イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

明日のラジオ特集、今年の洋楽ヒットを紹介する理由

明日です。よろしくお願いいたします。

自分が音楽特集を担当するのは1年ぶり。昨年は春に三浦大知さんを、秋に安室奈美恵さんを、それぞれアルバムがリリースされるタイミングで、彼らの音楽的変遷を紐解く形で取り上げました。

番組内ではきっと説明する時間が足りなくなるでしょうから、ここで今回この企画を用意した意図を。

 

① 今夏のラジオ特集企画の補足として

今年7月8日の番組音楽特集が、弘前大学ラジオサークル3年で音楽知識にも長けたしょうごくんによる、上半期の音楽総ざらいというものでした。邦楽ほど洋楽にはあまり詳しくないということでしたので、自分が勝手に補足という形で今回行うことにした次第です。ちなみに特集回放送翌日にはそれを踏まえて自分が選ぶ上半期の10曲を紹介しました。

(何気に明日の特集と結構被ってるかもしれません。)

ちなみに弘前大学では昨日から学園祭が開催中。ゆえにラジオに参加する学生が少ないこと、また先輩スタッフが休みをとることもあって、自分持ち込みで企画を実施することにしました。

 

ビルボードの音楽チャートを知り、社会の流行を示す鑑であることを知ってほしいため

日本では、“チャートといえば?”という問いに対し、オリコンという回答が最多かもしれません。そのオリコンはシングルCDセールスのみの単一指標に基づくランキングであり、社会的なヒットと乖離している(上位に入ったからといって歌えるとは限らない)と捉える方は少なくないでしょう。それゆえ日本の音楽チャートをイコール(現状の)オリコンと捉える限り、軽視されるように思います。その流れの中で登場したのが、ビルボードジャパンのソングスチャート。シングルCDセールスも用いながら単一指標にはせず、時代の流れに応じて指標を増やしたり、影響度に即して各指標の構成比を変えています。近年はシングルCDセールスの影響度がより低くなったことを考慮し、セールスに係数という概念を用いることで、セールスに長けながらもユニークユーザー数と売上枚数に大きな開きがある歌手は伸びない傾向が出てきており、より適正化されているように思うのです。その結果、アイドル等がシングルCDセールスに長ける状況において、米津玄師「Lemon」やDA PUMP「U.S.A.」などがビルボードジャパンのソングスチャートでは長きに渡り上位に滞在しているのです。

この10年ほどでビルボードジャパンが築き上げてきた実績が信頼されてか、近年では『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜20時)をはじめとする地上波テレビ放送でもビルボードジャパンのソングスチャートが用いられ、そして遂にオリコンがこの冬から複合指標のランキングを発表することを宣言。その内容はビルボードジャパンと異なれど、単一指標ではヒットを測れない状況であることは間違いない事実であり、ビルボードジャパンのチャートポリシーがオリコンを動かしたように捉えてもおかしくないでしょう。ちなみにそのオリコンの変化と、その上での個人的な疑問点は下記に。

ビルボードジャパンが踏襲したのは、その名が示すように米ビルボードチャート。今夏、チャートが開始してちょうど60年となりました。このチャートも時代に応じて変化し、現在ではラジオエアプレイ、デジタルダウンロード、ストリーミングの3指標で構成。この夏からは最大のウェイトであるストリーミングにおいて、無料(広告支援)サービスよりも有料サービスに高いウェイトを置くようになり差別化を開始。こちらも時代に即して変わっているのです。

弊ブログでは毎週の日米チャートの紹介時にこれらチャートの中身については伝えていますが、日本の2つのチャートの差や、複合指標とはについてはあらためて、特集のタイミングで紹介しようと思ったわけです。

 

③ ヒットへの施策を知り、邦楽でもマーケティングに活かせると考えるため

先述したように、米ビルボードのソングスチャートはデジタルダウンロードとストリーミング、ラジオエアプレイの3つで構成されます。近年ではSNSでリリース直前に新曲発表をアナウンスして煽るという手法が採られ、その熱気でリリース直後にデジタル2指標(デジタルダウンロードおよびストリーミング)がガツンと上位に来る傾向が増えました。一方でラジオエアプレイは動きが鈍く、どんなに勢いのある曲でもランクインから3、4週後にトップ10内に入れば凄いことであるゆえ、ラジオエアプレイで火がつくまでにデジタル2指標が勢いを維持しないとランクダウンしてしまうということに。一度買ったら終わりなデジタルダウンロードや自分で聴き飽きたなら終わりなストリーミングとは異なり、局の中の人がレコメンドし続ける限り(つまりは良い曲である限り)かかるという、聞き手ではコントロール出来ないのがラジオエアプレイの特性であり、すなわち受動と能動の2つの点をバランスよく確保出来ない限りは大ヒットには至れないのです。そういう仕組みながら勢いを維持し続け遂には11週首位を獲得したあの曲はなんと凄いことか、実感させられます(ので紹介する予定です)。

(※なお、能動と受動については以前記載したこちらのエントリーを再掲します。)

無論曲が良いことがヒットの条件ですが、盛り上がりにタイムラグのある3指標の特性を知ってその上でどうコントロールするか、特大ヒットに至った曲には手法が採られているように実感しています。そしてこういうマーケティングは日本でも。曲の良さは勿論のこと、日本では強力なタイアップ先があることが必要条件にはなるのですが、米津玄師「Lemon」や星野源「アイデア」はその最たる例だと思うのです。

チャートアクションを熟知することでよりヒットする施策を理解出来れば、レコード会社や芸能事務所に出来ることは多々あるはず。その観点を持つことも面白いことなのです。

 

④ 数年先の邦楽のトレンドが予見出来るため

しょうごくん企画でも取り上げた、ブルーノ・マーズ feat. カーディ・B「Finesse (Remix)」は元来2年前のブルーノのアルバム『24K Magic』収録ですが、このタイミングでシングル化したことも功を奏してか、ブルーノが今年のグラミー賞の顔となることに。そして1980年代後半から流行したニュー・ジャック・スウィングを今取り入れること、シングル化に際し良い意味でいなたいラップのカーディを新たに招いたことが“古いけど新しい”という新鮮さと、当時を知る者の郷愁を誘いヒットしました。そしてその流れが日本に波及、ニュー・ジャック・スウィングは様々な邦楽に取り入れられることに。実際は2010年代半ば、『24K Magic』のリリース前からその流行は既にあったのですが(田原俊彦さん、The Gospellers、w-inds.等)、しかしこの夏、EXILEが、しかも「Finesse (Remix)」の制作チームを招いてニュー・ジャック・スウィングに挑戦した「STEP UP」をリリースしたことで、ブームはさらに続いています。

このような邦楽のフォロワーを数多く生む曲が、もしかしたら今年ヒットした洋楽の中にあるかもしれません。それを探ってみるのも面白いと思います。

 

 

というわけで結構自分のハードルを上げてしまったかもですが…明日の放送、よろしくお願いいたします。