イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ラジオ人が音楽を語るならば、”言ってはならないこと”と”身につけておくべき知識”がある

ラジオから、ちょっと看過できない発言が流れてきました。

さすがに冷静さを欠いたツイートかもしれませんが、やはり腑に落ちないのであらためてブログに書き記します。

 

件の発言は、『GO!GO!らじ丸』(RABラジオ 月-金曜11時55分)内。7月5日放送の終盤、ラジオカーリポートの成田洋明さんとのやり取りの中で金曜パーソナリティの十日市秀悦さんが発していました。成田さんは歌手としても活動し、Hotrod Cadillacというバンド名義でのCDセールス2000枚が目標だと七夕の短冊に掲げていたそうですが、それに対し十日市さんが「野口五郎さんの新曲は300枚しか売れてない」と言ったのです。比較対象として実名を出すことを申し訳ないと前置きしながらも、300枚という数字、そして”売れてない”という表現はインパクトがありました。CDが売れなくなった時代ゆえ2000枚が如何に凄い数字かを示そうとしたのでしょうが、それに対して腑に落ちなかった自分がいます。

(Nさんを実名表記したのは、放送をradikoタイムフリーで確認出来るためです。)

 

 

違和感は2点。ひとつは、なぜ歌手の実名を挙げて比較対象に用いたのかということ。昔から活動し著名な歌手の方で、と言えば済んだのではないかと思うのです。自分より劣っている相手をわざわざ持ち出し非難することで自分の優位性を示すという、個人的に“逆謙譲”と呼んでいるこのやり方は本当に解せません。

このやり方、今の参議院選挙でも用いている方がいて、人や党として信用ならないと思ってしまいます。

 

そしてもうひとつは、”300枚”のCDセールスの是非について。

オリコンが週刊誌『オリ☆スタ』を発売していた頃に週間シングルCDランキングトップ100を幾度となくチェックしていたのですが、100位の売上は500枚前後だったと記憶しています。1週でもランクインするとそのくらい売れるわけですが、翌週以降(もしくは100位以内到達以前は)100位に満たなかったとしても1週あたり500枚弱の売上が考えられます。またコンサート(ツアー)やイベントでCDを販売する機会もあるわけで、サイン付き等特典があればさらに売上は伸びるため、やはり300枚という数値は妥当ではないと思わざるを得ません。オリコンは週刊誌を休刊し、週間ランキングも50位未満は有料会員限定のみが見られる仕様となったため自分が把握出来ておらず、一方十日市さんはオリコンが有料会員(メディア含む)に卸している資料から300枚という数字を見つけたのかもしれませんが、有料会員のみに公表しているだろう数字を公共の電波に乗せて堂々と伝えるのはデリカシーに欠ける行為だと思うのです。オリコンが”禁無断複写転載”を強く押し出しているゆえ、数字の公表は歌手側のみならず、オリコンに対しても危険なことではないかと。尤もオリコンが”禁無断複写転載”と強く押し出す姿勢にも疑問を抱きますが(その件については下記エントリーに記載)。

 

いや、仮に300枚という数字が正しいとして、その数字は今の時代にとって大事なバロメーターだろうかとも考えます。たしかに演歌歌謡曲というジャンルはアイドル等と並んでシングルCDの売上枚数を重視する傾向にはあります。しかし、野口五郎さんが5月に発売した「これが愛と言えるように」はダウンロードおよびストリーミングできちんとデジタル解禁されています。

となると、300枚というのは正しくともあくまでシングルCDの売上であり、デジタル分を含めるともう少し多くなることは自明ゆえCDの売上枚数は大きな意味を成さないものと考えます。アメリカではアルバムチャートの概念にはなりますがCDセールス、アルバム単位でのダウンロードセールス、曲単位でのセールスおよびストリーミングを全て含めた“ユニット”数でチャートを計算しています。8指標から成るビルボードジャパンソングスチャートでも、CHART insightの画面からハイブリッド指標で“SALES”を選択して更新すれば、ユニット数で上位20位(有料会員は100位まで)を確認可能です。このユニット数という概念、たとえばCDが売れなくなったとか今の音楽は良くないという認識を更新しないままでいる方に学んでほしいと強く思うのです。

 

以前ほどシングルCDが売れていないというのはたしかに事実ではあります。たとえば自分が拝読するブログ、WASTE OF POPS 80s-90sでは演歌歌謡曲の売上データを『NHK紅白歌合戦』前後のタイミングでよく紹介されていますが、たとえば演歌のベテラン勢の昨年のシングルCDは5000枚に満たない場合があります。

(勝手ながら紹介させていただきました。問題があれば削除いたします。)

だからといって、若手中堅の演歌歌手が売れているかというとそうでもありません。“一度に複数種を”、“何回かに分けてリリースする”ことで10万枚を突破するのがやっとです。

そしてWASTE OF POPS 80s-90sさんがつい最近記載した、銀座山野楽器のCD売場縮小のエントリーには驚いたのですが。

そういえば自分の住む弘前では日弘(にっこう)楽器も新星堂もメディアイン2店舗もなくなっているよなあと思い出した次第。演歌歌謡曲を好む年配層は他の年代に比べてデジタルに明るくないだろうことが想起され(それでも活用される方は少なくないでしょう)、ネット購入を敬遠し実店舗で買いたいとしても結局買う場所が近くにないため諦めるという悪循環に陥っているものと思われます。さらに地上波唯一のゴールデンタイム歌番組『うたコン』(NHK総合 火曜19時57分)では演歌歌謡曲の歌手の出演枠が3~4しかなく新曲情報も掴みにくいため、それらの状況を勘案すれば演歌歌謡曲のシングルCDセールスが4桁を超えた段階で売れたと言えるのでは?と思う自分がいます。CDの物理的な問題を解決すべくネット通販やダウンロード等、年配層をデジタルに明るくすることが急務だと思うのですが、ラジオからは未だに”スマホなんていらない、ガラケーの何が悪い!”と年配のDJの方の息巻く声が聞こえることもあり、これではデジタルの周知徹底は厳しいよなあと悔しくなるのです。

 

 

今回のラジオでの十日市秀悦さんの発言に違和感を抱いた件ですが、まずは十日市さんの情報源が知りたいところです。300枚という数値が正しかったのならば訂正してお詫びします。ただ、300枚という数字が正しいか否かとは別に、CD売上にこだわるオリコンより所有と接触の複合指標で作られるビルボードジャパンのソングスチャートのほうが社会のヒットを示す鑑になっていることをブログ執筆で常に感じ記載している身にとっては、良質な音楽を紹介するラジオに関わる者は特に、今の演歌歌謡曲が置かれた環境(CD販売場所、メディアの取扱等)を踏まえて売れないと嘆くのではなくどうすれば好くなるのかを考える方向にシフトしてほしいと思うのです。

たとえば放送局には、メディアの規模によって送るか否かは分かれますが貸与の形でレコード会社がサンプル盤を提供します。そのサンプル盤をフル活用し、演歌歌謡曲の新譜紹介番組を作るのもひとつの手段です。八戸市コミュニティFM局、BeFMには『港町漁火演歌』(月-金曜3時)なる番組がありますが、たとえば年配層の生活習慣や第一次産業に従事する方の始業時間を踏まえ早朝等に番組を組むのもいいでしょう。そうすればサンプル盤を提供してくださるレコード会社との間に温度が生まれますし、信頼度が増してスポンサーになってくれるかもしれません。番組の評価が高ければ他の系列局に売り込むことも出来るでしょう。また、ラジオ局がYouTubeチャンネルを設けて、デジタルに明るくないと思しき年配層へ向けてネットでのCDの購入方法やダウンロードおよびストリーミングの方法をレクチャーするのも面白いかもしれません。

これら新しいことを行うのもひとつの手段ですが、もうひとつ大事なことは、音楽を伝える立場にあるメディアの関係者、とりわけラジオDJは音楽に対してマイナスになることを決して言ってはいけないということです。同時に今の音楽環境や音楽チャート等最低限の知識を持つよう努力し、その上でどうすればいいかまでを論じられるならばいいのに…と強く思います。

演歌番組を作ることもチャートの知識も持ち合わせ、言葉の重さを人一倍感じる自分ならばこういう番組が出来ると自負しています。お前の宣伝かよ!と思われるでしょうが、個人的には今の音楽を無下に否定する今の風潮を変えたいと強く思うのです。