イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

『NHK歌謡コンサート』 変化の原因を考える

昨日のエントリー、最近のNHK歌謡コンサートに対する違和感の正体の続き。

 

NHK歌謡コンサート』(NHK総合 毎週火曜20時)のここ最近の急激な変化について考えたのですが、その理由はどうやら二点に集約されそうな気がします。

 

 

一つ目は、火曜から金曜まで、月曜を除く平日20時台に音楽番組が”乱立”したこと。

・火曜:NHK歌謡コンサート(NHK総合)

・水曜:水曜歌謡祭(フジテレビ)

・木曜:木曜8時のコンサート~名曲!にっぽんの歌~(テレビ東京)

・金曜:ミュージックステーション(テレビ朝日)

自分の住む青森県弘前市周辺はケーブルテレビも充実していないためフジテレビ系も流れず、ゆえに火曜・金曜のみ確認出来るのですが、この春はじまった『水曜歌謡祭』は視聴率的に苦戦しているもののTwitterのトレンド入りすることが多く、また2011年にスタートした『木曜8時~』は10%以上の視聴率獲得も少なくなく好調とのこと。ゴールデンタイムの音楽番組はたしかに”乱立”しているように見えます。

が、これらの番組は一応は棲み分けが出来ているはずなんですよね。

・火曜:NHK歌謡コンサート → 演歌主体で歌謡曲

・水曜:水曜歌謡祭 → 歌謡曲・J-Pop 新曲ほぼなし

・木曜:木曜8時のコンサート... → 演歌・歌謡曲ほぼ同じくらい

・金曜:ミュージックステーション → J-Pop ほぼ新曲のみ

火曜と木曜、水曜と金曜が比較的被っているかもしれないように見えて実はスタンスは異なっており、視聴者の年齢層も高い順に火曜、木曜、水曜、金曜の順と言えそうです。

しかし、『NHK歌謡コンサート』の急激な変化はまるで、他の曜日の”いいとこ取り”をしているように思うんですよね。(昨日書いた違和感の要因たる)奇をてらった演出についてはその突飛な組み合わせやメドレーなどが水曜と木曜を踏襲、J-Popの入り込みと時に宣伝を兼ねた新曲披露は金曜を...といった具合。たとえばこの春はじまった『水曜歌謡祭』は、(正直観ることが出来ないので断言は出来ないものの)ほぼ間違いなく年末特番『FNS歌謡祭』の流れを汲んだものと言えるでしょう。意表をつく組み合わせで曲が披露され、原曲のアレンジを変えたものも少なくない特番のスタンスが反映されているようですが、その方式は昨日書いた『NHK歌謡コンサート』における「R.Y.U.S.E.I.」(前者)、盆踊り版「ダンシング・ヒーロー」(後者)に踏襲されているように思います。

こうしたスタンスは、番組が演歌中心に特化することとは真逆の流れであり、差別化というよりはむしろ”中庸化”と言うのが正しいのかもしれません。おそらくは最も番組の色が似ており視聴率面でも好調な『木曜8時~』に負けていられないと制作サイドは思ったのかもしれませんが、その結果、似たり寄ったりの番組が並ぶことになってしまったのはいかがなものでしょう。突飛な演出は超短期的には面白いと言えるかもしれませんが、中長期的に見れば全体的なクオリティは下がっているように思えてならないのです。

 

 

一つ目の理由が制作サイド側の要因だとするならば、もう一つの理由は特に『NHK歌謡コンサート』に出演するJ-Pop歌手サイドに要因がありそうです。

 

J-Pop歌手が新曲を披露する絶好の機会である『ミュージックステーション』ですが、昨年の放送回数は32回...実に年間の三分の二にも至っていないのです。そのうち一回は年末特番という年間ヒット曲総ざらい企画ゆえ、新曲主体の放送は31回。10年前、2004年は年末特番含め38回、20年前の1994年は年末特番含め45回ですから一気に減っています。

(なおこれらは番組のバックナンバーから確認出来ます → テレビ朝日|ミュージックステーション - バックナンバー )

 

そういえばテレビ朝日は2012年度の視聴率で躍進しましたね。その要因が長時間特番の常態化である、と下記で記載されています。

テレビ朝日は1日、12年度の平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)がゴールデン(午後7~10時)とプライム(午後7~11時)の両時間帯で年度視聴率で1位となったと発表した。いずれも1959年の開局以来初めて。

(省略)

午後7時以降は、安定した人気を誇るバラエティー番組の3時間特番を頻繁に編成。2時間特番が主流だった放送界に革命を起こし、午後9時54分からの看板枠「報道ステーション」に直結させる編成を試みて奏功した。

テレ朝 初の年度視聴率2冠!ご褒美は社員食堂4日間無料 ― スポニチ (2013年4月2日付)より

他局と異なり22時台に『報道ステーション』があるため、3時間特番が同局の主流になるのでしょうが、それが常態化したこと(無論、スポーツ中継等もありますが)により『ミュージックステーション』も休止せざるを得ない状態になっています。逆に同番組が特番化した場合、アンケートに基づくランキング等の企画が中心となりその合間に曲が登場する形を採った結果、尺が長くなっても新曲が多く披露されるとは言えないのです。

この特番化による放送回数の大幅な減少、および特番でも新曲が多く披露されないことは、曲を売り出す側からすれば死活問題でしょう。毎週誰かしらのリリースはあるにもかかわらず、そのリリースのタイミングで出演することは難しくなったわけです。さらには(これは昔からですが)毎週一枠以上はジャニーズ系アイドルが出演するため、ジャニーズ系を除くおよそ六組の枠に入るのは至難の業といえます。

ミュージックステーション』出演が難しくなってくると、同じような影響力、同じような視聴率、同じような時間帯の番組に登場させようと売り手は奔走せざるを得ません。その結果、『NHK歌謡コンサート』のスタンスの変化に合致するとして、J-Pop歌手サイドが番組に売り込み、同番組にJ-Pop枠を築き上げたのではないかと思うのです。遠因とはいえ、『ミュージックステーション』の、そしてテレビ朝日の特番化も間接的に絡んでいるというのが自分の見方です。

 

 

番組制作サイドの他番組を意識しすぎた結果としての中庸化、『ミュージックステーション』放送回数減少に伴うJ-Popサイドの売り込みによるJ-Pop枠の用意...これらにより『NHK歌謡コンサート』は最近急激にクオリティが下がったというのが結論です。無論、そういう裏事情が見えた(読んでしまった)としてもそれが見えないくらい、歌手自体に実力が伴っていれば好いのですが。

そして最後に、司会者であるアナウンサーの張り切り具合がどうも番組のスムーズな流れをぶつ切りしているようで心地良くないと思うのは自分だけでしょうか。『木曜8時~』司会の宮本隆治さん(元NHKアナウンサー)のような丁寧さと落ち着き、ちょっとしたユーモアを持ち合わせた方が担当したほうがより心象が好くなるとも考えます。