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ニューアルバム『Lover』でこれまでにない姿勢を示すテイラー・スウィフト、そしてタイトル曲でソングスチャート頂点もあり得る?

昨日、テイラー・スウィフトのニューアルバム『Lover』が世界同時リリースとなりました。

そして嬉しいことに、『Lover』はテイラーにとって初のストリーミング同時解禁作品となるのです。

この同時解禁が、テイラー・スウィフトのこれまでにない姿勢を示しています。実はテイラー、ストリーミングに懐疑的な過去が。

歌手のテイラー・スウィフトは、6月30日にサービスを開始するAppleの定額制の音楽ストリーミング配信サービス「Apple Music」に自身の最新アルバム「1989」を配信しないと発表した。

(中略)

テイラーはこれまでも、音楽ストリーミング配信サービスの大手Sportifyからも、自身の作品を引き上げている。

テイラー・スウィフト、Apple Musicでもストリーミング配信拒否 Apple副社長の返答は? | ハフポスト(2015年6月22日付)より

各種ストリーミングサービスが無料トライアル期間を用意することで、その期間の再生分は歌手へ対価が支払われないのではと示唆したテイラー・スウィフトの思いは理解出来なくはないものの、問題が解決し2017年初夏にストリーミングを解禁したにもかかわらず同年リリースの『Reputation』においては、リリースと同時にストリーミングを解禁しませんでした。

『Reputation』は11月10日にCDとiTunes限定配信のみでリリースされていたが、その3週間後にようやくSpotifyApple Music、Tidalなどのストリーミングサービスでも配信が開始。

テイラー・スウィフトの『Reputation』、ついにストリーミング配信が解禁 | MTV Japan(2017年12月4日付)より

ストリーミング解禁を3週遅らせた『Reputation』はアメリカでの初週セールスが121.6万枚となり、『Speak Now』(2010)以降4作品連続で初週ミリオンを達成したのですが、この4作品連続との記録をみるに、ストリーミング未解禁はセールスの数字を伸ばしたい、初週ミリオンの記録を守りたい表れではと考える自分がいます。米ビルボードアルバムチャートはCDやダウンロードセールスに加え、ストリーミングのアルバム換算および単曲ダウンロードのアルバム換算も含めた”ユニット数”で決まるのですが。ちなみに『Reputation』初登場週のユニット数は123.8万であり、セールスからわずか2.2万しか増加していないのは寂しいと思うのです。

しかし今作『Lover』ではストリーミングを同時解禁。セールスの減少が予想されますが、テイラー・スウィフトのファンならば音源を確実に所有するのではないかと思われます。以前からのファンは年齢を重ね(たとえばカントリーからポップスへ移行していく『Red』(2012)からのファンならばファン歴が7年に)、アルバムにお金を出しやすくなったと想定されることに加え、テイラーの過去のストリーミングへの姿勢を踏まえれば購入したほうが応援になると考えているかもしれません。そして今回ストリーミングを同時解禁したことで、彼女のファンというわけではないものの曲等に興味はある”ライト層”が作品に触れやすくなり、ストリーミングのアルバム換算分が加わればセールスのみで初週ミリオンを突破出来なくともユニット数はミリオンを突破し、結果的には前作を超えるのではないかと思うのです。

 

『Lover』が再来年ではなく来年開催のグラミー賞、最優秀アルバム賞のノミネート対象作品となるよう発売日を設定した点も、テイラー・スウィフトのこれまでにない姿勢のひとつ。

しかもこれまでオリジナルアルバムは全て10~11月にリリースされた一方、先行曲は9月までに発表しています。これにより、先行曲とアルバムとで2年連続グラミー賞主要部門にノミネート(もしくは受賞)されやすい状況となっていました。今回はこれまでのスケジュールを採用しないということになります。

個人的には潔い判断だと思っています。無論、2021年開催のグラミー賞に向けて、対象期間内(今年9月以降)に『Lover』からシングルカットすれば2年連続の主要部門ノミネーションを狙えますが、今回は来年に向けての1点集中型。グラミー賞にノミネートされ、受賞に至れば尚の事、アルバムは少なくとも半年は注目を集め続けます。話題になるたびにストリーミングで聴かれるようになれば、たとえばドレイクやポスト・マローンの昨年のアルバムが1年以上米ビルボードアルバムチャートで上位にランクインしているのと同様の現象がテイラーにも起きるはずです。

 

これまでにない姿勢は他にも。アルバムのタイトル曲を、アルバムリリースのタイミングに合わせてシングル化してきました。これまでにも「Fearless」(2010)や「Red」(2013)といった例はありましたが、アルバムの発売と同時にミュージックビデオを投入した例は今回が初。

ちょうど1週間前には同曲のリリックビデオを公開して空気を温めていたわけですが(→YouTube)、これは実に上手い試みと言えます。アルバムタイトル曲、それも一単語で入力しやすい曲を用意することで、ファンが歌手名と曲名とをツイートすればそれがアルバムプロモーションにもなるわけです(逆に歌手名とアルバムタイトルとをツイートすれば、楽曲プロモーションにも)。両方がツイートされるとTwitter指標が加算されるビルボードジャパンのソングスチャートとは異なりアメリカのソングスチャートではTwitter指標はありませんが、SNSでアルバム/楽曲名が広く知れ渡っていくことは間違いないでしょう…と書いてみて、星野源『POP VIRUS』(2018)と「Pop Virus」を思い出した次第。

「Pop Virus」のミュージックビデオはアルバムリリースの1週間前に公開されており若干のタイムラグはありますが、やはり展開は似ていますね。

テイラー・スウィフトの場合、「Lover」の音源をアルバムリリースの1週間前に公開したことで、火がつきにくいラジオエアプレイを少しずつ温めていく作戦に出たと考えていいでしょう。そしてアルバムリリースのタイミングでミュージックビデオを公開し、アルバムをストリーミング同時解禁することで、再来週発表の9月7日付米ビルボードソングスチャート(集計期間はストリーミングおよびダウンロードが8月23~29日、ラジオエアプレイが8月26日~9月1日)においてストリーミングが大きく伸びることが予想され、またラジオエアプレイも50位以内に登場する可能性があります。最新8月24日付ではビリー・アイリッシュ「Bad Guy」が初制覇しながらもチャート構成指標群の数字がとりわけ高いわけではないことを踏まえれば、テイラーが「Lover」を同名アルバムから初の首位に据えようとしているのではと考えますし、また出来なくはないかもしれません。しかも、集計期間内の8月26日に開催されるMTVビデオ・ミュージック・アワードのオープニングを務めることも発表しており、とりわけメディアでのパフォーマンスと相性の良いストリーミングが加速する可能性もあります。

 

テイラー・スウィフトが『Lover』で採ったこれまでにない姿勢はいずれも、ストリーミングを味方にすることがベースにあるといっていいでしょう。果たしてそれが功を奏するのか、再来週発表の米ビルボードチャートに注目しましょう。