イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「今夜このまま」と「HAPPY BIRTHDAY」のチャートアクションの差を考えれば、ストリーミングとミュージックビデオフル尺解禁は必須だと思う

7月7日放送の『わがままWAVE It's Cool!』(FMアップルウェーブ 日曜17時。コミュニティFMゆえタイムフリー機能はありませんが、生放送はサイマル放送で全国何処からでも聴取可能)では、大学生のDJしょうごくんによる今年上半期の話題曲特集をお送りしました。そこで取り上げられた曲がback number「HAPPY BIRTHDAY」(『初めて恋をした日に読む話』(2019 TBS)主題歌)、そして菅田将暉 feat. あいみょん「キスだけで」。「キスだけで」は6月最終週リリースですが、あいみょんさんのチャートでの、また曲を書くスピードという意味での勢いを示す上での選曲に。そのあいみょんさんはビルボードジャパンの今年上半期ソングスチャートでトップ10内に3曲を送り込んでいますが、上半期7位を記録した「HAPPY BIRTHDAY」同様ドラマ主題歌となった「今夜このまま」(『獣になれない私たち』(2018 日本テレビ)は4位となり大ヒット。アルバムからの最後の先行シングルとしての立ち位置も両者同じなのですが、似て非なる動きをしているので比べてみます。なお、今年上半期のビルボードジャパン各種チャートは下記に。

 

・back number「HAPPY BIRTHDAY」

 (2月19日ダウンロード配信開始、2月27日シングルCD発売、

  3月27日発売のアルバム『MAGIC』に収録)

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あいみょん「今夜このまま」

 (10月24日ダウンロード配信開始およびストリーミング解禁、11月14日シングルCD発売、

  2月13日発売のアルバム『瞬間的シックスセンス』に収録)

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ちなみにビルボードジャパン上半期アルバムチャートでは『MAGIC』が5位、『瞬間的シックスセンス』が6位と並んでいます。最新7月15日付のアルバムチャートにおける順位も近く、チャート構成比も似ています。

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ソングスチャートを構成する8つの指標において、「HAPPY BIRTHDAY」と「今夜このまま」で大きな差がみられるのはやはりストリーミング(青の折れ線グラフ)と動画再生(赤)という、接触を示す2指標。ストリーミングは「今夜このまま」が4月29日付までトップ5内をキープした一方、「HAPPY BIRTHDAY」はストリーミング未解禁のためランクインしていません。ただしストリーミングには歌詞検索も含まれており、100位未満ながら5週に渡ってランクインしたのは、たとえばカラオケで覚えるために歌詞検索した人の多さゆえとみられます。

ただ、カラオケ需要(今週「HAPPY BIRTHDAY」はカラオケ指標で10位に入り、14週連続でトップ10入り)があるならば参照として動画再生も伸びるはずですが、「HAPPY BIRTHDAY」の動画再生指標トップ10入りは計3週のみ、今週は300位圏外となってしまいました(他方「今夜このまま」は6月17日付まで20位以内をキープ)。これはミュージックビデオがショートバージョンであることが影響していると断言していいでしょう。ショートバージョンが再生回数を伸ばさない例は幾度か記載していますが、[ALEXANDROS]「ワタリドリ」およびMrs. GREEN APPLE「青と夏」の例を下記に挙げておきます。

パソコン等にCDを取り込んだ際のインターネットデータベースへのアクセス数を示すルックアップ(オレンジの折れ線グラフ)は双方強く、特に「今夜このまま」のルックアップが同指標の初登場の3週後に急上昇していることが特徴的ですが、これはCDレンタル解禁をアルバム同様17日後に設定したことによるものでしょう。そのルックアップにおいては『back numberはルックアップ指標が“強いアーティスト”の代表格』とビルボードジャパンが分析しており(『』内は【ビルボード】嵐の20周年ベストが総合アルバム2連覇 2位にすとぷり&『君の名は。』サントラ急上昇 | Daily News | Billboard JAPAN(7月10日付)より)、『MAGIC』が発売から15週連続でトップ3にいることを踏まえればback numberはたしかに強いのですが、これはおそらくストリーミングの代替としてCDレンタルが接触手段の役割を担っているためと言えそうです。しかしながらアルバムにおいては『MAGIC』と、6週前にリリースされた『瞬間的シックスセンス』とで順位が近くまたチャート構成比も似ていること、「今夜このまま」がストリーミングおよび動画再生の2指標でチャート構成比の8割以上を占め今週27位に入っている一方で2指標が今週未加算の「HAPPY BIRTHDAY」が今週72位いう結果を踏まえれば、back numberが下記ブログエントリーで触れたようなベストアルバム以前のみストリーミング解禁という施策を採らずに新作も解禁し、ミュージックビデオもフル尺で解禁していたならばチャートアクションも大きく変わってきたものと思われます。「HAPPY BIRTHDAY」の72位という数字は、アルバムのヒットに対してかなり低いと言っていいでしょう。

 

 

サブスクリプション同時解禁の件について、音楽ジャーナリストの柴那典さんが今週、BUMP OF CHICKENのニューアルバム『aurora arc』について述べた内容に引用の形でツイートしたところ、柴さん本人からリツイートをいただきました。

『旧作を新作リリース直前にサブスクリプション解禁しても、新作は未解禁という例』はback numberにとどまりませんが、その例を採る理由は歌手側やレコード会社側におそらく、新譜も解禁すればCDそしてダウンロードでのアルバム”セールス”は減るという懸念があるからだと想像します。しかし、アルバム発売日にストリーミングを同時解禁したサカナクション『834.194』については。

初週のセールスできちんと結果を残しています。ミュージックビデオ等の効果もあれど、『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜20時)披露効果をきちんとセールス等に結びつけた成果と言えるでしょう。ソングスチャートでも「忘れられないの」が3週連続でトップ10入りを果たしています。

そして次週はBUMP OF CHICKEN『aurora arc』がビルボードジャパンアルバムチャートで初登場首位になることが見込まれています。前作『Butterflies』(2016)の初週CDセールスは20万枚(【深ヨミ】バンプ『Butterflies』、地域別売上げ順位 | Daily News | Billboard JAPAN(2016年2月21日付)参照。”Top Albums Sales”はCDセールスを指します)。そしてストリーミングが同時解禁された今作のCDセールスは、フラゲ日と発売日の2日間だけで既に16万枚を突破しています。

サカナクションBUMP OF CHICKENも、収録曲のタイアップ数や曲およびアルバム全体の質で前作と今作に差はあることでしょう。また、特に質の面において、どちらを好むかは聴き手次第です。しかし、サカナクションが前作と同等、BUMP OF CHICKENが前作超えのセールスを記録したならば、ストリーミングがセールスを駆逐しないことが証明されたと言っていいでしょう。となれば、ストリーミングを解禁すればセールスが減るという仮定は成立しなくなります。またサカナクションBUMP OF CHICKENも、ミュージックビデオをフル尺で解禁していますが、それがアルバムセールスを減らす要因にはなっていないと言えます。

 

最終的には全ての歌手がストリーミングに前向きになっていただきたい、恐れるものはないはずだということを、大袈裟かもですが強く唱えたいと思います。