考えると非常に高いという印象を抱いてしまいます。『SUZUKI MANIA DELUXE』自体は一枚のアルバムとしては妥当な価格かもしれませんが、直前にリリースされたベストアルバムの一曲当たりの価格と比較すると割高感が強いのが正直なところ。逆に言えばベストアルバムがお得感あるということですが、ならば矢継ぎ早に投入せず間隔を空けてリリースしてもよかったのではと思ってしまいます。

 

 

とはいえ、このデラックス盤には明確なニーズが存在しているのかもしれません。それは、当初『SUZUKI MANIA』(2004)がコピーコントロールCDで発売されていたということにあります。

ソニー的には”レーベルゲートCD”だったこのコピーコントロールCD。下記サイトにて総括されています。

コピーコントロールCDを徹底的に総括する ファンとアーティストを傷つけ、法制度面でも問題山積 - ASAHIパソコン NEWS - asahi.com (2004年11月30日付)

CCCDはそれからどうなったのか : Timesteps (2010年10月3日付)

 

長くなりますが私見を書くならば、”十分な著作権の啓蒙をせず、ハナからユーザーを著作権侵害する悪と決めつけたレコード会社の都合の良い思考”がコピーコントロールCD導入のきっかけだと思います。が、再生が保証されたプレイヤーがない、音質が悪い、プレイヤーに異常をきたしてもコピーコントロールCDの返品は受け付けない、そして導入したアーティスト側が責められる…などといった負の(いや、”負でしかない”)産物は、結果的にレコード会社とユーザーの溝を深めていったように思います。著作権の啓蒙は、(ネット時代になってよりその概念が薄れているように思える現代にあっては尚の事)必要なことなのですが、ならばその責務をレコード会社が徹底的に行った上で、それでも著作権を侵害する者には罰則を…という方法がより好かったのではないか、それをせずに全てのユーザーは悪(の予備軍)であるという決め付けはその責務を放棄したやり方ではなかったかと考えます。現在、音楽ソフトの売上は減少の一途を辿っていますが、それはスマートフォンの普及に伴い可処分所得の使い道が移行したことやインターネットの普及で音楽への接し方が変わったのみならず、コピーコントロールCDが呼び込んだレコード会社への不信感も根底にあるのではないでしょうか。

 

そのコピーコントロールCDであった『SUZUKI MANIA』。実はリリースの1年半後にCDとして再リリースされていましたが(→ タワーレコード)、少なくともタワーレコードでは取扱が終了していますし、3曲追加収録されたデラックス盤を購入したほうがお得なのは確か。ですので、新しく鈴木雅之さんのファンになった方や、『SUZUKI MANIA』は持っているけどコピーコントロールCDは再生が怖い…という方にはデラックス盤の購入が好いのかもしれません。とはいえ個人的には、デラックス盤が初CD化となる新録曲の用意や追加収録を用意せずとも廉価盤にするなどの措置のほうがより売上が伸びるのではないかと思い、今回のデラックス盤の販売手法は勿体無いなと思うのです。

 

もしくは、追加収録されたBENIによる「RUN AWAY」のミュージックビデオには鈴木雅之さんが(カメオ)出演されており、そのDVDを同梱するというのも一つの手段ではなかったのかな、とも思ったのですが。