イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

邦楽ベストアルバムについての”4つのお願い”

一昨日紹介した安全地帯ならびに玉置浩二さんのベストアルバムは2枚組でしたが、2010年代に入ってからは”2枚組以上の” ”オールタイムベストアルバム”が目立っているように思います。たとえば、ビルボードジャパンによる2013年の年間アルバムチャートをみると10作品中6つがベスト盤、しかも全て2枚組以上の作品。FUNKY MONKEY BABYSのように活動の集大成という意味での最終ベストもありますが、たとえば松任谷由実さんのように今後も活動を続ける方がオールタイムベストをリリースするとなると、”またどこかのタイミングで集大成ベストを出すのでは?”と勘ぐる自分もいることはいます。とはいえ、ベストアルバムは特にその歌手の総集編もしくは入門編として、またカラオケの必須アイテムとしても人気となっていることは間違いありません。

 

 

さて、個人的になのですが、このベストアルバムについて歌手、そして(主に)レコード会社に対してお願いしたいことがあり、私見と銘打った上で以下に記載させていただきます。要望というか、問題点の解消です。

 

① ”2作品同時にリリース”という、買い手の負担が増す販売手法をやめてほしい

これは通常盤と豪華盤のように、同梱されるDVDやブルーレイの有無が差となっているものは指しません。CDの内容自体がどちらも一緒ならば1作品と定義した上で記載します。

たとえば最近ではAimerが『blanc』と『noir』の2作品を同時リリースしました。共にDVD同梱版を購入した場合、店舗での割引がなければ7,160円(税込)となります。また、先述した2013年のビルボードジャパン年間アルバムチャートを例に取ると、B'z(3位・4位)、西野カナ(11位・13位)、BUMP OF CHICKEN(15位・18位)、YUI(30位・31位)、JUJU(51位・56位)のベストアルバム各2作品がいずれも同時リリース(以上敬称略)。個人的にはソニー系によくある手法だとは思っており、特にL'Arc~en~Cielは2003年に3作品、2011年にも3作品発売しています。当時はまだあまりオールタイムベストという概念がなかったかもしれませんし特に2003年頃はCDが売れていた時代だったかもしれませんが、それでも買い手の負担はかなりのものだったでしょう。こういうレコード会社の販売手法に萎え、いずれ近い将来にオールタイムベストが出るとして買い控えを起こす人、もしくは負担が強すぎて買い渋る人が出るだろうことは想像に難くありません。ならば、2枚組以上の収録枚数で1作品という形でのベストアルバム発売を切望します。その場合の価格設定は2枚組で高くても4千円台で収められるはずで買い手の負担が収まるどころか、レコード会社への違和感等マイナスイメージを払拭できる効果もあります。

 

② ベストアルバムにはオリジナルバージョンを収録してほしい

歌手にとって、大ヒット曲のリリース当初より今のほうが歌も上手くなりまたアレンジもより洗練出来るようになった...という自負はあるでしょう。そのためか、新バージョンを公開する歌手は少なくありません。また、その新バージョンをベストアルバムに収録する方もいらっしゃいます。

とはいえ、買い手にとっては、その曲のオリジナルバージョンを聴くことで、その曲が流行っていた時期の自分自身を思い出したり出来るのです。曲はその時代の、そしてその時代を生きる自分自身の栞だと考えれば、オリジナルバージョンを収録してくださるほうが遥かにありがたいことなのです。

無論、レコード会社を移籍した等で以前の音源が使えないという状況は理解出来ます。とはいえリリース後数年経てば人々から移籍云々の記憶は薄れるものの、ベストアルバムの存在は(商品という形あるものですから)頑然なまでに残ります。そうすればなぜオリジナルバージョンじゃないのかという疑問が再燃することだってあり得るのです。レコード会社云々の実情を失念した(もしくはそもそも知らずに買った)人にとって、その不満の対象は歌手になってしまうのです。

 

③ ベストアルバムは曲目をきちんと網羅してほしい

これは一昨日書いた玉置浩二さんのベストアルバムにおける堀田家BAND「サヨナラ☆ありがとう」に顕著で、言い換えるならば”ベストアルバムとしての立ち位置がブレている”ということ。特に、以前記載した少年隊の件がとりわけその問題を明確にしています。

唯一のベストアルバム『BEST OF 少年隊』においては「仮面舞踏会」が新録等という②の問題も孕んでいます。尤も、少年隊が所属するジャニーズ事務所において定期的にベストアルバムをリリースしている歌手が少ないというそもそもの問題もありますが、とはいえこれはファンにとっても失礼な行為ではないかと。

ちなみにベストアルバムの選曲基準においては、シングル(およびそのカップリング)コレクション、ファン投票重視、歌手側のこだわり...と様々あり、それについてはどれも間違いではないと考えます。ただ、仮に投票やこだわりによって収録から漏れたシングル曲があるのならば、別途シングル曲のみでまとめた盤をボーナスディスクとして用意していただきたいものです(これはラジオ番組で選曲を担当する立場としての意見でもあります)。

 

④ ベストアルバムのタイミングに合わせて、オリジナルアルバムを廉価盤でリリースしてほしい

冒頭で触れたように、ベストアルバムはその歌手の総集編でありながら、一方で入門編という役割も果たします。ベストアルバムに漏れた曲でいい曲があるというということも多々。ならばベストアルバムを機にオリジナルアルバムを掘り始める人も少なくないはずです。しかし今、ベストアルバムのリリースタイミングでオリジナルアルバムを復刻させるという動きが妙に少ない気がするのは気のせいでしょうか。いや、仮にあったとして、高音質CDという付加価値をつけることで旧作が新作と変わらぬ価格で再発されることのほうが目立つ気がします。

しかしそれではちょっと高すぎやしないかと思うのです。たとえば山下達郎さんは『OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜』をリリースした翌年、『MELODIES』および『SEASON'S GREETINGS』を再発していますが、『リマスタリングされているほか、ボーナストラックや本人による詳細なライナーも』用意されており実に手が込んでいるので再発自体も納得ですし、それでいてどちらも2,376円(税込)という価格設定はあまりに良心的だといえます(『』内は山下達郎20&30年前の名作リマスター+ボーナス付きで再発 - 音楽ナタリー(2013年7月2日付)より)。しかしながらそのような例は他にはあまり見られないのが実情。今なら配信で探すという手段もありますが、歌手によっては配信に未参加もしくはラインナップが不十分ということも、日本では残念ながら少なくありません。

その一方で、海外の再発がどれだけ早く、そして安価なことでしょう。たとえば今月ニューアルバム『Witness』をリリースするケイティ・ペリーにおいては、大ブレイクのきっかけとなったアルバム『One Of The Boys』(2008)を来月12日に税込1,080円で発売、先週『Damn.』の国内盤が発売されたケンドリック・ラマーは、共にグラミー賞で最優秀アルバム賞にノミネートされた『good kid, m.A.A.d city』(2012)および『To Pimp a Butterfly』(2015)を、7月12日にいずれも税込1,080円で再発します(リンク先はいずれもHMV)。これは洋楽だから出来るんだとか、邦楽だとコストの関係で難しい...といわれればそれまでですが、それでも1500円前後で出来なくはないと思いますし、またベストアルバムや最新オリジナルアルバムのタイミングで過去のオリジナルアルバムの廉価版が登場すれば、過去作のついで買いという需要も喚起出来るはずです。オリジナルアルバムを欲しくても買えない、洋楽に比べて圧倒的に高いという事態は、入門者を次のステップに導かせることが出来ないという意味において機会損失ではないかと考えます。

 

 

 

厳しい物言いですが、目先の利益に執着して複数枚同時リリースを選択し価格を高騰させることは、レコード会社やCDのショップにとって短期的には有益でも、長い目で見ればファン離れすら起こしかねず、結果的にマイナスになる可能性があることは否めません。ベストアルバムはオリジナルバージョンを入れてきちんと曲目を網羅し、複数枚組にして価格を抑えること。買い手の手元に残った金銭をオリジナルアルバムの廉価版復刻分に回すように導くこと...今回紹介した4つの問題が解消され願いが叶うならば、邦楽はもっと社会に循環、浸透するようになるはずです。