イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

今から20年前、米ビルボードソングスチャートが”不健全だった”という話

この秋、ビルボードジャパンソングスチャートで最高3位を記録した(ただしトップ10在籍は1週のみでしたが)Aimer「Black Bird」。ダウンロード指標ではトップを獲得し、ストリーミングも最高5位を記録しています。

この曲を聴いてハッとさせられたのが、2番の後の間奏の展開。重厚な音の中で刻まれるリズムパターンが、アメリカで大ヒットしたグー・グー・ドールズ「Iris」(1998)を彷彿とさせるのです。

「Iris」は映画『シティ・オブ・エンジェル』に用いられ、アメリカではラジオエアプレイチャートで18週もの首位を獲得。同チャートでの最長不倒記録を達成しており米では特に有名な一曲となっています。

 

しかし、「Iris」は1998年の米ビルボード年間ソングスチャートにおいて、トップ100にすらランクインしていません。いや、厳密に言えばランクイン”出来なかった”のです。

 

今年5月の米ビルボードの記事で振り返っているのは、1999年度初週に施されたチャート改正。この改正に至るにはある理由が。

Billboardは1999年のチャート改正まで商業的シングルを発売していない曲はいくらエアプレイでがんがんにかかっていてもHOT100チャートに登場させませんでした。

 Airplay TOP40 Hits 1987-1998 - meantimeより

ビルボードソングスチャートの歴史、そしてチャート構成指標の変遷については下記ブログに詳しく記載されています。

改正前におけるレコード会社の戦略は、シングルよりも、(シングル化しないことで唯一音源を手に入れることが出来る)アルバムをどう購入させるかにありました。ゆえにいくらラジオでかかっていても、シングル化されないということは(シングル化がチャートインの条件であった)ビルボードソングスチャートに入らなかったというわけで、「Iris」のみならず以下の楽曲も1998年度まではランクインしていませんでした。

 

改正後初週、1999年度最初となる1998年12月5日付の米ビルボードソングスチャートでは「Iris」の9位をはじめとして上記の曲もすべて初登場。面白いのは、先述した米ビルボード記事では同日付チャートの紙面が紹介されているものの、初登場ではなく前週からランクインしていたかのように記載されているんですよね。もしかして改正を表立って謳っていなかったのか?そうだとしたら器が小さくないか…そう思ってしまう自分がいます。

https://www.billboard.com/files/media/02-billboard-hot-100-1998-tear-billboard-embed.jpg

 

1998年度までのこの状況、日本で例えるならばデジタルが大ヒットしていてもシングルCDがリリースされない限りRADWIMPS前前前世」や松たか子「Let It Go ~ありのままで~」、星野源「アイデア」などがチャートインしない現在のオリコンを彷彿とさせ、チャートが社会の流行の鑑になっていなかった点で、またレコード会社のシングルではなく(より高価な)アルバムを買わせようとする戦略に半ば乗っかってしまった意味でも当時の米ビルボードは不健全だったのです。

これ以前にも改正はありましたが、その後もデジタルダウンロードの採り入れやこの夏からのストリーミング算出方法の変化に至るまで、ビルボードは時代に即してチャートポリシーを変更しており、現在に至るその改正に米ビルボードの前向きさを感じる自分がいます。一方、2019年度からオリコンも複合指標化するのですが果たしてどういうランキングになるのか気になるところです。

 

ちなみに、先程引用させていただいたAirplay TOP40 Hits 1987-1998 - meantimeでは、ラジオエアプレイでヒットしながら結果的に(チャートポリシー変更後も)ソングスチャート100位以内に入らなかった曲をアーカイブ化されています。非常に面白い試みだと思うゆえ、勝手ながら紹介させていただきます。リンク先の”ARTIST LIST”から是非ご確認ください。この曲もそのひとつだったんですね…。